69-279「佐々木さんのキョンな日常 朝倉涼子の戸惑い~ヒトメボレα」

 「遅かったわね・・・・・・あれ、それは何?」
 「カレ―。キョン君の家でもらったの」
 長門さんは嬉しそうに答える。
 最近では、週に一度はキョン君の家に、長門さんは寄り道している。長門さんが拾って、キョン君が飼っている
三毛猫・シャミセンの様子を見に行っているのだ。
 最もそれだけでなく、一緒に勉強したり、学園祭に向けた準備をしているようだけど、夏休みの終わり頃から二人
の距離は縮まっているように感じる。
 長門さんが書いた恋愛小説。あれは長門さんとキョン君の物語。
 長門さんの話によれば、キョン君は中学時代の長門さんとの出会いを忘れてはいなかった。
 それは長門さんの願い。七夕の日に星に願った事。

 キョン君と最も親密なのは誰が見ても佐々木さんだ。あの二人の間には誰も入り込めないような気がする。
 長門さんだって、そのことは解っている。だけど、彼女はキョン君のことが好きなんだろう。
 自分が好きな人が、自分を好きになってくれる。
 言葉にすれば簡単なことだけど、一番難しいことだ。恋愛は理屈じゃない。

 学園祭で文芸部が出す文芸部誌のサンプルが今日出来たので、最終確認を行う。
 最初は文芸部部員だけで執筆するつもりだったのが、何故かSOS団の団員達や喜緑先輩までもが執筆者に加わり、
文芸部誌は結構充実した内容になった。手前味噌になるけど、かなり読みごたえがある、面白いものになっている。
新生文芸部が生み出す第一弾としてはいいものだと思う。

 ”そういえば、喜緑先輩も生徒会長と付き合っているんだったけ”
 切れ者の少し鋭い感じのする生徒会長。温和な喜緑先輩と合うのかなと思っていたけど、うまくやっているようだ。
 あの生徒会長が喜緑先輩とデ-トしている姿なんて、あんまり想像できないけど。

 キョン君や佐々木さん、あるいは長門さんや喜緑先輩、それに国木田くんや古泉君立ちを見ていると、私も少し羨ましい気分になる。
 恋愛がすべていい形になるとは限らない。思いが届かない、実らない恋もあるだろう。
 それでも、誰かを好きになる、その思いは私には輝いて見える。

 ”誰かいい人いないかな”
 思わず心の中でそう呟いた。


 同時刻 キョンの家。

 「キョン君、電話だよー」
 妹が大きな声で俺を呼ぶ。
 「電話?誰からだ?」
 少なくとも、この言葉を発したとき、俺の頭の中から最低十人は除外されていた。何か用事があれば携帯にかけてくるからだ。
 「ナカガワさんとか言っているよ」
 ナカガワ?ナカガワ・・・ナカガワ・・・・・・
 何度か繰り返し、俺はようやく該当する名前にたどり着いた。
 「中河か」
 しかし、なんであいつが?奴は佐々木と同じく、中学三年の時一緒のクラスだったが、そんなに親しかったわけじゃない。
 ガタイが良くてラグビーか何かやっていたはずだが、そいつが何の用事だ?
 首をかしげながら、俺は部屋を出て電話の所へ向かった。


 「おお、キョンか。俺は一日千秋の思いでお前が電話に出てくれるのを待っていた」
 電話口で、いきなり大げさな元クラスメートの声を聞き、俺は一瞬電話をこのまま切ろうかと思ったが、とりあ
えず、会話を続けることにした。
 「突然の電話でお前も驚いていると思うが、しかし、俺は今藁にもすがる思いなのだ。頼む、キョン。お前を男
と見込んで頼みたい事がある」
 まあ、だいたいそんなことだろうとは思っていた。大して話したこともない奴がいきなり電話をよこすのは、何
か下心があって頼み事をするためであるという可能性が高いのだ。
 しかし、俺に頼みごととは何だろうか?

 「実はだ、キョン。俺には好きな人ができたのだ」
 ほう、それはいいことじゃないか。で、どんな子なんだ?
 「それがよくわからん。まだ喋ったことがない。実を言うと名前も知らない。しかし、北高の生徒であることは
わかっているんだ」
 かなり漠然としているな。北高の生徒だと言っても結構いるぞ。
 「お前の言うとおりだ。その子を見かけたのは春先のことだったんだ。高校に入学して少し時間が経っていたん
だが、ある日北高の制服を着た彼女に出会ってな、俺は一目惚れをしてしまったんだ」
 一目惚れか。話には聞くが、それを体験した人物を知るのは初めてだ。
 「俺もどちらかといえば、一目惚れなどありえんと考えていたんだが、自分がそうなって考え方を変えた。人間、
何事も経験だ」
 しかし、相手のことが解らなければ、その気持ちを伝えようがあるまい。
 「お前の言うとおりだ。その後何度か見かけたんだが、声をかけられるタイミングがなくてな。ところが、ついこの間、
彼女がお前といるところを見かけてな、お前の佐々木と国木田もその場にいたのだが、俺は迷った挙句、お前に電話をす
ることを決めたんだ」
 なるほどな。ところで中河、『お前の佐々木』とはどういう発言だ。
 「隠さなくてもいい。お前たち二人の仲はもはや公認のものだろう。それより、俺の話を聞いてくれ。かなりお前は彼
女と親しげに話を話をしていたようだったのでな。お前なら大丈夫と思ったのだ」
 俺たちを見かけたのはいつのことだ。
 「つい二日前ほどだ。駅の近くだった」

 その日は学園祭に必要な物を買いに行った日だ。
 あの日は文芸部の部員たちと喜緑さん、それに鶴屋さんも一緒に買い物に行ったのだ。
 中河が一目惚れしたのは、佐々木を除いた残り4人の誰かだ。
 一体誰だろう?何か特徴があるのかね。

 「まずかなりの美人だった」
 それだけではわからん。佐々木も含めて皆美人ぞろいだからな。
 「いつも微笑んでいるような雰囲気を持っていた。そして髪が長い」
 この時点で長門と喜緑さんが除外された。二人ともそんなに長く伸ばしていない。特に長門はショ-トカットだし、それがよく似合う。
 「あと、眉毛がけっこう太かった。変に細くしていなくて、ナチュラルな感じが実に良かった」

 「朝倉か」
 我がクラスの委員長にして長門の親友、朝倉涼子だった。
 谷口があいつの独自ランキングでかなり高評価をつけていたが、成程中河も目が高い。
 「朝倉さんというのか。そうか、ありがとうキョン。ついでにフルネ-ムを教えてくれないか」
 朝倉涼子だ。字面はわかるか?
 「ん、なるほど・・・・・・なんて素晴らしい名前だ。あらためてお礼を言う。それとキョン。もうひとつ頼みたいことがある。こっちの
方が重要なのだ。心苦しいが是非に頼む」
 電話の向こうで頭を下げまくっている中河の姿が想像できた。

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最終更新:2013年03月03日 02:39
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