66-286「ときにキョン、僕はそろそろお茶が怖いな」

「ところでキョン、今度の親友旅行の件なんだが」
「なんだその新婚旅行みたいな呼び方は」
「おや? そちらがお望みかい?」
 右へ左へ聞き流す。

「それよりソレ旨そうだな。一口貰うぞ」
「酷いなキョン。なら僕もそちらを一口貰おう」
 佐々木のパフェを一口貰うと、お返しとばかりに俺のコーヒーゼリーが一口奪われた。
 珍しく人がデザート類を頼んだのに何しやがる佐々木。

「先に食べたのはキミだろう。まあ良い。僕はキミのそういう態度には慣れているからね」
「寛大な対応に痛み入るよ親友」
「くっくっく。まあパフェの方が内容量が多いのは否定しないがね。ほら」
「おう。あんがとよ」

「ってキミ、普通こう「あーん」とかされたらもっと赤くなるとか対応があるだろう?」
「はふいが、もとい、悪いが俺はお前に性差を感じたような事はないぞ親友」
「もっとあっさりスプーンを離してくれたら説得力があったね」
「何の事やら」
「まったく」

「そういうお前こそ人のコーヒーゼリーを人のスプーンで食ってるじゃねえか」
「悪いが僕もキミに性差を感じたような事はないからね。親友」
 そうかい。
「まあ視床下部が反応したことは否定しない」
 ししょう……なんだ?
「その名の通り脳の構造の一部だよ。本能を司る」
 ああそういえば習ったような。
「ん?」
「ん?」

「ときにキョン、僕はそろそろお茶が怖いな」
「すいませーん、紅茶とコーヒーおかわりお願いします」
 あれ?
「くっくっく。悪いがこの店でおかわり自由なのはコーヒーだけなのだよ」
「水道水はタダで飲み放題じゃないのか?」
「そこは否定しない。というか何だねそのフレーズは」
「気にすんな」
 秋口にでもなれば解るようになるさ。

「って人のコーヒー飲むなよ」
「キョン、声が大きいよ。そういう事は口に出すべきではない」
「……まあ確かにな」
 飲み放題だからってカップ一杯で二人が飲んだら店も困るよな。
 佐々木、解ってるならもっと素早く飲め。なんでそんなゆっくりじっくり口に含む。

「ん。まあこの店は僕の紹介なのだからね、長丁場を想定し、僕もコーヒーを頼むべきだった」
「お前にしちゃ珍しいな。そういう想定外とか」
「くっくっく。せっかくの親友との会合だからね。僕にだって舞い上がる時くらいはある」
「そういう台詞は男に向かって言うなよ。洒落にならん」
「ふふ、まあね。こういう事を言えるのは僕の唯一の親友くらいのものさ」
 そりゃどうも。

「ふむ」
 どうした?
「時にキミには他には、親友というのは……」
「恥ずかしい質問だなそりゃ。……………………他人に言うなよ?」
「善処しよう」
 善処じゃ困るぞ。まあ口は堅い奴だからな。

「……言ってみりゃSOS団は全員親友だ。性別差は感じているがな」
 ん。なんだガタガタと。
「気にする事は無い。この店は学生も多いからね、別に珍しい事じゃないよ」
「まあ確かにリーズナブルだしな。味も悪くねえし」
「気に入ってくれたなら幸甚だ。自分が良いと思ったものを他人にも気に入ってもらうのはとても嬉しい」
 ん。どうした?
「……いや、この場合の他人というのは言葉の綾というか」
 難しく考えんな、親友。
「うん。親友」
 だからあんまキラキラとこっち見んな。乗り出すな。
「おや? キミは僕に性別差を感じていないのではなかったのかい親友?」
 顔が近い!
「近づけているのさ」

『……うーん。でもやっぱり自己申告は親友なんですよねえ……』
『……受諾されない』
『んっふ。僕も親友ですか』
『もがもがもが!』

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最終更新:2012年04月05日 00:27
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