6-357「夏祭り」

「夏祭り」

 夏休みもほど近くなり、いよいよ“この夏が勝負だ”なんてスローガンがリアルに俺の耳に
届くようになっていた七月のある日のことだ。
 この頃の火曜と木曜には、俺は佐々木と共に下校し、その後に自宅で自転車を引き出し、
佐々木を荷台に乗せて塾へと向かうという生活パターンがすでに確立されていた。
 そんなわけで、いつものように、佐々木を伴い、教室から昇降口へと向かう途上、俺は
佐々木にこう告げられた。
「キョン、すまないが、今日は一度自宅に寄らねばならない。よって、塾へはバスを使用する
ので、ひとりで塾に向かって欲しい」
 ほう、どうした? 忘れ物か何かか。
「いや、そう言うわけではないのだ、ちょっとした戯れでね。理由は今はその事を告げる時で
はない、という所かな。どうせ塾に行けばすぐに分かるからそれまでお預けさ」
 ふぅむ、なにやら企みごとか。
「この段階で、気づいていない以上、キミが正解にたどり着くことはない。種明かしまで、
マジックショーを見ている子供のような心境でいたまえ。あ~、もっともそんなにすばらしい
出来事があるわけではないぞ。美味しい思いはできない、あしからず」
 ん~、どうやら、俺が格別何かを得られる訳ではないようだな。それなら、まぁそれでよい。
さしたる興味があるわけでもない。
 佐々木とは昇降口で別れ、ひとり、帰宅する。帰宅した俺を待ちかまえていたのは、
わが妹(小四、9歳)であった。
「ねぇ、ねぇ~、キョンくん、お祭り連れてって~~~」
 普段の五割り増しは甘えた声を出して、すがりついてくる。ダメだ。今日は塾の日だ。
「え~~、つまんな~~い。連れてってよう」
 ダメだって言ってるでしょ。お母さんに連れてってもらいなさい。
「そんなら、い~~よう、ミヨキチと一緒に行くから」
 ちゃんと、大人の人に引率してもらうんだぞ。お前はともかく、ミヨキチに何かあってはいけない。
「は~~い」
 返事だけはいいな。ったく、しかし、今日はお祭りの日だったのか。
 その事に気がついて街を見れば、確かに街の通りには、提灯が並び、祭囃子がスピーカーから
流れ、近くの神社の境内にはテキ屋のおっさんたちが、お好み焼きやら、たこ焼きやら、金魚すく
いやらの屋台を出していた。夕食をもう済ましたのか、ガキどもが祭りの熱にうなされて走り回って
いる。ほんの3年前まで、あんなガキのひとりだったのだ、と何とも言えない郷愁が沸く。おいおい、
そんな年でもないだろう、俺は。


 さて、そんな訳で、本日の塾の教室は普段の五割り増しに華やかであった。それも当然、
女生徒たちが全員、示し合わせたかのように浴衣姿だったからだ。いや、こんなことが偶然で
あるはずもない。これは示し合わせていたのだな。佐々木の不可解な態度にようやく合点が
いった俺なのだった。
 佐々木は桜の花弁(五枚だから、恐らくはソメイヨシノなのだろう。もっとも俺はソメイヨ
シノくらいしか桜の品種は知らないが)を配した淡い紅色の浴衣に黄色い帯を巻いていた。
手には赤い金魚が描かれた団扇を持っていて、実に風情がある佇まいである。
「やぁキョン。どうやら、僕が指摘するまでもなく、今日の企みごとには気が付いているようだね」
 そりゃ、塾の入り口に入った時から、なんとなく、な。今日はこの辺りのお祭りだったんだな。

「ほう、キミにしては珍しく、周囲をキチンと観察していたようだね、感心感心」
 いや、今日、帰ったら妹が祭りに連れて行けと煩くてな。
「なんだい、感心して損をしたな。リンゴ飴のひとつも奢ろうかと思ったが、なしにしよう」
 おいおい、美味しい思いはできないんじゃなかったのか? 苦笑を込めてツッコミを入れる。
「ふむ、そうだったかな。だけどねぇ、キョン。女生徒たちが艶やかな装束に身を包んでいる
のだ。健康な若い男性なら、これは十分に美味しい思いなのではないかね。僕もね、女生徒
の間の戯れで、浴衣を着てくることになったのだが、真面目にやるとこれはこれで大変なのだ。
学校に浴衣を持っていくことも検討したのだが、純粋に余計な荷物であること、着替える場所、
着替えた後の制服の処理、履き物の処理、キミの自転車に浴衣で乗るのは危険であるなどの
さまざまな要因によりこれは却下された。本来であればねぇ、髪型もいじりたかったのだが、
これは時間が掛かりすぎるために、残念ながら省略だ。それでも、慣れ親しんだ生活習慣を
捨てて、常より30分以上早い行動を強いられたのだ。美味しい思いがしたいのはこちらの方さ」
 なんだ、お好み焼きでも奢って欲しいのか?
「いやいや、そこまで即物的な人間じゃあないよ、僕は。そして僕の仲間である女性陣も、ね。
たぶんね。で、どうかな、キミの率直な感想を聞かせてもらいたい……のだけれど」
 教室が華やかで大変に結構なことだ。毎日では、塾の勉強するぞ、という雰囲気が壊れる
というモノだが、たまのハレの日にはこういうのもいいだろう。
「…………キョン。キミはもう少し、エチケットというモノを大切にした方がいい。もちろん、
今はそれでもいいが、そんなことでは、いずれどこかの女にナイフで刺されてもしらないぞ」
 なんだ、そのやけに具体的な凶事の指摘は、なにやら脇腹が痛くなってくる。
「別に、根拠などない。女のカンという戯れ言さ。聞き流してくれたまえよ」
 まぁ、それはともかくとしてだな。佐々木は細身だから、そういう和装がよく似合うな。
普段は学校の制服ばかりだったからな、見違えたよ。
「………くっ、不意打ち……だ」
 どうした、佐々木? 何かあったのか? 心配する俺を余所に、佐々木は教室にずかずか
と入っていった。その後、授業が始まるまで、佐々木は俺と顔を合わせようとはしなかった。


 さしたるイベントもないまま塾の授業は無事に終わり、俺たちは帰宅の途についた。周囲の
塾生たちは祭りに寄っていく者あり、まっすぐ帰宅する者ありで、三々五々と言う感じだ。当然
の事ながら、女生徒たちの多くは祭りを楽しむつもりらしい。
「キョン、僕らも少し祭りを覗いていかないか、せっかく浴衣を着てきたのだしね。少しは祭り
の風情も感じておきたい」
 無論、否やはない。こっちも、だんだん増してくる受験という人生のイベントのプレッシャー
を感じていた所だ。勉強のストレスは勉強で発散しろ、などと教師、講師の連中は言うが、
そんなことができるくらいだったら、塾なんか通わねーっての。
「いいぜ、遊んでいこう。四季折々の風情は楽しまないとな」
 くっくつ、佐々木が団扇で口元を隠し、囁くように笑う。
「今、キミがね、一瞬の間に、一体どんな葛藤を得たのか、手に取るように分かるよ」
 その悪い軍師みたいな表情はやめれ。
「そうかい、僕も同意を示そうと思ったんだけどね。とりあえず、キミの後ろめたさを消す、
共犯になら喜んでなろうじゃないか」
 口元を隠したまま、目を細めて佐々木は声を上げずに笑った。その笑顔を見て、
俺の心も落ち着いた。

 さてと、何から巡るかな、まずはなんか食おうぜ。
「ふむ、焼き物、粉物、駄菓子類、いろいろあるようだが、キョン、キミは何を食べたい?」
 どこに落ちたい、見たいなイントネーションで聞く佐々木に、俺は返答を迷っていた。屋台
特有のソースの味しかしない焼きそばか、どこまでも粉っぽいお好み焼きか、はたまた明石の
タコが入っているなんて、微塵も信じられないタコ焼きか? 今じゃ、どこのコンビニでも
食えるフランクフルトにアメリカンドッグは後回しだ。何か目新しい食い物はないのか?
「そうだな、僕はアレがよい」
 そう言って、佐々木が指さしたのはリンゴ飴の屋台だった。授業の前に、そういえば、そん
な話しをしたな。
「うむ、アレならばキミの分も出そうじゃないか」
 お、言いましたね。二言はないぜ。おっちゃん、リンゴ飴とアンズ飴ね。
「なんだ、リンゴ飴でなくてもいいのか」
 袂から財布を出しながら、佐々木が囁いた。
「なんだい、兄ちゃん、連れの姉ちゃんに奢ってやるぐらいの甲斐性持ちなよ」
 屋台のおっさんは余計な茶々を入れた。佐々木が気を変えたらどうするんだ。
「いいんですよ、おじさん、コレをネタに彼にい~っぱい奢ってもらうんだから」
 と、佐々木は俺の左腕を取ってぎゅっと、抱きかかえたのだった。
「おお、お熱いねぇ。よし、兄ちゃん、こっちのでっかいの、もってきな。
姉ちゃん、この兄ちゃん奥手そうだから、押しの一手だぜ」
 などと、何にも知らない親父さんの声援を背で受ける俺たちなのだった。まぁ、ここで俺たち
はそんなんじゃねぇとおっさんに言っても意味はないし、無粋なので止めておく。
「うむ、なかなかいい味じゃないか」
 佐々木はリンゴ飴をなめなめ、俺と共に祭りの客で賑わう境内を行く。俺は何とはなしに
そんな佐々木を眺めていた。
 こっちのアンズ飴もそこそこいける、そんなどうでもいいことを話しながら。
 ん、大分、人が混んできたな。佐々木、手をつなごう。はぐれたらヤバイからな。佐々木の
手を引いて雑踏の中をいく。
「ねぇ、キョン、ひとつ聞いてもいいかな。キミと僕は以前にもこうして、賑わう場所を歩い
たことはなかったかな?」
 お前と会ったのは中三になってからだと思うんだけどな。
「うむ、そうだな、中三の春に学習塾でキミがぼくに声を掛けてくれたのが、僕らの友誼の
始まりであった。それは間違いない。……なんだろうな、忘れてくれ、気のせいだった」
 ふ~ん、変なヤツだな。……まぁいつものことか。
「わるかったね、ところで、どうしたね、さっきからぼうっとしているようだが」
 いや、悪いな、なんとはなくにお前に見とれてたんだ。
「なっ…何を言うんだ、藪から棒に」
 そうだな、何を…言ってるんだろう。考えて見りゃ、妹でも親戚でもない女の子と祭りに一緒
に来るなんて、初めてかも知らん。だから、なんと声を掛けていいのかわからないんだな、きっと。
「ふむ、何となれば、僕がキミの初めての相手というわけか、お祭り……デートの……」
 生々しい言葉に思わず、アンズ飴を飲み込んだ。
「これは責任重大かもしれないな。僕の所為で、キミの精神に大きな傷を残してはいけないな。
うん、よくない」
 はあ、心配して頂いて光栄です。
「それでは、キョン。キミの責任において、お好み焼きと焼きそばと何か、肉系の串焼きを
買ってきたまえ、私はそこの……」
 そう言って佐々木は手のひらで参道から少し外れた茂みのある当たりを差す。
「……茂みの辺りで少し休憩している。そろそろ夕食の頃合いだ。一緒に食べよう」
 なんで、俺がと思いつつも、佐々木は俺の返答も聞かずに参道を外れていく。まぁ、この程
度は覚悟してたさ。俺は参道を戻りつつ、先ほど通りすがりに、当たりを付けておいたお好み
焼きの屋台を探していた。

「すまないが、連れがいるものでね、君たちと付き合うことはできない」
 お好み焼きと焼きそばとタコ焼きと串焼きを抱えて俺が戻ってきた時に、耳に入ってきた言葉
はそれだった。見やれば、高校生と思しき数人の男に、佐々木が囲まれているではないか。
義を見てせざるは勇なりけり、連れの女の子に手出しをされては俺の平和主義もどっかにいくぜ。
「おい、何やってんだ。俺のツレだぜ」
 精一杯、低音効かせてそう言った。
男たちのひとりが振り向いた。
「なんだ、彼氏来ちゃったよ……ってガキか」
 おいおい、そう年は変わんねぇだろ。
「って、もしかして中坊か、お前ら」
 悪イかよ、おっさん。
「おいおい、中坊。女の前でイキがるのもわかるけどさ、も少し、口の利き方をちゃんとした
方がいいゼ」
 じゃり、と足もとのジャリに音を立てさせて、男たちが振り返る、え~と、全部で4人か、
ケンカになったら勝ち目はないな、残念ながら。ピンチになると自動的に覚醒する超戦闘能力
なんてのは俺にはないのだ。
 さて、どう逃げるか、思案する俺の視線の先には不安げに俺を見ている佐々木の瞳、なんだ
よ、大丈夫だよ。何とかするって。だから、お前は逃げろ、一目散にな。
 男たちと俺の間の緊張が高まったその時だ。
「せっだりゃああああああああ!!」
 絶叫とともに横合いからドロップキックが、男たちのひとりの顔面に炸裂する。
 その男はそのままもんどり打って横回転、数回転がって動かなくなった。
 なんだ、何が起こった。だが、チャンス到来である。もっとも近い男の顔面に右手に持った
タコ焼きと焼きそばをぶつけ、飛び出してきた何者かに気を取られた別の男の後ろから膝裏を
蹴り飛ばす。強化版膝かっくんである。それをくらい、うずくまった男の顔を、タイミング良く、
ドロップキックから体勢を整えた闖入者が蹴り上げた。スパーンっといい音がして、男の身体
は縦回転。ジャッキーの映画でも、ここまで綺麗に回転しねえぞ。
 勝負は付いていた。数の優位は瞬間的に崩壊した。そして、残りのふたりの戦意も喪失していた。
「なに、まだヤんの?」
 闖入者が、殺気を込めて囁く。小型の肉食獣のような迫力が、そのセリフと視線に込められ
ていた。ってこいつ、女だ。腰までの長い黒髪のポニーテイルが夜風を孕んで揺れていた。
大きな瞳に殺気を込め、小柄な身体を闘気でふくらませた女にナンパ男たちは気圧された。
「ちっくしょう、覚えてろよ」
 ソース焼きそばのカツラを被り、顔面につぶれたタコ焼きを貼り付けた男と、幸いにして
無傷だった男は倒れた仲間を背負い、逃げ出した。
 うわ、そんなセリフ、ライブで聞いたのは生まれてこの方、初めてだ。
「ちぇ、もうおしまいかぁ。根性なしめ」
 残念さを隠すこともなく、女は毒づく。くるりと振り返った。さっきまではそれどころじゃ
なかったが、よくよく見れば、えらい美少女である。マンガかラノベか、おい。その顔つきは
きりりと凛々しく、長い黒髪のポニーテイルが無茶苦茶に似合っている。
「ま、いやがる女の子をナンパするキモ男を撃退するってシチュエーションをやってみたかっ
ただけだからいいわ」
 そう言って、俺の左手から、牛カルビ焼きの串焼きの入った袋を丸ごと奪った。
 な、何すんだ。
「これ貰うわよ、助けた代金ね」
 バリバリと串焼きを食いながら、女は言った。盗ってからいうなよ。
「あによ。命の恩人でしょ、文句言わないの。それに彼女ほっといていいの」
 串焼きの串で、佐々木の方を差す。お、そうだ。佐々木に目を転じると、彼女は小走りに
こっちに来る所であった。
「大丈夫か、キミ、怪我はないか」
 そう言って、俺の身体のそこかしこを触る。いや、怪我もなにも、一方的に蹴りを入れただ
けだからな。
「4人相手にケンカなんて、無茶が過ぎるぞ。僕は生きた心地がしなかったよ」
 いや、実際は、ケンカになってないしな。さっきの女が一方的に相手をボコっただけだ
……っていねえ。

「……もう、いないな。この人ゴミだ、見つけるのも難しいだろう。お礼を言いそびれてしまっ
たな。何かの機会にでも、また会えればいいんだけど」
 いや、まぁ、そうだな。何となくいつかまた出会うような、そんな気がしていた。これはあ
くまでも偶然、あるべきではなかった出会いだ。なぜだか、そう感じた。
「もう、祭りという気分でもないな。帰ろうか、キョン」
 ああ、そうだな。送っていくよ。
「そんな、悪いよ」
 いいだろ、さっきは守りきれなかったからな。夜道は危険だ。
「……うん、ありがとう」


 ちりんちりんとベルを鳴らしながら、佐々木の家までの家路を急ぐ。
「しかし、散々なオチだったなぁ」
 荷台に腰掛けている佐々木に声を掛ける。
「うむ、ナンパされる経験はあれが初めてではないが、祭りとなるとまた違うものなのだな」
 やっぱ、ナンパとかされるのか。
「い、いや、それで付き合ったことなぞないぞ。ほら私は喋りがこんなだからな。大概の場合
はすぐに向こうから離れてくれるんだ。まれに面白がる者もいるが、そう言った場合は丁重に、
きっちりと断わることにしている。今日のように絡まれたのは初めてだ」
 いや~、まさか、ちょっと目を離した途端に、こんなことになってようとはな。初お祭りデート
のイベントにしちゃドラマチックに過ぎるっての。
「くつくつ、まったくだ。僕はもっとゆったりとした方がよい。ああいう忙しくて煩いのはね、好かない」
 夏の夜の匂いがする道をふたり乗りで、走った。
「ああ、キョン、キミ、ちょっと止めてくれないか」
 どうした? なんかあったか。請われるままに自転車を止めた。そこは、俺と佐々木の家の
途中、言われるままに走っていた土手のサイクリングロード。
「お好み焼きを食べてしまおう」
 ああ、そう言えばカゴに入れっぱなしだった。もう、冷めてるからな。たぶん、不味いぞ。
「いざ、食べる前にそう言うことを言うかな、キミは」
 根が正直なもんで、な。それに、お前の口から、それを指摘されると、俺が傷つく。
あの修羅場の中で守りきった最後の食い物だからな。
「ふふっ、そうだったね」
 お好み焼きのパックを開けて、ふたりで一膳の箸を使って、もそもそと粉っぽいお好み焼き
を食べた。
「いやいや、冷めてしまっているのは残念だが、それほど悪くはないんじゃないのかな?」
 そうか、お前がこういうジャンクな食べ物が好きだったとは意外だったな。
「ふふ、本当に、悪くないな。こういう食べ物も…あ」
 その時だ。ドーン、と地響きにも似た音と共に、花火が打ち上げられた。遠くの夜空に大輪
の花が咲いた。
「綺麗だな」
 どちらからと言うこともなく、ふたりの感想は同時に口から漏れた。
 どちらかともなく、顔を見合わせて、笑った。なんとなく、そう、なんとなくいい気分だった。
さっきまで抱えていたささくれ立った気持ちが、風の中でほどけていく、そんな感じだ。
「僕は、そのこう言う時、こういう場所で何を言ったらいいのか、よくわからない。だけど、
だから、気持ちに正直に言うよ。キョン、キミとこういう美しさを、風景を共有できて、
僕は……嬉しい。さっきはありがとう。僕を守ってくれて」
 ちょっと強く吹いた風の中、溶けるように、佐々木がそう囁いた。なんだろう、急に恥ずか
しくなってきた。そう囁いた佐々木が静かで、そしてそう、とても儚げで、消えてしまいそう
に見えたからなのだろうか。だから、普段より真面目に、言った。
「ああ、俺も嬉しいよ。この風景、この感情、このお好み焼きの味、俺は忘れない。たぶん、
いや、決して」


 もうすぐ、夏休みだ。
 今年の夏は、中学生活、最後の夏はどんな風に過ぎていくのだろうか。
 そんなことを考えながら。

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最終更新:2013年02月03日 15:20
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