72-xxx『ノート。~それは中学時代の事だ~』

「佐々木。お前はなぁ・・・、その性格はなんとかしたほうがいいぞ」
 なんて言われた。

 余計なお世話だとは言わなかった。
 余計なお世話だとは思った。

 これは中学時代の事だ。

 ああ、「僕」を知っているヒトなら誰だってそう言うだろうが
 これは「彼」の事ではない。
 担任教師の台詞だ。

 その、ヒトの見てないところで泣いてるような性格はなんとかした方がいい・・・

 今思っても、酷い言われようだと思う。
 けれど、これが思いやりから発した言葉だとは理解している。
 それに年長者のいう事は聞いておくものだ。
 そうだろう?

 それに担任教師と言うのは、生徒にアドヴァイスをするのが仕事と言うものだ。
 義務と言うものだ。

 だから、当時の「僕」は黙って頷いたものだよ。
 今だって黙って頷くだろうけれど。

「くっくっく・・・・・・」
 ようやくいつもの笑いを喉から捻り出せたことで、僕は我に帰ったと悟った。
 なんとも益体も無い、中学時代の記憶に立ち返っていたのだ。

 何故かって? そりゃあとある大騒動が終わった後だからさ。
 僕を知っているヒトなら解るだろう?

 僕は神様だといわれて、彼女が神様だといわれて、さあ戦えと促された。

 けれど実際気付いていた。
 これは、そんなシロモノではなかった。

 僕が、僕の気持ちを諦めるためのステージだったと言ったほうが正しい。
 彼が、彼の気持ちを確かめるためのステージだったと言ったほうが、より正しい。

 僕が誰で、彼が誰かって?

 ああ、僕が佐々木と呼ばれていることは冒頭で述べたね。
 それにこれは自問自答なんだ。

 だから、こんな問いかけをする事自体イミなんて無いのさ。

 けれど、だから考える。
 生きているから、生き続けるから、僕は考え続けるのさ。

 彼がたとえ僕と二度と会わなくたって
 彼のステージに二度と僕が登場しなくたって、僕は存在している。

 僕が居たことを、今度は彼は覚えていてくれるだろうか?
 そのモノローグで触れてくれるだろうか?
 触れて欲しいと思っている。

 ヒトは忘れ去られた時、本当の死を迎えるというだろう?

 だから忘れないで欲しいと願うのさ。
 そして、せめて「僕」を覚えていて欲しいと思うのさ。

 せめて彼の記憶の中の「僕」が、泣いていたりしませんように・・・・・
 涙を堪えていたなんて、決して思っていませんように。

 そうして僕は、じゃあねと笑って背を向けたのさ。

■とある大学生の雑記
「なんてノートが見つかったのだが」
「おいよせ」
 背が高い彼に手を伸ばし、黒歴史のノートを取り返す。

 ああまったく。
 キミは変わらないね。
 久々に再会したのにまったくもって変わらないね。

 久々に再会して、いろいろあって、一緒に暮らすようになったのに変わらないね・・・・
 やれやれだ。

 終わり

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最終更新:2014年05月08日 20:05
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