69-17『Days-愛情と日常-』

「君達は、強い絆で結ばれているようで羨ましいよ。」
佐々木はそう言うと、くつくつと笑う。
「絆、ねぇ。」
確かにハルヒとは絆を感じる。しかしな、親友。
「お前との絆も、そう捨てたもんじゃねぇはずだがな。」
俺の言葉に、佐々木は目を丸くし………そしてまた笑った。
「くつくつくつくつ。」
違和感だらけの今。ハルヒの心情告白にしても、長門の協力にしても。
「君は、僕に勘違いさせるのが好きなようだね。」
勘違いであるもんか。
「いいかい?キョン。君は涼宮さんを選んだはずだろう?」
誰もハルヒを選んだなんて、一言も言っていないんだが。
「いい事じゃないか。親友の恋路なんだ。僕も協力する事に吝かでないよ。」
黙れ。
「キョン、今からでも涼宮さんを追い掛けて………………」
「黙れ。」
……………こんなに冷たい声って、出るんだな…………自分で言って、びっくりした。俺は、佐々木に携帯を見せる。
「…………………待ち受けにいるだろ?そいつが、俺の好きな奴だ。ずっと一緒にいたい、と思っている、な。」
フリーズして固まった佐々木。一生隠しとくべき話だったのかも知れんが…………。溢れ出た思いを抑えきれなかった。
「じゃあな、佐々木。」
みっともなくしがみつく趣味はない。どうせ待つのは拒絶だ。
背後に佐々木の泣き声を聞きながら、俺は家路についた。

翌日。晴れない気持ちのまま登校する。
「おはよう、キョン。」
そこには、満面の笑みのハルヒがいた。
「よう。」
浮かない声を上げた俺に、ハルヒは……………
「シャキッとしなさいよ、朝っぱらから!」
「ぐがッ!」
背中に強烈な喝を入れたのであった……………。
部室では、古泉が満面の笑みで迎えてくれた。
「あなたを信じていましたよ。…………久々に8時間睡眠…………。寝具の素晴らしさに涙が出ました。こちら、機関の皆からです。」
………そこにあったのは、色とりどりのお菓子…………。子どもの駄賃かよ!……………長門。食べるのは構わんが、せめて一言位断りを入れろ。
「迂闊。」
そう言いながらも口は止まらない。ああ、もう………食べこぼしやがって。俺はハンカチを取り出し、長門の口を拭いてやる。
「こぉらぁ!このエロキョン!あんた何有希に触ってんのよ!」
突如乱入したハルヒに、俺の手が払われた。
「触ってねぇ!ハルヒ、ならお前が拭けよ!てか、いつの間に来やがった!」
俺の叫びに、ハルヒは…………
「あんたが、有希にハンカチ嗅がせるところからよ!なに?クロロホルムでも嗅がせるつもりだったの?!」
「市販されてねぇだろ、んな物騒なもん!」
暫くハルヒとの口論が続き………朝比奈さんがクスクスと笑い、古泉が微笑み、長門が気持ち微笑む。
「ユニーク。」
………と、まぁ。いつもの団活だったわけだ。

…………この人の登場までは。


「……………お久しぶりね、キョンくん。」
そう。朝比奈さん(大)だ。
「私を快く送り出そうとしてくれているのね。…………ありがとう。そして、涼宮さんの改変を未然に防いでくれて、こちらも重ねてお礼を言わせてもらうわ。」
朝比奈さん(大)は、深々と頭を下げてきた。
「…………また、何かあったんですか?」
その言葉に、朝比奈さん(大)は、冷たく言った。
「……………ええ。重大な案件が。」
自分の胸に聞いてみろ…………そう言わんばかりの冷たい声だ。
「未来は、極めて不安定な状態にあります。……………その理由は、キョンくん。あなたが一番よく知っているでしょう?」
…………恐らく、昨日の件だろう。
「………………何がいけなかったのか、解りかねますね。」
俺は…………朝比奈さんの目を見た。
「ええ。涼宮さんがいるのに、佐々木さんの心を乱した。そのおかげで、パラドックスが発生しているんです。」
「ですので、そこで何故ハルヒですか?」
確かにハルヒは好きだ。しかし、ハルヒを異性として好ましく見ていたわけではない。
考えてみると違和感ばかりなのだ。佐々木を一年間思い出せなかったことも、佐々木の告白を無碍にした事も。
「未来の既定事項。これ自体が、ハルヒの願望…………そういうわけですか?」
「…………答えられないわ。」
朝比奈さんが目を反らす。
「ハルヒを選ばないならば、違う未来が生まれる。藤原を覚えていますか?藤原は違う時空間に飛ばされたそうですが、あいつは何故こっちに来れたんですかね?
つまり、あの時点では、貴女が違う時空間に行く可能性があった。………違いますか?」
「……………………」
違和感の正体。それは……………
「だとしたら、俺はハルヒの為にも、ハルヒを絶対に選べません。
いや…………ハルヒの為じゃない。俺自身の意思の為にも。」
ハルヒが文字通りの絶対的な存在として、ハルヒの思い通りになるような世界。それだ。
ハルヒに真に成長して欲しいと思うならば、ハルヒに教えなければならない。決して思い通りにならない事もある、と。
……………それは理由に過ぎないか。ハルヒの気持ちは嬉しい。しかし、俺は佐々木が好きだ。ハルヒと会う前から、ずっとな。
「………………あなたの意思は、わかりました。」
朝比奈さんは、残念そうに目を閉じた。
「私は私の未来を守らせて貰います。」
朝比奈さんは、そう言うと去っていった。


すみません、朝比奈さん。でも、今の俺がハルヒを選ぶわけにはいかないんです。
…………さて。今からケリつけねぇとな。

光陽園駅前。俺は佐々木を呼び出した。
「……………………」
「……………………」
空は薄闇。青紫色の空がビルの間を染めている。
「知っているかい?キョン。宝石のタンザナイトの名前の由来を。」
口を開いたのは、佐々木からだった。
「…………タンザナイトは割と新しい宝石でね。タンザニアの鉱山で発見された、青いゾイサイトがその由来さ。この夕暮れを切り取ったような、深い青紫色でね。…………僕の宝物なんだ。」
佐々木は、そう言うとペンダントを外した。……………美しい青紫色の、小さい石がついたペンダント…………。皆目見当はつかんが、やはりお高いんだろうな。
「高校の合格祝いに、貯金箱を壊して買ってね。僕の宝物なんだ。石言葉は、誇り高き人、冷静、空想。そんな人に僕は、いつしか恋をしていてね。」
「そうか…………。」
…………間が持たん!佐々木よ、後生だ!振るなら早くしてくれ!
「…………いつか、こんな色の空の下で、君と…………とね。…………どうやら、望みが叶ったようだ。
僕は………友情を愛情に替えるに、吝かでないよ。」
………………ん?さ、佐々木?何故赤い顔を?
「鈍感だな、君は。」
佐々木は、俺に携帯を投げてよこす。
「見たまえ。そして笑うがいいさ。」
言われるままに携帯を見る。そこには…………
「………………………」
……………俺は、佐々木を抱き締めていた。佐々木は、一瞬身を固めたが…やがて俺の背中に手を回してきた。
「……………やっと……………見つけてくれたね。」
前に佐々木が言っていた、ガラスの靴。それは……………
「回りくどいんだよ、バカが……………」
俺に託された、佐々木の想いだった。
「…………僕は………いや、私は………ずっとキョンが好きだった。」
「…………俺もだ。ずっと、お前が好きだった。」
これまでの想いを伝える為に、俺達はきつく抱き合った。

この時………佐々木の目尻から零れた涙は、ずっと忘れない。俺達は人目を憚らず、壊れるほど強く抱き締めて、想いを伝え合った。

……………俺はこの時、考えてもいなかった。
朝比奈さん(大)の、未来を守るための行動は既に始まっているかも知れない。その可能性についてだ。
そして……………………

「…………………………」

物陰から、俺達を見つめる瞳も…………。

俺達は…………気付けなかった…………。

END

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最終更新:2013年03月03日 02:59
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