24-728「最初で最後の―― 」


「これなんかどうだろうか」
「こんなんがいいのか?」
「僕は好きだよ」
「・・・じゃあこれを」


こんな掛け合いを見れば一人くらいはカップルと勘違いしてくれる人がいるんじゃないだろうか。
俺たちは今買い物中である。
佐々木は天女のような笑顔であれやこれやと俺の土産を選んでくれている。

買い物っていいもんだな。

しかし佐々木が選ぶお土産はどことなく風変わりで
そのたびに俺は躊躇するのだが、いつも佐々木の一言で購入を決める。

「これは・・・・・・使えるのか?」
「使えるよ。僕は好きだ」
「じゃあこれも」


佐々木が好きなんて言ったら断れるわけないだろ?
いや、もちろん俺に言ってるわけではないことくらいわかってはいるが。


「これで・・・・・・全部かな」
「そうだな。さんきゅ」
「礼には及ばないよ。私も楽しませてもらった」

佐々木は予算内に全てを収めてくれた。しっかりと俺の小遣い分まで残して。

さて、何買うかな。


「今日はホントありがとな。佐々木って思ったより買い物上手だったんだな」
「おや、予想外だったかい?僕は買い物だけでなく炊事、洗濯にだって自信を持っているよ」
「そりゃ凄いな。いい奥さんになれるぞ」
「なっ・・・・・・」

しまった。

慌てて俺は弁解する。
「べ、別に変な意味はねえぞ!ただの褒め言葉だ。心配すんな」

俺の訳のわからない言い訳を佐々木はどう思ったのか
ふぅ、と息をつき

「そうだね。君がそんな発言をするなんて余りに思惑の外だったから――」

少し驚いたんだ、と佐々木は言った。

わかってもらえたみたいだ。良かった。


そのときに後ろの電信柱から音が聞こえた気がするのは、たぶん工事のせいだろう。

佐々木はしばらくして
「少々待っていてくれないか」
と言うと向こうへ走っていった。


「さて・・・と」

俺は佐々木がトイレに行っている間にするべきことがある。急ごう。





俺が帰ってきたときには佐々木はもう戻っていた。



「どこに行ってたんだい?」

少し――、怒ってる。

「戻ってきたときに相手がいないときの気持ちも少しは考えてくれ」

帰ったかと思ったじゃないか、と呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

「こ、これを買いに行ってたんだ!」

俺は慌てて袋から取り出した髪止めを出した。一瞬頭の方がズキッとしたがそれどころじゃない。


「・・・・・・これは?」
「ほら、今日付き合ってもらっただろ。おかげで土産も全部買えたし、そのお礼だ」
「・・・・・・」
「あ、もちろん気に入らなかったら即効で捨てていいからな!」


そんな俺の提案に佐々木はふるふると首を振って言った。


「一生・・・大事にするよ」
「・・・・・・」
なんだろう、この空気は

「それに、それはあれだぞ」
なんか変な雰囲気になりそうだったので俺はたまらず口を開いた。


なんであんなこと言ったんだろうな――



「それには罰ゲーム分も入ってるぞ。佐々木も災難だったよな。そんなんで俺を誘う羽目になって」

その瞬間佐々木は怪訝な顔を俺に向けた。

「罰ゲーム?」
「お前昨日の女子たちとゲームして負けたんだろ?じゃないと俺を誘うわけないもんな」
「え?しかし・・・・・・しかし誘ってくれたのは――」
「ほら、お前が嘘をつくの辛そうだったからな。それなら俺が誘った方が佐々木も傷つかずに済むし」

こういうときだけペラペラと口が回るのはなんでなんだろうな。

「・・・・・・そうか」

佐々木は声にならない声で相槌を打った。

――まただ。

「そういうことだったんだね」

――またあの痛みだ。

「君は罰ゲームだと考えて・・・・・・僕を・・・誘ってくれたのか」

静かに、唇を震わせながら彼女は言った。

「・・おかしいな、と・・・初めに気付くべきだったね・・・・・・落ち着いて考えれば、君が・・・・・」

――痛い

「君が理由もなく・・・僕を誘ってくれるわけないじゃないか」

――やめてくれ

「それを・・・僕はバカみたいに・・・・・・はしゃいで・・・・・・・・・・で・・・」


それから先はもう言葉にならなかった。佐々木は必死に、何かを押し殺すように震えていた。
俺がなんと声を掛けたものかとしばらく悩んでいると、



「・・・おや?もうこんな時間だ」



先程の震えが嘘のように、佐々木は努めて明るい声で言った。
そのあまりのギャップに俺は呆気にとられていた。

「あ、そう・・・だな」
「ほら、キョン。早く戻ろう!」
「ん、あぁ」



こうして、二人の最初で最後のデートは終わった。


その日以来、佐々木がこのことについて話をすることはなかった。
…………?
次の日には佐々木は何も無かったかのように元気に振る舞っていたし
…………
俺も時間が経つにつれ、その時のことを忘れていった。
…………
そして卒業した俺たちはそれぞれ別の高校へ進み、
…………
俺は涼宮ハルヒと出会い、ハチャメチャな毎日を送っている――


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最終更新:2009年02月03日 08:58
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