69-91『Made of Tears』4

翌日。晴れない気持ちのまま、私は学校に向かった。
「佐々木さーん!おはよーございますー!」
「おはよう、橘さん。」
あの騒動が終わっても、橘さんは私の側にいてくれている。今では、私の大切な友人……同性では初めての親友だ。
「暗いですよ?せっかくキョンさんと想いを通じ合わせたんですし、笑顔でいないと。」
「そうありたいんだけどね。」
色々考えすぎて、疲れが酷い。この件に関して、私は自分で解決しなくてはならない。
こんな弱い私を、キョンに見せたくはない。嫌われてしまう。
無理に取り繕う、自分のペルソナ。私は、自分が思うような器用な人間でないらしい。思いが深く、そして我が儘だ。
事態が動かなければいい。涼宮さんにバレずに、付き合っていけたらいい。如何に甘い考えか、良くわかっているんだけど。

「ふくくっ……久しぶりだな、佐々木。橘。」
「――――再――会――――」

放課後、もう会えないとばかり思っていた二人が訪ねて来た時。悟らざるを得なかった。

「最悪の事態だ。」

私はそう言うと……机に突っ伏した。
「僕は、未来人とは会いたくなかったよ。」
自分が能動的に動き、何れかの未来を消し去った結果。それが藤原の存在になる。
「随分な物言いだ。暫く会わないうちに、随分傲慢になったな。」
傷付いた、と大仰に手を広げる藤原くん。
「傲慢ではないさ。本心だよ。」
「……本気で傷付くから、やめてくれ。」
藤原くんが溜め息をつく。彼はキョンとは会わせられないね。
「――私――――は?」
九曜さんが小首を傾げる。
「また会えて嬉しいよ、九曜さん。」
「――。」
気のせいか、九曜さんは微笑んで見えた。
「佐々木団の集合ですね!やっぱり初夢は叶うものなのです!」
橘さんは、無邪気に胸を張る。いや、事態は深刻なんだよ。浮かれている場合じゃない。
ここに集合した、佐々木団。つまりは……最悪、あの騒動の焼き直しになる。
藤原くんが、未来を変えようとし、九曜さんが、長門さんとキョンを殺害しようとする。
「(最悪だ。)」
今日何度目かともつかないため息。
こんな辛い思いをする位なら、いっそ……
そこまで考えて、私は首を振った。


「よう。」
「…………はよ。」
ハルヒは、一応、挨拶はしてくれるようだ。ダウナーな不機嫌オーラは、相変わらずだがな。
「あんたさ、佐々木さんと付き合ってんだ?」
……い、いきなり確信かよ!まぁ、渡橋がいたんだ。ハルヒが全てを知っていても可笑しくはないか。
「ああ。まぁな。」
ハルヒは、目を少し上げ……
「団員同士の恋愛は確かに禁じたけど、団員外は盲点だったわ。良かったじゃない。あんたに勿体ない位の、可愛い彼女が出来て。」
と言うと、机に突っ伏した。こ、これは、認めてくれるのか?
「あんたの選択肢は二つ。今すぐ私の前から消えるか、SOS団から出ていって。」
「前者は却下だな。勝手に席を移ると、岡部がうるさい。
後者も却下だ。俺は団員その一。その他の団員と同じく、団長に鋼の忠誠を誓っているものでな。」
俺の大真面目な答えに、ハルヒは薄く睨み付けてきた。
「うっさい。黙れ。話しかけんな。」
その声に、嬉しそうな響きがあった事に、俺は少し救われた。
「やれやれ。」
程なく授業が始まり、昼休み。俺は古泉と落ち合い、今後と、奴が語りたいであろう森さんとの自慢話を聞くべく、文芸部室へ向かった。
焦っても、どうせハルヒは想像を越えて来る。そう理解したくなくても、理解しちまっている。悲しいかなそれが現実だ。変に動き回り、うかつにハルヒを刺激するほうが、よっぽど怖い。
佐々木なら、大丈夫だ。これまでがそうであったように、あいつは俺なんかより遥かに理知的だ。
俺は、俺のやる事をやればいい。佐々木を信じる。それが俺の佐々木に対する……気恥ずかしいが、愛だ。

「前日、森さんが僕のために泣いてくれましてね。」
弁当をつつきながら、古泉は嬉しそうに話す。
「何故、自分に教えてくれなかったのか。私はそんなに信用ならないのか……まぁ、そんなものでしたが、僕は嬉しかったんですよ。」
「こさじ一杯の幸せか。」
俺の皮肉に、古泉は満面の笑みを浮かべる。
「ええ。多くは望みませんよ。僕は幸せの分量は割と少なくて良いみたいですから。
今は、上司と部下。それでいいんです。」
「欲のない事だ。」
「ふふ。僕は幸せだから、いいんですよ。」

放課後。ハルヒの機嫌は朝ほど悪くなかった。まぁ……嵐の前の静けさだったわけだが。

佐々木と会う為に待ち合わせた、駅前。そこに現れた顔ぶれを見て。やはり嵐は確実に来る。そう実感せざるを得なかった。

END

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最終更新:2013年03月03日 03:31
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