あと二日で夏休みは終わる。
去年の夏休みの、最後の日のことを私は思い出していた。
あれから一年。
「キョン、いるかい?」
キョンの家のインターフォンを押すと、家の中からキョンの妹ちゃんが出て来た。
「佐々木のお姉ちゃん、いらっしゃ~い」
キョンと二人で私の母の実家に遊びに行ったとき以来、この家には来ていないけど(キョンは私の家によく来ている)、
妹ちゃんは夏休みを満喫していたらしく、かなり健康的に焼けていた。
「キョン君ならいるよ。自分の部屋でクーラ-かけて涼んでいるよ」
その様子も、去年と全く同じだ。
キョンの家にあがり、キョンの母親に挨拶をして、私はキョンの部屋のドアを叩いた。
「・・・・・・え?」
我ながら、少し間抜けな声を出した。
「夏休みの宿題だろ?今年はもう、全て終わらせたぜ」
妹ちゃんが持って来てくれたジュ-スを飲みながら、キョンは胸を張って、そう言った。
「去年は終わりがけになって、大慌てで佐々木に手伝ってもらって、片付けてなかった宿題をやっただろう?めちゃくちゃ朝早く
から、夜の九時近くまでかかったよな」
中学生だった去年、課題を終わらせていなかったキョンに頼まれ、呆れた表情で(内心大喜びで)手伝いをすることをOKして、キ
ョンの部屋で、朝早くから課題に取り掛かり、ようやく仕上げたものだ。
「いくらなんでも高校生になったんだし、中学生の時と同じことをしていたら進歩がないってもんだ。去年は佐々木に迷惑をかけ
たしな」
迷惑だなんて思ってはいない。あの時間は、中学時代の大切な、夏の思い出だ。
「キョンも少しは成長したんだね」
「まあね。だから、今、のんびりしてるわけだ。しかし、面倒なことは先に終わらせておくといいものだ、て実感したよ」
「なにごとも経験することは重要なことだよ、キョン」
キョンの成長。少しづつ大人に、人間としても成長していくこの時期。そして、私もまた、大人へと近づいていく。
「ところで、佐々木。お前のことだから、当然課題は早々と終わらせているんだよな?」
「もちろん。夏休み前半には終わらせておいたよ」
「だったら、今から出かけないか?いつもお前にはいろいろ世話になっているから、去年の分も含めて、な。去年は飯食いに
いったぐらいだし、お礼をしないと」
去年は休みが終わった後、キョンがファミレスでおごってくれた(その現場を国木田くんに見られたけど)。
「いいのかい?キョン。少し高くなるよ」
「構わないさ。お前にお礼をすると思えば、安いものだよ」
「それじゃ出かけようか。クーラ-の効いたこの部屋で過ごすのも悪くないけど、君がどんなお礼をしてくれるのか、楽しみだね」
あと少しだけ、私達の夏は続きそうだ。
最終更新:2013年10月20日 17:19