69-78『Made of tears』2

「渡橋。」
渡橋泰水。SOS団に入団するはずだった女の子。ハルヒの無意識が具現化した存在だ。
「キョン先輩、お久し振りです!」
何故、こいつが?いや、この計ったようなタイミング。そう。まるで、ハルヒが既に気付いているような。俺の背筋に、冷たいものが走った。
下品だが、ケツの穴にツララをぶちこまれたような感覚。それだ。
動揺を抑えながら、いや、抑えているつもりなのだろうか。俺は渡橋を見た。渡橋は、俺を小首を傾げながら見る。
「キョン先輩、大丈夫ですかぁ?顔色が良くないですよ?」
ハルヒの無意識の具現化した存在。という事は。洞察力もハルヒ並だという事だ。
最悪の事態。そう考えたが、事態はより悪い方向に進んでいる。そう認識せざるを得なかった。

携帯電話から、着信音が響く。

この着信音は、佐々木だ。
何だろう。この気まずさ。出ないのも不信に思われるだろうし、俺は電話を取る。
「もしもし。」
『キョン!無事だったんだね?』
電話口から、佐々木の本当に安堵した、という声が響く。
「ああ。すまんな。」
渡橋から離れてはいるが、いつ渡橋が不信に思うかは分からない。そして渡橋に知られるわけにはいかない。
『キョン。僕は……』
この時、俺は佐々木の言葉を聞き逃していた。渡橋に意識が行っていたからなのだが。
『誰かいるのかい?』
佐々木も鋭い奴だ。違和感を感じたのか、すぐに俺が意識を別に向けていると気付いたらしい。
「ああ。渡橋がいる。」
『渡橋、というと、涼宮さんの関連の子か。』
電話口の佐々木の声が、不機嫌なものになる。
『キョン。僕は君の彼女だよな?』
「ああ。」
昔から大好きだった、俺の自慢の彼女だ。
『頼む。後生だから、不安にさせないでくれ。さっきも言ったように僕は怖い。怖くて仕方ないんだ。』
「大丈夫だ。」
長門ですらお前を信頼しているんだ。俺はお前を信じているんだぜ、佐々木。
佐々木は暫く無言だったが、やがて決意したように口を開く。
『キョン。ひとつ頼みがあるんだが。』
「何だ?」
そこからの佐々木の言葉は、まさに仰天であった。俺がそういう事を言えるキャラクターじゃない、とお前が一番知っているだろう!

『僕の事を、好きだと言って。』


「出来るか!」
公衆の面前での羞恥プレイなんてお断りだ!
佐々木は、少しの間を置くと
『なら、いい。すまない。』
そう言い、電話を切った。……な、何だってんだ、畜生。
「キョン先輩、誰とお話ししてたんですか?」
「ああ。佐々木だ。」
隠してもバレる。ならば、隠さない。寧ろ後ろ暗い事なんて何もないんだ。
「佐々木さん?電話の様子から、てっきり涼宮先輩かと思ってました。」
渡橋は、ニコニコと笑う。……ダメだ。確実に疑念を持たれている。
今頃、世界が書き換えられているのではないか、という疑念すら浮かぶ。
逆転の一手を考えるが、何も浮かばない。
「ね、キョン先輩。私じゃ力になれませんか?」
渡橋の言葉に、俺は渡橋を向いた。

この時、俺は何もわかっていなかったんだ。佐々木の不安も、ハルヒが渡橋を再び作り出した理由も。

「ああ。俺は、佐々木と付き合っているからな。」
最早、手はない。そう考えた事が、間違いだった。

渡橋は、驚いた顔をしている。
「涼宮先輩、びっくりしますよ。」
「……………言うなよ。」

後で考えれば。俺はこうする前に頼るべきだったんだ。朝比奈さんを。長門を。古泉を。SOS団の仲間を。そして。何より信じるべきだったんだ。

ハルヒを。SOS団の皆を。

『どんな形であろうが、ハルヒの側にいる。』
そう言った、自分と。

『あんたは、あたしの前から居なくなったりしないよね。』
そう聞いた、ハルヒの思いも。

俺は、信じるべきだったんだ…………。

To Be Continued 『Made of Tears』3

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最終更新:2013年03月03日 03:21
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