28-854「君が見える場所から、ずっと」後半

    *

「結局みんなばらばら、か」
 俺はベッドの脇に荷物を投げ出した。あのまま分かれてしまった他のメンバーとは合流できないまま、結局谷口と先にホテルへやってきたのである。ちなみにホテルの部屋はさすがに男女同室とはいかないので、男と女に分かれて三人ずつそれぞれ一つの部屋に宿泊することになっている。ホテルの部屋は簡素なもので、部屋のほとんどはベッドで占められている。ほとんど寝るためだけの部屋、という感じだ。お前らおとなしく寝ろ、という学校側からの暗黙のメッセージだろうか、これは。
「俺たちが一番乗りみたいだな、っと俺このベッド取りー」
 谷口はコートを脱いで、部屋の暖房のスイッチを入れると、窓際のベッドに子供みたいに飛び込んだ。こいつはホテルの部屋を見ても、特に何も考えることはなかったらしい。
「小学生か、お前は」
「うるせえよ。せっかくの修学旅行だ、はっちゃけるぜ、俺は」
 子供っぽい谷口に突っ込みを入れてやると、あいつはベッドに寝転がりながら悪態をついた。
「他の連中は何してるんだろうなー。携帯で連絡とってみるか?」
「別にいいだろう。そのうち他の連中もここへ現れるよ」
 俺はコートを脱ぎながら谷口とは反対側のベッドに座った。谷口は両手両足を伸ばして、大の字になっていた。
「女子は上の階だったなー。せっかくの修学旅行だ、なんとか潜入したいものだな、おい」
「一人でやってくれ。こんなところで、んなもん教師に見つかって正座とかさせられたらかなわないからな」
「なんだよ。かわいい彼女に会いたくないのかー」
「そんな安い挑発には乗らん」
 あからさまに谷口は嫌そうな顔をした。とはいっても、会いたい、か。頭の中に佐々木の顔が浮かんだ。
 そんなこんなで谷口とそんな間の抜けたやり取りをしているうちに、ドアが開く音がした。程なくして人の足音が近づいてきた。
「あれ。早いねー、キョンたち」
「おう」
 寒い寒いと言いながら部屋に入る国木田に、谷口が寝転がったまま右手を挙げた。そういえばこいつは俺たちとはぐれてどこへ行っていたんだろう?
「よう。お前、今までどこへ行っていたんだ?」
 谷口に倣って俺も国木田に挨拶して、疑問を尋ねてみた。
「あぁ……ちょっとね。野暮用かな?」
 国木田はどこか歯切れ悪く、答えをはぐらかした。
「お前、俺に黙って女の子ナンパしてたんじゃないだろーな」
「そうだね。女の子とお話してたよ」
「なに? まぢか」
 谷口の奴が一気に興奮してベッドから跳ね起きた。わかりやすい奴だ。餌をやると言われた犬のような目で、国木田を見ていた。
「で、その子かわいかったのか?」
「うん、とても」
「まぢかよ! くそ、うらやましーな。俺もキョンなんかほっといてお前と一緒に行動していたらよかったぜ」
 身もだえして大げさに悔しがる谷口。悪かったな、俺なんかで。
「でも、その子残念ながら彼氏持ちだったよ」
 え、と間抜けな声を立てて身もだえしていた谷口が固まった。興奮したり固まったり忙しい男だ。
「なんだよ、それ。お前もついてねーな」
 谷口はそうやってわざとらしく両手を挙げて、仰向けにベッドに倒れこんだ。おもんねー、と露骨に口を尖らせていた。やれやれ、本当にぎやかな奴だ。
 しかし、国木田が自由行動を抜け出して、女の子をナンパしていたとは意外だ。こいつはそういうことをしない奴だと思っていたのに。
 そんなことを考えながら国木田の顔を眺めていると、国木田と目が合った。国木田は俺が見ているのに気付くと、なにやら意味ありげな笑みを浮かべてみせた。

    *

 国木田とホテルまで歩いてきて、玄関で別れた。そうやって自分をごまかしていてもいいことなんてない、そんなこと国木田に言われなくたって、私が一番よくわかっている。もっと、素直でわがままになれればいい。彼を困らせるようなわがままを言ってやればいい。でも、そんなこと出来ないから。どうしていいかわからないから。
 それから私は一人で部屋に向かった。気まずい。色々な意味で気まずい。結局、私はみんなとははぐれてしまった格好になる。ただでさえあれだけ雰囲気が悪かった中、こんな風に個人行動を取ってしまうと、それがどういう方向へ向かうかくらい私にだってわかる。
 ため息をついて、ドアノブを回した。彼女たちが先に着いているにしても、ここで彼女たちが部屋にやってくるのを待つにしても、気まずいのに変わりはない。ドアには鍵は掛かっていなかった。となれば、彼女たちは部屋の中にいるのだろうか。
 私は恐る恐る部屋の中へ入っていった。そっと、部屋の中をのぞいてみた。けど、誰もいなかった。部屋のほとんどを占めるベッドの脇に荷物は置いてある。ということは、部屋に荷物を置いた後、彼女たちはどこかへ行ってしまったのだろうか。まぁ、こんなベッドしかない部屋にこもっていても、大して楽しくはないだろう。
 彼女たちがいないことを知って急に力が抜けた私は、へたれこむように近くにあったベッドに座り込んだ。これからどうし――
「わっ!」
「きゃ!」
 その時だ。いきなり背後から人の声がした。私はびっくりして飛び上がり、悲鳴を上げてしまった。前のめりに向かいのベッドに手を付いて、バクバクする心臓を右手で抑えるようにして、慌てて声のした方を振り返った。
「ふふーん。大成功」
「だから、涼宮さん、こういうことはやめたほうがいいって言ったのね」
 クローゼットが開かれて、そのまえに腰に手を当てた涼宮さんが得意満面の笑みで立っていた。その後、クローゼットの中で阪中さんが申し訳なさそうにこちらを見ていた。右手でごめんね、と私に合図していた。けど、当の私は怒る怒らない以前に何が起こったかが、わからない。ぽかーん、としている私を見て涼宮さんは悠然と
「油断大敵よ、佐々木さん。ここはもう修学旅行なのよ。やるかやられるかのサバイバル。あんなふうにぼーっとしているとこうやって寝首をかかれちゃうわよ」
 そして、涼宮さんは右手で首を切るポーズをしてみせた。いや、修学旅行ってそういうものだったっけ? 真っ白な頭の中で、間抜けな思考が回っていた。ただ、涼宮さんの得意満面な笑顔を見ていると、不思議とさっきまでの不安な気持ちは吹き飛んでいた。
「びっくりした。心臓が止まるかと思ったよ」
 やっと私は言葉を搾り出した。そして、これが修学旅行に来て初めて涼宮さんと交わした会話だ。
「あんたここ最近ずっとへこんでいるみたいだったからね。そんなの見てると、こっちまで憂鬱な気分になるから、軽く気合を入れてやったわけ。感謝しなさい」
「え、あ、うん」
 私は言葉にならない返事を返した。なんというか、一番そういうことを言われることがないと思っていた相手だ。それ以前の疑問として、いつの間に彼女はいつもの調子を取り戻したのだろう。今日の自由行動のときはまだ、そんな感じじゃなかったのに。
 涼宮さんはそんな私の考えなど、全くもってしてどこ吹く風という様子で、得意げに私の座るベッドの周りを歩き始めた。なんか、まるでこれから作戦の説明をする指揮官のような雰囲気だ。
「さぁ、せっかくの修学旅行だからどんどん盛り上げていくわよ。けど、残念ながら今日の自由行動は全然だったわ」
 その言葉に私は目を伏せた。全ての原因は私がずっと変なことを気にしているせいだ。やはり、そこを責められるのだろうか――
「だから、その分を取り返すために、あたしはいいことを思いついたの。ね、佐々木さん」
 名前を呼ばれて改めて、涼宮さんのほうを見た。なんだろう、この彼女の太陽のように力強い笑顔は。そこには何の悪意も感じられなかった。ただ、前へ進む力強さだけが感じられた。
 なんでこの人はこんなにまっすぐに笑えるのだろう。
「今の時代果報は寝て待っても、やって来ないのよ。イベントは自分たちで引き起こさないとね。ということで、ちょっと耳を貸してちょうだい」
 そう言って涼宮さんは右手を私に差し伸べた。

    *

 国木田と谷口の視線が痛かった。で、お前はこんなところで何をやっているんだ、と彼らの顔に書いてあった。俺はベッドに寝転がったまま天井を見ていた。
 連中の言いたいことはよくわかる。俺だって、谷口にまで説教されてしまったくらいだ、自分が何をすべきかはわかっている。決意だって固めている。けれども、タイミングっていうのも重要だ。まさか女子の部屋に特攻をかけるわけにもいかない。
 そんなことを考えながら、俺はなんともなしに窓の外を見た。ホテルの部屋からも、外の空気が透明で澄んでいることがわかる。いつだったかの古泉の言葉が頭に浮かんだ。もしかしたら、この寒さも涼宮の望んだものかもしれないな。雪も降るのだろうか。あのときみたいに。
 そのときベッドの脇に投げ置いてあった携帯が震えた。メールの着信だ。俺は携帯を慌てて取ると、その送信者の名前を見て視神経から電流が流れたように、上半身をはね起こした。そして唾を飲み込んで、震える指先で、メールを開いた。
 俺はクローゼットを乱暴に開けて、中のコートを引っつかんだ。乱暴にやったせいで、ハンガーが一つ床に落ちた。その俺の行動を目の当たりにした谷口が素っ頓狂な声を上げた。
「お、おい。お前、これからどこへ行こうっていうんだよ?」
「すまん。ちょっと俺は出る」
 コートを羽織ながら、俺は短く返事を返した。時間がない。いや、時間が惜しい。
「出る、ってお前この時間に外出したら怒られるぞ」
「あぁ、そうだな」
「そうだな、って。お前は」
 振り返った俺の表情を見た谷口は言葉をそこで詰まらせた。あきれ返るような表情で俺を見ると、両手を上げた。
「大丈夫。僕たちがうまくごまかしておくよ。ねぇ、谷口」
 国木田はどこか嬉しそうに微笑みながら谷口にそう相槌を求めた。
「あぁ、しゃあねえ。乗りかかった船だ。任せとけ」
 おおげさにうんざりした、という感じで谷口はベッドに大の字で寝転んだ。
「ありがとう。頼りにしてるぜ、国木田。あと、ついでに谷口も」
「ついでって、なんだよ」
「がんばってね。キョン」
 文句を言う谷口と励ましの言葉をくれた国木田のほうを振り返って、俺は親指を立ててみせた。部屋のドアを開けると、教師に見つからないようにカンカンと音を立てながら、非常階段から下に降りていった。
 握り締めた携帯電話のディスプレイには佐々木からのメールが表示されたままだった。

『この街のどこにいても、君が見える場所で』

    *

「行っちゃったね」
「そうね」
 私は阪中さんと二人で部屋にいた。散々勢いよくまくし立てた疲れのおかげか妙に気分はすっきりとしている。ベッドに寝転んでいると気持ちいい。枕は高くてちょっとあたしには合わないけど。
「やっぱり涼宮さんはかっこよかったのね」
 隣に座っている阪中さんが私に優しい笑顔を向けていた。なんで、この子は他人事なのに、こんなに心の底から嬉しそうな表情が出来るのだろう。
「そう? あたしははっきりしないのは嫌いだからガツンと言ってやっただけよ」
「けど、そうやって人に嫌われることを恐れずに、言うべきことを言えるのはすごいことだと思うのね」
 その言葉はちょっと歯がゆい。実際、あたしだってついさっきまで言いたいことが言えない人だったから。けど、意外と吹っ切ってしまえば嘘のように楽なものだった。
「うまくいくといいね、佐々木さん」
「古今東西こういうときは男のほうが女の元へ駆けつけるって決まっているのよ。これで、あのアホキョンがたどり着けなかったら、もうどうしようもないわね。近年稀に見るどうしようもないアホよ。アホの中のアホ、キングオブアホだわ」
「でも、涼宮さんは、全然そう思っている風に見えないのね」
 阪中さんは面白そうに笑って、あたしの隣に寝転がった。ベッドが二人の体重で少し沈んだ。
「そうかしらね」
 そんな風にうそぶきながら、あの時のキョンの告白を思い出した。もしも、あの夜から、あの雪が降っていた夜から、あいつの気持ちが全く変わっていないのなら、きっとたどり着けるだろう。いや、そうでなくては困る。そうじゃないと、あたしは――
「そして、涼宮さんもがんばったのね」
 阪中さんはそう言って、投げ出したあたしの右手をそっと握った。あたしは軽く鼻を鳴らすと、天井をしっかりと見据えた。

    *

「行っちゃったねぇ」
「あぁ、行っちまったなぁ」
 国木田が荷物を整理しながら間の抜けた声を上げた。ベッドに寝転がったままの谷口もめんどくさそうにそれに応える。
「相変わらず世話のかかる奴だ」
「本当に、そうだねぇ」
 国木田はそこで一呼吸すると、まるで何かを思い出したように
「どうやって点呼ごまかそう?」
「バカみたいにソフトクリームを食いすぎてトイレから出られません、っていうことにしとこうぜ」
「そんなんで大丈夫かなぁ?」
「知らねー。悪いが、そこまで面倒見きれーよ」
 谷口はどうでもよさげに寝返りを打った。小さな声で「あほくせ」と呟いている。
「なぁ、明日こそは誰かナンパしようぜ。彼氏持ちの子の世話をしていても、こっちは全然割りにあわねえよ」
「後半部分には賛同するよ」
 国木田は丁寧にコートの皺を伸ばすとハンガーに掛けた。キョンがコートを掴んだ際に落としたハンガーが足元に転がっている。国木田はそれを拾うとため息をついた。
「お互い面倒くさい友達に恵まれちゃったもんだね」
 あきれ返るような声を出しながら、拾ったハンガーをあるべき場所に片付ける。
「あぁ、全くだ。……まぁ、面白いからいいけどよ」
 谷口は大して不満そうにも聞こえない声で、口を尖らせていた。
 部屋が暖まり始めたおかげか、窓ガラスが曇り始めていた。

    *

 目の前にはオレンジ色にライトアップされた塔が立っていた。お姫様はこの町で一番目立つこの塔の前で王子様の到着を待つ――らしい。
 唐突に提案された涼宮さんの計画だった。あの人ってああ見えて結構ロマンチックなんだな、そう思うとちょっと思い出し笑いをしてしまう。いつか、本人にそう言ってみようかな。そう言えるような関係になれたらいいな。
 こうやって一人になってみると、今まで悩んでいたことが馬鹿馬鹿しく思えてくる。あちこちのベンチにカップルが大勢いる。家族連れも入る。みんな幸せそうだ。私の視界にはずっとそういう人たちが映っていた。私が、気が付かなかっただけだ。
 素直になれるだけの勇気を振り絞ろう。ここで、素直になれなかったら、本当の意味で彼女に負けてしまうから。
 私も、彼女みたいにまっすぐ笑えるようになりたいと思う。あんな風に自分に正直でいたいと思う。そうすれば、きっと彼女と本当の意味での友達になれる。
 けど、私は一つだけ彼女の提案に逆らった。彼を待つ場所は展望室ではなくて、その下。だって、展望室には彼と二人で昇りたいから――

    *

 地下鉄への乗降口から外へ出た。空気は肌に刺さるように寒い。道の両端を彩る並木の先を見据えた。この街のどこにいても、俺の姿が見える場所――答えはここしかない。それは俺の視線の先でオレンジ色に輝いていた。
 大通公園――大まかな場所は合っているはずだ。けど、あいつはいったいどこに? 俺は目の前の塔の天辺を見上げた。展望室、この街が見渡せる場所。あいつならきっとそこに。そう考えて、足取りを早めようとしたときだった。
「こんばんは。お一人ですか?」
 背中から声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。まるでシナモンのように甘い声。俺はゆっくりと振り返った。その人物は俺が振り返るのを待っていたように、柔らかく次の言葉を紡いだ。
「もしよかったら、僕と一緒に修学旅行の自由行動に行きませんか」
 ピンクのマフラーを巻いた佐々木が両手を後に組んで立っていた。はにかんだ笑顔を俺に向けて、ほんの少し悪戯っぽく首を傾げていた。冷たい風が時間を凍らせてしまっているようだった。
「いいぜ。どこか行きたい所はあるか。どこへだって連れてってやる」
 俺の言葉。本当なら、今日の始まりに言うべきだった言葉。
「じゃあ、この星空が見えるところへ行こう」
 佐々木はなんともなしに夜空を見上げていった。俺もそれに倣って夜空を見上げる。空気は透明で澄んでいて、このまま空に吸い込まれそうな気がした。
「星空なんて、この街のどこでも見えるじゃないか」
「そうだね。――だったら、どこでもいいよ」
 俺のその言葉を待っていたかのように、佐々木は笑った。そして、佐々木は俺の目をしっかりと見た。その目に、どこか力強い光が宿っているのを感じた。こんな目を俺は知っている気がする。
「キミと一緒だったら、僕はどこでもいい」
 そのとき、佐々木の笑顔が星屑をばら撒いたように輝いたように見えた。思わず、俺は息を呑む。握り締める拳に力がこもる。
「佐々木――」
 俺は佐々木の名を呼んで、そのまま目の前の少女に見とれてしまう。次の言葉が出ない。出せない。
「いや、でも、一つだけ条件をつけよう」
「条件?」
「うん」
 佐々木はゆっくりと俺に向かって歩き始めた。悪戯っぽく、そしてはにかんだ笑み。佐々木の頬が少し赤く染まっていた。俺は何も出来ないまま、バカみたいに突っ立っているだけ。ゆっくりと佐々木が俺の目の前にやってくる。そして柔らかく羽根のように両手を広げると、俺の体を包んだ。佐々木の小さな体が俺に寄り添う。佐々木の体温を感じる。佐々木の甘い匂いも、その柔らかい体の感触も。佐々木がこの世に存在してくれていることを感じる。
「世界で一番キミの近くの場所で。僕はそこにいたい。キミが見える場所から、ずっと」
 佐々木の触れている部分が融けて消えてなくなりそうな気がした。世界で俺に一番近い場所、お前が望むならそこに招待してやろう。お前の行きたい場所へ連れて行ってやるってさっき約束したからな。約束は果たしてやるよ。お前が望むなら、きっとどんなものでも。
 俺は佐々木の体を少し離すと、佐々木の肩に手を置いた。佐々木も俺の肩に手を置いた。俺の左手は佐々木の右肩に、佐々木の左手は俺の右肩に。俺は右手で佐々木の体を俺のほうに近づけた。それにあわせて佐々木はその目を閉じた。そして、ゆっくりと佐々木の唇へと顔を近づける。目を閉じた。柔らかい感触が唇から全身に広がる。その瞬間俺が感じているのは、佐々木の存在だけだった。
 間違いなく、この瞬間なら言える。俺は世界で一番佐々木の近くにいると。俺の感じている世界にはお前しかいないと。
 俺たちの背後にそびえ立つこの街でもっとも星空に近い場所が、暖かい光で俺たちを照らしていた。


『君が見える場所から、ずっと』


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最終更新:2011年10月14日 23:35
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