69-598『失ったもの・得たもの』BAD END ANOTHER

※キョンいじめSSの『失ったもの・得たもの』のバッドエンドアナザー。

バイト先。
「いらっしゃいませー」
コンビニで働き、少しの金の為にペコペコ頭を下げる。下らんが、金銭に貴賤はない。
いちいちつまらん事に抱くプライドなんて持ち合わせていないしな。
真面目にやってりゃバイトだって楽しいもんだ。廃品をガメたり、店長からジュース奢ってもらえたり。
下らん日常から解放され、実に楽しい。
「すみません。」
「はい。申し訳ありません。大変お待たせ致しました。」
レジに並んでいた客は、佐々木だった。……見た所、連れがいる。男だ。
良かった。佐々木は幸せを掴めたんだな。
安堵していた俺に、佐々木が男になにやら耳打ちした。……がっくり項垂れた男が帰っていく……
「……お前……」
睨み付けるが、佐々木はどこ吹く風かといった表情だ。
「清算はまだですか?」
「……申し訳ありません。210円になります。」

それから。佐々木は足繁くバイト先に通って来た。あの男は初回以来見ていないが、恐らくは俺をダシに使ったんだろうな。
まぁ、こんなんでも役に立つわけか。佐々木は、俺に声をかける事はなかったが、佐々木が元気にしていて安心はした。
やがて、自然に一言二言話すようになり、俺達は以前のような関係に戻るまでに、一月を要しなかった。
バイト帰りに待ってくれていた佐々木に、俺は全てを打ち明けた。
「俺は実は――」
涼宮達に愉快犯的に虐めを受け、逆襲した事。佐々木を頼るわけにはいかなかった理由。全てを語った。
佐々木は無言で聞き……
「僕もキミにバカにされたものだね。」
と言った。


佐々木は、中河や岡本さんを通じ、全てを知っていたという。俺の悪い噂を聞いた中河と岡本さんが、国木田を問い詰めたらしい。
国木田は罪の意識というよりは我が身可愛さに白状したようだが。まぁ俺の態度を見ていては致し方あるまい。
「国木田くんも気に入らないが、一番気に入らないのはキミだ。」
佐々木がショックだったのは、荒れる俺が、何故自分に向かわなかったか。そして自分はそんなに弱く見られていたか。この二点だったという。
「僕を思ってというなら、少しは僕を頼りたまえ。……親友と言った言葉が偽りであれば、その限りでないが。」
「……すまん。だが……」
また同じように何かを信じて裏切られるのは、もう嫌だ。
「僕達が彼女達と同じとでも?」
「違う!」
我知らず声が強くなる。
「ならばそこで話は終わりだ。全てに絶望するには早すぎる。
キョン。もう一度だけ聞く。無回答は許さない。ここまで話を聞き、かつキミが思う強さを手にした今で。
僕の手を取るか、取らないか。
ここで決めたまえ。」

俺は…………

佐々木の手を取る事を選んだ。

「……自分の弱さを認めるのも強さなのよ、キョン。」
「……すまん。」
佐々木に抱かれ、俺は思い切り泣いた。佐々木も俺を抱き締めて泣いた。

それまでの俺は、ただの負け犬だった。ただ、周囲に自分の辛さを当たり散らすだけの存在だった。
しかし、もうこんな生き方は出来ない。
本当に『強く』ならなければいけない。それが佐々木の手を取った俺がやるべき事だ。
その為には、自分自身と相対しなくてはいけない。
それを乗り越え、もっと強くなったその日に……

全てを失おうとした時、どんな時でも俺を見ている、見てくれている奴がいた。
そんな奴が一人でもいた。いてくれた。それこそ俺が得た最大のものだ。

俺は、佐々木の手を握る為に前に進む。そしていつか佐々木の手を引けるような奴になれたらいい。

その日こそ――――

「お前に、好きだと言っていいか?佐々木。」
「くっくっ。あまり待たせないでくれよ?」

END


あちら風にタイトルをつけるなら、『見つめ合う心、弱さを認める強さ』ですか。
バッドエンドのストーリーからのアナザー、ハッピーエンドのつもりで書きました。

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最終更新:2013年04月01日 01:36
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