67-9xx 佐々木「実に由々しき問題だね」

「ところでキョン」
「なんだ佐々木」
 ふと、思い出したように持論に対する解説を止め、ぱたんと手元の文庫本を閉じると佐々木が言った。

「キミも知っての通り、僕はキミとの会話を非常に楽しんでいる。これを娯楽と規定するなら僕にとって最高級の娯楽だと評して良いくらいにね」
「また随分と過大評価をしてくれやがるな」
「くく、まあ本題ではないがね」
「じゃあ何が本題だ?」

「ん、」
「んぉわ!?」
 な、何しやがる佐々木!

「うん。キミの手の甲を唾液をたっぷりと含ませた舌で軽く舐め上げただけだが」
「淡々と何を言いやがりますかね」
「くっくっく」
「なんだよ」
 横顔が笑っていた。
 俺の腿の上、人の事を座椅子代わりにしながら笑っている。

「キョン」
「おいこら」
 佐々木は不意に腕を伸ばし、俺の頭を小脇に抱えるように抱き込むと、秘密めかして囁く。
 他に誰もいやしないのに声を潜める必要があるのか?

「……感情を込めて言って欲しかったのかい?」
「……それ以上言うなら俺の上から降りてもらうぞ佐々木」
「ふむ。それは困るな」
 佐々木、人の耳元であんまり溜めを効かせるな。
 それと囁くな。

「くく、考慮しておこう」
「そりゃ助かる」
 ぱっと俺の頭を解放すると、佐々木は再び笑った。
 笑いながら、背中を俺に預けてくる。
「ふふっ」
 今度は何だ。

「くっくっく。やはりキミとの会話は楽しい。実に、実に楽しいよ、キョン。だがやっぱり問題がある。これが本題なんだ」
「何がそんなに問題なんだよ」
「だってそうだろ?」
 言いつつ、佐々木はくるりと器用に反転する。

「キミと語り合っていると、キスできないじゃないか」

「キミとの会話は僕の理性を楽しませてくれるし、キミとのキスは僕の本能を昂らせる。
 キミと会話し続けるのも楽しいのだが、キミの膝にただただ甘えながら、とろりと甘い睡魔に身を任せるのもとても心地よいんだ。
 さて、どれから優先すべきか。実に由々しき問題だとは思わないかい?」
)終わり

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最終更新:2012年09月08日 03:12
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