72-152「ダーウィンさんいらっしゃい」

「キョン、君はヒグマと格闘して勝てるかい?」
どこのグラップラーさんだ。無理に決まってる。
「チーターと競走して勝てると思うかい?」
カール・ルイスがドーピングしても無理だろう。
「自分の子供を他人の家庭に育てさせることは?」
中学三年生男子にどういう質問をぶちかましてくれるんだお前は。
「いずれも人間が及びも付かない生物たちの例を挙げたまでだよ」
最後のはカッコウの托卵かよ。焦らせるな。
「くっくっ、どんな想像をしたのかな」
ええい、その笑いをやめろ。
「失礼。別に君に他の女と交われと言ったわけではない」
それがオリンピックとどう関係するんだ。
「話を戻そうか。オリンピックは人間の肉体の祭典だ。
 もちろんその精神も企画も素晴らしいとは思うよ。IOCの現状はさておくとしてもね」
あー、黒い話は置いておこう。まともに中継が見れん。
「賛成だ。しかしね、人間がいかに努力してもどうにも及ばない生物たちが
 この地上にはいくらでもいるということだよ。
 それは身体能力であったり、あるいは繁殖力であったりね」
言われてみれば人間は生物的には劣等種だな。
繁殖も一年に一回が限度だ。よく六十億も増えたもんだ。
「君の貞操観念が確認できて嬉しいよ。
 それはさておき、僕は人間が及ばない生物たちを見ながら、人間が万物の霊長を名乗るおこがましさを感じずにいられなくなるときがあるのさ。
 同時に、生物というものの凄さもね」
全ては最初期のアミノ酸から始まったわけだからな。
子々孫々と繰り返していくうちに、かくもここまで地球は変貌したと。
卵が先なのか鶏が先なのかわからんが。
「僕は卵が先だと答えるね。
 遺伝子の連鎖とは生物の発生の際に少しずつ変わって行くのだろう。
 誕生後に遺伝子が大きく組み換えられることは無いよ。少なくとも今の人類技術ではね。
 ヒヨコが誕生してから違う生物にしようとしても無理なのさ」
その発生というのは個体発生のことだな。
「先日の授業で出てきた単語をよく記憶していたね。上出来じゃないか」
受精卵の段階で次が決まるということか。
「そうだね。僕らの子供はまた一つ、何か進化しているかもしれないということさ」
その誤解を招く言い方をやめろ。俺らの次の世代ということだな。
「そうだね、誤解を招くのならば済まなかったと言っておこうか」

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最終更新:2013年12月08日 01:28
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