72-192「秋月宵華談~俺の後ろに佐々木がいる~」

 お盆の時期に、佐々木の誘いを受け、佐々木の母親の実家に連れて行ってもらってから、ひと月。
 初秋の三連休に、俺はまたしてもそこにお邪魔することになった。
 ついこの間まで、猛烈な夏の暑さに体もバテ気味だったが、最近では朝晩涼しい空気が心地よく(昼間はまだ少し暑いが)
 、体力も回復してきた。
 このあたりは俺達が住んでいる所より、自然の移り変わりを感じる事が出来る。
 「彼岸花が多く咲いているな」
 「もともとこのあたりは田畑が多いから、もぐらよけに多く植えてあるんだよ。それがいつしか名物となって、河原やあぜ道
、裏路地にも植えて、だんだん増えていったんだ。もうすぐ秋桜も咲き始めるから、それを目当てに来る人も増えるよ」
 今、二人で川沿いを散歩しているが、河川敷に秋桜が植えてあるらしく、早めに咲いた秋桜の姿が見受けられる。それらが咲
き誇ったとき、さぞかし綺麗な風景が見られるだろう。
 「秋桜の後は紅葉と、このあたりは見所が多いんだ」
 それも見てみたい気がする。

 佐々木の祖父母の家の縁側に、薄を花瓶にさして、その横に、白玉団子と栗と里芋が添えられて並べてあるのを見た。
 「そうか、お月見の時期か」
 この前のお盆以来、佐々木からいろいろ教えてもらい、少しは日本の風習について関心を持つようになった俺だが、実際に月見
飾りをしている家を見るのは初めてだ。
 「この辺では待月夜(たいげつや)と言って、中秋の名月の3日前ぐらいから飾り付けるんだ。今年は18日が満月だから、ちょう
ど今日からが飾り付ける日なんだ」
 佐々木の説明に感心していると、庭の草木をかき分けて、目の前に丸々と太った兎が現れた。
 「まさか月の兎か?」
 「いや、これは僕の叔父さんが飼っている兎だよ。放し飼いにしているんで、よくここにもくるんだ。キョン、触ってみるかい?」
 佐々木にだきかかえられて、兎は怯えるわけでもなく、おとなしくしている。
 そっと触れてみると、柔らかい毛ざわりと兎の体温が俺の手の平に伝わって来た。

 夕食の準備は、俺と佐々木でお祖母さんを手伝い、秋を感じる料理が食卓に並んだ。
 「これは僕の自信作だね」
 この地方特産の、いまからまさに旬を迎える栗を使った、栗と冬瓜と地鶏のポトフ風ス-プは、佐々木がかなり気合を入れて作って
いた料理だ。
 他に、栗とキノコの炊き込みごはん、秋刀魚、里芋と秋野菜の煮物等、佐々木のお祖母さんが作り続けて来た秋を感じる料理はどれも
美味しそうだ。
 「あんたのお母さんにも教えたけど、あんたもこの料理、覚えておきなさい。将来の旦那さんにも作ってあげるんよ」
 お祖母さんは何故か俺の方を見たあと、微笑いながら佐々木にそう言った。


 お風呂に入ったあと、俺と佐々木は縁側にいた。
 満月ではないが、いままさに満ちていこうとする月の光が、俺たちと宵闇を照らしていた。
 秋の虫(マツムシとか興梠とか鈴虫とか)の音色が静かな田舎の夜に響いている。
 ここの庭に咲いている姫向日葵、(この町の花でもある)竜胆、トルコ桔梗、女郎花などの秋の草花も月下に照らされ、、少し遠くに、
かすかに彼岸花の姿も見える。
 その静かな夜の風景に、俺達もしばらく無言のままだった。
 佐々木の祖父母さんたちは明日農作業があるから、と早めに休んでいてた。
 「・・・・・・ねえ、キョン。もう少し君の側に来ていいかい?」
 佐々木の言葉に、少しドキッとするが、俺は平静を装い、軽く頷いた。
 佐々木は俺の側に来ると、横になり、頭を俺の膝に預けた。
 「君の側にいると心が落ち着くよ。とても穏やかな気持ちになるんだ」
 そ、そうか。(俺は今、心臓が通常より早く運転しているのだが)
 「しばらくこうさせてくれないか」
 ど、どうぞ遠慮なく(佐々木のサラサラした髪の感触が感じられて、心地よいのと落ち着かない気持ちで、更に心臓が早くなる)

 ようやく心臓も落ち着きを取り戻し、佐々木を膝枕したまま、俺達は秋の夜長を過ごした。
 「ねえ、キョン」
 なんだ、佐々木。
 「また近いうちに、今度は紅葉の時ここに来ようか」
 そうだな。お前と二人でゆっくり紅葉をみるのも楽しいだろうな。
 「ここに来る楽しみがまた一つ増えたね」
 そう言いながら、佐々木は微笑み、俺も頷き返した。

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最終更新:2013年12月08日 01:34
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