18-440「風呂上りの佐々木さん」

水泳の授業中、自由時間になったので、佐々木と並んで座ってだべっていた。
「キョン、もうすぐ夏休みだね」
「ああ……でも、夏休みでも、夏期講習とかいって、塾はあるんだよな」
「そうだね、一緒に行こうか」
「いいぜ、お前ん家に迎えに行くよ」

そんなこんなで夏休みになった。

暑い……暑すぎる。
まったく、太陽の神様に謝ってもらいたいね。
『猛暑でもうしょわけありません』ってな。
…………ちょっとは涼しくなったか?
愛用の自転車を走らせ、佐々木の家に辿り着く。
「あら?ごめんなさいねぇ、あの子今、シャワー浴びてるのよ」
出てきた佐々木のお袋さんが言う。
なるほど、シャワーが浴びたくなる気持ちはよくわかる。
じっとしてるだけで汗が出てくるような、気温と湿度だからな。
自転車を漕いで来た俺も、シャワーを借りたいくらいだぜ。
「ちょっと待っててくれる?」
まぁ、俺もやってくるなり人の家のシャワーを借りてしまうほど、そこまでずうずうしくはない。
とりあえず、通されたキッチンのテーブルで、出された冷たい麦茶を啜りながら待つことにした。
「私、ちょっと買い物行ってくるから、あの子が出てきたら、戸締りしてから出掛けて頂戴ね」
いつの間にか、俺も信用されてるというか……
佐々木のお袋さんは、それだけ言い残してさっさと出掛けてしまった。
麦茶美味いなあ……

「ふぅーー……暑い暑い……」
そう言いながら、風呂上りの佐々木がキッチンに入ってきた。
素っ裸で。
でも、首にタオルだけ掛けてるね。おっさんか。
すっぽんぽんの佐々木は、俺に気付く素振りも見せず、一直線に冷蔵庫に向かうと、
そこから、瓶に入ったなにやら小麦色の飲み物を取り出すと、コップになみなみと注いだ。
微妙に泡立っているそれを、ゴクゴクと一気に飲み干す佐々木。
「ぷはぁ~……」
ますますおっさんか……
「おい、佐々木よ」
俺が声を掛けると、ようやく佐々木はこちらに気付いたようで、肩をビクッと震わせた。
「え?……や、やあ、キョン、来てたのかい?」
さすがに、恥ずかしいところを見られたと思ったのか、佐々木は気まずそうに返事をした。
「しかし、未成年が昼間っからビールとは感心せんな」
そら、恥ずかしいだろう。俺もまさか、こんなおっさんみたいな佐々木が見れるとは思わなかった。
「い、いやぁ……変なとこ見られちゃったね。でも、これはビールなんかじゃないよ」
しかし、小麦色に気泡、さらに飲んだ後の「ぷはぁ~」なんて声を聞いたら……
どう見てもビールです、本当にありがとうございました。
「違うよ、これはティーソーダだよ」
「ティーソーダ?」
「そうだよ。キョンも飲んでみるがいい」
そう言って佐々木は、さっきまで自分が使っていたコップに一杯注ぐと、俺の前に置いた。
飲んでみると、なるほど……確かに、『ティー』『ソーダ』だ。しかしこれは……
「まずいな……」
炭酸水で中途半端に紅茶の味が薄められている上に、その紅茶の味に炭酸が合わない。
「え?そうかい?」
お前はこれが美味いのか?
「うーん、別に悪いとは思わないけど……それに、安かったから結構買ってきたんだよね」
それは、まずいから売れなかったんじゃないか?
「くっくっ……そうかも知れないね」
佐々木はそう言いながら、俺からコップを受け取ると、流しで簡単に洗い始めた。
「それにしても……」
流しに立つ佐々木の身体を見て、俺は思った。
「何と言うか……お前の身体、格好悪いな」
「なっ!……突然何を失敬なことを言ってくれるんだい?」
お?何だ?珍しく怒ってるのか?
しかし、格好悪いものは悪い。
「だって、裸なのに何かペイントされてるみたいだぜ」
そうなのだ。
佐々木の身体は、手足は日焼けして褐色を帯びているのに対して、
いつも、学校の水着を着ている部分だけ、くっきりとその形に白く残っていて、
何だかお笑い芸人がタイツを着ているみたいだ。
「い……言ってくれるね……まぁでも、いまのこの状況が格好悪いのは認めるよ」
そうだろう、そうだろう。
「僕も、浴場の鏡で、今の自分の身体を見るたびに、恥ずかしく思っていたところだ」
ハハハ、こういう点では、男子の方が白く残る部分が少なくて有利だな。
「しかし、これももう少しの辛抱なのだよ」
ほう、どうするってんだ?
「もうすぐ、家族で海に行くから、そのときに満遍なく焼いて来るよ。君も来るかい?」
せっかくだが、俺の家族ももうすぐ田舎に泊まりに行くんだ。
「そうかい?それは残念……」
「まあな、しかし佐々木よ」
「なんだい?」
「しっかり満遍なく焼くのはいいが……まさか素っ裸で海にいくつもりじゃあるまいな?」
「くっくっ……さすがにそこまで莫迦ではないよ。肩紐無しのビキニとを用意したんだ」
なるほどね、たしかにそうやって最小限に留めればいいか。
「しかしキョン……そろそろ塾に行く時間だね」
いや、だから、俺はさっきからお前が準備するのを待ってるんだが……
「おっと、これはうかつ」
そう言って佐々木は、俺にタオルを投げてよこすと、
「それ、洗濯機に放り込んどいて」
と言い残して、自分の部屋へ向かった
「おっと、そうだ」
……と思いきや、急に立ち止まる佐々木。
「ときにキョン、キョンはどんな色が好きなんだい?」
「何だ?急に」
「参考だよ、参考」
「……そうだな……春の日の太陽のように穏やかな黄色かな?」
「わかった、ライトなイエローだね」
何故急に、そんな某終身名誉監督みたいな喋りになるのか……

「おまたせ」
10数分のしたころ、薄手のワンピースを来た佐々木が現れた。
俺に色を聞いたからには、その色の服を着てくるかと思いきや、佐々木が着てきたワンピースは、ライトなブルーだった。
「キョン、どうだい?」
俺の前で、くるりと回転してみせる佐々木。
ふわりと浮き上がったワンピースの下に、チラリと佐々木の下着が見えた。
それあ、ライトなイエローだった。

おしまい

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最終更新:2007年08月22日 21:02
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