67-9xx「お前軽いな、ちゃんと飯食べてるか?」

「なあキョン」
「なんだ、強引に話を中断したのはお前だったはずだが。佐々木」
 それは二人して向かい合い、額をつき合わせて夏休みの宿題をやっていた時の事だ。

「そりゃキミが……ああ、いや、言うまい。むしろそれがキミの望みである気がしてならないからね」
「なるほど。つまり俺は『続きを言え』とお前に促せばいいんだな?」
「あのね……いやそれより火急の問題としてだが」
「おう。下級の問題とは限定的だな」

「もうツッコまないよキョン」
「当たり前だ。ツッコむのは俺の方だからな。無論」
「続きを言ったら友誼を切るよ?」
「続きを言うなら友誼が切られても構わないレベルの暴挙に及べ、という前振りだな」

「……キョン」
「なんだ」
「……………テーブルの下でだね。僕の、その、下半身を足先で触れ回るのは止めてくれないか」

「…………手で触れろとは積極的だな」
「言ってないよ! ただ勘弁してくれと言っているだけだ!」
「嫌よ嫌よも」
「好きの内じゃない!」
「流れるようなツッコミに感謝するぞ親友」
「ああ、親友。……ってそうじゃないだろキョン!」

「すまんな佐々木。どうも先日、周防九曜の奴から貰った妙な飴玉が原因らしい」
「なんだって? そうか道理で」
「とか言ったら信じてくれるか?」
「怒るよ?」

「「………………………………」」
「……キョン。確かに、キミに対し僕がかつて本能がどうとかDNAや遺伝子がどうのとか種をつなぐとか年齢的に問題ある発言が」

「……って無言で僕の尻を触らないでくれないか」
「俺は撫でているんだ親友」

「……思うに思春期の青少年にだ、かように性的な話題を振り続けた僕にも責任がないとは言わない。しかしキミは一切そうした」

「……キョン、かと言って太ももに移行せよと言ったつもりもない」
「ならしょうがない。ほれ、俺の膝の上に乗れ佐々木」
「わ、何がしょうがないのか知らないが、乗せておいてから言う台詞じゃないよね?」

「お前軽いな、ちゃんと飯食べてるか?」
「なんだいそのテンプレ台詞。キミには似合わない事この上ないよ?」
「安心しろ。軽いが膝の上の感触は肉感があって実に良いぞ」
「く、ふ、もしや褒めているつもりかい?」
「軽くて肉感がある、つまりだ」
「何がつまりか知らないが撫でるから揉みこむに動作変更しているのはわざとかい? そろそろ怒るよ?」
「違うな佐々木。俺は今まさに怒られているんだ」

「なあ佐々木、そんなにクエスチョンマークばかり付けて疲れないか?」
「なら減らす努力をしてくれたまえ。例えば僕をキミの膝の上から降ろすとか色々やりようがあるだろう?」
「いやな。せっかくこの体勢だから『あててんのよ?』ってやってみたいんだ。男として」
「……僕は何も感じてない。何も触れてない。感じてないぞ」
「不感症か?」
「不干渉にしてくれ」

「なあ、全く無関係な話だが、この間の騒ぎで『キョンの望みであるなら、なんでも聞くつもりでいるよ』とか言ってなかったか」
「そうだね。実に無関係な話だが、これなら九曜さんの精神分析にでもチャレンジする方がよほど容易だと思えるよ」
「精神分析か。もしかしたらこいつも精神病の一種かもしれんな」
「キリッとしながら人のパンツの中をさぐらないでくれ」

「佐々木、このままじゃパンツの中まで濡れ鼠だ」
「キリッとした顔で何を言うんだキミは」

「佐々木、息、荒いぞ」
「本能の、いやいわゆる生理的現象だよキョン」
「それ以上でもそれ以下でもないのか」
「先に言わないでくれ」

「キョン、以前も言ったが僕は気の長い方だ。そして最後に怒ったのは丁度二年ほど前、ひゃっぅ……!」
「らしくないな佐々木。確かに多少は性的な行動を思わせるが、そうした発想は思春期の男女関係を何でも色恋沙汰にあてはめたがる連中と同じなんじゃないのか」
「今まさに人を背中側から抱きしめ、耳元で囁いている人間の言う事じゃないのは確かだよキョン」
「すまんな。どうも調子がおかしいらしい」

「調子を整える為にもだ。親友として一肌脱いではくれんか?」
「敢えて却下する。むしろキミが脱いで欲しいのは肌ではなく、ああ、そうかキョン」
「なんだ。最後まで言ってくれ佐々木」
「キミ、言わせたいだけだろ?」

「何のことだか知らんが、俺はただ、お前の内面世界とやらを感じさせてもらいたいだけだ」
「それはオックスフォードホワイトとかそっちの話とは別の話だよね?」
「佐々木、人体は脅威の小宇宙って言うよな?」
「なんでその話をここで振るんだい?」

「別に深い意味はないぞ。俺には未体験の領域だからな、観測行為によって俺にとっての価値基準を確定させておきたいだけだ」
「キミ、小難しく言えば僕が首を縦に振るとか思ってないかい?」
「お前がそれを言うのか佐々木」

「……キョン。実際僕は動揺しているんだ。僕は、うなじに当人の許可なく舌を這わせるような犯罪者を親友に持ったつもりはないからね」
「親告罪である以上、お前が俺を訴えるという宣言だと解釈するぞ」
「これ以上の暴挙に及ぶなら、そうさざるを得ないな」
「なら何故そうしないんだ佐々木」
「僕とキミの肉体的体格的差異を鑑みれば策もなく暴れたところで事態が好転するとは思えないからね。隙をうかがっているつもりだった。だが、こうなってん、んふ……」

「…………確かに、お前には叫ぶという選択肢が残されているな。だが俺にも塞ぐという選択肢がある」
「………………………バカなんじゃないのかキミは」
「解ってくれないならもう一度やるぞ?」
「………ノーコメントだ」

「なあ佐々木」
「くぅ、なんだい遂に人の胸を揉み始めたキョン」
「お前、昔言ってたじゃないか。胸の事で『岡本さんみたいならまだしもさ』って。けど実際悪くないぞ。むしろ感動的な感触だ。いやお前以外のは知らんから比較しようがないが」
「ふ、ぅん、そうなのか……じゃなかったあの頃のキミはもうどこにも居ないんだねキョン」
「じゃあ俺は何なんだ」
「何なんだよ!」

「すまん。実は橘京子の奴に貰った飴玉が原因らしい」
「やっぱりそうか。橘さんめ今度会ったら」

「って言ったら信じてくれるか?」
「何なんだい!」
)終わり

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最終更新:2012年09月08日 03:38
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