風が吹く。耳もとでごうと音をたて、通り過ぎる。
「ふっふっふぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめときゃよかったかしら・・・・・」
不敵な笑いに失敗した金糸雀は、後悔の念をあらわにする。顔色も青い。むしろ蒼い。
今、金糸雀は空中にいた。
正確に言うと、ここは薔薇学高等部校舎の2階部分、すなわち金糸雀たち2年生のフロアにあたる。
さらに正確に言うならば、ここは金糸雀の教室、2年A組の窓の外だった。

立っているのはわずかに壁面から張り出たひさしの上である。
窓枠に手をかけ、こっそりと中を覗く。窓は開いていて、皆が食事やおしゃべりに興じている様子が確認できる。
そしてその中には、
「あれ、金糸雀は?」
「今日も食堂らしいわ。何か急いでいる様子だったけれど」
「きっと、よっぽどおなかが空いてたの」
「昨日といい今日といい、飢えた餓鬼とは金糸雀のことです」
いた。真紅たち4人である。

いつものように真紅の席に皆が集まってきたところだった。自分の不在について話しているようだ。
「・・・で、早速翠星石が毒舌なのはどういうわけかしら・・・」
怒りで窓枠をつかむ手にも力が入る。いつも自分がいないところではこんな調子なのだろうか。
そう思うと頭に血がのぼってくる。のぼってくる最中にも翠星石は続ける。
「そのうち日傘じゃなくてペロペロキャンディーを装備するようになるですよ」
「また翠星石はすぐそういうことを・・・」
蒼星石がやんわりとたしなめるが、聞いちゃいない翠星石だった。ますます興にのって続きをのたまう。
「翠星石の予想ではぁー、三十路過ぎても食欲が今のままだと確実にトドまっしぐらですぅ。寝言は『もう食べられないかしら』で決定です。げらげらげらげら」

…す、翠星石め・・・人が聞いていないと思って・・・!!
あまりの言い草に思わず飛び出ていくところだった。
危ない危ない。せっかくここまでやってきた意味がなくなってしまう。
「そうよ金糸雀・・・当初の目的を見失っちゃいけないのかしら。 例え最近体重が増加傾向でも、寝言で『もう食べられないかしら』ってもうやったことがあったとしても・・・」
今は忘れるのだ金糸雀。そう自分に言い聞かせ、聞き耳に神経を集中させる。
そもそもなぜ金糸雀が窓の外で真紅たちの様子をうかがっているのか。
ずばり盗み聞きのためである。


つづく


最終更新:2006年07月12日 15:27