69-171『ダブルデート』

「キョンくーん。お茶ー。」
「お、サンキュ。」
冬の寒空の中、俺は工具を片手にバイクを弄っていた。
大学生になり、少し距離があるだけに、日常の足がないと不便になってしまい、親戚がくれたバイク。
佐々木から、トム・クルーズが映画で乗っていたバイクだと教わったが、とにかくこいつは手がかかる。
詳しく言うとキリがないが、やはり30年近く前のバイクだからな。手を入れてやらねぇと。
「明日楽しみだねー。」
「そうだな。」
明日は、佐々木、妹、藤原で、温泉へツーリングだ。ん?何で藤原かって?妹が聞きつけて、付いてきたいと駄々をこねたからだ。
同じくバイクを持つ古泉からは、彼女に悪いからと断られ、谷口からは、国木田達と釣りに行くからという理由で断られた。今度、俺も誘え。
ハルヒ、朝比奈さん、長門、橘は、論外。レンタカー借りる金なんてない。
それに、レンタカーを借りるとなれば妹がミヨキチを連れてくる可能性が出る。そうなると、流石にミヨキチのご両親も、異性とのお出掛けは、良い顔はしないだろう。

で、消去法として浮かんだのが、藤原だったわけだ。断ってくれてよかったんだがな!

「ふくくっ……!構わんぞ。バイクだな?ああ。構わん。」

……後で考えると、誘い方が悪かったんだろうな。
古泉から聞いたが、どうもあいつは友達が少ないらしく、友達(俺)からツーリングに誘われたと心底浮かれていたそうだ。
矢鱈に友達という部分を強調していたようだが……。谷口でも紹介してやるか。あいつは誰とでも仲良くなれる、稀有な奴だからな。
ああ、言っておくけどな。俺は藤原を嫌っているわけじゃねぇぜ?ただ、親友のカテゴリーには入っていないが。
そのカテゴリーは、今は、SOS団員と国木田、谷口だけだ。
ん?佐々木?元親友。接いでいえば、俺の右薬指を見てくれ。元親友と揃いのシルバーリングがあるな?
分かって戴けたら幸いだ。


翌日。佐々木が俺の家に到着する。
「待たせたね。」
「構わんさ。」
荷物をサイドに括り、リュックを背負う。女性の荷物は多いものだが、そこは佐々木。最小限に効率的に纏めている。
少し待って藤原。だが。
「待たせたか?」
「…………」
「…………」
えーと、すまん。俺も佐々木もバンドマン……ヘヴィメタさんとの知り合いは居ないんだが?
佐々木すら絶句してやがる。もはやツッコミ所が有りすぎて、どこから突っ込んだらいいのか困り果てている状態だ。
まず、革ツナギの上下はいい。だがな、藤原。何故下がTシャツ1枚なんだ?
しかもモーターヘッドのTシャツ。あれか?レミー・キルミスターに影響されたのか?第一お前、ベースなんて弾けるのか?朝比奈さん譲りの破滅的な音感無しだろ?
しかもバイクがハーレーって何だよ。お前普段は250のビッグスクーターだろ?あれでいいんだよ。(この間、10秒)

ハードすぎるイメージなんだが、何かい?ゲイ路線を目指しているのかい?
なら、LA風に白いTシャツに……いやいや、そうか。キミは細過ぎる。
何なんだい?その僕に勝らぬとも劣らぬ細身の身体は。(この間0.1秒)
国木田くんもそうなんだが、キミ達は何でそんなに細いんだ?
巷では僕のスタイルが良いなんて寝言を散見するが、あれは下着の補正と地味な筋トレ、そして配色の成果なのだよ。実際、涼宮さんに比較したら僕のスタイルなど悲しいものだ。
嘘だと思うなら僕の全てを知るキョンに聞いてみたまえ。彼は僕のスタイルについて、こう言うぞ。
『佐々木は、案外肉あるぞ』と。(この間0.1秒。そして情事を思い出し、2秒程思考停止)
はっ!いかんいかん。そうだったね。そう。そっちの路線に行きたいなら、古泉くんに倣えばいいんじゃないかな?
彼は意外に良い身体らしい。え?何で知ってるか?彼の彼女は僕の親友だよ?勿論そんなの猥談で話し合っているさ。(この間0.2秒)
僕は彼がどんな格好で橘さんを啼かせているか、全部知っているよ。
ああ、因みに彼は後ろのほうが好みらしい。キョンが掘られていないか心配だったから、キョンの後ろに指を三本程入れたら殴られ、処女宣言をされたので、杞憂に過ぎなかったがね。(情事を思い出し、6秒程思考停止)
え?僕のイメージにない?いやいや。女の子に幻想を持つのは勝手だが、現実見た時のダメージは倍増だから、そんな幻想さっさと捨てたまえ。(この間、0.1秒)


「お前、それはないわ~…………」
「そうだね。僕とした事が詰まらない事を考えていた。」
…………はい?おーい、佐々木?お前、何言ってんだ?
「無論ナニに決まっている。キョン。このままじゃ藤原くんに存在を食われるからね。」
「はい?」
「だから、さっきのモノローグにブラックユーモアをちりばめておいた。くっくっくっくっ。一応は僕を愛でるスレで、僕が主役だからね。軒先を貸して母屋を乗っ取られても敵わない。」
悪い笑いを見せ、佐々木が笑う……。たまにこいつは理解不能だ。
「たまには、こうしたブラックユーモアで存在感を出すのもありだろう。」
ねーよ。そりゃブラックユーモアじゃなくて、メタなだけだ。

「あ、藤原くんだー!」
「やあ。おはよう。」
何故にそんなエエ笑顔なんだ?藤原。
「その格好………」
頼むぞ、我が妹。hydeみたいとでも言ってやってくれ。
「佐々木さんがこの前、キョンくんと見ていたDVDの人みたい!」
満面の笑みで語る妹。藤原は、固まっている。確かこないだ見たDVDは……
「クィーン。ライブ・キラーズ。多分、フレディ・マーキュリーだね……。」
藤原が大地に手をついた。
「……何かへし折れる音がしたぜ……。」
俺の言葉に、佐々木は納得したように頷く。
「兄妹揃ってフラクラ体質か。藤原くんも哀れな。」
「フラクラ?」
「知らなくていい話だよ。」

「あれ?カッコいいって言ったつもりなんだけど……キョンくーん。藤原くんがー。」
もうやめてやれ、我が妹よ。

藤原は妹をリアシートに乗せる。俺は佐々木だ。

「目的地は温泉。さ、行くか。」


途中、こまめに休憩をする。バイクは、案外後ろに乗る奴が疲れるんだ。
ついでに、あのアホの格好を見ても分かるな?冬のツーリングは、防寒着を着込むのが基本だ。
まぁ、痩せ我慢だけは認めてやらなくもない。

温泉郷に着く。藤原の顔面は蒼白。ガタガタ震えてやがる。こりゃ飯の前に風呂がいいな。
「先に温泉かい?まぁ藤原くんを見ていたら、そうしたい気持ちも分かるが。」
「ふ、く、く。き、規定事項だろ、佐々木……」
「佐々木さーん!おうどん食べたい!」
やれやれ。たまには助け船を出すか。
「先に風呂に入ってから、な?藤原が風邪を引くからな。」
俺の言葉に、妹はきょとんとした顔をした。

「えー?暖かったよー?波打ってたしー。」

「藤原くん……」
「情けだ。自殺か他殺位選ばせてやろう。」
「き、貴様ら……!」
見下げきった目で藤原を見る。

「手が。」

「僕はキミを信じていたよ、パンジー。」
「ああ。佐々木、誤解ってあるよな。すまん、藤原。」
「き、貴様ら……」
藤原は涙目だ。騒動のもと、妹はチケットを見ている。
「ねー、キョンくん。家族風呂ってなぁに?」
俺と佐々木は顔を見合わせ、溜め息をついた。そう。ツーリングの目的は家族風呂だった。
痛い話になるが、谷口と釣りに行った時に、大時化に遭い、ずぶ濡れになったんだ。
二人でガタガタ震えながら、近くの民宿にビバーグし、二人で浴場に入った時の温泉の暖かさは、感動以外何もなかった。
佐々木にこの話をしたら、佐々木も是非味わいたいと言い出し……お互い下心から一泊旅行にしようとしたところ、妹から感付かれた。
今回の目的は、それだったんだよ……。

「家族って事は、私はキョンくんと入るの?」
「え?」
佐々木が固まっている……だと?しかし、それは一瞬の事だった。
「ふふ……。そうだね。どうだい?キョン。僕も御一緒していいかな?」
なんですと?!


「え~?久しぶりにキョンくんとお風呂入れると思ったのに~。」
待て。今一緒に入ったら、道徳的に問題があるだろう。
「佐々木さん、家族じゃないじゃ~ん。」
だからだな、妹よ。家族風呂とは……
「くっくっ。私とキョンは、いつか家族になるからいいのよ?」
「えー?ぶーぶー。」
お前ら……
「よし、行くぞ、現地人。」
藤原が俺の手を引く。よし、いいぞ、藤原。そのままなし崩しに……
「家族風呂2つ。」
だぁーッ!この馬鹿はぁーッ!見ろ!佐々木も妹もドン引きしてるぞ!
藤原がニヤニヤと笑う。こ、この野郎……!佐々木達の裸を拝めると思うなよ……!

「(キョン。埋め合わせはあとでする。)」

ん?佐々木?
「妹ちゃん。せっかく家族になるなら、一緒に入って親睦を深めましょう。」
「ん~……わかった。キョンくんとお風呂入るの、今回は諦める!」
藤原の顔面が赤くなる。それを見た佐々木が、俺にウィンクを送った。
「よし、藤原。男同士の親睦を深めるか。」
「ああ!ゆ、友情を深めるのだな!ああ、言っておくが、性行為は禁則だ!ただ、お前が求めるなら、それは規定事項にしてもいいぞ!」
…………はい?佐々木も目を見開いている。
藤原は、俺を引っ張り家族風呂へ…………
思い出したくないから、終わるぜ。因みに貞操は無事だった。

藤原は一週間、肺炎で入院した。まぁこれが顛末だ。


END

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最終更新:2013年03月03日 04:06
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