32-858「佐々木さんがミニスカートを履いている理由」

『佐々木さんがミニスカートを履いている理由』

秋の風が若干冷たく感じるようになってきたある日曜日のことだった。俺はマイマザーの指令で街までお使いに来た。
買い物を済ませた帰り、ショートカットの女の子が見えた。折角だから世間話でもしようと近付く。
真近でよくで見たら、女の子でなく国木田だった。なんで男と女を間違ったのだろうか。おかしいな
「やあ…国木田。奇遇だなー。ははは」
「微妙そうな表情だね。どうしたの?」
ファッションに疎い俺には、あの国木田の服にどんな名前ついているか知らないが、どちらかと言えばボーイッシュな女が着る服に近い。そして、胸のあたりがダボダボで男か貧乳女かが判別不能だ。
国木田の奴は男か女かわからない格好しやがって、紛らわしいな。

「その残念そうな顔つき。もしかして佐々木さんと間違えたの?」
「そんなこと、あるわけないぞ」
何て勘の良い奴だ。じゃなくて勘違いするな。
「キョンなら間違えたりしないと思っていたけど、それくらい似ているんだね。この前も間違えられたよ」
「お前らを双子と思っていた後輩もいたよな」
「そうだったね」
こいつらは、特に後姿が良く似ていてしょっちゅう姉弟と思われる。だから、俺が間違えるのも不思議は無いな。そういや歩き方も似ている。
「佐々木さんを探しているの?何か用があるの?」
「別に探しているわけでも用があるわけでもないぞ」
「キョンなら今佐々木さんが今どこで何をしているか知ってたんじゃないの?」
「何故俺が奴の行動を逐一把握していないといけないんだ」
「え?違ったの?」


こんなふうに俺達が並んで歩いていると、知らない男が声をかけてきた。国木田の方にだな。
「あの、お嬢さん。僕はあなたを一目見た時から好きになって…そこの彼が恋人でなく、今恋人いらっしゃらないなら。
  良ければ僕とつ、つ、つ、つきあって下さい」
痩せ型で、頭は良さそうだが若干オタクっぽい。勉強のしすぎか分厚い眼鏡をかけている。
よりによって国木田を女に間違えて告白するとは…不幸と言って良いのかな?

おい、国木田『自分は男』と言って断らないのか?
「……」
おい国木田よ。訴えるようなつぶらな瞳で俺を見つめるな。もしかして、俺に何とかして欲しいのか?
「こいつは男なんだが、それをわかって聞いているのか?」
俺の言葉の後に一瞬、瞬きすら止めていた男だったが。我に帰って泣きながら帰って行った。
「失礼しましたー」
女と思って男に告白するとは…かわいそうに。トラウマにならなければ良いのだが。

「助かった。ありがとうキョン」
「お前、今日みたいに男に告白されることがあるのか?」
「それは初めてだよ。あ、見つけた、あんな所に佐々木さんがいるよ」
「国木田。一緒に挨拶に行くぞ」

俺は偶然会った佐々木に声をかけた。いつの間にか国木田はいなくなっていた。あれ?おかしいな?
「よう、佐々木」
「キョン。奇遇だね。くっくっ」
しかし佐々木も国木田とほぼ同じ格好で、男か女か微妙な格好だ。こいつも紛らわしい。
「なあ、佐々木。前から言おうとしていたんだが」
「何かねキョン?もしかして嬉しい知らせかな?くっくっ」
佐々木はアンドロメダ星雲のように輝く瞳をさらにキラキラさせ、身を乗り出して俺に迫ってくる。
おい、胸が当たっているぞ。小さいけどさすがに女の子の胸は柔らかくて気持ち良い。それに髪の毛からコスモスか何かの花のような芳香が。佐々木、そんなことすると押し倒そうとする男が出るぞ。
佐々木はもっと女らしい格好を…そうすればモテるだろうに…と言おうとして止めた。
何故止めたのかは自分でもわからない。多分佐々木のことだから自分でもそんなことはわかっていて、俺の忠告は無意味なお世話だと思ったからだと思う。
それに、今でも実は隠れファンがいる。これ以上モテると手に負えなくなる。手に負えなくなったら俺にとってどんなデメリットがあるかは知らないけど。
「大事な話なんだろ?ここじゃ何だから喫茶店にでも行こうか?」
そういや、佐々木とは中華料理屋とかソバ屋とか色気の無いヘルシーレストランには散々行ったが、喫茶店みたいなチャラチャラした店には一度も行ったことないな。
「いや、ここで良い。えーと、実は」
「実は?」
何か他に話題は無いのか。そうだ!
「付き合ってくれ」
……まずい、何か誤解される。
「いや、変な意味じゃなくて、妹の誕生日プレゼントを買うのに付き合ってくれないか?」
佐々木は、折角もらった誕生日のプレゼントの半分取り上げられた子供のように、あからさまな落胆の表情を見せた。
妹のプレゼントなんかの退屈でどうでも良い事に巻き込まれたくないよな。普通
「すまん、佐々木は忙しかったよな。しょうもないことに付き合わせるのは悪い。さっきのことは忘れてくれ」
「いや、違うよ。妹さんのプレゼントに関しては付き合うのに異存はない。早速明日の月曜日に下見に行き、水曜日の祝日にでも買おう」
「いや、まだ急がなくても良いけど、妹の誕生日はもっと先だから」
「善は急げと言うよ」
「だったら早速頼むよ。いや、佐々木がいて助かるよ」
その後の話の流れで、佐々木も妹の誕生日に参加することになった。

俺達が並んで歩いていると、知らない男が声をかけてきた。佐々木の方に。
さっきのと違って間抜けそうな顔に見える。体はがっしりしているのでスポーツはできそうなイメージ
「あの、お嬢さん。僕はあなたを一目見た時から好きになりました…そこの彼といつも仲良くなさっているのはよく見ています。
  そこの彼が恋人でなくて親戚の従兄弟さんなんかでいらっしゃって、今恋人いらっしゃらないなら。
  良ければ僕とつきあって下さい。とりあえずお友達からでも結構です」
また告白かい。佐々木。どうする?
「……」
おい佐々木よ。訴えるようなつぶらな瞳で俺を見つめるな。
良く知らない男と付き合うのは佐々木のポリシーに反する。残念ながらスペック的にも低い部類に入る男で、頭もあまり良さそうじゃない。
この状況は佐々木が俺に断れと訴えているのか?何で俺が。というよりどうやって断るんだ?
「こいつは男なんだが、それをわかって聞いているのか?」
「こいつは男なんだが、それをわかって聞いているのか?」
その男はさっきの国木田に告白した奴のように、泣きながら帰って行った。
「失礼しましたー」

二人きりになった俺達に、気まずい空気が流れる。
「君は何という断り方をするのかね」
パシーン、佐々木の平手は痛かった。
「すまん」
確かにそうだよな。佐々木を男と信じたからこの場は何とかなったが、後で女とバレたらどんな事になるか想像もできない。
「すまん、佐々木。この通り」
「全く君って奴は」

お詫びとして次の水曜日の祝日、佐々木に映画を奢ることになった。
当日、佐々木は今までのボーイッシュな格好を返上してミニのスカートを履いてきた。
佐々木さん。そのかわいさは反則的です。思わず抱き締めてあげたくなるような。

「スカート似合っているぞ。佐々木」
その日はポカポカと暖かい日差しが照っており、そのせいか、佐々木の顔が若干赤らんでいた。(終わり)

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最終更新:2008年05月19日 09:54
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