古泉は俺の友人だが、あいつは一年九組にいる。確か、クラスの出し物の喫茶店の準備で忙しいと思うんだが。
「ありがとうございます。私は橘京子と言います」
古泉の友達か?
「ええ・・・・・・昔からの知り合いです」
橘と名乗った女生徒のその言葉に、何故か俺は少しだけ引っ掛かるものを感じた。
「でも良かった。一・・・古泉さんにあなたのような友人が出来ていたなんて」
「それじゃ、失礼します」
橘は俺たちに頭を下げると、一年九組の教室へ向かった。
「彼女は、古泉君のただの知り合いじゃなさそうだね」
佐々木の言葉に俺は首肯する。
橘が言いかけた言葉、あれはおそらく「一樹さん」だ。下の名前で古泉を呼ぶのは、橘がかなり古泉と近い関係
にあるということだ。
正直に言えば、俺は古泉の友人だと名乗ったが、古泉自身のことを良くは知らない。あいつと顔を合わせるのは
学校とSOS団の活動中くらいなのだ。あいつの自宅の住所は教えてもらったのだが、未だお邪魔したことはない。
あいつの爽やかスマイルの下には、何か秘密があるのだろうか?
”僕は涼宮さんのことが好きなんですよ”
春先に古泉から聞いた言葉。あの時の古泉の表情は真剣なものだった。嘘偽りがない、あいつの本心。
「まあ、後から古泉を捕まえて問いただしてやるさ。それより、佐々木。次の所へ行こうぜ」
俺は佐々木を促し、長門の教室へ向かった。
「いらっしゃい、キョン君、佐々木さん」
長門たちのクラスの出し物は、なんと占いだった。それで、長門も魔女っ子みたいな格好をしているのか。中々
に合っているな、その格好。
そう言われて、長門は照れたのか、恥ずかしそうに下を向く。
しかし、素人が占いをどうやるのかね。
そう思っていると、実は占いをやるのはパソコンにインストールされた占いソフトだそうである。
朝倉と長門の両親の会社、統合CーNETが近々配布する予定のパソコン、スマートフォン向けの占いアプリを、学
園祭向けに特別に貸し出してくれたそうである。
鶴屋さんと言い、長門たちと言い、何か羨ましい話ではある。
「ここは定番だが、君と僕との相性占いをやってみようか」
なにを占ってもらおうかと考えたとき、佐々木がそう言った。
「それじゃ、まず二人のフルネ-ムと生年月日、血液型、それに出会った日と一緒にいる時間を入力してください」
長門に言われるまま、俺達はそのデータをパソコンに打ち込む。しかし、初めて出会った日なんて、よく覚えて
いたな、佐々木。
他にも、細々としたデータを打ち込む。何か尋問されている気分になるのだが、個人情報保護は大丈夫なんだろう
な、このソフト。
「それでは診断開始」
ENTERを押すと、画面が切り替わり、流れるようなCGが表示される。占い結果が出るまでのつなぎである。
『おふたりの相性は99・9%。まさに理想の組み合わせです。お互いを大切に思う心があなたたちを強く結びつけ
ています。その絆を大事にしてください』
電子合成音声が告げる結果に、教室がどよめいた。
「すごい・・・・・・99・9%なんて数字、初めて見た」
「今まで64%が最高だったのに」
占いソフトが叩き出した数値に、一年三組の生徒たちから、驚きの声が上がった。
そうなのか、長門?
「うん。会社のモニター調査でも最高数値は72%だったの。本当にすごい・・・・・・」
「君と僕との相性の良さが証明されたことになるのかな?」
まあ、このソフトが証明しなくても、お前との相性はかなりいいと俺は思っていたんだが。
・・・・・・ん、どうした、佐々木。何で黙っているんだ?
「・・・・・・キョン、君は時々大胆なことを平気で口にするね」
佐々木の顔が少し赤くなっていた。
「しかし、これだけ高い数値というのも、かえって気になるね。少し出来すぎなような気もする」
99.9%の数値だからな。バグったわけではないと思うが。
「キョン、ちょっと他の人と試してみようよ」
俺は構わんが、誰と試すんだ?
「私でよかったら・・・・・・」
そう言ったのは何と長門だった。
いいのか、長門?
「うん。ちょっと興味あるから・・・・・・実を言うと、私も朝倉さんもこれ、使ったことがなくて」
そうなのか。ああ、でも、朝倉はそのうち使うかもしれんな。昨日、俺は中河から連絡をもらっていた。
成り行きで、今度は長門がデータを打ち込む。俺のデ-タは先ほど入れたデ-タに少し追加するだけでよく、
すぐに終わる。それにしても、佐々木もだが長門も俺と出会った図書館の日の日時を覚えていた。女は男よ
りも記憶力がいいのかね。
「それでは診断を開始します」
再びENTERが押される。そしてCG画面。結果が表示される。
『お二人の相性は90・5%。とても良い感じです。これから先、ともに過ごす時間が増えるにつれ、二人の
仲は進展していくでしょう。共に支え合い、お互いの力になれるいい関係です」
・・・・・・こういう場合、正直どんな反応をして良いのかわからん。
「思った通りだよ、キョン。このソフトはかなり高性能だよ」
佐々木が面白いというように、クックックと笑った。
長門は下を向いていた。
「このソフト、信頼できるね。今の結果を見て、僕は確信した。長門さん、これは絶対ヒットするよ」
「おじゃましたな。かなり面白かったよ」
長門に礼を言って、俺と佐々木は一年三組の教室を出た。
あのあと、何故か俺と佐々木はデジカメで二人並んで写真を撮られた。
「宣伝に使わせてね」
そう言われたのだが、佐々木はともかく、俺が宣伝になるのかね。
教室を出たとき、私はキョンを見送る長門さんの表情を見た。とても嬉しそうな表情。間違いなく、彼女は
キョンのことが好きなのだ。涼宮さんも手ごわいけど、どちらかといえば、長門さんの方が強敵かもしれない。
宣戦布告をしたものの、涼宮さんはまだ特に何か具体的な行動をしてきてはいない。まあ、何か企んでいるのは
間違いない。
キョンは優しいけれど、私以外には特に長門さんには優しくしている。キョン自身は自覚はないけど。
ライバルは増えたけど、私は負けるつもりはない。長門さんにも涼宮さんにも。
最終更新:2013年03月03日 02:53