72-31「~夏の終わりに~」

 あと二日で夏休みは終わる。
 去年の夏休みの、最後の日のことを私は思い出していた。

 あれから一年。
 「キョン、いるかい?」
 キョンの家のインターフォンを押すと、家の中からキョンの妹ちゃんが出て来た。
 「佐々木のお姉ちゃん、いらっしゃ~い」
 キョンと二人で私の母の実家に遊びに行ったとき以来、この家には来ていないけど(キョンは私の家によく来ている)、
妹ちゃんは夏休みを満喫していたらしく、かなり健康的に焼けていた。
 「キョン君ならいるよ。自分の部屋でクーラ-かけて涼んでいるよ」
 その様子も、去年と全く同じだ。
 キョンの家にあがり、キョンの母親に挨拶をして、私はキョンの部屋のドアを叩いた。

 「・・・・・・え?」
 我ながら、少し間抜けな声を出した。
 「夏休みの宿題だろ?今年はもう、全て終わらせたぜ」
 妹ちゃんが持って来てくれたジュ-スを飲みながら、キョンは胸を張って、そう言った。
 「去年は終わりがけになって、大慌てで佐々木に手伝ってもらって、片付けてなかった宿題をやっただろう?めちゃくちゃ朝早く
から、夜の九時近くまでかかったよな」
 中学生だった去年、課題を終わらせていなかったキョンに頼まれ、呆れた表情で(内心大喜びで)手伝いをすることをOKして、キ
ョンの部屋で、朝早くから課題に取り掛かり、ようやく仕上げたものだ。
 「いくらなんでも高校生になったんだし、中学生の時と同じことをしていたら進歩がないってもんだ。去年は佐々木に迷惑をかけ
たしな」
 迷惑だなんて思ってはいない。あの時間は、中学時代の大切な、夏の思い出だ。
 「キョンも少しは成長したんだね」
 「まあね。だから、今、のんびりしてるわけだ。しかし、面倒なことは先に終わらせておくといいものだ、て実感したよ」
 「なにごとも経験することは重要なことだよ、キョン」
 キョンの成長。少しづつ大人に、人間としても成長していくこの時期。そして、私もまた、大人へと近づいていく。
 「ところで、佐々木。お前のことだから、当然課題は早々と終わらせているんだよな?」
 「もちろん。夏休み前半には終わらせておいたよ」
 「だったら、今から出かけないか?いつもお前にはいろいろ世話になっているから、去年の分も含めて、な。去年は飯食いに
いったぐらいだし、お礼をしないと」
 去年は休みが終わった後、キョンがファミレスでおごってくれた(その現場を国木田くんに見られたけど)。
 「いいのかい?キョン。少し高くなるよ」
 「構わないさ。お前にお礼をすると思えば、安いものだよ」
 「それじゃ出かけようか。クーラ-の効いたこの部屋で過ごすのも悪くないけど、君がどんなお礼をしてくれるのか、楽しみだね」

 あと少しだけ、私達の夏は続きそうだ。

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最終更新:2013年10月20日 17:19
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