23-957「佐々木さん、ハロウィンですねそうですねの巻」

佐々木さん、ハロウィンですねそうですねの巻

全国的にハロウィンである。多分全世界的にそうなんだろう。
日本人が何故ハロウィンを祝わねばならんのか、などというのはもう今更なのでいちいちとがめだてる筋合いでもないが、
何故涼宮ハルヒの目の届く所に、このようなコスプレ祭りの存在を転がしておいたかについて、
もし造物主というものがいるのなら、小30秒ほど問い詰めたい心境にはなる今日この頃である。
まあ、何がどうなったかというと、やはりいつもの如く、近所のハロウィン祭
(実態は単なるコスプレ好きがパレードするだけのもので、カメラ小僧がやたら多くてうっとうしい)
にハルヒ以下SOS団が押しかけたわけである。
朝比奈さんのエンジェリックで露出度の高い「小悪魔」姿(レオタードというかなんというか)を拝見することができたのは、
ストレスフルな日常の一服の清涼剤となったわけだが、
しかしハルヒよ、ハロウィンにいつものバニー姿ってのはどうなんだ。そんなに好きかバニー。
俺は朝比奈さんのバニー姿は大好きだ。ああそうともさ。

いかん、周りのほとんどがコスプレ姿という異様な状況で、少々ハイである。
バニー姿のハルヒ、泣きそうな顔の小悪魔朝比奈さん、そして学祭のときの魔女姿の長門は、
連れ立ってコスプレな人々の間を飛び回っている。まあ古泉がついてるから、問題は起きないだろう。
しかし日本人の風俗も変わったものだ。そのうち、ブラジル並みに本格的なサンバが流行しだしたりしたら、
若年層の情操教育にどれほど壊滅的な打撃を与えてしまうだろうか。
などと日本の未来を憂えていたところ、横合いから慣れ親しんだ声がかけられた。
「やあキョン。珍しくストレートに鼻の下を伸ばしているじゃないか。
君がコスチュームプレイを好むとはリサーチ不足だったね。くっくっ」
佐々木め、失敬なことを。俺のどこが鼻の下を伸ばしているというのだ。人がせっかく日本の将来を
真剣に心配しているところを、
「うわ、アレは凄まじいね。ほとんど素肌丸出しじゃないかね」
なんですと。う、うわ。鼻血出そう。
「……キョン、アレはベージュ色の肌着で、別に素肌むき出しという訳ではないのだよ」
北極圏並みの冷たさを声にまとわせる佐々木である。
せ、青少年の罪のない衝動を玩弄するのはよくないと思うぞ佐々木。
「まあ君の性的嗜好を調査できたのでよしとしておこうじゃないかね。
 ……で、君のその嗜好において、僕の格好はどういった位置づけになるのかね」
そう言った佐々木は、長門と同じ魔女の扮装をしていた。
というか、長門のそれが冬用ならば、こちらは赤道直下の真夏用というか、
あちらがフルアーマーガンダムなら、こちらは装甲を簡略化したライトGMというか。
「お前がミニスカートってのは珍しいな佐々木。風邪ひかんんようにな」
それだけ言うのが精一杯である。察しろ。
「……まあ予想はしていたけどね」
しかし、佐々木に魔女(というか魔娘というか)姿というのは、妙にマッチしすぎではあるな。

「ところで知っているかい、キョン。
 ハロウィンというのは、カトリックの万聖節の前日に行われることから、
All Hallow's eve、すなわちHalloweenと呼ばれるようになったのだよ。
 聖人大集合の日の前日だけに、死者や妖精などが、現世に飛び出してくる日とされたそうだよ」
なんかお盆みたいだな、死者が帰ってくるってのは。
「まあ、そうともいえるかもしれないね。実際、墓参の風習が残る地方もあるそうだよ。
 そうした区切りと、ケルト文化の収穫感謝祭が交じり合って生まれたもののようだね。
 古代ケルトでは、10月の末日が一年の終わりであり、これから冬の訪れることもあって、
 一切が一度ここで死に、そして冬の闇の中から新たに生まれ出ずる、と信じられていたようだよ。
 冬の厳しい欧州の北部としては、それほど春が待ち遠しく、冬はつらい季節だったのだろうね」
しかしそれがなんでコスプレなんだ。もうちょっと静かに祝ってもいいような気もするんだが。
「先ほどのやに下がりようを見ていると、あまり信じられないね。
 けれどまあ、確かに今のハロウィンの祭りようは、17世紀のガイ・フォークスデイによって
 置き換えられたといっていいだろうね。
 まあ僕個人としては、国王爆殺をたくらんだ人に対して、壮大な火のお祭り騒ぎを行うイギリス人の
 ブラックユーモアというか特異な精神性に、ちょっと疑問を呈したいところではあるがね」
よくわからんが、佐々木、なんでもかんでもウンチクを考えて深読みすると、それはそれで疲れないかという気もするぞ。
あんまり深く考えないで楽しんだ方が、色々と楽だぞ、多分。
「そうかもしれないね。今回のコレも、橘さんの発案だったのだけれど、彼女のように割り切るというか、
 あまり深く斟酌しないほうが、色々うまく行くような気もするよ。
 たとえば僕が選んだこの魔女の衣装だがね。ヨーロッパにおいて魔女というのは、多くは
 キリスト教以前の大地母神の神官であったり、野の薬草などの知恵に長けたドルイドの後継者だったりしたのだよ。
 かつては人に恩恵を与え、人々のかけがえのない存在であったものが、新たな神の出現によって、
 厄介者扱いされるというのは、僕の着る衣装としてある意味相応しいかと思って選んだのだけれど、
 君にとってこういう問いをいちいち投げかけられるのは、さて一体どういう気分だろうね。くっくっ」
なんか言葉の端々に冷たい刃のような気配を感じるんだが佐々木よ。もうちょっと気楽にいこうぜ、な。
「おや、そしてちょうどいい所に、涼宮さんのお帰りのようだね」
なんかこっち見つけて、エラい表情と勢いで直進なさっておられるんですがハルヒさん。
「彼女が好むバニー姿だがね。あれは元々扇情的な意味合いがあるのだが、
 ウサギというのは元来、臆病で無力・無垢な動物であり、その一方で多産であることから繁殖力の象徴ともされてきたのだよ。
 一方で、聖も俗も含めた「繁殖」のシンボルであり、一方で「従順で、あなたに決して害はあたえません」
 という象徴でもあるウサギの格好というのはね、相手に対しての、ある種の全面降伏、あるいは全権委任の象徴でも
 あったわけだよ。まあ、すぐに「繁殖」の方の意味合いが強くなって、今の水商売のかたがたの衣装という
 イメージに駆逐されてしまってはいるけどね」
いや、こと細かに解説されても、その平和とも従順とも縁遠い表情が、今まさにこちらに近づかんとしているわけなんだが。
「さて、キョン。こうした衣装のチョイスの含意を、いちいち深読みしてみるのと、深く考えずに楽しむのと。
 果たしてどっちが楽なのだろうね。くっくっ」
そう言って、いつになく小悪魔的に佐々木は笑った。
ああくそ、なんでこう「絶体絶命」って言葉が頭にちらつくんだろうな。
「自業自得、の間違いではないかね。すべて淵源がどこに端を発するか。たまには深く深く考えてみたまえ、キョン」
ああ、確かに今日は、魔女やら精霊が跋扈する夜らしい。
聖人さまがた、敬虔なキリスト教徒に帰依する気まんまんなので、どうかこの夜を早く終わらせておくれ。


                                         ちなみにドイツのバンドのハロウィンは、
                                         スペルがH"e"lloweenなので要注意。
                                         カーペンターの同名の映画に影響されて、
                                         メタルバンドらしくHellのつづりを入れた
                                         かったとのこと、という豆知識でおしまい。

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最終更新:2007年11月01日 14:43
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