70-190『HIDE & SEEK』2

『みくるちゃんが死んじゃうの?』
『らしいな。藤原の話が正しいならば、だが。』
『みくるちゃんは、未来の人なのよね?』
『ああ。さっき説明した通りさ。』
『……うん。あんた助けに行きなさい!』
『はぁ?!』
『人類初の『前世の記憶のある人間』!そしてみくるちゃんを救う王子様!あんたが死ぬまで、みくるちゃんは死ねないわよ?
何せ目を離すとすぐに他の女のフラグ立てちゃうんだから!』
『アホか!取り消せ馬鹿!』
『で、次は有希!あんた達二人が、ずっとSOS団を語り継いでいくの!』
『うわぁ。長門大迷惑……』
『そんな事ないわよ!こないだ会った時に有希にこの話したら、有希は『待ってる。』って笑顔を浮かべたのよ?!あの有希がよ!?』
『案外笑うぞ、長門は!お前が気付かんだけだ!それか呆れたんじゃねぇのか?』
『なんですって、このバカ―――』

墓標の前。佇む影。

「……ったく。良い身分だな、くそったれ。」
墓標の前に、酒が置かれる。墓標の主が生前に好きだったのであろう。影はショットグラスに注ぎ、墓標に供えた。
影は胸のポケットから古い、アンティークの宝石を出す。
「このちっぽけな石ころに何の意味があるかは知らんが、お前は絶対に無意味な真似はしなかったな。」
蒼紫の宝石。
――タンザナイト――
「お前が望めば、全て変わったわけだが。お前はそうしない、出来ない理由があった。しかし、それはお前の心に消えない染みを残した。
そんなもんがあれば、お前は成仏出来んよな。…………分かりづらいだけで、誰より優しいからな。お前は。」
石は影がかつて存在していた時代のものだ。
「―――。」
影が墓標の主に話し掛ける。

「お前の心残りが何かはわからん。だが。」

影は墓標に言った。

「お前の心残りは、俺が晴らしてやる。

――――ジョン・スミスとしてな。」

「私は絶対に反対です。」
影の後ろから、みくるが顔を出した。


「わかっていますか?それがどんな重大な結果を招くか。」
みくるは、お茶を墓標に捧げた。
「よくわかっていますよ。」
影はみくるに笑いかける。
「あいつは『望んで』いない。ただ、『思っている』だけ。それですよね。」
「そう。その通り。それが全てです。私達に出来る事はありません。」
みくるは、そう言うと話を切る。
「そういうわけにもいきませんでね。」
「……何故?はっきり言いますが、これは時間犯罪になりますよ?
『自発的な過去への干渉』。
あなたの親友である弟が、それを行い大変な目に遭ったのは御存知のはずです。」
口論をする二人の前に、一人の影が現れる。

「すべての責任は、私にある。」

液体ヘリウムのように冷涼とした目。そして。未だに変わらぬ県立北高校のセーラー服。
「あなたは……」
みくるが、その人物を見て表情を歪めた。
「朝比奈みくる。あなたは三年の春の騒動を覚えている?そして、佐々木○○という存在を。」
「覚えていますよ。キョンくんの中学時代の同級生ですよね?確かあの時以来、関わりには……」
セーラー服の影は、みくるに手を伸ばす。
「では、あなたの弟が何故そこにいたか。」
「確か、違う世界線の私を救う為、ですよね。」
「その世界線とは?そしてその収束先は?」
「私の、死亡……」
そこまで言ったみくるが、はっ、と顔を上げる。
「そう。しかし。私に同期してきた個体のデータによると、あなたが死亡する時期は彼がいう時よりもずっと長い。
これは彼女の『願望』による結果だと思われる。収束先をウイルスと仮定すると、そのワクチンとなったものが彼。」
みくるが影を見る。
「……だからこそ、ですよ。俺はあいつの『染み』を消してやりたい。でないと、いつまでもあいつを引き摺る事になる。
見つけないと良かったんですが、見つけてしまった以上、俺は叶えてやりたい。」
影の言葉に、みくるは激昂した。
「ふざけないで!つまり、それは彼女が泣く未来を作り出す事じゃない!
それは傲慢です!エゴイズム以外に何がありますか!」
セーラー服の影は、言葉を紡ぐ。
「あの時代には、もうひとつの分岐があった。その分岐をもとから消したのは、私。」
「…………?」
「彼の記憶を奪った佐々木○○から命を奪う代わりに、佐々木○○から彼に関する記憶を全て奪い、情報操作を施し、意図的に彼の人生から遠ざけた。
だが、それは間違いだった。それがもとで彼女は苦しみ、彼女の『染み』となった。」
みくるが下を見る。
いつだってあの太陽のような少女は、正々堂々と正面から向かい合い、戦い奪っていく事こそが真骨頂だった。
それだけに『勝ちを譲られた勝利』が我慢ならなかったのだろう。


「なら、尚更反対ですね。」
みくるの目は、怒り心頭である。
「お二人には悪いですが、私はこの世界線を死守する方向で行きます。」
「朝比奈みくる。」
「彼女を泣かせる世界線なんて、絶対、絶対、ぜぇ~ったい認めません!」
色気たっぷりのスーツを着ているはずのみくるだが、二人の目には、かつての彼女がうつっていた。
大人になり、なるだけ地が出ないように心掛けているようだが、やはり地は変わっていないのだ。
SOS団の聖母。その包容力で何度救われたか。
「……わかりました。では、俺も独自に行動します。行くぞ、――。」
「了解した。」
二人の後ろ姿に、みくるはありったけの声で叫んだ。

「バカ!―――くんは今日は夕飯抜きですから!―――くんと――さんのバーカ!」

あまりに可愛い罵声。
影は苦笑を、セーラー服の影は若干の微笑みを浮かべ、その罵声を背に受けた。

「……妬いちゃうんだから。」

――――――――――――――――

「で、貴様困ったら僕頼みか?!」
「まぁまぁ。いいだろ?ほら、情報操作でお前の罪はただの軽犯罪扱いになったんだし。」
「イジメか?!イジメだろ!!端から見たら『シスコンの弟が、例え平行世界でも姉が死ぬのが許せずに過去に行き、現地民に叩きのめされて帰ってきた』扱いじゃないか!
って、なんだ、インターフェース!小首を傾げて何がしたい!可愛いからやめろ!」
セーラー服の影は、藤原を見ながら言った。

「あまり差異を感じない。」

影は、手を叩いて笑い……藤原はテーブルに突っ伏すした。
ちくしょう、ちくしょう。いまに見てやがれ、ぶっ殺してやる。
古典映画の悪役のセリフを頭で反芻しながら、藤原は不快な回想をやめた。

「あと、二日間か。」

姉につくか、親友につくか。
姉からは「お姉ちゃんよね?あなたは私の味方だもんね?」と涙目で懇願され……
親友からは「お前の思うようにすればいい。」と冷たく突き放された。
どちらにせよ。
「見落としが多すぎるんだよ。……まぁあいつは佐々木を覚えていないから仕方無いし、姉さんも佐々木を知るわけではないからな。」
現段階ではどちらにもつけない。今日明日中に色々と探す必要があるからだ。

「……そういえば橘は何をしているんだろう。規定事項では、今頃佐々木の家を追い出されて泣いているはずだが。
まぁ、いてもいなくても影響はないが。」

色々とズレが生じてきている未来。
それが良いか悪いかは、藤原には判断がつかないところである。

To Be Continued 『HIDE & SEEK』3

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最終更新:2013年04月29日 13:38
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