20-128「異界の神」

驚愕αパート 終章
我がSOS団には新入生が何人も入った。後輩達に囲まれ、毎日が楽しい。
そして新入生が参加したSOS団の不思議探索が行われようとしていた。
そこに橘と九曜がやって来た。
そういえば、佐々木との二度目の再会の後、佐々木にもこいつらにも会ってない。
「―――手紙―――預かった―――月の光―――」
九曜さんが手紙を俺に渡す。
「何?ラブレター??」ビキビキ
ハルヒは俺の手から手紙を引ったくり、封筒を開け、勝手に読もうとする。
「何するんだ、人の手紙を」
「えーと、何々?って白紙じゃないの馬鹿馬鹿しい」
本当に白紙だ。古泉も朝比奈さんにも読めないな。長門読めるか?
「・・・白紙・・・」
「先輩これって」
「何か知っているのか?」
この後輩の女の子は名前が出てこない。何故だろう。それにこの存在感の無さ
「いえ、そういうわけじゃないのですけど」
「どういうことです、九曜さん」
え?もういない
「そんな悪戯は忘れて不思議探索行くわよ!」
「おー!!」

その晩、俺は手紙をどうしたものか考えていた。
もしかしたらあぶり出しで読めるようになるのか?いや、九曜さんは月の光と言ったので月の光で読めるのか?
そういや昨日も月が出ていたな
「キョン君でんわー 女の人からー」

「もしもし」
「今晩は先輩。妹さんかわいらしいですね。今日は楽しかったです。」
「お前か」
新入部員として何度も会ったり、電話してきたりしているのに名前が出てこないのは何故だ。
「今日のあの手紙、月の光で読めるようになると思います。あの女の人も言ってましたし、あっちの世界ではよく見たんで」
「あっちの世界?」
「あ、すいません。忘れて下さい。明日もよろしくお願いします。お休みなさい。」

読めない、晴れているのに月が無い?そういや月蝕じゃないか。
何々?皆既月食は10時15分まで?

手紙は親友の佐々木からのものだった。
愛しのキョンへ   親友の佐々木より
単刀直入に言うと、僕は異世界人だ。
そして、向こうの世界で神となるために教育を受けた。僕は次期神候補だったんだ。
橘さんが神にふさわしい、と言うのも当然だ。そういう体質を持っており、教育も受けたので。
あの世界で神として恐怖され、敬遠されるのが嫌で嫌で、君の世界にやって来た。
でも帰ることにしたよ。僕の世界で神無しというわけにいかない。
それに、僕がこの世界にいると、僕の世界と君の世界の両方が崩壊する可能性が出てきた。これも彼女の能力の一端かな?
さようなら もう会えないのが悲しいよ

君との中学時代はたった一年だったけど、とても楽しかったよ。君は僕を本当の友達として扱ってくれた。
僕のしゃべり方が奇妙だと君も思っただろうけど、僕の世界ではあれが普通だったのだよ
もし、僕達が同じ世界に生まれていれば、友達以上の関係になってたのかもね。
そう、今の君と涼宮さんみたいに、いや、それ以上の関係に
これ以上君を好きになるのが恐くて、それで君とは別の高校に行くことにした。
この前、再会した時、君が変わっていないのにびっくりした。
人生をゆるがす出来事を経験したはずなのに、以前のままの君だった。
何故だろうね、君は自分でもわかってないみたいだけど。普通じゃ考えられないよね

橘さんはちゃんと別れを告げてからにしろと言ったが、止めておいたよ。もう一度会ったら別れがよけい辛くなるのでね。
もし僕が君と同じ世界で生まれていたら。どうしてただろうか?
多分僕は君に求婚したと思うよ。君のほうからされるのが好みだけど、君からはしてくれなさそうだから。
君の周りの3人は君に求婚しなかったかな?その様子じゃまだのようだね

これでお別れだねキョン。中学時代の一年。とても楽しかったよ。
僕達は僕達本来の世界に帰ることにするよ。もう会えないのが辛いよ。
もしかしたら、君との日々は無かったものになる可能性もあるね。そうなったら、君がこの手紙を読むこともないのかな?
たとえそうだったとしても、記憶の片隅に僕の存在を残しておいてほしい。
さようなら、僕の親友、そして僕の愛しい人

そうそう、君の部の隣りのコンピュータ研究所の会長も僕を連れ戻しに来た異世界人だよ
君達、特に長門くんにお世話になったのでありがとう、ということらしい
それから、僕と入れ替わりに僕達の世界に行った女の子がいるけど、彼女が君達の世界に帰るのでよろしく。
僕が仮宿にしていた夫婦の本来の子供で、君とは1歳下の女の子のはずだよ。
僕とは違って神の才能は無く、容姿も僕とは違うはずだけど
もしかしたら北高の後輩になるかもしれないね。会うことがあれば仲良くしてやってくれ。以上

願わくは、次に生まれ代わる時、君と同じ世界で同じ時間を共有できますように
来世は夫婦、それとも兄弟が良いかな
 愛しのキョンへ             佐々木より


あの子が、佐々木と入れ替えで帰ってきた子なのだろうか?どこかで見た感じは佐々木と対になっていたからであろうか
もしそうなら、向こうの記憶があるのだろうか?あるようなこと、言ってたな。
明日、それとなく聞いてみよう。古泉や長門と相談した後に。

次の日
「今日はキョン先輩」
「今日は、佐々木」
初めて名前が言えたのは何故だろう。昨日まであった存在感の無さも、消えていた。
「ハルヒ先輩みたいに下の名前で呼んでほしいな。なんて」
「おいおい、冗談きついぞ」
「そこの2人、ぐずぐずしていると遅れるわよ」
「よう、ハルヒ」
「おはようございます、ハルヒ先輩。学校まで競走しましょう」
「負けた人はジュースをおごるのね。キョンも参加しなさい」
スカートでこの坂道を競走かい。やれやれ、朝から元気な女の子達だ
長門や古泉の話は佐々木の手紙と同じものだった。
異界の神候補だった佐々木と、異界を旅したがっていたこの世界の普通の少女が、住む世界を一時的に入れ替えた。
一言で言えばそういうことだ。
そして、あの手紙の通りに佐々木は元の世界に帰っていった。
橘達はその作業で大変だったらしい。

佐々木を失った悲しみを自覚したのは手紙を受け取った次の晩だった。
佐々木との様々な思い出がよみがえる。
白い息が出る真冬の朝、陽だまりの校庭、夕暮れの自転車、星空のバス停、灼熱のプール
どれもハルヒ達との思い出に劣ってはいなかった。
もう会うことはない親友を思った。
別れの挨拶をしておけば良かった。まだ話すことがあったと思うのに。


佐々木はあの3人とか言ったが、SOS団の皆とも別れが来るのであろうか?
朝比奈さんや長門には帰る場所があり、もしかしたらハルヒも。
ハルヒも佐々木のように元の世界の神として帰ることがあるのだろうか。
それとも帰るのは俺の方だろうか。ハルヒ達や谷口達と別れて。

馬鹿な奴だ、佐々木の奴も。同じ高校に行けば俺やハルヒ達と馬鹿騒ぎができたのに。
たった1年だったかもしれないが。
そう、たとえハルヒ達と別れることがあっても、その時までは思い出を作り続けよう。
もしかしたら明日には別れることになるかもしれないから。
そう思った時、ハルヒのハイテンションの理由が判った気がした。
よし、明日もハルヒ達と楽しい思い出を作ろう。

(とりあえず、終わり)

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最終更新:2007年08月29日 21:31
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