70-286「佐々木さんのキョンな日常 最終章 真相~再生その9~」

 藤原。いけすかない未来人。二年の春の騒動の時、ハルヒの能力を手に入れ、死んだ姉・朝比奈さんを生き返らせよう
と次元改変を試み、さらにハルヒを無きものにしようとした、狂気の未来人。いま、思い出してもむかつく奴だ。眼の前
にいたら、この手でぶちのめしてやりたいほどだ(古泉はやったらしいが)。
 「あの事件の後、藤原くんの未来と僕らの現在とは繋がりが断たれている。それが意味する事は一つ、すなわち変化した
未来、涼宮さんとキョンが結ばれた世界が本流となり、固定されたということだよ。ここにいる朝比奈さんは、以前別次元
の時系列より来たような事を匂わせていたと聞いたが、それをいわず、僕の行動を時間犯罪になると言った。すなわち、彼
女の世界が本流になったと言う事を示しているんだ」

 二年の春の騒動の時、朝比奈さん(大)は藤原に向かってこう言った。
 「未来は帰る事ができるでしょう。そうならない様にすることだって」
 朝比奈さん(大)や藤原の役目は、来るべき未来を固定化させることだと藤原は朝比奈さん(大)との会話の中で明かした。
その為にずっと時間平面をいじり続けて来たと。だが、誰の為の未来を守るのだ?
 答えは一つ。未来人が生きる未来。そうあらなければならない未来。未来人に都合が良い未来。
 朝比奈さん(小)、あるいは(大)と共に、俺自身もいくつか未来の固定作業と思われることを手伝った記憶がある。
 朝比奈さん(大)と藤原が生きている未来世界は、基本的にはそこまで大きな差はない。ただ、朝比奈さん(大)が生きているか、
死んでいるか、朝比奈さん(大)に弟が居るかどうかの違いだろう。たが、大きなところではそこまで差異がないにしても、細かい所
では誤差が数多く存在し、藤原個人にとっては、大きな違いがある世界だろう。

 「次元固定因子。次元を固定し、時間軸の流れを固定化させる能力。キョン。さっきも言った通り、僕らが使える能力は、君の力
がないと発動はしない。不思議なことで、それはたとえ、力が他の人に、例えば長門さんや九曜さんに能力を移しても、君がいない
力は発揮できない。長門さんが世界改変を行った為、藤原君や九曜さんは自分達が涼宮さんから力を奪い、僕や九曜さんに移せば操
れると考えていたみたいだけど、そこは間違いだったわけだ。まあ、それはともかく、未来人勢力は、君と涼宮さんを結びつけ、次元
固定因子を発生させ、未来を固定化させようとしたわけだ。その為にも、僕より先に涼宮さんと君の結びつきを作り、時間を掛けて、
愛を育ませた。あの世界では、君と涼宮さんは良き恋人同士だった。同じ大学に行き、君を優しげな表情で見つめていた未来を、二年の
春の騒動の時、観たそうだね。あれもまた未来勢力の工作。TPDDを作動させ、君を未来にとばし、意識付けさせたのさ。そもそも、
時空を超える力は僕らが操れる力の範囲外だからね」

 俺達は未来人の掌で踊る孫悟空のようだ。佐々木の話を聞いて、少々無力感を感じる。
 「キョン。あの世界で、僕は君と涼宮さんが想いを伝えあうのを聞いて、思わず逃げ出してしまった。同時に自分の愚かさも後悔した
よ。なぜ、中学時代に君に想いを告げなかったのか。自分を罵倒したい気分だった。そんな僕の目の前にあらわれたのが、九曜さんだっ
た」
 佐々木は周防のほうへ視線を向けた。
 「二年の春以来だったから、僕もさすがに驚いたよ。おまけにかなり流暢に喋る様になっていたしね。九曜さんは、僕に世界の真実を
教えてくれた。キョン。僕らが卒業を機に接触が無くなっていた理由は、涼宮さんの力によるモノが大きいんだ。涼宮さんの潜在下の意
識により、初恋の人=ジョン・スミスに近づく最大のライバルを排除したわけさ」
 それもまた、未来人の介入の結果により派生したものか。
 「彼女は僕に契約を持ちかけた。すなわち涼宮さんの力を僕に移し、時空改変――改正というべきだね――を行い、僕と君の歴史の時間
を作る事を。と、同時に、その歴史に自分、そして有る人物たちを参加させる事を持ちかけた」


 ある人物たちとは誰達のことだ?
 「情報統合思念体の端末、長門有希、朝倉涼子、喜緑江美里の三名だよ」
 一体何故?

 「長門有希。彼女の存在が、自律進化した彼女の存在が、天蓋領域の観察の対象となった為」
 答えたのは佐々木ではなく、周防九曜。天蓋領域の端末。
 「人間としての生命と意識を持ち、情報統合思念体の力を秘めた存在へと進化した長門有希に対し、天蓋領域は
非常に興味を持った。情報統合思念体が、涼宮ハルヒに興味を持ったように、自律進化の別の形を具現化した存在
に対し、天蓋領域は彼女を観察の対象にした。その結果、二つの仮説を導き出した。その自律進化は、涼宮ハルヒ
の力によるもの、もうひとつは地球上の生命体との交流により、影響を受けそのような進化を遂げた、というもの
。その仮説を証明する為に、天蓋領域は情報統合思念体側に申し入れを行い、双方了承し、今回の時空改変に力を
貸した。情報統合思念体も、長門有希の自律進化に対して、解を見いだせなかったため、この改変に対し賛意を表
明した」
 神にも匹敵する連中が答えが解らんとは少し意外だ。
 「想定外の現象に関しては、ましてや過去にない出来事に対しては、いかなるレベルの生命体でも、的確な判断
を下すことは不可能。我々も例外ではない」

 この件に関しては多くの疑問があるが、どうしても気になる疑問がある。
 それは、長門の事だ。何故、「長門有希」ではなく、「長門優希」として、α世界で過ごしたのか?
 「彼女が自律進化を遂げた要因、すなわちあなたの存在故」
 どういう意味だ?
 「キョン、君が涼宮さんの世界で愛した女性は、涼宮さんだけではない。男女の恋愛ではないが、君が命を賭け
て守り、信頼し、共に過ごし、愛した存在。それは長門さんだ」
 佐々木が周防の言葉を引き継ぐ。
 「涼宮さんの世界の記憶を思い返してくれないか、キョン。長門さんに関しての。卒業間近の時期のを、だ」

 高校三年生になり、俺とハルヒが親密になり、それにともないハルヒの”力”に関する事件は行らなくなり、
閉鎖空間の発生もなくなり(古泉に言わせるとハルヒの精神が安定し、さらに長門によれば、”力”そのものが
著しく減少しているとのことだった)、穏やかな日々を過ごしていた。
 そんなある日、俺は長門に呼び出され、ある事を告げられた。
 「私はあなたたちと同じ生命体に変化しつつある」
 一瞬、意味が分からなかった。だが、次の瞬間、その意味を悟り、俺は驚愕した。
 長門が人間になる。
 「まだ確実ではないが、私はおそらく人間になる。その事に私は非常に喜びを感じている」
 そう言って、長門は俺に微笑んだ。

 「『優希』という名前は、長門さんの君に対する思いだろうね。君の優しさに触れて、長門さんは人間へと自律
進化して行った。情報統合思念体により生み出された存在ではなく、君により生まれ変わった存在としての『長門
優希』として、僕らの時空時間の中に存在する事を選んだ。僕の世界でも、長門さんは君に愛され、君を愛した。
僕がやきもちを焼くほどにね」


 佐々木、お前にも質問がある。
 「何でも答えるよ。君にはすべてを知っておいて欲しいからね」
 お前と俺が過ごした世界、なぜ涼宮を、ハルヒを北高に入学させた?改変能力ならば、ハルヒを他の高校に通わせる
ことも可能だったはずだ。そう、長門が世界を変えた時のように。
 「君と涼宮さんが結びつく未来は、未来人の介入により創られたものだけど、北高に入学したのは彼女自身の意思な
んだよ。ジョン・スミスの歴史がない世界で何故北高に来たのかは、正直わからないけど、その意志を僕は改変しなか
った。気まぐれと言う事も考えられる。彼女は別に高校はどこでもよさそうに考えていた節があるからね。でも、彼女
が北高に来てくれたおかげで、僕は充実した青春を送る事が出来た。君を涼宮さんに渡すつもりは無かったし、君をめ
ぐる恋愛に関しては正々堂々とやりたかったしね。まあ、これには僕らを取り巻くすべての勢力に関して、見せつけて
やる気持ちもあったんでね。他人に未来をいじくられるのは好きじゃなかったし」
 その言葉に、α世界の古泉、β世界の二年の春先の事件で、朝比奈さん(大)、藤原、周防に対して激しい怒りを見せ
た古泉の姿を思い出した。

 それとまだ、少し疑問が残る事があるんだ。何故未来人は、お前よりハルヒを先に俺に会合させることに固執したんだ
。次元固定因子が原因だと言ったが、その固定された未来て、何なんだ?
 「良い所に気付いたね。さすがはキョンだ。これに関しては朝比奈さんに答えてもらうのが一番いいんだけどね。たぶん
言わないだろうね」
 御定まりの禁則事項なのか?
 「いや、そうじゃないと思うよ。答えは僕が知っているし」
 朝比奈さん(大)の顔が驚愕の表情を見せる。
 「僕らが知った時点で禁則事項は禁則事項で無くなる。だから、朝比奈さんが話しても問題はないけど、僕が答えるよ」
 そういえば、周防が佐々木に未来の事を教えてくれていたんだったな。
 「未来人に関して最も重要な物、君も想像がつくと思う。涼宮さんが『それ』の誕生には多いに関わっている」

 「……TPDDか」
 「その通り。涼宮さんがこの件には大きなきっかけを与えている。直接ではないが、彼女がTPDDの発明者に対して
さまざまなヒントを与え、TPDDの完成を早めている。それともう一つ。これこそ本当の禁則事項で、九曜さんが僕に
教えてくれた最大の秘匿事項がある。僕らの世界でもTPDDは発明される。藤原君が使っていたから、当然と言えば、
当然なんだけどね。それに関与するのは、未来の君と僕なんだよ」

 α世界でも、β世界でも、文芸部として文芸部誌を作った。ただ、β世界ではそのことが、未来に大きな影響を与えて
いる。ハルヒが書いた、わけのわからん文章、あれがハルヒの家庭教師先の少年の目に泊まり、TPDDの開発理論に繋
がっているのは、ほぼ間違いない。一方、α世界ではそのような状況は見られていない。
 「僕らの世界では、そのきっかけをつくるのは、大学に入学した僕らなんだ。僕らが開発者に天啓を与え、それがヒントに
になった、と。つまり、二つの世界ではTPDDの完成に関して、時間差がある事になる」
 そこで、佐々木は一息ついた。
 「実はこの事が未来に重大な影響を及ぼしている。それが未来人たちが僕らの時空間に干渉した最大の理由になっているんだ」

 「そこから後のことは私が話します」
 今まで、黙って話を聞いていた朝比奈さん(大)が、重い口を開いた。

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最終更新:2013年04月29日 14:27
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