帰省~お盆狂想曲~ 佐々木さんどきどきナイトその一
*世界観は、俺の後ろに○○○はいない。いるのは・・・・・・ の延長みたいな世界です。
お盆には七月盆と八月盆がある。俺らが住んでいる地域及び田舎のほうでは、七月盆が主流なので、
それが当たり前だと思っていたのだが、佐々木の祖父母さんが住んでいる地域及び全国では八月盆が
主流であると、佐々木に習ったのは最近のことである。
「あれだけニュ-スで帰省に伴う交通渋滞が報じられているのに?」
佐々木はやれやれとつぶやき、首を降った。
「じゃあ、キョン、君はお盆に帰省した経験がないのかい?」
だいたい黄金週間に親戚一同集合するのが主流だな。
「ふむ、キョン。実は僕は今度のお盆に、母親の実家を尋ねる予定なのだが、どうだろう、君も一緒
に来ないか?うちの田舎ではお盆は祭りを兼ねているのでね。普段は静かなのだが、この時期は結構賑
わうんだ。良き日本の風習を味わうために来てみないか?」
親族でもないものがお邪魔して良いものだろうか?と考えたのだが、遠慮はいらないよ、という言葉
に甘えて、俺は佐々木の田舎にお邪魔することにした。
”いずれ、家族になるのだから気にしない、気にしない”
何か佐々木が言ったのだが、小声だったため、良くは聞こえなかったのだが。
佐々木の田舎は、県北部の、隣の県との境に近い、山に囲まれた土地で、歴史ある宿場町の流れを組
み、更に山を越せば日本海も近いという、自然に恵まれたところである。
「だから名物料理に事欠かない。海の幸と山の幸が十里以内で手に入るため、”御食之地”とも称さ
れたところなんだよ」
なるほど。うっかり八兵衛じゃないが、名物料理に何があるんだ?
「時期的には少し外れるけど、蕎麦が有名だね。山芋の産地としても名高いから、麦とろろは旅館や
、食堂には必ずあるメニューだね。後は合鴨、地鶏、但馬牛、それと朝来川のうなぎと白魚は外せないかな」
詳しいな。さすがは佐々木だ。
佐々木の祖父母の家というのは、播州瓦の白壁作りの趣のある白壁和風の家で、元は地主だったそうで、
現在でも佐々木の伯父さんが生産法人(佐々木がそういったのだが、よくわからん)を作って大規模農業を
展開しているそうだ。(ちなみにその伯父さんの家は、佐々木の祖父母の家の隣であり、これまた風格があ
る家だ)。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ただいま」
玄関を開けて、佐々木が家の中に呼びかけると、年はとっているが、矍鑠とした動きで、元気そうな老夫婦
が奥から出てきて、孫と俺を迎えてくれた。
「おじいちゃん、おばあちゃん。こちらがこの前話した私の親友のキョン。ここの祭りを見たいと言ってい
たから連れてきたよ」
「おお、君がキョン君か。娘と孫がいつも話しているよ。よく世話になっているそうだね」
とんでもないです。世話になっているのは俺の方です。高校に合格できたのも佐々木のおかげです。
俺は深々と佐々木の祖父母に頭を下げた。
「礼儀正しい人ねえ。これなら○○○(佐々木の名前)も安心ね」
佐々木のお祖母さんが軽やかに笑ってそう言った。
日中は佐々木の案内で、この地域の観光名所を見て回った。佐々木の詳しい解説付きだったので、この地域
の歴史がよく分かり、実に興味深いものだった。
夕食はご馳走だから、昼は軽く食べようという提案に従い、名物のそばを食べることにした。ここら辺の蕎
麦は、そば粉のつなぎに山芋を使うというものだが、夏バテにも効くそうである。
「今年は特に暑いから、夜でも気をつけておかないと、体力を消耗するよ」
夕食は佐々木の祖父母が腕によりをかけてくれたものだった。
朝来川の天然物の鰻の蒲焼丼に地鶏の鍋に(有精卵に浸して食べる)、但馬牛の一皿焼肉と、なるほど体力が
つきそうなメニューである。
「夏と夜を乗り切るには、若いものはこれくらい食べなきゃいかんよ、キョン君」
佐々木のお祖父さんは、そういって、豪快に笑った。
帰省~お盆狂想曲~ 佐々木さんどきどきナイトその二
夕食のあと、八〇〇〇発の花火と城跡公園での大市民盆踊りを鑑賞(踊りには俺たちも参加した)しに出かけ、
その後、俺達は夜風に身を晒しながら、佐々木の祖父母の家に戻った。
二人共浴衣姿で出かけたのだが、佐々木の朝顔の絵柄の浴衣姿はとてもよく似合っていて、月夜に照らされた白く
細いうなじはとても綺麗だった。
家に戻り、シャワ-を浴びて、着替えたあと、少し疲れたこともあって早めに眠ることにしたのだが・・・・・・
あの~佐々木さん。これはどういうことでしょうか?
立派な畳の敷かれた和風の客間に、布団が二つ並べられている。あいだに仕切りなどありません。そして布団の距離が
近いのですが。
まさかと思いますが、二人で一緒にこの部屋で休めということですか?
「どうやらそうみたいだね」
何を考えているのだ、お前の祖父母は?
「まあ、君なら信用できると思ったのじゃないかな。二人共君を気に入ってくれたようだし」
うむ~。しかし、俺もその思春期の男だし、その理性を持って事に当たるのではあるが、間違いは犯さないように誠心
誠意をモットーに・・・・・・とにかく、ここはお祖父さまたちの信用を裏切らないようにせねば。
「そういえば、おじいちゃんもおばあちゃんもいないみたいだね。伯父さんの家にでも行ったのかな?」
理性 理性 理性。人間信用第一です。
しかし、その夜はなぜか体が火照ったような感じでなかなか寝付けない。まあ、当然といえば、当然だ。
”なんせ、佐々木が隣にいるんだから”
無防備な、美しい、綺麗な寝顔を晒して、俺のすぐそばで佐々木は休んでいる。こんなに近くで、佐々木の顔を見るのは
初めてのことだ。
「こんな綺麗な美人が俺のことを親友と呼んでくれるなんてな」
中学時代に出会い、一緒に北高に進学し(というか佐々木のおかげでかろうじて合格したわけだが)、今じゃ俺の親友であり、
そして・・・・・・
「俺の大切な、気になる存在」
佐々木を大事にしたいと思う。俺たちの関係を大切にしたいと思う。
「おやすみ、佐々木」
なんとか心を落ち着け、眠りに着く前に俺は佐々木にそっと呟いた。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
次の日の朝
朝っぱらから、俺の大音量の叫び声が客間に響きそうになった。
目が覚めると、俺の目の前に佐々木の顔があった。
恐る恐る体を起こすと、何故か俺の布団に佐々木が入っていた。
”カミ二チカッテボクハナニモシテイマセン”
とりあえず、佐々木を起こさないように、そっと布団を抜け出し、部屋の外に出てみる。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
「寝ぼけたのか、佐々木は」
とりあえず、知らないフリをしておこう。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「全くキョンは真面目なんだから」
キョンが部屋を出て行ったあと、私はため息を付いた。
「私だって、結構ドキドキしたんだから」
ちょっとした冒険。自分の素直な気持ち。でも、私たちにはまだ早いかな。
”それでも”
昨夜のキョンの言葉。
”こんな綺麗な美人が俺のことを親友と呼んでくれるなんてな””俺の大切な、気になる存在”
キョンの気持ちを知ることができた夏の日。思い出に残る一夏の冒険。
最終更新:2013年10月20日 17:16