28-647「札幌テレビ塔」

「キョン、君はここに立てるかい?」
ガラス張りの床の上で、佐々木は意地悪そうに笑う。

今日は建国記念日。
俺と佐々木は、互いの受験が無事に終わったということで、一緒に北海道に遊びに出かけていた。
「どうしたんだい?もしかして君は高所恐怖症なのかい?」
ここは、さっぽろテレビ塔。
俺達は今、その展望台にいるんだが、そこに一部(といっても数十センチ四方だが)ガラス張りになっている床がある。
どういう意図でその様なものが設置してあるのかというと、まぁ簡単な話、下を覗いてテレビ塔の高さを実感できる様に、だ。
俺は別に高所恐怖症ではないが…なんとなく素直にその上に乗る気にはなれなかった。
「はは、大丈夫だよキョン。このガラスは硬化ガラスだ。たとえ僕達が二人で乗ったとしても割れやしない」
佐々木は楽しそうに笑っている。
その笑顔を見ていると、辛かった受験勉強が全部嘘のように感じられる。

買い物、映画館、レストラン、博物館、動物園…。
今日一日で、俺達は随分色々な所をまわった。
もしかして、ここ一週間の合計歩数よりもたくさん歩いたかも知れない。
そろそろ歩き疲れたなと思う頃、丁度辺りも暗くなってきたので、俺達は本日の締めとして夜景でも眺めようということで、このテレビ塔にやってきたのだ。

展望台で一時間ほど過ごしたあと、俺達はテレビ塔を後にした。
「キョン、せっかくだから記念写真でも撮らないかい?」
佐々木がそう言って、俺の顔を覗き込んだ。
よしきた。任せろ。
俺は佐々木に携帯のカメラを向ける。
その時、俺の足元で何かが落ちたような音がした。
「キョン、今君の手元から何か落ちたよ」
何だ?
俺は足元を見つめた。
よく見ると、さっき買ったテレビ塔型ストラップが半分に割れて落ちていた。
おいおい、まだ買ってから10分も立ってないぞ。
俺がふてくされていると、
「大丈夫だよ、キョン。僕に任せてくれ」
佐々木がそう言って、手を差し出してきた。
俺は二つになったストラップを佐々木に手渡す。
「備えあれば憂い無しってね」
そう言うと、佐々木はくっくっ、と笑いながらポケットから接着剤を取り出した。
何でそんな物が入ってるんだよ。
「用意周到であるに越した事はないだろう?」
佐々木は俺にウィンクをする。
その時、急に凄まじい突風が吹いた。
俺達は倒れないようにその場に踏ん張る。
だめだ、目を開けていられない。
あまりの風にたまらず目を閉じると、その瞬間、右舷から物凄い音がした。
驚いて目を開けると、なんと、2メートルはある金属製の看板が、こちらに飛んでくるのが目に入った。
「うわあっ!!!」
佐々木が思わず俺に飛びついてくる。
俺も、何とか看板との直撃を避けようと体をそらした。
その結果────俺達は、二人して転んだ。
しかも、最悪なことに、ちょうど佐々木が接着剤の蓋を開けたタイミングだったものだから、重なり合った俺達の体は見事にくっついてしまっていたのだ。
どこがくっついていたかって?
…………口が、だよ。
お互いの口が綺麗にくっついちまった。
「ん゙────!!!」
佐々木が何か言おうとする。
だが、完全にくっついているので互いに喋れない。
とにかく、いつまでも倒れている訳にはいかないので、俺達はゆっくりと立ち上がった。
さて、ここからが問題だ。
何とかして口を剥がさないとな。
俺は手で佐々木に合図をした。
1、2の3!
「ふんんんんんんん!!!!!!」
互いに顔を引っ張り合う。

いたいいたい。
佐々木が目に涙を浮かべている。
俺もそろそろ限界だ。
俺達は、互いに顔を真っ赤にしながら懸命に引っ張った。
なんとか剥がれた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
佐々木は膝に手をついて息を切らしている。
やれやれだ。
しばらくして、お互い落ち着いたところで、俺は佐々木の顔を見た。
佐々木も俺を見てくる。
「…………っく…」
佐々木が少しうつむく。そして、
「あははははははははは!」
大声で笑い出した。
つられて俺も一緒に笑う。
まぁ、何だ。
色々あった中学生活だったが、こうして無事受験も終えて、思い出も作れた。
何だかんだ言って、俺は結構人生を楽しめているんだな。
佐々木の満面の笑みを見ながら、俺はそう思った。

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最終更新:2008年02月06日 07:38
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