22-167「水面下。」

それは紛れもなく私が唯一心を許した、『親友』─―――

の、御母堂であった。
あちらも同時に気づいたらしい。カートを押しながら私に近寄ってきた。
左手で特売のピーマンをカートに入れながら。

「あら、佐々木さん、お久しぶりね」
「お久しぶりです。……おばさま」

……つい昔の癖でお義母様と呼びそうになってしまったことには気づかないでおくことにする。

「どうしたの?こんなところであうなんて珍しいわね。おつかい?」
「いえ、ちょっと今日は家族が皆出かけているので、一人で夕飯の準備しなくちゃいけなくて」
「そうなの?……あ、それじゃウチにいらっしゃいな。一人分くらい増えても一緒だしお夕飯くらいならご馳走するわよ。それに―――

おば様からのその誘いは、実に魅力的な提案ですが、と遠慮を―――

 ―――ウチのバカ息子にも久々に会っていかない?」
「実に魅力的な提案ですね」

することもないだろう。中学時代にもあったことだ。久々に料理を教えてもらうだけ。
他意はない。
そして私はおばさまと一緒に買い物を済ませ、歩き出したのだった。
そして、その帰り道。

「どうです?最近キョンは?」
「そうねぇ、相変わらず鈍感よ」
「鈍感、ですか……」
「ええ、鈍感よ。 ……もう少し言い方を変えたほうが良かったかしら?」
「いえ、キョンが鈍感なのはキョンがキョンだから、ということで納得できます。ですが―――」

近況を聞いたところで鈍感、という答えが返ってきたということは―――

「―――ええ、相変わらず、フラグを折りまくってるわよ」

予想通りだった。 鈍感、ということは気づかない想いを寄せられている相手がいるということに他ならない。
そして、私には一人、心当たりがある。彼の所属するSOS団なる団体を率いている女性。

「それは、やはり涼宮さんのことですか?」

この間の初対面では、キョンに対して多少冷たく当たっているように感じた。恐らく、あの場に私がいたから、ということもあるのだろうが、恐らく涼宮さんはツンデレ。普段から似たような感じかもしれない。

「そうね、ハルヒちゃんが筆頭かもね」

その言葉の意味を一瞬置いて理解した私の耳におば様は言葉を続ける。

「こないだ会ったって言ってたわね? 多分その場に、クールそうなショートの子と、ほんわかした巨乳の子と、無闇に爽やかで無駄に微笑んでる子がいなかった? 私の見立てだと、三人ともそれなりに好意を持ってるわね」

……相変わらず、人畜無害そうな顔をして、無自覚にフラグを乱立しているようだ。

「大丈夫よ、おばさんは佐々木さんの味方だからね!」
「お義母様……!!」

―――さて、お義母様のお許しも得た。いざ行かん―――既成事実を作って責任を取らせるために!!

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最終更新:2009年02月09日 05:17
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