42-578「四月馬鹿」

4月1日。
俺は街で偶然出会った佐々木と喫茶店でだべっていた。
「キョン、今日はエイプリルフールだね」
「あぁ、誰が嘘をつくかというプレッシャーで人々が疑心暗鬼に駆られる日だ。」
「キミは本当に面白い考え方をするね。その捉え方は予想外だったよ」
誉めてるんだか貶してるんだかよくわからないぞ。
「さてキョン、これから僕が言うことは全て嘘だ」
「宣言したら嘘をつく意味がない気がするが。まぁ好きにすればいいさ」
「あぁ、そうさせて貰うよ」
佐々木はくっくっ、と笑い目を細める。
それなりに長い付き合いだからわかる。こういう顔をしたときのこいつはいつも何かを企んでいる。
もっとも、ハルヒほど突拍子もないことはしないしちょっとした悪戯をする程度なのだが。
「キョン、九曜さんではないがキミの瞳はとても綺麗だね。ずっと眺めていたくなるよ」
そう言い佐々木は俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
そんなに真っ直ぐ見られるとなんだか居心地が悪くなってくる。
「まつ毛も割りと長いし鼻立ちもすっきりしている。うん、十分美形と言える顔立ちではないかな」
美形なのはお前の方だろう、と心の中で呟く。普段じっくりとみることはないがこいつの顔は本当に整っている。
俺は耐えられなくなって視線を逸らした。が、佐々木の手が俺の顔を挟んで向きを再び自分の方に向けさせる。
「でも僕にとってはキミの内面のほうが魅力的なんだ。僕の長話にいつも付き合ってくれて話し手の僕にも思い付かない解釈をする。
それに最近は女性の扱い方も上手くなってきたね。涼宮さんのおかげかと思うと妬けてしまうが」
よくもそこまで嘘が出てくるものだ。
頬に触れる佐々木の手はすべすべと肌触りがよく、ひんやりとした感触が心地好い。いや、俺の顔が火照ってきているのか?
「そんなキミだから僕は好意を持ったんだ。昔、恋愛感情は精神病だと言ったことがあるけどまさに今の僕は精神病だね」
そこまで言われると嘘だと分かっていても照れ臭いぞ。
未だに俺を見つめている佐々木の顔も心なしか赤くなってきている。
お前も自分で言って恥ずかしがるくらいなら初めからこんな嘘をつくなよ。
しかしこんな表情の佐々木を見るのは初めてだな。いつものクールな様からは想像もできないくらい女の子らしく、可愛い。
と、このとき腕時計が12時を知らせるアラームを鳴らした。
「さて、今言った通り僕はキミに対して恋愛感情を抱いている。もしよければ僕たちの関係を親友から恋人にしてもらえないかな?」
実に佐々木らしい色気のない告白だ。佐々木は少し不安げな表情でこちらを見ている。
まぁこれも嘘なんだろうな。どうせ何を言っても嘘ですませられるんだ、と深く考えずに俺は
「おう、いいぞ」
と答えた。
「ありがとう、うれしいよ、キョン!」
佐々木の表情は不安げなものからパッとハルヒも顔負けな晴れ晴れとした笑顔に変わった。本当に今日のこいつはよく表情を変えるな。
「ところでキョン、エイプリルフールというのは嘘をついてもいい日だが別に嘘をつかなければならないというルールはないよね?」
「あぁ、そうだな。もしそうだったら今日は誰ともコミュニケーションがとれなくなるぜ」
嘘しか言わないニュースや虚偽だらけの契約なんかが飛び回った日には世界は大混乱だ。
「それでね、実は僕がさっきついた嘘は最初の一つだけなんだ」
「最初の一つ?」
「うん。最初に言った『これから言うことはすべて嘘』という宣言が嘘だったんだよ」
訳が解らなくなってきたぞ。
『これから言うことはすべて嘘』、が嘘だということはつまり『これから言うことはすべて本当』ということか?
「それからね、この日の知名度のわりにあまり知られてないのだがエイプリルフールには一つルールがあってね。
 嘘をついてもいいのは午前中だけという決まりもあるんだよ」
腕時計をみると時刻は既に12時1分を指している。そういやさっきアラームが鳴ってたな。
「つまりだ、僕がキミに恋愛感情を抱いているのは真実だしさっきの告白も本物だということさ。さてキョン、キミはさっき僕の告白に何と答えたかな?
おっと、12時を過ぎてからの発言だ。今更嘘だというのはなしだよ?」
      • なんだかはめられた気がするぞ。
やれやれ、本当にこいつらしい。
俺は頬に触れたままの佐々木の手を掴み答えた。
「んなこと言うか。今日一日俺は嘘をついてないぞ?
今日のことも含めて俺はお前と一緒に過ごす時間を大切に感じているし今より楽しい時間を過ごせるなら恋人になりたいとも思ってる。 俺からも聞こう。佐々木、俺と付き合ってくれないか?」
「もちろんだよ、キョン!」
こうして俺たちの関係は親友から恋人になった。
エイプリルフールってのも悪いもんじゃないな。



おまけ

その後、家に帰ってすぐにハルヒから電話があった。
『キョン、今度の土曜日は不思議探索よ!いつもの場所に10時に集合だから遅刻するんじゃないわよ!』
「悪い、土曜は佐々木と約束があるから参加できない。それとな、俺は佐々木と付き合うことになった。
 今後は団活にあまり参加できなくなるかもしれん」
『なんですって!・・・ははーん、今日はエイプリルフールだったわね。この私を騙そうだなんて百年早いわよ!』
「お前がそうとるなら別にそれでいいさ。ところでハルヒ、エイプリルフールで嘘をついていいのは午前中だけだってこと知ってたか?」

ハルヒとの電話を切った直後、再び電話が鳴ったが『古泉』の表示を見た俺は迷わず携帯の電源を切った。


.
+ タグ編集
  • タグ:
  • エイプリルフール

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年04月29日 15:14
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。