24-455「デートのお誘い?」


修学旅行2日目午後8時。俺は今ロビーに向かっている――

昼間は一日中遊びまくり及第点を上回る夕食も食べ終わって、さぁ部屋に戻ろうとしたところで
俺は名前すら言えるか危ういクラスの女子に呼び止められ、伝言を受けた。

――8時にロビーに来るように。絶対ね!

言われるがままに俺は1階のロビーへと足を運んでいた。
幸い男子は俺一人のようで他の連中は風呂に入ったり部屋で遊んだりしているのだろう。
誰一人としていなかった。
まぁ、ロビーに来る用事なんて誰かに呼び出されでもしない限りそうそうないしな。

そんなことを考えながら歩いていると、俺はロビーの柱に寄り掛かっている見知った顔を見つけた。
それとほぼ同時に――


佐々木もこちらに気付いた。

「や、やぁキョン。久しぶりだね」
佐々木は三年ぶりに再会した旧友に話し掛けるような口調でやってきた。
「いや、まぁ昼に顔合わせたばかりだけどな」
「そういえばそうだったかな。ははっ」

何やら佐々木の様子がおかしい。いや、ぎこちないと言った方が正しいか。

どうかしたのか?と俺が尋ねると、
「い、いや。至って平常だよ。間違いなく」
「・・・そうか。ならいいんだが」

見るに佐々木はさっきからちらちらと後ろを気にしているようだ。
そちらの方をよく見ると別の柱の裏に女子が何人かいた。そこを見ているらしい。
その隠れきれていない集団の中には、先程俺を呼び出した女子もいる。どうやら全員がクラスの女子らしい。
そいつらは佐々木に向かって拳を前に押し出すようなジェスチャーを続けている。

俺がその意味を考えようとしていると、目の前の佐々木が再び俯き加減に話し掛けてきた。
「キョンは・・・元気かい?」

「え?あ、まぁ多少疲れてはいるがな」
「そ、それは仕方ないことだ。この修学旅行プランは少々予定を詰め込みすぎだからね」
「楽しいからいいけどな」
「確かに。非常に趣深いものがある」

微妙に会話が成立していない気がするのは気のせいか?
ちなみに佐々木の顔はよく見えないが真っ赤なんだろう。耳を見ればわかる。
「なぁ、佐々――」
「時にキョン!」
「え?あ・・・はい」
「君は明日の午前中ひ、暇かね?」
「午前・・・って自由行動の時のことか?」
「そう!それだ」
佐々木は首を細かく何度も上下に振っている。そんなに振る必要もないと思うんだが。
かと思うと、急に大きく息を吸い込み意を決したように口を開いた。

「キョン!君がもし、明日私と共に歩ける時間的猶予があるのであれば。あるのならば・・・その・・・・・」

そこで佐々木はしばらく停止すると

「し、少々時間をくれないか?手間をかけさせて申し訳ない」

そう言うと、後ろの女子集団の元へと走っていった。



なるほど。
そこまできてようやく俺も理解した。
奥で佐々木の背中を押している女子。それを頑なに拒んでいる佐々木。

さすがの俺もそこまでやられたら気付きます、女生徒のみなさん。


どうやら佐々木は罰ゲームをやらされているらしい。
恐らく何かのゲームで佐々木は負けたのだろう。
まぁ、佐々木ほどの奴が負けたゲームというのも気になるがそれは今関係ない。
そしてその罰としてクラスの男子の一人を誘う、そんなところか。

で、その男子を誰にするかとなったところで
クラスの中でいえばかなり佐々木と仲がいい部類に入る俺に白羽の矢が立ったわけだ。
佐々木が終始俯いているのも後ろめたさがそうさせているんだろう。そんなに気に病むことないぞ。


とまぁ、種を明かせばこんなところか。

…ちぇ。

俺はなぜか舌打ちをしていた。気付かない方が良かったかな。

そうこうしてる内に佐々木がおずおずと戻ってきた。
罰ゲームでもこんな佐々木が見られるなら悪くはないな。
俺は目の前の佐々木が話し出すのを待った。罰ゲームだな、と言わないのは俺の優しさだ。

数秒後佐々木は重い口を開いた。
「・・・あ~それでだ。明日、君には自由行動中の予定がないとの話だったが」
「そうだな。確かに暇だ」
佐々木はそこでまた詰まる。人を騙すのは気が引けるのだろう。気持ちはわかる。
俺はそんな佐々木を見ながら・・・ある決断をした。


我慢ならん。

罪悪感に苛まれる佐々木をこれ以上見ているのは忍びなかった。泥は俺がかからねばなるまい。俺も男だ。


「あ~~~~。佐々木?」
急に名前を呼ばれた佐々木は一瞬びくっとして顔をあげた。
その顔はハムスターが見上げているようにとても愛らしいものだった。
一瞬我を失いそうになる。危ない。

「な、なんだい?」
ぎこちない笑みを浮かべながら佐々木は返答してきた。

「明日なんだがな。」

わかってても照れるな、これは。くそっ。

「その・・・明日~、佐々木が暇なら一緒に土産買いに行ってくれねえか?」

「・・・!?」
佐々木は自分が言うはずの言葉を盗られ驚いているのだろう。
口を開けたまま固まっていた。
俺は手をぱたぱた振り、顔は横を向けたまま

「いや~、ほら。俺、妹にも土産買わないといけないだろ?
ただ女物はよくわからんから何を選んだらいいかわからなくてさ。
それで、佐々木さえ良ければ一緒に選んでもらおうかと思って。も、もちろん無理にとは言わんぞ」

コラ、俺。何どもってやがる。余計恥ずかしいじゃねえか。

すると佐々木は即座にぷるぷると猫が水浴びをした後のように首を振り、
「い、いいさ。妹さんのお土産は私が選んであげよう」
と言ってくれた。その時の佐々木の笑顔だけで騙された振りをした甲斐はあったな、うん。
これが罰ゲームじゃなければどんなにうれしいんだろうね、と意味のない妄想をしてみる。

その奥では女子集団が何やらキャーキャー騒いでいた。
恐らく俺を騙せおうせたと思って喜んでいるのだろう。
あいにくと俺はそんな馬鹿でも単細胞でもないんでな。

ただ――
佐々木のつらそうな顔をこれ以上見ていられなくなったからな。

その後のことはよく覚えてないが主に今日の話をしたように思う。
そして待ち合わせの時間を決め、解散した・・・気がする。
その間の佐々木は終始笑顔だった。いつも通り――いや、いつもより明るい笑顔を俺に見せてくれた。

佐々木と、佐々木の頭を撫でながら一緒に帰る女子集団を見ながら俺は呟いていた。
「やれやれ」


どうやら今日は眠れそうにないね。

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最終更新:2009年02月03日 08:38
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