69-99「目線」

「ムカつくな」

いく場かの会話の途切れに隣に歩く親友と呼んでいた女性が立ち止まり睨め上げる様に見つめてくる。
その顔は拗ねているのかルージュの塗られた艶やかな唇が尖るっている。
俺がつい笑ってしまった。
大学に入学して2年なり成人式を迎えると言うのに中学を彷彿する幼い表情だったからさ。

「その余裕を含んだ笑顔にも腹が立つ、僕が何に怒ってるかわかるかい?」

いいやさっぱりだ。俺が知るのは一人称を『私』に改め、余裕を無くすと『僕』になるくらいだな。
まだその中二病の設定が治らないんだな。俺はまた笑みを浮かべただろう。

「それ言わないで、黒歴史なんだから!。それに論点をずらした、私の話聞いてる?」

ああ、聞いてるよ。お前の話を聞き逃す分けないだろ
俺の可愛い元親友の現彼女の言葉だからだ。
サークルの飲み会で口説きのくる輩が多くて目を離せないし防御する俺の身にもなってくれ。

「それは大いに痛み入る。アルコールで気が大らかになって失敗するのも反省している。それとこれは違うの」

正面に立った佐々木は俺を見るというより視界のまま真っ直ぐ見据えていた。

「中学の時の身長はあなたの唇が見えていたわ。今じゃ胸しか見えない。温かくて広い大好きな胸だけ」

そっと俺の胸に手を添える。少し寂しげに俯く。

「背が高くなって遠くを見渡せるあなたにムカつく。大人に成って置いて行いかれる気がして私は寂しい。
 こんなネガティブ思考の私より相応しい人がいるに違いないと思うと悲しい」

悲しげに震える佐々木。

とても……

とても愛おしい。


それは俺だって同じだから。
頭が良くて綺麗で、分け隔てなく接する恋人は人気が有って隙あらば狙ってくる男共の多い事か。
必死になって追いつこうとして心の負担になってなんて知らなかった。
見下ろした佐々木の頭を撫でる。

お前がそんなふうに感じてるなんて知らなかった。俺はただ横に並べる様に頑張ってるだけなんだけどな。
今もまだ追いつけて無いって思ってんだけど。

顔を上げた佐々木はさも以外といった表情で見つめてくる。
そんな顔すんなよ、俺だってガキのままさ。
大好きだ。愛してるよ。

そう言って抱きしめてやると俺にしがみ付いて胸に顔を埋めてきた。

おわり

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最終更新:2013年03月03日 03:35
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