69-403「佐々木さんのキョンな日常 学園祭その5~」

 今度は一年九組、すなわち涼宮と古泉のクラスへ向かった。あいつらが提案したという『お客も店員もみんなで
コスプレ喫茶』に、佐々木は招待されていたということで、これは行かねばなるまい。しかし、一体どんな店なの
だろうか?

 ・・・・・・何だ、あれは?
 九組の教室の前に看板を持ち、大声で客を呼び込むバニーガール。間違いなく涼宮ハルヒである。
 おい、涼宮。お前、なんて格好をしているんだ?
 「いらっしゃい、キョン!来てくれたのね!」
 お前が佐々木に声をかけてくれたからな。それにしても、何でバニーガールなんだ?
 「呼び込みはこの姿が定番じゃない」
 どこかのいかがわしい店なら確かにそうだろうが。スレンダーながら、発育しているところはしている涼宮のその
姿なら、先客万来だろう。
 ところで、ここはどういう喫茶店なんだ?
 涼宮の姿から目をそらしながら俺は尋ねる。
 「名前の通りよ。横の教室にある衣装部屋に入って、自分の好きな衣装を選んで喫茶店で楽しんでもらうのよ」
 そう言われてみると、八組と特別室の入口に「衣装室」の看板が立っている。八組が女性、特別室が男性の衣装室
らしい。
 「面白そうだね、キョン。早速着替えてみよう」
 佐々木は大乗り気のようである。

 コスプレ喫茶というだけあって、どこから集めたんだ、というくらいいろんな衣装がある。制服からアニメキャラ
ものまで、よりどりみどりである。
 「君がどんな衣装を選ぶか楽しみだよ」
 そう言った佐々木はなにを選ぶやら。
 だが、その前に‥‥‥

 「おい、涼宮」
 俺はいったん外に出て、涼宮を呼ぶ。
 「なに、キョン」
 何故か嬉しそうな笑顔を浮かべて、涼宮は俺の所へやってくる。
 「お前、これを着ていろよ」
 そう言って、俺は涼宮に真っ赤な衣装をかける。
 「その格好のままじゃ、風邪を引くぞ。まだ、明日もあるんだから」
 一番暖かそうな衣装はそれだったので、俺はサンタの衣装を選び、涼宮に着せたのである。
 「あ、ありがとう、キョン」
 照れていたのか、涼宮は俺の顔を見ないでお礼を言った。

 「お待たせ、キョン」
 衣装選びに念を入れていたのか、佐々木は俺より遅く出てきた。
 お互いの衣装を見て、俺達は吹き出しそうになった。
 佐々木はメイドの衣装に猫耳カチューシャをつけていたが、無茶苦茶似合っている。
 俺は執事の衣装に犬耳をつけてみた。夏休み、鶴屋さんの別荘で見た新川さんを思い出し、少しひねってみたので
はあるが、二人とも頭に飾りものをして並ぶと、何となくコントっぽい。
 「あれ、涼宮さん、衣装変えたの?」
 「そうよ。キョンが選んでくれたの!」
 ああ。涼宮が寒そうだったからな。

 「キョンはあいかわらず、優しいね。君のその女性を紳士的に扱う態度は誰に教わったのか、非常に興味があるね」
 俺自身はそんなに女性に優しくしているとは思わないが。古泉の方がよっぽど紳士的だと思う。
 「無自覚は罪なことだよ、キョン」

 「じゃあ、中に入って。たっぷりサービスするように古泉君に言っておいたから」
 涼宮が俺の背中を押す。おい、そんなことをしなくてもいい。繁華街の客引きか、お前は。
 「二名様、ご来店」



 一年九組の教室は、様々なコスプレ衣装に身を包んだ客と店員で賑わっていた。
 定番の制服から、アニメキャラ、被り物から、映画キャラまで様々だ。
 その中で、ひときわ目立っていたのは、この企画を涼宮と考案した古泉だった。

 おい、古泉。その宇宙貴族兼艦隊司令官風の衣装は何だ?
 「これですか。実は涼宮さんが選んだのですが、『銀河英雄伝説』のラインハルト=フォン=ローエングラムだそうです」
 あのSF古典名作か。しかしなんで今頃そのキャラなんだ?
 「いま、宝塚でその演劇を上演しているのをTVで涼宮さんが見まして、それに決めたそうです」
 それでか。しかし、その衣装、少し派手すぎるな。
 「ええ。僕としましてはヤン=ウェンリーが良かったんですが。涼宮さんの選択には従いますよ」
 お前も少しは断れ。あいつのためにならんぞ。
 「まあまあ・・・・・・そういえば、涼宮さんからサービスするように言われていますので、どうぞ、空いている席にお座りください」
 皇帝陛下に言われるのも何か妙な気分である。

 「キョン、君がアニメのキャラコスプレをやるとすれば、なにをやりたい?」
 う~ん、そうだな。ベタなところで、ルパン三世かな。髪型も近そうだしな。
 「・・・・・・それはどうかと思うのだけど、じゃあ、僕は峯不二子のコスプレをやればいいのかな?」
 いや、お前はクラリスだよ。清楚できしゃに見えて芯が強いお姫様が似合うと思うが。
 「すると、君は僕の心を盗んで行く泥棒ということになるね」

 そんな会話を交わしてくると、古泉皇帝陛下が飲み物を持ってきた。

 ・・・・・・おい、古泉これは何だ。
 「当店名物のミックス果汁『スクエア』です」
 商品名はともかく、このストローは何だ。ハート型で、一つの器に二本挿してある。二人で、これを飲めというのか?
 「はい。あなたがたにふさわしいかと思いまして。ついでにこちらもどうぞ」
 俺たちの目の前にもってこられたのは、これまたハート型の、二人分はありそうなホットケーキだった。皿は一つでナイフとフォ
ークは二つ。
 「ではどうぞ、ごゆっくり」
 ごゆっくりじゃねえ!

 「キョン。せっかくだから頂こうじゃないか。涼宮さんたちの好意だ。ありがたく受け取っとこう」
 ・・・・・・しかし、佐々木よ。これを人前で飲んだり食べたりするのかよ?
 「僕は一行に構わないよ。買い物に行ったときも、よく二人で分け合ったり、交換したりしているじゃないか。同じことだよ」
 教室の中のざわめきが一瞬大きくなったような気がしたが、気のせいだろう。
 まあ、佐々木が言うとおり、買い物のときと大して変わらないか。俺もいただくことにしよう。
 「キョン、どっちがジュースを飲んでしまうか、競争してみるかい?」

 結論から言えば、二人で同時に飲んで、俺の方が飲んだ量は多かったな。佐々木と顔が近づいて、ジュースを飲むのに少し
苦労したが。
 ホットケーキはきっちり二等分した。二段がさねだったので、メープルシロップとバターが多くかかっている上段を佐々木が
、下段を俺が頂いた。味はかなり良かった。

 「ごちそうさん」
 教室を出るとき、俺は古泉に礼を言った。
 「しかし、あなたも意外に度胸がありますね。どんなふうに食べるかなと思っていたんですが、堂々と二人で一緒に飲まれて
いましたね」
 ああ。少しだけ恥ずかしかったが、まあ、佐々木と遊びに行く時とそれほど変わらんからな。ああいう、ジュースの飲み方は
初体験だが。お前があのストローを選んだのか?
 「あれも涼宮さんのアイデアなんです」
 いろいろ考えつく奴だ。

 「古泉、暇になったら後でいろいろ廻ろうぜ」
 そう言って、俺達は次の教室へ向かう。
 古泉は爽やかスマイルで頷いたが、俺にはいつもの表情よりも少し曇っているように見えた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年03月31日 23:29
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。