70-375「佐々木さんのキョンな日常 最終章 真相~再生その20~」

"佐々木・・・佐々木・・・”
 虚無の闇の中で、私を呼ぶ声が聞こえる。
 ”佐々木”
 私の頬に、暖かい手が触れる。彼の感触。私が愛するキョンの手。
 彼の腕が私を抱きしめる。彼の体温と生命の鼓動。私に人を愛する喜びを教えてくれたキョンの体。

 「キョン!!」
 彼の名を叫ぶ。彼が私の目の前にいる。私を守るように、私を全身で感じるように、強く、でも包み込むように
優しく、暖かく、私を抱きしめている。



 気がつくと、俺は不思議な空間にいた。
 佐々木の閉鎖空間に似ているが、淡い光子粒に彩られた、乳白色の世界。
 ”確か、俺は・・・・・・”
 朝比奈さん(大)に撃たれ、俺は瀕死の重傷を負った。耳元に佐々木の悲鳴と鳴き声が聞こえ、俺は意識が遠のいて
行くのを感じた。
 自分の体を見ると、傷跡も血流もない。
 ”佐々木”
 自分のすぐ横の地面に、佐々木が眠ったように横になっている。泣き疲れた子供のように、綺麗な顔立ちの頬に涙の
跡が残っている。
 ”心配させて済まなかった”
 しかし、誰が俺を助けてくれたんだ?

 光子粒の中から、小柄な女子生徒の姿が現れる。俺がよく知っている女性。佐々木の世界でも、ハルヒの世界でも、俺が
信頼を寄せた存在――長門。
 メガネをかけていない。ということは長門有希の方だ。
 「あなたたちが無事で良かった」
 平坦ながらも、俺だけにしかわからない、長門の安心したような声。
 「長門、一体この世界は何だ。俺が倒れたあと、何があったんだ」

 「あなたが佐々木の世界を選んだことにより、未来人は佐々木を抹殺することを決定した。朝比奈みくるの異次元同位体
は、そのことを知らず、細工が施された銃であなたを撃った。そのことにより、佐々木の次元改変能力が暴走し、元々歪んで
いた時間軸は無理を重ねた反動で一気に崩壊した。現在、私たちがいた時間軸、朝比奈みくるがいた未来社会は、消失している」
 「なんだって?それじゃ朝比奈さんは、どうなるんだ?」
 「まだわからない。現在、この時間軸は再構成されつつある。その時間軸に我々情報生命体ですら存在しているのかどうかも
わからない。天蓋領域、情報統合思念体ですら、この件に関しては無力だった。彼らはこの惑星からの撤退を検討しているようだ」


 長門の言葉に、俺は言葉を失う。時間軸の破壊。過去や未来を含めた時空間の消滅。宇宙勢力ですら手出しできなかった”力”。
 佐々木と俺により発動した”力”は、現在世界を再構築しているという。そこは一体、どんな世界なんだ?
 「全ては佐々木とあなたの選択により生まれる。彼女がどのような世界を望んだか、だ」

 「ところで、俺を助けてくれたのは、長門、お前か?」
 俺の問に、長門は首を横に振った。そして、俺の胸元に視線を向ける。
 ”?”
 俺の制服の胸ポケットに、何か入っている。取り出してみると、それは眼鏡だった。そして、それには見覚えがあった。
 長門優希の眼鏡。あの世界で俺たちと共に生きた人間としての長門。
 「彼女があなたを救った。破壊のエネルギーが渦巻く中、誰も手が出せない状態で、優希は自らを生体エネルギーに変え、あなた
を生き返らせた。すべてを救ったのは彼女。私は何もしていない」

 俺の脳裏に、長門優希との思い出が蘇ってくる。少しはにかんだような微笑みを浮かべ、何事にも一生懸命頑張っていた、俺の信頼
出来る存在。
 知らず知らずの内に涙がこぼれて来る。俺を助けて、優希は消えたのか。
 「そうではない。彼女はあなたの命となってあなたと共に存在している。彼女の記憶は私がうけついだ。あなたと私がいる限り、彼女は
私たちの中で存在し続ける」
 そう言って、長門は眼鏡を受け取り、自分の顔にかけた。


 初めてあった時の長門、改編された世界で出会った、俺の袖を引いた少し悲しげな表情の長門、そして長門優希。
 再構成された世界がどのような世界になるのかわからないが、どんな世界になろうとも、長門には存在してとほし
いと思う。
 「あなたに頼みがある」
 俺に出来ることなら、なんでもするさ。
 長門は俺の側によると、俺に抱きつき手を廻した。
 「……あなたに『ゆき』と呼んで欲しい」
 俺はそっと長門を抱きしめ、その名を呼んだ。

 優希が書いた恋愛小説。文芸部誌に書いた小説の続き。彼女だけの物語。少年と少女は、気持ちが通じ合い、共に
同じ道を歩み出す所で終わっていた。彼に恋し、愛した私の分身。彼への思いが生み出した人間としての私。彼を守
り、彼の命となった。
 形は違うけど、彼と優希は結ばれたのだと、私は思いたい。

 長門が俺から離れ、世界は白く輝いて行く。
 「再構築がそろそろ終わる。新しい世界でも、私はあなたにまた会いたいと思っている」
 また直ぐに会えるさ。
 世界は輝きを強くしていき、俺の姿も佐々木の姿も長門の姿も、その光の中に溶け込んでいく。
 姿が見えなくなる直前、長門は俺に向かって微笑んでいた。

 -----------------------------------------------------------------------------------------------------

 「佐々木?」
 私を呼ぶキョンの声に、私はハッと我に返った。
 「大丈夫か?お前らしくないな、ぼーっとして」
 キョンの腕の中。約束の日。約束の場所。そして2人の約束。
 「ごめんなさい、キョン、僕……私は……駄目だ、君に話す時はどうしても今までどうりになってしまう」
 「いいよ。今まで通りで。慣れた方でいいよ」
 「ありがとう。キョン。僕は嬉しい。本当に君の恋人になれたんだね。二年間、正直不安もあった。心が変わっ
てしまうんじゃないかと。でも君は待っていてくれた。君を好きになって本当によかった」
 再び私はキョンに強く抱きついた。
 「僕を離さないでくれよ、キョン。ずっと君の側にいたい」
 キョンが私をだきしめ、そして唇を重ねてくる。
 「俺からもお願いするよ。それと、俺を好きになってくれてありがとう、佐々木。少しはお前の側にいても恥ず
かしく無い人間になれたかな」
 「君は立派になったよ。君の恋人になれた事は、僕にとって誇りだよ」

 「あんた達いつまでいちゃついているのよ!!」

 声の主・涼宮さんがペリカン口の仁王立ちで、いつのまにか私達の側にいた。
 「今日は今から卒業パ-ティなんだから、急ぎなさいよ。古泉君達も来てくれるんだからさ。鶴屋さんもみくる
ちゃんもくるし、朝迄騒ぐわよ」
 「おいおい。歯目を外し過ぎるなよ。卒業しても、3月終わるまでは北高生なんだからな」
 「あんた、有希と同じ事を言うのね。まあいいわ。とにかく2人とも急ぐわよ!」
 涼宮さんは私とキョンの手をとり、一気に駈け出した。
 「おい、無茶するな!」
 涼宮さんの強引な力に引っ張られながら、キョンと顔を見合わせ、2人で苦笑した。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年04月29日 14:41
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。