71-771『海水浴』

夏。海の浜辺。俺達は抱き合っていた。
「痛っ……」
佐々木が痛みに堪えかね、声を上げる。
「大丈夫か?」
「大丈夫……と言いたいが、ね……」
顔をしかめる佐々木。紅潮した頬を向け、眉を寄せる。
「一気に行くぞ。」
「頼むよ……」
数瞬の間。
「くっ……ああーっ!」
俺は佐々木の――――

「ちょっと待った!」
ビキニ姿のハルヒが俺と佐々木の間に入った。
「どうした?ハルヒ?」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわよ!何よ、さっきの三文モノローグは!」
き、きょうびは、モノローグにまでケチを入れられるのか?
「足が釣っただけで、どうして雰囲気出す必要があるのよ!あざといわよ、佐々木さん!」
「あ、また足が(棒読み)」
「大丈夫か?また伸ばすか?」
俺が佐々木に寄ると、ハルヒは顔を真っ赤にして叫んだ。
「あざといわ!キョン、あたしも足が釣ったから伸ばして!」
「お前もかよ……そうなれば手が足りんな。」
砂浜に寝そべる二人。そうだな……長門あたりに頼……
「佐々木さんのふとももーッ!」
山賊顔をした橘が、浜辺を走る。……ツインテールに白のビキニ。清楚な感じが、いかにも橘らしい。
「私が伸ばすのですよ!ああ、ついでに足の指の間まで私の舌を駆使したケアをひとつひとつ、順番に順番に、入念に入念に私の(以下、表記不可)!
キョンさんは涼宮さんをお願いするのです!」
脳味噌が膿んでいるのか、こいつは!山賊顔の橘が佐々木にルパン飛びをし……

目測を誤り、ハルヒにフロッグスプラッシュ敢行。怒ったハルヒから逆襲のSTFを食らい、涙目でタップ……。
STFは『ステップオーバー・トゥホールド・ウィズ・フェイスロック』といって、フェイスロックも痛いには痛いが、主に痛いのは足だ。
足にバット挟んで座ってみろ。あの感覚だといっていい。
怒りが収まらないハルヒが、裏STFに移行した頃、ビキニパンツが目に眩し過ぎる古泉が俺の前にいた。


「涼宮さんも大変ですねぇ。復讐した事により、閉鎖空間は発生しなかったみたいですが。」
助けてやれよ。橘、涙声になってるぞ。
「自業自得です。久々に閉鎖空間の処理から解放されているので、たまには羽を伸ばさせてもらいますよ。
肌には良くないですが、甲羅干しをやろうと思いましてね。」
「ほう。」
古泉が苦笑する。
「んっふ。生っ白い、とある方から言われまして。せめて肌を焼いて多少は、ね。
どうです?あなたも一緒に甲羅干しを……」
「いいかも知れんが、佐々木がな。」
佐々木は肌が弱く、日焼けすると真っ赤になるのだ。今もUV対策はバッチリ決めている。
「そうですか。ではまた。」
古泉がサンオイルを塗る。本当にハルヒのご機嫌取りをしなくていいのは久々なのだろう。その顔は、年頃同様幼く見えた。
筋骨隆々の身体にサンオイルを塗り、テカった古泉は……気持ち悪さ満点だったが……。
「キミが僕の肌を覚えていたとは意外だね。」
佐々木がパラソルの下に行く。
「……中学の時にお前の赤ら顔見たら、な……」
夏期講習で、真っ赤な鼻をした佐々木がいたのだ。覚えていないわけがない。
「古い証文を。」
佐々木がクーラーボックスから水を取る。一口含むと海の家を見た。
「長門さん達も楽しそうだね。」
「藤原がえらい事になっているがな……」
スクール水着の周防、長門。ワンピース姿の朝比奈さん。ワンピースだと、よりいやらしく感じるな……
そして泣きながら財布を振る藤原。
「……全く。キミは凹凸ある身体が好きだねぇ。」
一瞬心を読まれたかと思い、振り向いた俺に佐々木は言った。
「さて、親友。そろそろ行くかい?」
「どこにだ?」
佐々木は喉を鳴らすと、人だかりを指差す。
「キミも、古泉くんの休暇を妨げるのは本意であるまい?」

「はあああ!凹凸のある身体も良いものなのです!」
「い、いやっ!だ、誰か!助け……」

攻守逆転。橘にハルヒが押し倒されている。ハルヒが涙目というのも珍しいな。佐々木はニッコリ笑うと……
空になったクーラーボックスを、橘の上でひっくり返した。


「謝りますから、助けて欲しいのですよ……」
しくしくと泣く橘。怒り狂ったハルヒが、砂浜に穴を掘って橘を埋めている。
顔だけ出た橘が、憐れみを乞うようにこちらを見ているが……すまん自業自得だ。助けてはやれん。
「助けてくれたのは感謝するけど……もう少しやり方ってないかしら?」
「くっくっくっくっ。」
橘を埋め終えたハルヒが、佐々木に苦情を言う。
「あー、お腹すいた。海の家に行って何か食べよっか、キョン、佐々木さん。」
「だなぁ。」
同意すると、二人は示しあわせたように言った。

「「勿論、アンタ(キミ)の奢りで。」」

……凶悪に可愛い笑顔と、最強に穏やかな笑顔。
「やれやれ。焼きそばでいいか?」
「たこ焼きもあるといいわ。」
「炭水化物尽くしね……肥りそう……」
「スタイル自慢?ふん、鶏ガラ。」
「うるさいよ、ラード。トウモロコシでも食べてたらどう?」
「あれも炭水化物じゃない!」
「喧嘩すんな、ったく。」

こんがり焼いた古泉、食べ過ぎてお腹が少し出た長門と周防、マイスウィートエンジェル朝比奈さん、涙目の藤原が合流し、帰り支度を始める。
「今日は楽しかったわ!」
皆の総意をハルヒが言い、お開きとなった。

「満潮なのですよ……」
すっかり忘れられた橘。組織に保護されるまで、じっくりと恐怖を味わい続けたという……。

だからといって、微塵も懲りないのが橘たる所以だが。やれやれ。

END

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最終更新:2013年09月09日 02:22
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