21-544「左の握手:青い巨人の夢」

目が覚めたら授業が終っていた。またあの夢だ。ここ一年、あまりみてなかった夢。最近よくみるのは何故だろうか。
いつ頃からだろうか、青い巨人と赤い光球の夢をみるようになったのは。
よく覚えてないけれど、中学生になった頃だったと思う。
その夢は中学2年生から3年生の頃は毎日のようにみた。
ソレはいつも同じだ。灰色の空の下、青い巨人が建物を壊し、いくつかの赤い光球が巨人を倒す、というものだった。
青い巨人が建物を壊す度にワクワクしたのは何故だろうか。
いえ、自分でもわかっている。多分私は「このつまらない世界を壊したい」と思っていたのだ。

1年前の5月の終わり、あたしは最高に幸せな…じゃなくて!悪夢!そう悪夢を見た、ソレは先程見たいつもの奴ではなく
まあ、近い感じはしたんだけどね、
お陰でその後、目が覚めても幸せな気分…じゃなくて嫌な気分と、それが現実じゃなかった辛さ…ではなくて安堵が残った…
再び頻繁に青い巨人の夢をみるようになったのは、あの女に出会ってから。自称「キョンの親友」の糞女を見てから。

あの糞女に会ったのは、春休み最後の日だった。
キョンはまた最後だ、一度、団長自らその根性を鍛えなおさないと。日曜を丸々使って。
「今日もキョン遅いわね、また最後じゃない。」
(たまには、私達の誰かが気をきかせて遅れて来る方が良いと思いません?)
(朝比奈さん。そのことは、後で2人きりで議論しましょう。)
「古泉くんとみくるちゃん。さっきからこそこそと。付き合っているなら正直に言いなさい。」
2人は付き合っているのかしら、もしそうなら微笑ましいことだが。

あ、キョンが来た
「遅刻とは良い度胸ね(後略)」
あれ?横の女の子は?
「それ、誰?」
「ああ、こいつは俺の」
「親友、といっても中学時代の(後略)」
これが、噂のキョンの元彼女?思っていたよりずっと美人だ。でも親友って?
SOS団の噂は彼女も聞いていたらしい。SOS団もビックな存在になったわね。
「よろしくお願いします」
といって彼女は左手を差し出した。彼女左利きなの?
私はその左手を握り返した。
「自己紹介の必要は無さそうね」

その後、再び彼女と会い、有希の入院などがあり、1か月以上があっという間に過ぎた。その間、頻繁に青い巨人の夢をみた。

「ちょっと、キョン聞いた?今日転校生が来るらしいわ」
「うちのクラスか?」
「うちのクラスも含めて合計4人もよ、こんなこと普通考えられる?」
「確かにめずらしいな」
あまり驚いてないわね、この男。ポーカーフェイスは得意な方だと思うけど。
「SOS団の噂をききつけてやってきたスパイじゃないかしら。」
「その理論だと古泉もスパイにならないか?」
「何を言ってるの、古泉君がスパイなわけないじゃない」
時々変なことを言うわね、キョンは。
「みんな、静かにしろ。今から転校生を紹介する」
うちのクラスに来たのは佐々木さんだった。

席替えの結果、あたしの前はいつもどおりキョン、キョンの隣りは佐々木さん。
キョンと同じ中学の奴等が周囲に耳打ちし、全員めずらしい見世物を見るような目付きであたし達を見ていた。
「どういうこと?佐々木さん」
「涼宮さん。よろしくお願いします。これから卒業まで長い付き合いになりそうね。」
と言って、佐々木さんはあの時と全く同じく『左手』を差し出し、握手を求めた。
「え?ああ。」
と言ってあたしは佐々木さんと握手した。左手で。これもあの時のまま。まるでビデオの再生画像をみるような。
「ねえ、キョン。佐々木さんが来る事、知ってたの?」
「まあな。」
それ以上は聞けなかった。その日以来、毎日あの夢をみた。

数日後、私はキョンをねぎらうために、キョンのためにお弁当を作った。でも昼休み、キョンはどっかに行って帰って来ない。
実は、朝倉の転校した日も作ったのだけど、ドタバタしてたので渡せずじまいだった。
「キョン、どこに行ってたのよ。すぐ帰ってくると思ってお腹すかせて待ってたのよ」
せっかくお弁当作ったのに。
「すまんハルヒ。」
「あんたは団長への敬愛の念が足りないわよ。」
「団長こそ団員に対する労わりの念が足りないと思うが。」
「な?」 だから今日お弁当作ってやったのよ。文句ある?
「おい佐々木、今日話がある。大事な話だ」
「君から誘ってくれるなんて光栄だね。」
「ちょっとキョン、話は途中なのよ」
あたしのお弁当食べてよ。ついでにあたしも、って違うわよ。
「冗談じゃなく、大事な話だ。放課後いっしょに来てくれ。」
「ちょっと、キョン。SOS団はどうするの。勝手に休むつもり?」
「すまん、大事な話なんだ、今日は休む」
「何の話なのよ。」
「SOS団に関わる重大な話だ。」
「ちょっと、それじゃわからないわ。」
何が親友よ、あなた達、まるっきり恋人じゃないの。どちらにせよ、あたしはまたお弁当を渡せなかった。
なお、その後、キョン達と同じ中学出身の女子が小声で(きっと取り返せる。ササッキーならできるわ)と佐々木さんに言ってたような気がした。

その日、SOS団の活動は中止して、あたしは2人が邪なことをしないか見張ることにした。
喫茶店で、2人は楽しそうに語り会っていた。そして、あたしは途中で2人を見失い、あたしは夜の街をさまよった。
(キョンと佐々木さん、もしかすると今頃はラブなホテルで)
「ねえちゃん、ぶつかってあいさつ無しかい。」
ガラの悪い男がからんでくる。
「悪かったわね、あたし急いでいるのよ、どきなさい。」
「おい、それがあいさつかよ。おーよく見るとすごくマブいじゃないか。今夜俺と良い事しない?」
「離しなさいよ、離さないと殴るわよ。」
「俺は気の強い女が好みなんだ。」
キョン、助けて
「レディーに対する対応がなってませんね。」
そう言って、不良を締め上げるのは、森さん。
「ありがとうございました。」
「今日は遅いので家まで送っていくわ。変な連中もうろついているみたいだし。」
森さんは別れる時にこう忠告した。
「佐々木さんのように彼にやさしくしてあげれば、勝負は互角以上、いえ、あなたの方が上だと思うわ。」
いや、それはもう終ったような。柄にもなくあたしは弱気だった。
あたしは、その夜も夢をみた。青い巨人と赤い光球の夢を
あたしは言いようのない孤独感を感じていた。まるで自分の体の半分がえぐり取られたような。

なお、目撃証言から、キョンはラブなホテルには行ってないが、佐々木さんを自宅に招いたらしい。

次の日、あたしは本当に朝倉転校騒動の次日のような気分だった。
「おはよう、キョン。昨日はお楽しみだったらしいわね。」
「別にお楽しみというわけではなかったが。」
「昨日の佐々木さんとの話、どういうことなのよ。あたしがいれば話せないことなの?」
あたしが邪魔なんでしょ。わかっているわよ。フン
「転校生の橘と九曜と藤原がSOS団のスパイの可能性がある。」
「な、そんな冗談が通じると思うの?」
「真面目な意見だ。確証は無いから間違っているかもしれないが。何ならお前が直接奴等に聞いてみれば良い。」
「何でSOS団なんかにスパイに来るの」
「まだわからないが、そう考えるといろいろ辻褄が合うんだ。」
「わかったわよ」
冗談のような話だったが、それ以上突っ込む元気は無かった。
「ねえ、あんた、やっぱり」 キョンはあたしより佐々木さんが好きなの?
「何だ」
「いい」
今度も聞けなかった。多分、聞いて絶望するのが嫌だったのだろう。
そして、気分の悪くなったあたしは早退した。またあの夢をみたが、当然のことながらキョンは出てこなかった。
その夜、左手での握手の意味を父から聞いた。

次の日、あたしは普段どおりに授業を受けた。
「ハルヒ大丈夫か?」
「大丈夫、あたしは生まれつき体が丈夫なのよ」
「馬鹿、そういう奴ほど恐いんだ。限界を超えて働いて、ショック死するんだ。」
嬉しいよう、キョンが優しいよう。
「ねえ、今度お弁当を作ってあげようか」
「どういう風の吹き回しだ」
「別に遠慮しなくて良いわよ。1人分作るのも2人分作るのも同じようなもんだから」

その日、あたしはSOS団を休んだ。家に帰ったわけじゃなく、佐々木さんと会った。
「佐々木さん、知っていた?左手の握手は宣戦布告を意味すると。あたしも昨日知ったところなんだけど」
「そうなの?」
「しらばっくれないで。あなたがあたしに敵意を持っていることは丸わかりだわ。」
「そうかしら。ところで私達は何を争っているの?もしかして、何でも願いが叶う不思議な力とか。」
ひょっとして、アレの人?それともあたしが不思議を求めているのをからかっているの?
「そんな変な力があたしたちにあるはず無いじゃない。
佐々木さんがわざわざ転入してまでキョンに色目を使っているのはわかっているわよ。
キョンはねー、SOS団の貴重な雑用係なのよ。あなたの所有物じゃないのよ。」
「そうね、そんな変な力が私たちにあるはず無いわね。」
「当たり前じゃないの。それよりキョンに手を出さないでよ。」
「わかったわ、今度キョンに聞いてみるわ。SOS団の雑用係が良いか、私の親友が良いか。話はこれで終わりね。」
まずい、雑用係と親友では親友の方が良いに決まっている。
「ちょっと待ちなさい。キョンはあたしの婿になるのよ。あんたなんかに渡さないわよ」
「それは私の台詞だわ。それにあなたにとってキョンはただの雑用係じゃなかったの?」
「うるさいわね。雑用係で未来の夫なの。文句ある?」
「無いわ。私にとってキョンは親友で未来の夫なの。文句ある?」
「佐々木さんやり方が汚すぎるわ。都合の良い時だけ親友特権をふりかざして。フェアにいこうじゃないの」
「ひょっとして、あなた。自分がフェアにやってきたつもり?」
「あたしがいつ不正したのよ。」
「例えば団長権限をふりかざしてキョンの自由を奪うのはフェアかしら。それからキスしてくれなきゃ世界を破壊する、とか言って脅すとか。」
「は?最初はともかく、最後のは何なのよ。」
「最後のはただの冗談だけどね」
何なのこの女、真剣な顔をしてしょうもない冗談を。
「しょうもない冗談は抜きにして、これからはフェアにいきましょう。お互いに」
「そうね、もしあったとしても不思議な力を使わずに」
そして、あたし達は3度目の左手握手をした。その後、青い巨人と赤い光球の夢は、ほとんどみていない。
(完)

~おまけ~
左の握手:友人達の証言
先輩Tの証言
にょろーん、みんな元気かなっ?
少年、相変わらずエロいねー、ハルにゃんと佐々木っちの両方とオイタかい。
元気で何より。あ、みくるとのオイタはだめにょろ

友人Kの証言
キョンは佐々木さんと涼宮さんのどっちが好き?
もしかして、どっちでも良いのじゃないのかな?
キョンは女の人に刺されて死ぬような気がするよ。気をつけてね。

匿名希望超能力者の証言
彼は我々を過労死させたかったのですか。
暖炉にダイナマイトを投げ込むような真似をして。
しかし、佐々木さんがやってきてしばらくしたら、急に涼宮さんの能力が低下したのは何故でしょうかね。
精神状態はさほど安定化しなかったのに。

さすらいのナンパ師の証言
うちの学校に転校生が一挙に4人も来たのにはびっくりしたなー。
うちのクラスに来たのは、佐々木というキョンの元恋人だ。
キョンは否定していたが、あの雰囲気はただの友達じゃないぞ。
それに、聞いていたよりずっと美人で家庭的で、そんな彼女ほっておくとはキョンの奴、制裁ものだな。変な男言葉以外は極めて普通だったし。
キョンの彼女は男女みたいな奴だと思っていて、あんな家庭的だとは思わなかったよ。
あのスケコマシは涼宮との関係も否定していたけど、恋人どうしの付き合いをしまくっていたのはバレバレだぞ。
あんな真っ赤な嘘でも、涼宮みたいなぶっ飛んだ奴なら信じてしまうのかなー。

その佐々木だが、真っ先に涼宮に握手を求めたんだぜ。左手でな。
わざわざキョンを追いかけて転校して、左手で握手。これは修羅場だな。
この二股野郎、うらやましすぎるぞ。
その上、転校から1週間程経った頃、涼宮と佐々木の両方がキョンに弁当を作り始めたんだぞ。
母上の弁当があるから結構?
馬鹿言うな、お前の母上の弁当は俺達もてない男が食ってやる。しょっぱいよう。何故か涙の味がする。

キョン、もてるコツを教えろよ。 え?何のことって??
しらばっくれるな。だったら代わりに、何か奢れよ。 奢らないって?
そんなこと言って良いのか。長門を押し倒していたことを言いふらすぞ。

(おわり)

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最終更新:2007年09月20日 08:19
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