16-376「プール・海水浴で、熱中症で倒れた佐々木を保健室に運んで、本屋で佐々木さんは少女マンガを買っていて、愛読書は『フラクラな彼を落す108の方法』」

暑い。
むしろ熱い。
本日は気温38度の猛暑。
普段の俺ならば決して家の外には出ずエアコンの効いた自室でごろごろしてるだろう。
それでも俺がこんなところにいるのは母親から用事を申し付けられたためだった。
正直断りたかったのだが例のおごりのせいで金欠だった俺は提示された駄賃の前にほいほい出てきてしまったのだ。

『えーただいま○○線は人身事故のため運休しております。ご迷惑をおかけしております』

ついていなかった。
くそ暑い日に電車で他所へ向かわされることはついていない。
トラブルのせいで乗る予定の電車が大幅に遅れて未だに動く気配もないのもついていない。
そしてなによりいていないのは、此処が地下の駅では無いことだ。
申し訳程度に屋根はついているが、それでも横からの日差しは防ぎようがない。
そして、此処から先に進む電車はないが此処まで来る電車はあるためどんどんホームに人が増えていく。
そろそろ零れ落ちそうなメダルゲームくらい人が溜まっていた。
風通しが良いことが救いだったはずのこの場所も人の壁と人の発する熱のせいで体感温度はうなぎのぼりだ。

「あー、熱ちぃ」

「まったくだね、キョン」

いきなり背後から声をかけられた。
ゆっくり後ろを振り向く。

「……佐々木か」

「うん、奇遇だね。キョン」

後ろに立っていた佐々木はいつもの表情を浮かべていた。
しかし額には汗が浮かび心なしか呼吸も荒い気がする。
まぁ、この暑さじゃ無理もない。

「……飲むか?」

俺は手に持ったペットボトルのジュースを差し出した。

「いや、大丈夫。自分で買ってくることにするよ」

「だが、アレだぞ」

俺は自販機のほうを指差した。
俺が来た当初はまだそれほどではなかったが今はもうかなりの人がいる。
これだけクソ熱いと考えることはみな同じ。
自販機には長蛇の列があった。

「……やっぱり少しいただいてもいいかな?」

「おう、そーしろそーしろ。ちょっと温くなってるがな」

佐々木にペットボトルを渡してやる。
佐々木がペットボトルの口を凝視している。
なんかついてたか?
あ、飲んだ。
「ふー、ありがとう。生き返ったよ」

「なんだ、全部飲んでも良かったのに」

「それはさすがに君に悪いだろう」

生き返った、といっているが佐々木の顔は前より暑そうだ。
まぁ、焼け石に水っちゃそうだがな。

「ところで、君はどうしてこんなところにいるんだい?」

「ん、ああ。お袋に野暮用を頼まれてな、そんなときにこの不運というわけさ。お前は塾か?」

「ご名答、涼しい午前中にっていうコンセプトが仇になった形だね」

お互い不運というわけか。
そんな話しをしながら俺は佐々木から返されたペットボトルの残りを一気に飲み干した。

「あ……」

「ん?どうした、佐々木?」

「い、いや。なんでもない。そう、なんでもないよ。キョン」

佐々木の顔が見る見る赤くなっていく。
おいおい、これはまずいんじゃないか?

「おいおい、ほんとに大丈夫か?」

俺は佐々木の額に手を当ててやる。

「うわ、熱いぞ。お前これ熱中……」

「キョ、キョン……あ……」

「佐々木!?」

佐々木が突然ふらついた。
慌てて抱きとめてやる。
目を見ると少しうつろだし汗の量も尋常じゃない。

「ったく……よっと」

わずかな掛け声とともに佐々木を担ぐ。
軽い佐々木なら楽勝だ。
荷物をかき集めて医務室へ向かった。
頭に冷たいもの感じて目を覚ました。
ベッド……?これは……氷嚢かな?
僕はどうしたんだったか……。
塾の帰り……電車が止まって……。

「お、佐々木。起きたか?」

横から聞きなれた声が聞こえた。
聞き間違いはしない。これは……。

「キョン?」

「おう、大丈夫か?急に倒れるからびっくりしたぜ」

キョンがカラカラと笑っている。
そうか、キョンの前で倒れたんだったね。
悪いことしちゃったな。

「キョンが運んでくれたのかい?……ありがとう。迷惑をかけちゃったね」

「気にすんなよ、それより大丈夫か?」

……。
キョン、その手に持っているのはなんだい?

「ん、おおこれか?お前の荷物を持ってきたときに一つ忘れたみたいでな、親切な人が届けてくれたんだ」

見覚えのあるビニール袋。
そういえば帰りにちょっと寄ったんだっけ。

「で、暇つぶしに読ませてもらってたぜ。いやー佐々木がこういうの読むとは思わなかったな」

「ち、違うんだキョン。それは橘さんに勧められて……」

「少女マンガ、しかもがちがちのラブストーリーとはなぁ、俺もたまに妹のを読むが結構面白いよな」

……そうだな、キョンはこんなことで馬鹿にしたりはしないか。
焦って損をした気分だよ。
それでもまだ恥ずかしいけど……。
「……佐々木?まだ顔が赤いぞ、大丈夫か?」

っと、キョンに心配されている。
そういえば僕は熱中症で倒れたんだったか。

「面目無い。どうもこのところ部屋で勉強しっぱなしだから暑さに耐性がなくなったいたようだよ」

「おいおい、ほんとに大丈夫かよ……」

「でもそれぐらいやらなきゃついていけないからね」

本当のことだ。
でもそれを聞いたキョンは何か考え込んでいる。

「佐々木、今度遊びに行くぞ」

「え?」

「この時期ならプールだな、なんなら海でも良いぞ」

「え?え?」

「お前は無理しすぎなんだよ、ちったぁ遊べ」

……そういうことか。
やれやれ、キョンは本当に心配性というか。

「なんなら奢ってやっても良い、心配するな。今日ので駄賃がもらえる予定なんだ」

「そうだね……久しぶりに二人でどこか行きたいね、息抜きもいいかもしれないね」

「おう、そーしろ、そーしろ」

キョンがまたカラカラと笑う。
ほんと、優しいんだから。

「よし、のどかわいたろ。ジュースでも買ってきてやるよ」

「ありがとう、ポカリがいいな」

「おう、りょーかい」

そういってキョンは医務室からでていった。
電車が止まったときはついてないと思ったけど、実はかなりの幸運だったのかもしれないな。
……そうか、あっちの本は電車の中で読んでたから鞄の中だったか。
私はそう思って近くに置いてあった鞄を探る。
行動自体は偶然だったけど……まさか本当に効くとはね。


『フラクラな彼を落す108の方法』

その32
優しい彼はこっちが弱っているときは何もかも無視して助けてくれます。
少し心苦しいかもしれないけど、それを利用するのもありかも?

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最終更新:2007年08月05日 10:41
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