19-175「ホッペにキス」

あれは中学3年の冬休みのことだった。
入試を控えた俺は、どうにも家にいづらいのと、形だけでも勉強してるって姿勢を
見せる必要があるのとで毎日塾の自習室に通ってたんだ。
奥の方にある席が俺の指定席みたいになってたっけな。ちょっと奥まったところにある席で
俺以外にあの辺りを使ってる奴はいなかった。自習室で昼寝してるだけの俺には最適な
環境だったな。
まぁ寝てばかりいたわけじゃない。まじめに自習してることだってあったし、佐々木や他の
やつらに教えを請うことだってあった。もっとも寝ていた時間とどっちが長いかと問われれば
何もいえなくなるけれどもな。
そんなある日のことだ。その日は塾の講義があったんだが、遅刻しそうだった俺は全力で
自転車をこぐ羽目になって、授業の半ばからうつらうつらと舟をこいでいた。そんなこんなで
授業終了後、自習室で仮眠を取って帰ることに決めた俺は、ついグッスリ眠ってしまったんだ。

どれくらい経った頃だろうか、俺は人の気配を感じで目が覚めた。といっても、まだ完全に
起きてはいなかった俺はソレを無視してまた眠ろうとしたんだ。

「起きないなぁ、キョンは」
ん?この声は…聞いたことがあるが…ああ、佐々木か。
人の安眠を妨害するのはどうかと思うぞ。
「ホッペにキスぐらいじゃ起きないか……」
へぇー、ホッペにキスねぇ。
佐々木がねぇ……誰に?え?ええ?

「もう大分遅くなってしまったけど……あと10分位なr「うわ!」きゃあ!!」
しまった、あまりにビックリして飛び起きてしまった。

「さ、ささ佐々木!!や、やぁ!おはよう!ほ、ほら、えーとあれだ、その何というか…」
自分でも何を言っているかわからない。寝たふりをするくべきだったと後悔するが後の祭りだ。
しかし、俺以上に混乱して、わやくちゃになっていた人物がいた。佐々木だ。

「え、お、おきていたのかい!?いや、別になんでもないんだ!僕はほら!キョンが寝てて
帰りをどうしようって思ってたから帰るに帰れなくなってるだけで!別にキョンの寝顔見て
カワイイなぁとか思って寝顔見てたらこんな時間になってたとか、つついても起きないから
ホッペにキスしたら起きるかな!?なんて全く微塵も思ってないんだから!……あ!?」
佐々木がコレだけ暴走することがあるとは。正直驚いた。これだけ慌てられると見てるこっちは
いやでも冷静さを取り戻してしまう。まったく、少し慌てすぎじゃないか?

「違う違う違う!今のなし!忘れて!!別にキョンの事を異性として意識してるとか、
 そういうことじゃないから!あ、でも嫌いってわけでもなくて、いやそうじゃなくて!
 うぅぅぅ………なんで起きちゃうのよぉ……」
そんな俺の内心にかまわず、佐々木の暴走は続く。とうとう言葉遣いが変わり始めた。
佐々木にこんな一面があったとは。泰然自若としたいつもの様子からは想像も出来ん。
佐々木は顔を真っ赤にして目に涙を浮かべている。それをみて俺は不覚にもドキッとして
しまった。反則だろ、と思ってしまうくらいいつもと違う佐々木はやけに可愛かった。
こいつのこんな一面を見せられるとクラッと来る奴は一人や二人じゃないだろうな。

安心しろ、佐々木、誰にも言わん。だから落ち着け。で、落ち着いたら、そこでぐーすか寝てる
その馬鹿をつれてとっとと帰ってくれ。アツくてかなわん。

…ってわけだ。あんなに慌てふためいた佐々木を見たのは後にも先にもあれっきりだったな。
しかし、あんな状況でも寝てられるキョンの奴はよっぽど神経が図太いんだろうな。それに、
結局卒業まで佐々木の気持ちに気づかなかったみたいだし、フラグクラッシャーってのは、
ああいうやつのことを言うんだろうな。

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最終更新:2007年08月26日 13:26
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