65-459 ディナーへようこそ!「1-おやつの後はゲームでも」

※本項は、長編「65-459 ディナーへようこそ!」を段落毎に分ページ化したものです。内容は共通となっております。

 中学時代の、ある日曜日のことだ。
「……ふう」
 週末に出された宿題に対して消極的サボタージュを実施していた所、塾帰りの四方山話の中で佐々木にあっさりと看破されてしまった。
 それでも俺は俺の寄って立つ道理による熱弁を奮ったのだが、まぁ佐々木の言わんとする、世間的、学校的、家庭的価値観に対して俺の孤立状況はいかんともしがたく、結局の所、あいつの部分的支援策を受け入れることによる全面的妥協に至ったというわけだ。
 そんな訳で俺ん家で今、二人で宿題を片付けている。

「……ん、さすがに根を詰めすぎてしまったかな」
 佐々木の眼が、長い睫毛越しに俺を見た。
 俺は手元のノートを指し示し、
「いや、でもお陰でそろそろ終わりそうだ。ありがとな、佐々木」
 お礼を言う。
「どういたしまして、だ。……それにしてもキョン、キミはやればできるのにどうして勉強を忌避するんだい?
 こんなのは単純な努力の単調な積み重ねだよ?」
 口元を綻ばせる佐々木の表情は、説教のそれとはほど遠い。
 俺は喜んでその話題に飛びついた。

「単純で単調なのはつまらんからだ。むしろ飽きずにやれる方が信じられん」
「努力した軌跡がそのまま結果に繋がるんだ。面白いと思うけどね」
「見解の相違だな」
「だけどね、キョン……」
 佐々木が笑みを深めたタイミングで、
 ノックもせずに、いきなり部屋の扉が開いた。
「キョンくん、おやつだよ~~」
 ノックをしなさい、といつもの如く叱り付けるのだが、やはりいつもの如く、妹の笑みに翳り一つ生むことが出来ない。……まぁ、無駄と分かっていてもやらなきゃいけないことがあるのさ。馬の耳よりはマシだろ?

「やれやれ、じゃあ休憩ってことでいいか?」
 目を向けると、
「ああ」
 佐々木が笑った。


 リビングへ入ると、すでに女の子が1人座っていた。
「おぉ、キミも来てたのか」
 慌ててその子が立ち上がる。
「おじゃましてます、お兄さん。あ……」
「おや、初めまして。キョン、誰だい? この愛らしいお嬢さんは」
 そうか。初対面になるんだな、この2人。
「ミヨキチ……あー、妹の友達の吉村さんだ。吉村さん、コイツは……」

「こんにちは。佐々木です。どうぞ宜しく」
「……あ、こちらこそ……」
 戸惑いながらも差し出された手を握るミヨキチ。
 しかし佐々木、握手とはまたずいぶん洋風な挨拶だな。なんかの冗談かと思ったぜ。
 そんな俺の思いをよそに、佐々木が目を針のようにして微笑んだ。……針?
「学校では見かけないけど、2年生でいいのかな? それとも1年生? ふふ、大人びて綺麗ね。だからちょっと見当もつかないな。もしかして私立?」
「……えっと……」
 手を握ったままこちらを見るミヨキチ。
 なんとなく庇護欲的義侠心に駆られて、俺は半歩踏み出した。
「佐々木、吉村さんは……」

「ミヨちゃんはあたしのクラスメイトだよ!」
“ミヨちゃん”に抱きついて、妹がニカッと笑う。
「あ……」
「えー……、そう、そうなんだ。ごめんね、吉村さん。大人びて見えたから見えたから勘違いしてしまったの。でも、いくらなんでも間違えすぎよね。ごめんなさい」
「いいんです。慣れてますから」
 妹を両手で抱き返しながら、柔らかく微笑むミヨキチ。
「ミヨちゃん、今日はミニシューだよ! 1人3個だって! 一緒に食べよっ?」
「うん」
 2人がミニシューの入った箱をリビングの机に持っていく。
(キョン?)
 俺も続こうとしたけれど、佐々木の目に射止められた。

(そんな顔するな。ホントに妹の同級生なんだって)
(そうなのかい?)
 まだ納得できないような、教科書を前にした時は決して見せないような顔つきを佐々木はしている。
(しかし……発育の早い子は早いんだね)
(ああ。とても妹と同い年には見えん。5年後にはどうなってしまうのやら)
 俺は万感の思いを込めて呟く。例えば身長、例えば肩のライン、その同位置エネルギーやや下の曲線、くびれから太ももに至る柔らかな道のりやその足首と指の細さときたら……。

(キョン、鼻が膨らんでる)
 佐々木が眼を眇めて俺を見上げた。
 何か言いたいようだが俺は美術的芸術品を拝見する心持ちでいただけだぞ。
 だからそんな顔をされても何ら疚しくはならないんだ。本当だぞ。ちょっと怖いがな。
「キョンくんササにゃん食べないのぉ? いらないなら4コめ、いただいちゃうよぉ?」
 おっと、油断も隙も……って、こらこら全く、どこに乗ってハシャいどるんだお前は。
「意地汚い真似はやめなさい。机の上から降りなさい!」
「はーい」
 お袋も居るんならちゃんと躾けて欲しいぜ。俺がコイツくらいの時よりずっと甘やかしてないか?

「「ふふっ」」

 何がおかしいんだか、ミヨキチと佐々木が笑った。
「ん?」
 佐々木がそれに気付き、
「……」
 ミヨキチは俯く。
 ……なんなんだろうね、この空気は。

 おやつを食べ終えて。
 そしたら妹が俺の後へやってきて、肩に手を付きホッピングしながら唄うように笑った。
「キョンくん、いっしょにゲームやろ?」
 ゲームやるって、それはつまり俺の部屋に来るということか? 俺が勉強中だっていまいち解ってないみたいだな。
 俺は再び説教しようと口を開いたが、
「あ、わたしも……ゴイッショシタイデス」
 ミヨキチにまで言われては仕方がない。
「おお、まぁ少しくらいなら……」

「キョン」
「……と思ったが、やっぱり受験生なんでな。まぁまた今度だ」
「えーっ!」
「……ソウデスカ」
「受験終わったらたっぷり遊んでやるから。だからそんな顔するな。ほら、ミヨキチも」
 なでり、なでり。
「……えへへ、キョンくん手ぇおおきいね」
「……アタタカイデス」
 二人がソワソワと喜んでくれるもんだから、俺の眦が下がっても不思議はないだろう?
「キョン」
 なのに佐々木ときたら、検事の答弁に異議を申し立てる弁護士のような目付きをした。
「っと。……ああ、分かってるよ佐々木」
 塾の課題や予習もある、時間はないって言うんだろ? 解ってるから睨むなよ。怖いから。
「じゃあ悪いなお前ら。お兄ちゃん達これから勉強だから。静かに遊ぶんだぞ」
「はーい!」
「はい、お兄さん」

 リビングを後にした俺達は、階段を上っていた。
「若い娘に大人気だね、キョン。羨ましい限りだよ」
「変な言い方すんなよ。親戚にガキが多いから慣れてるだけさ。お前だって笑いながら一緒に遊んでやればすぐに仲良くなれるぞ。簡単なもんさ」
「……そうだね。検討しておく」

 ~ その頃リビングでは ~

「心配ないよミヨちゃん。ササにゃんはいつもあんな感じだし、恋人なんてことぜんぜんないんだから」
「そっかな……」
「応援するからさ。がんばろ? ササにゃんのマの手からキョンくんを救い出して、いっしょに遊ぶんだ!」
「オオッ……」
「声がちいさい!」
「……おお……!」


※作者注『驚愕』発売前にプロットを考えたため、キョン妹が佐々木を呼ぶとき『佐々木お姉さん』
 ではありません。パロディという事で大目に見てやってください。
 というか『お姉さん』って、ちょっと他人行儀すぎますよね?

 作者さん:ken ◆AEiPDPXrnI

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最終更新:2012年03月11日 22:36
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