69-32『BEGINNING』

翌日。昼休み。俺は古泉に昨日の件について言った。佐々木が好きだ、と。古泉は、苦り切った表情だ。
「………………何と言いようも無いですね。僕には何とも……………。」
閉鎖空間にしても、現在は観測されていないらしい。昨日も実に穏やかな夜を過ごしたという。
「異性としての好意でない、『好き』ですか………………。」
友人として、ハルヒは大好きだ。我が儘で我が儘で、どうしようもないヤツだが、目を離せない。
ただ。異性として一緒にいたい。そう思ったのは佐々木だ。
「………………ハルヒが俺をどう思っているか。目を反らし続けたからな。………………最悪、世界崩壊か。」
古泉。こんな危険人物、ハルヒの側に置いていていいのか?
「……………機関の人間としては、正直、排除したいですよ。
…………しかし、僕はSOS団の副団長。………僕にしても、涼宮さんの成長に期待したいところです。SOS団は、団長に鋼の忠誠を誓っていますからね。」
すまんな、不忠者で。古泉は、俺を見ると下手くそなウィンクで応えた。
「いえ。貴方が一番の忠義者ですよ。自分の感情すら捧げるような人間を、僕は友人に持った覚えはありません。
…………それは涼宮さんへの最大の侮辱ですからね。」
……………すまん。
「僕個人は祝福しますよ。…………おめでとう、キョンくん。」
「……………むっちゃ違和感あるな、そのセリフ……………」
全身にサブイボが立つ。
「ふふ。貴方が一番に相談して下さったのが僕だという事が、嬉しくて。
……………となると、心配なのは未来からの干渉ですね。」
古泉は、表情を引き締めた。
「情報統合思念体は、恐らく中立でしょう。機関としては貴方に対立はするでしょうが、こちらはお任せ下さい。何とかします。
…………未来は、恐らく貴方に刃を向けますよ。
佐々木さんへ向けられた刃は、橘さんが何とかされるでしょうが。」
古泉は、そう言った。
「貴方に、というよりは、我々に、ですか。…………………貴方の気持ちを変えようとしたり、佐々木さんへの実力行使に出たり。こうなった以上は、長門さんの協力を仰ぎたいところですね。」
長門か…………。困った時はあいつに頼りっきりだな…………。
話していると、後ろに気配を感じた。
「………………………」
長門である。
「事情は把握している。私という個体は………………」
……………俺も古泉も、自分達が、如何に甘く事態を捉えていたか。それを思い知らされる一言を、長門は口にした。


「この件に関し、独自の行動を取る事を選択した。」

「な、長門!」
「何故です、長門さん!」
長門の瞳は、強い意思を秘めている。
「昨日、貴方が佐々木○○と抱き合う所を目撃した。そこから発生したエラーは、エンドレスエイト以上の情報量を持って、私という個体のメモリ空間に蓄積された。」
長門が手を上げる。
「長門さん!駄目です!」
異変を察した古泉が、長門に飛び付く。
「邪魔。」
「ぐあっ!」
しかし、呆気なく古泉は長門に吹き飛ばされた。
「………………」
長門の口が、素早く動く。か、身体が…………。意識まで奪うつもりかよ……………!

「わた…………………………あ………………る………………」

意識が途切れかけた俺が見たのは…………………
長門の決意を秘めた目から流れる涙だった。

END

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最終更新:2013年03月03日 03:07
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