3-22「バレンタインと鈍」

2月、早いやつはすでに進学先を決め受験勉強から解放されてる奴もいるが
俺はというといまだ受験という地獄のまっただ中にいる
蜘蛛の糸でも垂らされたら真っ先に飛び付くぐらいに追い詰められてはいるが
そんな殊勝なことをしてくれる奴がいるはずもなく
この苦行が報われるのを信じて今は勉強という苦しみに耐えるしかない

午後のホームルームがそろそろ帰るかと教室を一瞥したが
しかし、何故か今日は空気の浮ついている奴と淀んでいる奴の落差が激しい
しかも今までと違い進学が決まっている奴とこの先試験が控えている奴といった
部類別に別れているわけではない
これはいったいなんだ?
「くっくっくっキョン、君らしいといえばそうだが。今日は何日だい?
いくら何でもこの質問の意図ぐらいわかるだろう?」
俺の前にはすでに進学を決めている組の佐々木がおかしそうに笑っている
「今日は2月14日…ああ、バレンタインデーか」
なるほどようやくクラスの雰囲気の謎が分かった
それにしても、まだ先が控えている奴もいるというのに
別のことに気が裂けれるとはな
「まぁ、年頃の男女はこういった恋愛関連のイベントには敏感なものだよ
特に意中の人がいる場合は卒業式前の大事な前哨戦といったところだろうね
その点キョンはバレンタインということすら忘れていたのだからね
そんなに余裕がないのかい?」
「ほっとけ」
もともと家族以外から貰えるなんて期待していない
それよりも試験を受けずに合格する方法が知りたい
「くっくっ、まったく君と言う奴は。
キョン、君のその怠け癖は早く矯正したほうがいい
おっせかいなその性格とその怠け癖は相性が悪い
近い将来しなくていい苦労をするだろう
まぁ、苦労は買ってでもしろと言ってる人もいるから
結果的にはキョンの為になるかな?」
佐々木よ、お前はいったい何がが言いたいんだ
いったい俺は苦労しない方がいいのかした方がいいのかどっちなんだ?
それに今俺は非常に苦労しているぞ
お前の言うとおり今日がバレンタインだということすら忘れるほどにな
いや別に貰えないから悔しいなどとは思ってないぞ
期待なんかこれっぽっちもしていないんだからな
「そんなに卑下することもないだろう
せこまで言われると渡しづらいではないか
一年近く一緒にいたんだから、僕だって形だけでも用意はしてあるよ」
そう言って佐々木はカバンからブツをとりだした
「さぁ、受け取ってくれ。これでも随分と苦労したんだよ」
「…佐々木さん?これはなんの冗談ですか?いったいこれはなんですか?」
「冗談とはひどいな。バレンタインプレゼントだよ
人の好意は素直に受け取ってほしいな」
よし、ちょっと待て
正直佐々木がバレンタインなんてイベントに参加するとは思わなかったがそれは百歩譲ろう
それにバレンタインプレゼントがチョコだけとは限らないからそこも譲ろう
「だがな、チョコの代わりが数学のテキストなのはどういうことなんだ?」
「なに、今のキョンに最も必要だろうものを用意したまでだよ
キョンの苦手箇所を補強するように作ったんだ
言っただろう一年近く一緒にいるって。それぐらい僕にも分かるさ
しっかり取り組めば試験が大分楽になるよ」
そう言われても俺はなかなか受け取る気がしない
佐々木は俺に渡すかわりに俺のカバンにブツを入れてしまった
他にもまだテキストがあったらしく
自分のカバンからなにやら取り出して俺のカバンに入れた
俺は早速余計な苦労を背負い込んだらしい

結局今年貰えるチョコは例年と同じく
家族からだけだと思っていたのだが…
「なんだ?」
家に帰って晩飯までの間佐々木からくれたテキストに取り組もうと
カバンを開けたら小包が入っていた
小包には『キョンへ』とだけ書かれカードと
簡素な飾り付けがされたチョコレートが入ってた
俺宛てなのは間違いないだろうが差出人が不明だ
佐々木か?いや、違うだろう
あいつのプレゼントはこのテキストだし
こんな真似するような奴ではない
では誰だろう?
カバンの一番上にあったから佐々木がテキストを入れたより後だろうが
はて?そんな時間があったのだろうか?
あの後佐々木とまだ少し喋っていたからその間にいれたのだろうか?
しかしそれだったら気付かない訳がないし
直接渡してくれても良かったのだが
「分からん」
まぁ、特に凝った作りではないから義理だろうと結論づけた

チョコの差出人は北高に通っている今現在も不明である


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最終更新:2013年03月03日 01:23
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