7-446「Happy Strings」

「どうでもいいと思って出た同窓会ではあったが、意外と面白かったじゃないか、キョン」
何を言ってやがる。お前はけらけら笑いっぱなしだったから良かろうが、俺はといえば、テーブルの真ん中
でお前の隣に座らされて、最初はお前とのことをあれこれ聞かれ、そのあとはハルヒがどうしたSOS団がどう
したとか、最初っから最後までずっと話題の標的にされてたんだぞ。須藤と岡本は俺を肴にすっかり二人で
盛り上がってるし。中河と国木田はテーブルの端っこからコッチを見ながらぼそぼそ陰口たたいてるし。そ
れにしても何だってこんなに有名になっちまったんだか。ハルヒのみならず朝比奈さんまでいまや町中で知
らん奴はいないときてやがる。このうえ校庭落書き事件の真犯人が俺だという真相が明らかになった日には
俺は首をくくらなきゃならんな。そういえば、家が同じ方向の奴も結構いたはずだが、いつのまにか佐々木
と二人になっている。気を利かせたつもりだろうが、まったくどいつもこいつも・・・

「ここで別れるとするか。キミはこっちの方が近いだろう?」
「まあそうだが、夜も遅いし途中は暗い。家まで送ろう」
「そうか。それは嬉しい申し出だ。キミの好意を有り難く受けるとしよう。実のところ、キミともう少し話
がしたい」
「そんなら茶店にでも寄ればよかったか?」
「いや、そういうものでもない・・・ キョン、僕はこれでも女なんだ。男子に顔を見られたくない時もあ
るんだよ」
心なしか声がかすれ、端整な顔立ちが曇ったような気がした。泣いているのか? まさかな。こいつが泣い
たのを見たことは二三回あったと思うが、いずれもこいつの弱点 -ゴキブリと雷- のせいだったわけで、
それ以上の事態はとても想像はつかないのだ。ともあれ、佐々木は黙ってしまった。俺は何を言っていいか
分からず、黙って歩を進めていた。

「キョン、四年前、涼宮さんが世界を改変したとき、キミにはなにか自覚はあったかな?」
佐々木の声は普通に戻っていた。そうだな、何もなかったな・・・ そもそもそれが何時のことなのかも正
確には知らんし。
「僕にはあったのだよ。その自覚がね。正確にはその瞬間というわけではないが」
俺たちは公園のベンチに腰を下ろした。この近辺のいろんな公園のベンチで、俺はその都度違った見目麗し
い女子と二人きりでおハナシ等する環境に置かれるケースが多いわけだが、それ以上の関係に進む例が一つ
もないのはどういうわけかね。

 佐々木の次の言葉を待つ。
「知ってのとおり、僕は男子に対してのみ男言葉で自らを僕と呼称する訳なのだが、キミは僕がどうして男
子に対してこんな言葉遣いをするのか知らないだろうね?」
宝塚に入りたいんだろうと思ってたさ。
暗くてわからんが、佐々木は震えている。爆笑を必死でこらえているようだった。何がそんなに可笑しいん
だろうか。ようやく発作が収まったらしく、
「相変わらず面白いことを言うね。胸が小さいから男役にぴったりだとでも言いたいのか?」
それに、恋愛は精神の病の一種だと言ってたしな。男を寄せ付けないようにしていたんだろうと思っていた
が。
暗い中でも佐々木の笑みがわかる。きらきらと輝く目と、チェシャ猫のような笑い。誰かに似ている。誰だ
ろう?
「その通りだよ、キョン。僕は常に理性的かつ論理的でありたいと願っていたし、今でもそうなのだ。そし
て、その考えが僕に宿ったのが四年前のことだったのだ。この話は橘さん達にもしなかったがね」
佐々木は俺のツッコミを期待していたようだが、俺は黙ったまま別のことを考えていた。

「それ以来、僕は男言葉を使って男子を遠ざけてきた。そうしたかった訳じゃないんだが、そうしなければ
ならないような気がしていた。分かるかな、僕みたいに自己顕示をもっとも嫌う内向きの人間がわざわざ目
立つ振る舞いをすることの不自然さが」
それは分かっていたよ。俺だけじゃなく、国木田とかもな。意識して自分を型にはめてる変な女だといって
たな。奴も結構お前を理解していた訳じゃないか。それにしてもどっかで聞いたようなシチュエーションだ
な・・・
「中三になって、僕はキミと出会った。塾がたまたま同じで、学校でも同じクラスで、席も近い。おまけに
二人は話が合う。やがて二人は仲良くなり、昼食を共にするようになり、塾に一緒に通うようになりました
とさ」
お前は童話作家か。
「キョン、偶然だと思うかい?」
突然佐々木は俺の目を見つめ、重々しい声でこういった。ドキッとしたが、何も言えない。
「キミが北高に入学して経験したことと比べてみたまえ」
言われるまでもなく、一年前の四月以降に起こったことが走馬燈のように脳内を駆けめぐる。しばらく前か
ら脳内を埋めていた霞が晴れてきた。そうだ。ようやく分かった。佐々木はやっぱりハルヒなんだ。
「するとお前が仕組んだのか?」
「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ。涼宮さんと同じだよ。僕にはそんな意識はなかった。キミを
特別な存在として認識することもなかった」
だがお前もハルヒも俺を引き寄せたわけだろ?
「そのようだね。もっともキミが国木田の言うように変な女が好きであることにも疑う余地はなさそうだ」
ぬかせ。
「でも、何故俺なんだ?」
「それは僕にも今ひとつよく分からない。SOS団副団長殿ならもっと筋の通った説明をしてくれるかも知れな
いがね」
佐々木は自称エスパー少年そっくりのポーズで目を細め、両手を広げた。

「確かなことは、キミには代わりがいないということだ。橘さんの件を思い返してみたまえ」
ハルヒのトイメンは佐々木、古泉には橘、長門には周防、朝比奈さんには藤原・・・
「そのとおり。でもキョン、キミはキミなのだ。どちらの陣営にもキミが必要だった。即ち、橘さんの組織
と古泉氏の機関との抗争は、涼宮さんと僕との覇権争いという側面を表に見せつつも、実際はキミの争奪戦
であったわけだよ」
それは俺の質問の答えになっていないのだが・・・
「仮説はあるのだ。正しいかどうかは、検証してみなければ何とも言えないがね」
毒入りリンゴを勧める白雪姫の継母のような調子でさらっと言う。なんかいよいよこいつハルヒに似てきた
ぞ?
次の一言に固唾をのむ俺に肩すかしを食わせるかのように、佐々木はくっくっくっと笑う。

「僕はこの世界におけるこの四年間の僕の役割を見つめ直してみたのだ。何故僕はこれまで男子を遠ざける
ような変な女を演じてきたのか、それでいながらキミだけを引き寄せてきたのか。なぜ中学を卒業して一年
間キミとの交遊を絶ち、一年してまた君の前に現れることになったのか。それは僕の自由意志によると言う
よりは、見えない力に操られていたのではないかと思うのだよ。」
すると何か? お前がお前であるのはハルヒがそうさせたからだというのか?
「端的に言えばそうだと僕は疑っている。彼女の意志によるものとは断定しないがね」
「何のために?」
「キミが北高に行って、涼宮さんと出会い、彼女の奇矯な振舞いを目の当たりにしても驚くことなく、誰も
が躊躇するであろう彼女との交友関係を比較的自然に形成できるように、免疫を形成する目的だったのでは
なかろうか」
要するに俺を変な女好きにしたかったわけだ。変な女度はお前よりハルヒの方が数段上だと思うが、お前が
変な女であることに異論を唱えるものではない。
「つまり一言で言えば、僕は涼宮さんのバックアップだったのだと思っている。」
「バック・・・アップ?」
一瞬背筋が凍った。今を去ること一年前、情報統合思念体謹製涼宮ハルヒ様ほかご一行様御用達対有機生命
体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース長門有希のバックアップであるところの朝倉涼子が俺を
殺そうとしたっけな。そのアンドロイドはどうなった? 忘れるわけがない。
「そのとおり。バックアップは、本体の危機に備えるために存在し、本体の行動を助けるために活動する。
そして、バックアップは、必要がなくなれば、あるいは邪魔になれば消される運命にある」
冗談じゃねぇ。お前とはまだ話したいことがたくさんある。お前には消えて欲しくない。
「どうしてわかるんだ? 消されるって」
「分かってしまうのだから仕方がない。」
古泉みたいなことを・・・ だからって、おい。ハルヒに掛け合うぞ、俺は。
「無駄だ、キョン。涼宮さんの意志ではない。いわば神人の破壊行為に類するようなものだ。もっとも深層
意識下で抑圧された欲求の漏出を意志と呼ぶなら話は別だがね」
「お前、消えちまってもいいのか?」
「三ヶ月前までの僕なら構わないと言ったかも知れない。高校生活は退屈、受験勉強に明け暮れ、大学に入
ることが目的のようになっていて聊か生きる目的を見失いかけていたところだ。それに、僕には死に望んで
も理性的かつ論理的でいられる自信があるし、消失といえども従容として受け入れていたことだろう」
俺の目をじっと見る。遠くで犬の鳴き声。
「でも今は消えたくないと思っている」


「何か手だてがあるのか?」
「僕はひとつ仮説を持っている。それを試してみたい。協力してくれないか? 僕が間違っていれば、僕は
君と二度と会えないかも知れない。でもどのみち消されるのであれば、僕は運命と闘って逝くことを選ぶ」
佐々木は俺から目をそらす。
佐々木・・・
「どうすればいい?」
しばしの沈黙。ゆっくりと俺に向き直り、思い詰めたように、
「目をつぶってくれないか」
また何年か前に飛ばされるのかも知れないな。だが、俺はどうでもよかった。こいつが消えずにすむのなら。
SOS団とも佐々木とも一緒にいられるのなら。俺は素直に目を閉じ、次に起こることを待った。

佐々木が立ち上がって近づく。気配でわかる。
佐々木の右手が俺の左手に触れる。
突然、俺の唇が何かに覆われる。佐々木の唇。不謹慎だが、ハルヒとのキスを思い出す。あれは夢だったの
だろうか。でも同じ感触だ。無意識に目を開けようとしたが、開かない。体も動かない。声も出せない。何
も聞こえない。そのとき、空間が歪んだ。

痛っ・・・ 肩から地面に落ちた。意識が戻る。
絨毯の上。俺の部屋。真夜中。強烈な既視感。俺はあのときと同じく、ベッドから落ちて目が覚めたのだっ
た。
時計を見る。二時半。唇に残る暖かく湿った感触の記憶。もしかして、あの日に飛ばされたのか?
布団が突然動いた。主に住宅内で人間によって飼育される小型愛玩動物、俗に言う猫が布団の下から現れる。
そいつは青白く光る眼で恨めしげに俺を睨んだ。
「シャミセン?」
「にゃあ」
そうらしい。するとハルヒを連れ戻した日に飛ばされたわけではないようだ。しかしこれは夢なのか? 佐
々木との会話やそのあとのことも、夢だったのか?
都合三回過去に飛んだことのある俺としては、じたばたしないだけの落ち着きはできていた。人はこれを諦
めの境地と呼ぶかも知れないがな。今が何時なのかもわからず、朝起きたとき家族が別人である可能性は捨
てきれなかったが、何か妙に眠く、俺はベッドにはい上がり、まもなく眠りに落ちた、らしい。

「キョンくん、起きろ~」
妹の必殺布団はがし攻撃で俺は目覚めた。今日は日曜のはず、といいかけて思う。もしかしてやっぱり違う
のか?
「今日は何曜だ?」
「日曜だよ」
「ならなんで起こす」
「電話だよ~ん。おんなのひと~」
「誰だって?」
「当ててみ」
ええ朝っぱらから鬱陶しい。今日が何年何月何日かも定かでないのに。俺は妹から子機をひったくった。
「もしもし」
「おはよう、キョン」
「佐々木?・・・ お前」
My jaw dropped.
「そう、僕だ。どうかしたかね? 驚いたような声だが」
「だって、昨日の夜・・・」
「ああ、昨日はお疲れさんだったね。お互い。話し足りないから今日会おうということで別れたではないか。
覚えていないわけはないと思うが」
そういわれても覚えていない、というかそんなことは起こらなかったはずなのだが。
「というわけで、約束の時間を過ぎても君が現れないので、失礼ながら電話させて頂いたという次第なのだ
が。お疲れのご様子とあらば止むを得ない。今日はやめておくか?」
「いや、すまん。寝坊しただけだ。行くとも。今から行く。どこだっけ?」
「・・・ 北口駅前だ」あきれたような声。
「すまん。すぐいく」
訳がわからんがひとまず謝っておく。かかる無意味な謝罪慣習を日本人の悪い習慣だという向きもあるよう
だが、円滑良好な人間関係の構築には利害に関わらない部分では一歩引くことも重要だ。佐々木と会うとい
ったら母親は朝飯を食わずに出ることにも文句を言わず機嫌よく送り出してくれた。なんだろうね。今晩も
遅く帰ったら明日は赤飯かも知れん。
「よう。待たせて済まん」
「ああ、キョン。おはよう、というかもう昼近いが。考えてみると、おはようとこんにちはの境目はいつな
のだろうか。最初にあった瞬間に、それが夜中であろうともおはようと挨拶する習慣も一部にはあると聞く
が」
すみません。私が悪うございました。おはようございます。ハイ。
「お腹が空いているだろうし、食事にしようか。キミにとっての遅い朝食と僕にとっての早い昼食というこ
とになる」
向かった先はSOS団御用達のイタリア料理店だった。遅刻のペナルティでおごるのもこいつが相手なら悪いも
のではない。道中もレストランでも俺は周囲に気を配る。ハルヒに見つかりでもしようものなら明日は死刑
より怖いハルヒの私刑が待っている。
「涼宮さんの目を気にしているのかな? 大丈夫だ。心配要らない。この時空ではね」
へ?
「今説明してあげよう」

 かいつまんでいうと、こういうことだ。
 俺はパラレルワールドを生きる、この時空でいう「異世界人」であるらしい。俺は、俺の好きなストーリ
ーに沿った時空を勝手にいくつも構築して、それを行ったり来たりできるらしい。で、現在のこの時空は、
俺と佐々木のためにあるものだそうだ。俺と佐々木とは親密ながらも健全な交際をしている関係にある。ハ
ルヒもSOS団も存在するが、ハルヒもそれを公認している。なぜかというと、俺がそう望み、佐々木がそう望
んだからなのだそうだ(そういって佐々木は真っ赤になった)。

「では俺がたとえば朝比奈さんと結ばれるストーリーもあるのか?」
「もちろんだ」
ハルヒ、長門、朝比奈さん(小)、朝比奈さん(大)、ミヨキチとかいっぱいあるらしい。もっとも相手が望ま
ない時空は作れないということだそうだが。
「まったく呆れるよ。君も好き者だ。まあそれだけキミは人気があるということなのだがね。」
 で、どういうわけでそうなったかということなのだが、第一には俺がもともと異世界人たる素質を持って
いたこと。それが昨夜の「なぜ俺が?」という質問の答えになるわけだ。つまり、ハルヒ陣営も佐々木陣営
も、両方とも俺を同時に持つことができるから、トイメンはいらないのだ。第二に、未来人によってそれが
可能になったらしい。なんでも、今ここにある宇宙は実は時間と空間の4次元ではなく11次元であって、7つ
の次元は観測できないほど小さく丸まっているらしい。これについては現代の物理学でも超ひも理論で実証
はされないながらも論じられているらしい。そして、遠い未来のどこかでその丸まって見えない次元を広げ
ることができた結果、4次元時空上の一点を別の4次元系に写像し、異世界を構築できるようになったとか、
そういう話だ。直交基底系を構築できるポテンシャルを持つ者は限られる。俺が「たまたま」そうだったの
だそうだ。

「お前、解ってて言ってるのか?」
「いや、なにしろ大学院生レベルを超えているらしいから僕にもよくわからない。しかし大学で学んでみた
いことができたのはありがたいことだ。まあ原理はともかく、キミはその時空を行き来できる。各々の時空
ではキミはその時空を生きるが、望めば別の時空に行くこともできる。携帯を持ってるかね? 僕の携帯の
番号にかけて音声の指示に従ってくれたまえ。1ならこの時空、2なら涼宮さんとの時空、とかね。定期的に
キミはオートマティックに各々の時空を巡回するが、その時空から別の時空に移りたいときには携帯を使っ
てもらえればよい。この説明も各々の時空で受けているはずだが」
思い出した。長門からはプリンストン高等研究所の講義ノートの要約だとかいってクラインの壷とかメビウ
スの帯とかその場で出して見せてもらって説明されたような気がするが、途中で寝てしまった。古泉からは
「閾下次元の潜在認識の賦活」とか心理学だか哲学的なことをいわれたような気がする。ほかは幼稚園児並
みの扱いで、「何でもいいから言われたとおりにしなさい。わかったわね?」「えっと、よくわかんないん
ですけど、とりあえずいうとおりにしてください。それ以上は・・・禁則事項ですっ」とかいわれたな。ち
ょっと待て、古泉と俺との時空まであるのか?
「そうみたいだ。たぶん二人でひねもす語り合っているのではないかな」
冗談じゃねぇ。絶対行きたくねぇ。
「相手の決まっていない時空というのもある。キミにはほとほと・・・」
我ながらたいしたもんだ。
「ところで、ハルヒはこれを知っているのか?」
「いや、知らないはずだ。実はこれはキミのポテンシャルと僕の固有の力とでできたものだ。それに加えて、
涼宮さんが異世界人の存在を望んだことにも因るといえるだろう。ちなみに、涼宮さんとの時空では僕は消
失し、転居してしまったことになっていると思う」
「じゃ、昨夜のアレは・・・」
「実際にあったことだよ。夢ではないのだ。僕はキミに接吻させてもらうことで自ら覚醒し、力を得て藤原
氏や朝比奈さんより後世の新たな未来人を召喚し、こういうスキームを立ち上げたのだ。ただ、かなりのリ
スクがあった。このスキームができなければ、涼宮時空のみが存在し、僕は否応なしに消失してキミの記憶
からも消されていたかもしれない。それにまず、キミが僕をまったく意識しておらず、僕との時空を作るこ
とを拒んでいたなら、やっぱり僕は消されていただろう。あの接吻は賭けだったのだ。僕に消えてほしくな
いとキミが望んでくれたおかげで僕は今こうしてここにいる。キミにとっては数時間のことかもしれないが、
あの時からみて僕にはかなりの時間が経っているのだよ。そしてキミは、。まだ記憶の同期や保存が完全で
ないのかも知れないが、既にほかの時空を行き来しているのだ」
「ちょっと待て。お前、俺のファーストキスを・・・」
「許してくれたまえ。僕がキミの望む相手でなかったなら謝罪するほかはない。でもあれは僕のファースト
キスでもあったのだ。後悔はしていない。それに雰囲気があまりそれらしくなかったかな? くっくっくっ、
なんなら後で口直しをさせていただこう。まあこの時空ではキミとはこれから長いお付き合いになるがね」
佐々木は不器用にウィンクして微笑んだ。今まで見たことのなかった表情だ。佐々木可愛いよ佐々木。


 後日譚である。
 俺は先ほどの5人のほかに高校大学のクラスメートや先輩後輩、会社の同僚などの何人かと仲良くなり、そ
れぞれのための時空を作り、あるものは家庭を設けた。子供をあわせて12人こしらえたが、わが国の少子化
の進行に対抗できているのかは定かでない。何しろいまや日本の世帯数や人口、GNP、GDPとかいった統計を
一意に定義できるのかどうかも心配なのである。各々の時空では俺は基本的にはその時空の俺に同期しその
時空のことしか考えられないので、その時空に別の時空のパートナーが出てきたりもするのだが、人間関係
が干渉しあってどうこうということはない。俺は自動的に飛ばされるままに各々の時空を満喫しているのだ
が、古泉時空は早々と切り上げ、ハルヒ時空では散々振り回され、文字通り尻の下に敷かれている。朝比奈
時空は朝比奈さん(小)と(大)がとっかえひっかえ現れて過去に行ったりどたばた楽しんでいる。佐々木時空
において理論物理学の世界的権威となった佐々木は外国出張が多く、暇になった俺は長門時空でくつろいだ
りしている。いわばハーレムみたいなものだが、俺がいない間もそれぞれの時空でそこにいる俺が生活費を
捻出しているので困ることはない。シングルライフ時空はまだいくつもある。俺はこれからもまだ時空を創
出していくんだろうか。

-FIN-

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最終更新:2007年10月10日 21:43
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