(4)

今度は聞こえたのだろう。翠星石はしばらく瞬きもせずに蒼星石を見つめていたが、 やがてその表情に花が咲いたような笑みが浮かぶ。
「ほ、ほんとですか蒼星石!一緒に、やってくれるのですか!?」
「もちろん。翠星石が本気だってことはわかったよ。だったら僕にも手伝わせて欲しい。僕にしたって何もわからないようなものだけど、それでもわずかなりと君の力になりたいと思う」
「その・・・・・・私楽器なんてやったことないですよ?」
「僕だって無いよ・・・・・・ってフォローになってないね。今から始めたっていいじゃないか」
「メンバーどころか、何をやるのかもまだわからないです・・・・・・?」
「とりあえずみんなに話してみようよ。真紅なんてピアノとかけっこう弾けたと思うけど」
「またすぐに飽きたり、みんなを困らせたりするかもです・・・・・・」
「そんなことない・・・・・・とは言い切れないけど、もっと自分の選んだことに自信を持とうよ。それともきみの想いはそんなものなの?」
「いえ、決してそんなことは・・・・・・!」
「なら、いいじゃない。始める前から色々なことを心配してたら、きりがないよ」
「ほんとに、ほんとに、いいんですか・・・・・・?」
「もちろんだよ、って、僕だってどの程度力になれるかわからないんだから、そんなに期待されても困るんだけど・・・・・・」

そういったやりとりのあと、翠星石はしばらく「あぅ・・・・・・」とか「にゅぅ・・・・・・」とかよくわからない声を出しながら口をぱくぱくと動かしていた。どうも言いたいことが言葉にならないらしい。両手をばたばたと身体の前で動かしている。
すると感情を持あましたのか、翠星石はベッドから飛び上がるようにして蒼星石の首に抱きついてきた。
「うわっ、危ないよ翠星石!」
危うく椅子ごと後ろにこけそうになる。
だが翠星石は気にした様子もない。
「蒼星石~~!!ありがとです~~!!やはり持つべきものは双子の妹ですぅぅぅぅ!!!」
言いながらうりうりうりうり、と頬をすりつけてくる。

illust ID:vnFHw5/a0氏

「翠星石、や、くすぐったいよ」
制止の声にもやめる様子はない。
ま、いっか。
何はともあれ、今後の行動はある程度決まってきた。
結果はどうなるかわからないけど。
(これで良かったんだよね・・・・・・)

そう。この選択は翠星石のためだけではない。
蒼星石もまた、姉を通して何かとつながる可能性を選んだのだ。
これは翠星石だけでなく、自分にとっても何かを見つけるチャンスなのかもしれない。
蒼星石には、翠星石ほどの切実な感覚。強く何かを求める気持ちは、今はまだ無い。
だからこそ、自分からそれを探ってみようと思う。
何もしないことには、何も始まらないのだ。
(それに――)
結局。
自分がこの姉を放っておけるはずがない。
一人でやらせたら、何をしでかすかわからないのだから。
(全く、困った姉さんだよ、君は・・・・・・)
そこまで考えたところで、蒼星石は徐々に視界がぼんやりと霞んでいくことに気がついた。
(あれ・・・・・・?)
なんだか、苦しい。
見れば、翠星石の肩と腕によって蒼星石の首はがっちりとホールドされていた。
つまり、呼吸が止まっていたのだった。
蒼星石が力なく翠星石の背中をタッチすると、ようやく気づいたらしい翠星石が、驚愕の表情でこちらの肩を揺さぶり始めた。
蒼・・・・・・!・・・・・・石!!・・・・・・しっかり・・・・・・るです・・・・・・星・・・・・・!!
翠星石が何か言っている。しかしはっきりと聞き取ることができない。
落ちてゆく意識の中で、最後に蒼星石が見たのは光の中からこっちを呼ぶ和樹くんの姿だった。

10分後、意識を取り戻した蒼星石は和樹くんから翠星石へ30項目に渡る伝言を記憶していた。
「『もっとやさしく』、ってどういうことですかぁぁぁぁぁぁ!!
 まるで私が蒼星石をひどい目にあわせてるみたいですぅぅぅぅぅぅ!!」
「控えめに言って僕以外にはやらない方がいいのは確かだと痛い痛いそうそうこういうこととか」

夜更けまで騒々しいふたり(騒々しいのは主に片方だが)。
その傍ら、開きっぱなしの『ROCK ON』今月号の特集、
『ANT PLAN』のヴォーカル、トレジャー・マップへのインタビュー記事。
その最後の一文にはこうあった。

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――では音楽を志す全ての人に何かメッセージを一言。

T「とりあえずやってみることだよ――



~始まりは翠星石 無責任発言大風呂敷~ 了


最終更新:2006年12月07日 20:19