17-183「夏期講習」

17-39「縁」の続き?

『夏期講習』

「それで、期末はどうだったんだい?」

「おかげさんで、谷口をおおっぴらに馬鹿に出来るくらいには」

「くっく、その谷口君の成績は知らないが少なくとも赤点とは無縁って事でいいのかな?」

「まぁそんなとこだな」

俺がお袋の逆鱗に触れ塾に放り込まれてから1学期が過ぎた。
周りの雰囲気に当てられるからか、それとも佐々木の宣言が頭の片隅に残っているからか此処での俺の集中力は学校でのそれの比ではない。
そのおかげか俺の成績は以前からこの点数ならば塾にくることもなかっただろうというレベルまで持ち直していた。
なまじっかこういう風にあがるもんだからお袋は俺を塾に入れたがるんだろうな。
もちろんその期間も一番望んでいる奴だけを華麗にスルーしていく不思議体験は続いていた。
ああ、危なかった。きぐるみがあんなことになったときはどうしようかとおもったぜ。
佐々木が関わることも時々はあったが、幸い命に関わっているようなことは無いようで俺としてもほっとしている。
佐々木は一応一般人ではないらしいがその異能力の性質や立場上俺と一番近い位置にいるからな。こいつの苦労は良くわかる。
とまぁスポーツと勉学の両立ならぬSF体験と勉学の両立というハードスケジュールをこなしてようやく夏休みにこぎつけたというわけだ。
しかし、今年の夏休みは去年とは訳が違う。
去年のように遊びほうけた挙句最終日に宿題を終わらすなんてマネは出来ない。
夏期講習。ああなんて嫌な響きだ。
学校が休みになったときここぞとばかりに授業料を搾り取りに来る塾の策略だ。
俺の今年の夏休みのスケジュールは実に7割がこれで埋まっていた。
当然ハルヒのぶち上げた2週間かけてヨーロッパの古城探索ツアーなんていけるはずも無く再び古泉が閉鎖空間で奮戦することになった。
そのことを告げた時古泉は「機関の力で今季の成績をオール5にしますから着いて来てもらえませんか?」と涙目で言ってたな。
そんな俺の身の丈に会わないものは丁重にお断りしたがな。というかそんなこともできるのか機関。
だが仮にスケジュールがあっても家にはそんな費用は無いんだが……。
ま、古泉の新しい親戚が何とかしてくれる予定だったんだろうな。
俺がいけなくてもあいつらだけで行けばいいようなものだがハルヒ曰くSOS団全員で行かなきゃダメらしい。
帰属意識ってやつかね。

「くっく、じゃあ次は国木田を馬鹿に出来るくらいを目指そうか?」

「……おいおい、そりゃ学年トップレベルじゃなきゃ無理だぜ」

「目標は僕と同レベルのはずだろう?大丈夫、今のペースなら学年末くらいには僕と志望校を同じにするくらいまでいけるはずさ。評定はともかくね」

「30点を60点にするのと60点を90点にするのじゃ労力が違うだろうが……」

「もちろんその辺も計算に入れての期間だよ。君のポテンシャルと僕の教授も計算に入れてるけどね」

「だから買いかぶりすぎだっつーのよ」


夏期講習って奴は一日ぶっ続けて行う。
朝っぱらから昼休みを挟んで午後の3時まで。
今はその昼休みだ。
懐かしい中学のころのように俺と佐々木は席を同じにして昼食をとっていた。
どうも佐々木の奴は俺を過剰に評価する傾向があるな。ある意味ハルヒとは真逆といえる。
それともこれが佐々木流の教授法だろうか?褒めて伸ばすタイプって奴か。
だとしたら割かし効いているかもしれない、親友の期待は裏切りたくないからな。
「そうかな?君は最近課題も忘れないし、自覚が出てきたんじゃないか」

「課題はSOS団の時にやってるんだよ、今までオセロだったのを勉強に変えただけだ」

「ふむ、やっぱり強制的に時間を取らされないとやれないのだね、君は」

そういって佐々木は顎に手を当てた。
中学のころから変わらない何か考えているときの仕草だ。
佐々木はハルヒと違って突飛なことは考えない。
しかし完璧に理論武装してから提案するためたとえ俺にとって多少不都合なことでも拒否することが不可能な場合が多々ある。
ハルヒの場合はイエスマン古泉と多数決の名を借りた数の暴力のせいで従わされる訳だからこの辺も真逆といえるかもしれない。
……根底にあるベクトルが同じなのは如何ともしがたいが。
佐々木の言うことをごまかせるだけの口のうまさは俺にはない。
今佐々木の考えていることが俺にとって不都合でないことを祈るばかりである。
まぁ、きぐるみ着てバイトしなさいとは言い出さないからそこまでは身構えてないんだけどな。

「さて、そろそろ午後の授業だ。キョン、寝たらダメだよ?」

「努力はする。俺のまぶたが許してくれたらな」

「……肩をつつくくらいはしてあげるよ」

「助かる」
と、まぁ佐々木のおかげもあって午後の授業も真面目に受けることが出来た。
本日の授業はこれでおしまい。
3時終わりというのはなかなかお得感があっていいかもしれない。
実際は一日休みのはずだった日としてもな。

「さて、佐々木。今日はどうするんだ?」

いつものように塾の終わった後は佐々木との親交を深める時間となる。
夏期講習に入る前の土曜日にそうしていたようにこれから3,4時間くらいはどこかで過ごすことになるだろう。
さて、今日の佐々木さんはなにをなさるおつもりか。
喫茶店かカラオケか、この間音ゲーにはまっていたようだし意外とゲーセンかもしれない。
いや、俺もかなりはまったから願望でもあるわけだが。

「うん、今日は僕の家で勉強会にしないか?」

「……なに?」

「君はさっきSOS団でやっているから課題を忘れないといった。しかし夏休みで部室に行くことは無いだろう?
 と、いうことは君は今課題をやる時間を失ったことになる。せっかくついた勉強の習慣をなくすのは惜しいからね。
 そこで僕が強制的にやる時間をとろうってことさ」

……なるほど、さっき考えていたのはこれだったか。
相変らず完璧な理論武装だな。

「まだ勉強する気か、佐々木」

「その発言は正確ではないな。勉強もする気なのさ」

「……どういうこった?」

「僕だってそんな丸一日は集中力が持たないよ。半分は遊ぼうじゃないか。……あのゲームの家庭用を買ったんだ。今日は僕の家でどうかな?」


やれやれ、流石は佐々木。こういったベクトルでも俺の断る気をそぐ気か。
俺の中でもうこれ以上勉強はしたくない気持ちと、あのゲームがタダでやれるという気持ちがせめぎあう。
もう一つ何か好条件があれば……。

「それに、クッキーも焼いたしね」

「よし、それじゃそれで行こう」

「くっく、君のそういうところは好きだよ、キョン」


課題は大事だよな、うん。




そのあと、結局俺も佐々木もゲームにはまりすぎて勉強は当初の予定の半分も出来なかった。


「……明日からは先に勉強にしようか」


佐々木はちょっとへこんでいた。

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最終更新:2011年06月10日 23:01
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