70-335「佐々木さんのキョンな日常 最終章 真相~再生その16~」

  刺激に満ちた、楽しくも大変な日々とも今日でお別れだ。最も、彼が涼宮さんと恋人同士になってからは、閉鎖空間
が発生することはなく、「機関」もその役目を終え、僕は「機関」を解散することにした。
 今、涼宮さんにがあの”力”を発揮することはない。彼女は今や普通の少女――もう少女という言葉は卒業する時期だが―
―でしかない。あの明るさと活発さはそのままだが、不思議な事が起こることももうない。非日常は終わりを告げたのだ。それに
合わせるように、涼宮さんはSOS団の解散を告げた。
 僕は彼女を好きだった。その想いは伝わることはなかった。
 彼は僕の想いを知っていた。彼はなかなか鋭い男だ。それでも、彼は僕を親友だと言ってくれた。彼以上の親友は、これ
から先、そう現れることはないだろう。

 卒業式のあと、元団員や、国木田君、谷口君、それに橘京子も加えて、僕等は卒業記念パーテイを行うことにしていた。
 橘京子。かつて、僕等の”機関”と対立し、彼の”親友”佐々木さんを”神”とした能力者。
 あの事件のあと、彼女の組織は消え、ただの一人の女子高生に戻った橘京子。どういうわけか、その後、紆余曲折を得て、
僕と橘京子は付き合うようになってしまった。世の中おかしなものだ。
 彼女は、彼の親友、佐々木さんとも友人として付き合っていた。
 あの春の事件のあと、佐々木さんは彼女に告白したという彼女の学校の男子生徒と交際したというが、すぐに分かれてしまった
そうだ。その前に同窓会があり、彼と再会したそうだが、おそらくそれが影響しているのだろう。結局、卒業するまで、佐々木さ
んには彼氏はいなかったそうだ。

 正直、僕はいつも疑問に思っている。なぜ、佐々木さんではなく、涼宮さんだったのか?彼から涼宮さんとの馴れ初めを聞いた
事があるが、明らかに未来人の介入による割合が大きすぎるのだ。
 彼ら未来人勢力が過去に、現在の僕らに介入する事に、僕は不快感を持っている。他人の手のひらで踊るのは好きじゃない。

 そんなことを考えながら、集合場所である北高の校門前に向かっていると、一人でいる涼宮さんの姿が目に入った。
 「?」
 何か様子がおかしい。かなり慌てた様子だ。
 「涼宮さん?どうされましたか、彼と一緒じゃないんですか?」
 僕が声をかけると、涼宮さんが振り向いた。その顔が青くなっている。一体何があった?
 「古泉君、キョンが消えたの!」
 「消えた?彼がですか?」
 「そう、いきなり。何が起こったの?ほら、キョンの友達とかいう佐々木さん?。彼女が現れたかと思うと、キョンと一緒に
煙みたいに消えたの、一体、これはどういうこと?」
 かなり涼宮さんは焦っている。それに、どうして、佐々木さんがここに出てくる?

 「!!」
 突然、僕の頭に膨大な情報が流れこんでくる。この感覚は、前に一度味わっている。
 二年の春先。二つに分かれた世界。融合した記憶。そして・・・・・・
 「涼宮さん!」
 突然、目の前で、涼宮さんが倒れる。
 「涼宮さん!」
 慌てて抱き起こすも、涼宮さんが何故か眠っているだけだとわかり、少しホッとする。
 ”誰のしわざだ”
 何者かの、おそらく未来人か宇宙人関係か。流れ込む分裂した世界の情報が彼女に流れ込まないにしたのか。
 と、同時に、僕は目の前にあるモノが存在していることに気づく。
 「閉鎖空間・・・・・・」
 久しぶりの感覚。だが、すぐにそれが少し違う事に気づく。
 ”佐々木さんの閉鎖空間だ”
 もうひとりの”力”の器。神たる存在。
 そして、この中で、何かが起きている。感がそう告げている。だが、僕には確認出来ない。ここに入れるのは、ただ、一人。
 スマートフォンの画面を操作し、一番に登録している名前を表示する。
 「橘さん。古泉です。すぐに集合場所に来てください。緊急事態です!」


 橘京子はすぐに来た。どうやら近くまで来てはいたらしい。
 「何かあったんですか、一樹さん」
 その呼ばれ方に違和感を感じる。付きあっているとは言え、いつも”古泉さん”と呼ばれ、”一樹さん”と
呼ばれた事は無い。だが、すぐに納得する。あの世界の記憶――僕と京子が幼馴染であり、婚約者である世界
――が彼女にもあるのだ。気のせいか、彼女の、僕を見る目が熱を帯びている様に見える。
 「京子さん、これが何か解りますか」
 あの世界の僕の様に 、京子と呼ぶ事は、まだこの僕には無理だ。二つの記憶がミックスされるというのは、厄介な
ことなのだ。
 京子の顔色が不安なモノに変わる。
 「閉鎖空間……佐々木さんの、でも。変です。こんなに荒れ狂って禍々しいエネルギーを感じるのは初めてです。
中で大変な事が起こっているのかも しれない、急いだ方がいいです!」
 僕の不安は的中したようだ。
 「京子さん、すぐになかへ連れて行って下さい。お願いします」
 僕は彼女の手を握り締める。
 「任せて下さい!」
 何故か嬉しそうに、京子はそう言って、彼女の”能力”を発揮した。

 「きゃああああああ!!!!」
 「うわあああああああああ!!」
 すざましいエネルギーの衝撃波を浴びて、僕らの体がはじき飛ばされる。
 京子の体を掴み、かき抱いて、彼女が地面に叩きつけられる衝撃を、かろうじて和らげる事ができた。
 ”閉鎖空間が破裂した”
 そう表現するのがぴったりくる。溜められていたエネルギーが、一気に解放されたのだ。
 ”なんて、エネルギーだ。神人の比じゃない。まるで世界を破壊しかねない威力だ”
 気を失う寸前、そのエネルギーの中心に、佐々木さん、そして倒れている彼の姿を、僕は視界の隅にとらえていた。

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人の体の温かさを、彼のたくましさと優しさを、私は全身で受け止めていた。
 目を開けると、中河君の寝顔が視界に入って来る。普段は男らしいのに、今の寝顔はまるで子供のようだ。思わず、
私は笑みをこぼした。
 卒業式の後、二人で待ち合わせ。夜にある文芸部兼SOS団の卒業パーティまで時間はたっぷりあった。
 いまごろ、キョン君は佐々木さんと校門で再会しているだろう。二年前の約束。離れていても、二人の想いは変わら
なかった。
 嬉しいと思う反面、長門さんの事を思うと、少しだけ悲しい気持ちになる。
 佐々木さんのいない二年間、キョン君の側に一番いたのは長門さん。涼宮さんもキョン君に猛アタックしてしていた
けど、残念ながら、想いは通じなかった。長門さんはキョン君の信頼を得ているけど、あくまでも立場は友人。恋人じ
ゃない。

 ”!!”
 私の頭に情報が流れ込んで来る。膨大な記憶、別の世界の、本来の私の姿。融合する世界。
 ”ああ、そうか。実験は終わったのか”

 自律進化の過程。情報統合思念体、天蓋領域。二つの陣営が興味を持ち、異常な関心を寄せた事例――長門有希の進化
。彼女の変容が、情報生命体の未来に重大な示唆を与えていると考えた彼らは、有る実験――そう表現するしかない――
を行う事を決めた。そして、天蓋領域・周防九曜、情報統合思念体・長門有希、喜緑江美里、そして私、朝倉涼子は、この
世界へ組み込まれた。
 情報生命体でもない、ただの人間、ただの女子高生。その世界で、私達は楽しく、時には切なく、彼らと同じように学生
生活を送り、人を愛したのだ。

 だけど、いつかは終わりが来る。この世界にさよならを告げる時が来たようだ。


私はまだ眠っている、中河君の額に手をあてる。
 ”情報操作開始”
 この世界での出来事を、彼の融合した記憶から消して、記憶情報の書き換えを行う。彼は元の世界では、私達
情報生命体にアクセス可能な能力を持っていたらしいが、それは長門さんにより消失させられた。この世界では
私達同様、ただの高校生だ。
 彼が私に一目ぼれをしたのは、本当に偶然の出来事。それ以来、私と彼は交際を始め、今や恋人の仲だ。
 でも、それも今日で終わりだ。世界が完全に融合した時、彼の記憶から、私との思い出は消失している。

 私の目から、涙があふれて来る。
 彼との時間。大切な記憶。人間の女子高生として、友人として、恋人としての時間。かけがえのない想い出。
 男の子の部屋にしてはキレイに整理され、掃除が行き届いた彼の部屋。何度もお邪魔した彼の部屋。
 それらを、そして彼を愛した時の記憶を私は刻み込む。

 ”長門さんが呼んでいる”
 緊急事態の呼び出し。何か異常が発生したらしい。ひどく胸騒ぎがする。

 情報操作終了。いよいよ、彼とはお別れだ。”実験”が終了したいま、私自身、また地球上に派遣されるかどうか
も分からない。情報統合思念体に取り込まれ、分析されたまま、そこで終わるかも知れない。私はまだ、長門さんみ
たいに、自律進化したとは言えないからだ。

 ”中河君”
 彼の名前を呼ぶ。そして眠ったままの彼にキスをする。

 私はその場から姿を消した。

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 「一体何がおこっているの!?」
 非常事態。この場に突然出現した朝倉涼子の問いに、そうとしか答えようがない。
 私――長門有希、喜緑江美里、そして朝倉涼子。三人とも、今の状態には手も足も出せない。
 強烈な破壊と怒り、そして悲しみに満ちた、暴走状態の次元エネルギーの噴出。すでにいくつかの時空間が消滅し、
時間軸が崩壊している。
 未来人による改変、涼宮ハルヒと佐々木による時空改変により、この時間軸には歪んだエネルギーが蓄積し、それは
”不胎介入化(活用されず、蓄積化する事)”し、なんらかの作用が有った場合、一気に活性化し、膨大なエネルギー
奔流をうみだし、時空間に多大な影響をもたらす。
 その危険な状態が、いままさに進行していた。
 そして、その中心にいるのは、”力”の行使者にして”扉”――佐々木と、”鍵”たる彼。
 彼は死にかけていて、彼女は彼の体にすがって泣き叫んでいる。それが、彼女の”力”を暴走させ、次元崩壊を引き起
こしている。
 ”一体、何がおこった?”

 「!!!」
 私達三人の前に、突然、姿を現したのは、天蓋領域の情報端末、周防九曜だった。


周防九曜。自律進化の謎を解く為、我々と共に、佐々木の世界へ送り込まれた、情報生命体。我々と同じように
普通の人間として過ごし、人を愛した。
 その彼女から、我々に情報が送りこまれる。
 「!!」
 彼と佐々木の身に何がおこったのか、瞬時に理解する。改変工作により自らの未来を作り上げた未来人たちは、
その時間軸を守ろうとして、致命的なミスを犯したようだ。おそらく、この時間軸は崩壊する。未来人たちは、
皮肉なことに、未来を守ろうとして、自ら滅びの笛を吹いたようだ。

 「なぜ、彼を助けなかった。彼が死ねば、佐々木を止める力は消滅したも当然。このままでは世界は崩壊する。
我々情報統合思念体も天蓋領域も無事には済むまい。崩壊の軛からは逃れることは出来ない」
 「私には出来ない。私の力の行使に対し、天蓋領域本体より枷が掛けられている。試みたが、行使出来なかった。
あの破壊エネルギーから逃げるのが精一杯だった」
 「天蓋領域は滅びを望むと言うのか」
 「おそらくそうだ。我々を観察し、自律進化を調べていた天蓋領域は、進化の果てが滅びと結論付けた。無限が
有限に代わり、すべてが消失する虚無の定めからは何者も逃れることは出来ない。人と交わることにより、進化を
遂げた者は、人として終わりを迎える。その結果、天蓋領域は滅びの定めを受け入れたようだ。それに伴い、私も消滅
する」
 そう言って、周防は自分の左腕に眼をやり、少し悲しそうな顔をする。
 手首に巻かれた時計。彼女を愛した谷口が彼女に送ったもの。何も言わないが、その時、周防の悲しみが私にも理解
できた。

 天蓋領域側はともかく、情報統合思念体は沈黙したままだ。むざむざ滅びるつもりはないようだが、今の状態では誰も
佐々木の破壊エネルギーに手は出せない。ちかづけば、我々は消滅する可能性がある。彼の命の火は消えつつある。そう
なれば、本当にあらゆる時空間が滅亡する。

 ”!!!!”
 誰かが、破壊エネルギーの中心部に向かって飛んでいく。彼と佐々木がいる所へ。
 「優希!」
 人間としての私。彼に愛され、愛した私が生み出した、自律進化の生命体。あの世界で彼と共に過ごしたもう一人の私。
 彼女は世界が融合した時に、私の中に取り込まれて、バックアップとして保存されていた。その彼女が私の意志より独立
して目覚め、動き出したのだ。

 「優希!やめなさい、あの破壊エネルギーの前ではすべてのものが消滅してしまう!貴方も消えてしまうのよ!」
 「私はどうなってもいい!キョン君を助ける、絶対に!」
 すべての力を振り絞り、優希は破壊エネルギーに抗らいながら、彼のもとへ、近づいて行く。

 キョン君の元にたどり着いた時、私の姿は人間としての形を保てず、情報生命エネルギー体の姿になっていた。
 キョン君の命はまさに尽きようとしていた。
 私のエネルギーも後少しで消えようとしている。急がなければ。早く彼を助けないと。
 ”?”
 その時、私はある物に気付いた。金属の棒。未来人の道具。それにはキョン君の生命情報が刻んであった。
 ”そうだ、これを使って、私のエネルギーを、キョン君の生命情報エネルギーに増幅変換すれば、彼を助けられる”
 彼と共に生きた世界。私が愛した彼が生きた世界。彼の命と共に、私はすべてを守る。
 図書館での出会い、文芸部、シャミセン、夏休み旅行、恋愛小説、体育祭、学園祭、二人で行った大学、彼からもらった
プレゼント、クリスマスの事、色々な思い出、一緒に受験して、四月からは一緒に大学生になる――
 すべての事が一瞬にして蘇ってくる。

 ”さようなら、キョン君。私が大好きな人”

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最終更新:2013年04月29日 14:37
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