24-192「アイドル(暫定タイトル)」

――――楽しかった高校生活。しかしどんなものにでも必ず終わりは来る。
俺たちは高校を卒業し、SOS団は、卒業式の日再会を誓って一時解散ということになった。
ハルヒはやはり、とある名門国立大学へと進学した。あいつの頭の良さを考えれば当然だろう。
古泉は、ハルヒが卒業の時点で力がなくなったことにより機関が解散したため、普通の学生に戻り、やはり私立のやはり名門大学へ進んだ。
長門は、わからない。今どこにいるのかも、この世界にいるのかも。しかし彼女は、最後に「誓いは、必ず守る」と言っていたから、心配はしていない。きっとまた会える。
朝比奈さんは、未来に帰ってしまった。だが彼女も、きっとまた来ると約束してくれた。
そして俺は、地方のごく普通の大学へ進学した。親には大変感謝している、こんなボンクラをわざわざ大学に入れてくれたんだからな。
大学生活は、特に悪いものでもなかった。新しい友人たちと一緒に色んなことをやった。楽しかった、が、高校の時ほどじゃないがな。あの思い出は別格だ。
そして今…

タイトル未定

キョン「くそ…まだ六月だってのに、なんなんだこの蒸し暑さは」
俺は今、都会の街をスーツを着て歩いていた。現代の科学は素晴らしい、この清涼スーツがなければ今頃白いワゴンが超特急で俺を運んでいるはずだ。
俺は大学を無事卒業し、とあるソフトウェア開発企業に入社した。そういう仕事には少し興味があったのだが、現在、俺は営業に回されている。
入社一年目は、大変だった。堕落した人生を送り、働くことに全く慣れていなかった俺は、先輩にそれはもうビシバシ鍛えられた。
まぁ二年目の今でもあんまし変わってないような気もするが、今ではさほど怒られることはなくなったよ。
さて、そろそろ会社に戻らないとな。しかしこの暑さは異常だな、太陽め、無駄にギラギラしやがって。
暑さに軽くイラついていた俺は、太陽を見上げ、睨みつけてやった。その時、デパートにつけられた大画面のテレビが目に入った。
そこに映し出されていたのは、お昼の情報バラエティ番組。長い机に並んで座る有名なタレントやアイドル。
そしてその中の一人は、俺のとても見知った顔―――

           佐々木だった―――

キョン「ただ今戻りました」
高田さん「ああ、お帰り。キョンくん」絵里「おかえりキョン君」
同僚たちが迎えてくれる…のはうれしいが何故ここでも俺はキョンなんだ?この中に北高関係者はいない筈なんだが…
絵里「このまえ、キョン君の御実家に電話したら、妹さんが出てね」
あいつが元凶か!まったく高校生なんだから空気読んでくれ…て、何で実家に電話を?
絵里「ああ…まぁ、それは…課長に言われて…」
課長?
課長「まぁいろいろあるんだよ。ちょっと確認したいことがあってな、ちょうどお前が営業に出てたから悪いかなと思って…」
何が悪いんだ?…なんだかな。
課長「それより、次行ってこい。サボりは給料泥棒だぞ」
調子いいこと言いやがって…わかりました、行きますよ。
キョン「それじゃ行ってきます」
高田さん「おう、がんばれよ」
高田さんの年季の入った渋い声に送られながら、俺はまたこの蒸し暑い都会の砂漠に飛び出していった。

キョン「お先、失礼します」
絵里「お疲れ、キョン君」高田「おう、お疲れ」
今日の仕事も終わり、会社を出ると外は淡い青に包まれていた。昼が長くなってきてるな。
今日の晩飯はどうしようか、めんどくさいから弁当でいいか。俺は帰り際に、コンビニへと入った。
キョン「今夜は、餃子な気分だ。餃子はっと…」
おっと危ない危ない、ジャ○プを読むのを忘れていた。今では買うことはなくなったが、立ち読みは止められないな。何故か。
俺は、誰かが買っていったのか、所々に隙間がある本棚に手を伸ばした。そして、ジャン○のすぐ横の雑誌に、気づいた。
その雑誌は、確かテレビ番組表だったな。その表紙を飾っているのは―――佐々木の笑顔。
結局俺は、○ャンプを読むこともなく、餃子を買って帰った。



俺と佐々木は、中学三年の頃に出会い、すぐに意気投合し親友になった。あいつがいなければ高校に進学できたか、怪しいもんだ。
高校進学と同時に、俺たちは別々に進学したが、それから一年ほどして、再開を果たした。
あいつは変わってなかった。しかし、俺たち二人を取り巻く状況は、変わっていた。というか変わり果てていた。
あいつも変わったといえば変わったのかな。しかも恐るべきランクアップだ、なんせ神様だからな。
それから、とある暴神によって一悶着二悶着もあったのだが、それについては俺が語るべきではない。詳しくは驚愕してほしい。
高校を卒業し、あいつはハルヒの行った大学と肩を並べるほどの大学へ進学したらしいが、はっきり言って俺のレベルからみたらどっちも変わらん。
最初の一年は俺たちはよく連絡を取り合っていたよ、メールや電話でな。しかしいつからか、あいつからの連絡がなくなっていた。
俺は全く緊張感なく考えていた。高校の時もそんな感じだったからな。でも、俺がコンビニで何となくマガジンを開いた時、俺は久しぶりに驚愕した。
佐々木だった。うん、間違いない。あの時のマガジンはまだ保管してあるはずだ。
水着姿の佐々木のグラビアが、3Pにわたる長さでカラーで掲載されていたのだ。キャッチコピーは何だったか…秀才アイドル登場!とかそんな感じの見出しだった気がする。
佐々木、お前スタイル良くなったな。
・・・。
危ないところだった、またあの混乱がフラッシュバックするところだった。そのあとすぐに俺は佐々木に電話をかけた。
留守番設定になっていたので、俺は混乱しつつも、すぐに連絡してくれと残した。
結局、あいつからの連絡が来たのは深夜だった。俺は大慌てでパソコンを閉じて通話ボタンを押した。ちなみに、俺がパソコンをやっていたのは佐々木について調べるためだ。
もちろん某掲示板も回ったよ。その時俺は怒り狂ってすぐに閉じてしまったけど。
佐々木「こんな時間にすまない、久しぶりだねキョン」
佐々木はこう語り始めた。俺はその時の内容を完全に記憶している。
佐々木「留守録は聞いたよ。やはり相当驚かせてしまったようだね。これから事情を話すよ」
佐々木の話はこうだった。大学に進学したあと、一年目は特に普通の大学生活を送っていたらしい。しかし二年目の春。
佐々木「街でスカウトされてね、芸能界のデビューしてみないかと」
それは納得だ。佐々木の容姿ならいつスカウトされても可笑しくはない。むしろ今までなかったのが不思議なくらいだ。
しかし、驚くのはここからだった。佐々木はそれを承諾したのだ。
佐々木「僕もね、初めはあり得ないと思っていたよ。しかし、何がどう作用したんだろうね、僕はそれを縦に首を振ってしまったんだ」
俺も、佐々木は芸能界なんかとは無縁の存在だと思っていた。しかし佐々木は…。
もともとトークの才能と美貌を持っていた佐々木は、あっというまにデビューを果たし、今では写真集だの歌だのをだして、その人気は衰えを知らない。
ちなみに俺は、一度も佐々木グッズには手を出してないし、友人や同僚にも俺が佐々木の親友であることは言ってない。何故か、憚られたのだ。
佐々木「これは挑戦なんだと思うんだ。僕は、いままで出会うまで待っている生き方をしていた。中学時代、君と出会うまで私は現状を認め、結局心から許せる友人を手に入れることができなかった。
    でも、今回は自分から何ができるかに挑戦したかったんだ。自分自身の才能を、勉強なんかでは測れない何かを知るために」
わかんねぇよ…何がなんだか。なんでこんなに腹が立つんだろう…。俺が、お前を認めるやる。だから…
佐々木「それじゃ、明日もまた早いんだ。すまないが今回はこれぐらいにしておいてほしい。暇があればまた連絡する」
・・・ああ、仕事がんばれよ。
佐々木「ありがとう、それじゃ、お休み」
ああ、お休―――
pppppppp
急に携帯電話がけたたましい音を響かせ、俺ははっと気付いた。どうやら、回想に浸って意識が飛んでたらしい。
キョン「はい、もしもし?」
「あたしです。あたぁし」
どこかで聞いたセリフだな、しかしこの声はしっている。絵里さんだ。
キョン「ああ、絵里さんですか。どうしました?」
絵里「キョン君、会社に忘れ物していったでしょ。書・類!」
あちゃー…まったく何やってんだ俺は。しょうがない、今から取りに戻るか。
キョン「今から取りに行きますよ。わざわざ連絡、ありがとうございます」
絵里「わかった。まったくドジね、キョン君は」
返す言葉もない。俺は電話を切ると、すっかり暗くなってしまった街へとまた、飛び出した。



夜の街を自転車で走る。この時間、街はビルや店のネオンで照らされ、多くの人であふれかえっている。
俺の住んでいるアパートから会社までは、自転車で二十分ぐらいで着く場所にある。
値段と場所から見たら俺のマンションはかなり恵まれている。あまり立派ではないがな。
自分が先ほどまでいたビルが見えてくる。十階建、俺の目的地は六階。
エレベーターに乗り、やっと自分の部署までたどり着く。彼女は待っていてくれていた、というか仕事中のようだ。
キョン「すいません、わざわざ連絡してもらって」
「結構ドジなのね、キョン君は」
めんぼくない。これからはこのようなことがないよう一層努力します!
「はいはい、それじゃお礼に今度奢りなさいね」
俺の周りの女性はみな強かだな…わかりました、期待しないで待っててください。
キョン「それではこれで」
俺は別れの挨拶すると、来た道をまた逆戻りし始めた。昼間はあんなに暑かったのに夜は少し冷えるな。
「――――――――――――!!」
俺がちょうどコンビニに差し掛かったところで、誰かの声が聞こえたような気がした。空耳だろうか?俺も歳だな。
「――ョン―――!」
ヨン様?なんか久し振りに聞いたな、その名前。
「―――キョン!!」
そこでやっと、名前を呼ばれていることに気づいた。声のした方に振り返ってみるとそこにいたのは―――
「やぁ、久しぶり」
帽子にサングラスで変装した、佐々木だった。
キョン「おまっ!佐々k――「静かに」
そうだった、こいつは今やアイドルだったな。ここで騒いだら、困ったことになるのは目に見えている。
キョン「お前、こんなところで何やってるんだよ。仕事はどうした?」
佐々木「仕事は今日はもう終わったよ、今帰る所さ。タクシーから君の姿が見えてね」
そうか、しかし―――
キョン「お前ずいぶんと美人になったじゃないか」
俺は自分の目を疑ってしまった。目の前の佐々木は、俺の記憶の中にある学生の頃とはまったく違っていた。なんていうか、オーラというものが出ている感じだ。
佐々木「なんのためらいもなく言うんだね。まぁ君らしいとは思うよ。これは訓練とスタッフ、それから経験のおかげかな」
佐々木は、くっくっと笑った。俺は、いま自分の目の前にいるのがあの佐々木だということを、今更になって確認したような気がした。
キョン「それで、どうするんだ?お前有名人なんだから下手に行動できないだろ?」
俺みたいなサラリーマンと、万人が知る超有名タレントが一緒にCoCo壱でカレー食ってたら、あっという間にフラ○デーだ。
佐々木「そうだね…君のいうことは正しいけど、僕としては君と久しぶりに語り合いたいと思っている。そうだ、君の家に行こう」
そんな忙しいのに無理しないでも…って今なんとおっしゃいました佐々木さん?
佐々木「君の家に行きたい。ダメかな?」
いや駄目じゃないが…いいのか?
佐々木「どうしてそんなことを聞くんだい?学生の頃は普通に君の部屋に出入りいていたじゃないか」
それは実家だからほかの家族もいたし、今は俺一人暮らしなんだぞ。二十四歳独身サラリーマンのうちに女一人は不味いって。それに…
キョン「誰かに見られでもしたら大変じゃないか?」
そっちの方が心配だ、いや前者も大変なんだけど。誰かに見つかったら俺の家に大量のマスコミ&野次馬さんが無双シリーズなんだぞ。
佐々木「僕はそれでも構わない。キョンが迷惑っていうんなら無理にとは言わないけど」
そこまで言われたら断れないな…しょうがない、我が城へご招待しますか。
佐々木「すまないキョン」
そういった佐々木の表情は、どこか影があるような気がしてならなかった。



「お邪魔します」
俺は佐々木を俺が住んでいるアパートの部屋に入れた。ありきたりな1Kの部屋だが俺は結構気に入ってる。
キョン「ようこそ、SOS団支部へ」
佐々木「SOS団支部?」
ああ、ハルヒがな、一人暮らししたらその家は全部SOS団支部になるんだと。ちなみに本部はまだあの文芸部室らしいぜ。
佐々木「涼宮さんらしいね」
確かにな。あいつは、力がなくなっても、その底なしの元気は健在だからな。
佐々木「結構綺麗にしてるんだね。まぁキョンは昔から部屋は綺麗に使っていたけど」
そうか?意識してつかってるわけじゃないけどな、なんつーか狭いし物がないだけだと思うけど。
佐々木「くっくっ、それは言えてるかもしれないな」
ちょっとは否定してくれ…。
佐々木「冗談だよキョン、本気にしないでくれ」
いや、ちょっとへこんだ。
佐々木「さて、君は独身で一人暮らしな男性なわけだが、そういう人もやっぱりアレを隠し持っていたりするのかな?」
アレ?アレってなんだ?
佐々木「アレといったらアレしかないだろう?たとえばベットの下とか」
あのな、一人暮らしなんだから隠す必要なんかないだろ。それに俺はもってないし…
佐々木「しかし、何か本の様なものがあるようだが、これはいったい何かな?」
本?…ぉあっ!思い出した、佐々木、それはだめだ!
佐々木「その焦りようだとどうやら当たりということかな…!これは」
佐々木がベットの下から取り出したのは、分厚い雑誌―――マガ○ンだった。しかも、佐々木が初掲載されたやつ。
あの時俺は、完全に混乱していた。そして、気がついたらそのマガジ○を購入して、家にたどり着いていた。そして、我に帰った俺は佐々木に電話をしたんだ。
佐々木「これは…これがベットの下から出てきたということはまさか君は…」
いやっこれは違うぞ!佐々木、俺は断じてそんなことはしていない。現に俺は佐々木の出てる本はそれ以外に一冊も持ってないんだ!
佐々木「一冊も…かい?」
ああ、そうだ。
佐々木「そうか…ということは当然、写真集やCDも、買ってくれなかったんだろうね」
…ああ。
佐々木「理由を、聞かせてくれないかな?僕に何か至らない点でもあったのなら、いくらでも駄目だししてほしい」
佐々木…。
キョン「正直に言うとな、なんか手が出せなかったんだ。佐々木が仕事を頑張ってるのはわかってる、でも…俺がこれを買ったら、俺とお前の関係が変わってしまうような気がした」
佐々木「君との…関係?」
キョン「ああ、佐々木の姿を雑誌で見るたびに、佐々木の歌をテレビで聞くたびに、どんどんお前が遠い存在に思えてくるんだ。本当にこんな有名人が俺の親友だったのか?ってな」
佐々木「…」
俺たちは、互いの目を見ることができなかった。今のは俺の正直な気持ちだ、でも、この気持を佐々木に伝えてもよかったのだろうか。
とても、複雑な気持ちだ。
キョン「でも、あれだな!やっぱり親友だったら貢献しないとな!俺、今度お前のグッズとか買うよ。ハルヒや古泉も買ったって言ってたし」
佐々木が、俺の話を聞いてとても悲しげな微笑みを浮かべた。俺、やっちまったのかなぁ…。
佐々木「いいんだ、キョン。僕は君の気持を尊重したい。それに、そのことによって君の気持が遠のいてしまうなら、それは僕の本意ではないよ」
キョン「どういうことだ?」
佐々木「あのね、キョン。僕の正直な気持ちを聞いてくれるかい?」
俺は、黙って首を縦に振った。
佐々木「僕がこの世界に入った理由は、前に言ったよね?…僕があの時変わりたいと言ったのは君のためなんだ」
キョン「俺のため?」
佐々木「そうだよ、あの頃の僕には君に本当の気持ちを伝える勇気がなかった。だから僕はこの世界で、君に本当の気持ちを伝えるために自分を鍛えようと思ったんだ」
キョン「俺への気持ち…」
佐々木「だから、僕は君を思うことで、どんなことにも耐えられた。君が見てくれてると思って、グラビアを承諾した。君が聞いてくれると思って、歌を歌った。いつかきっと、君に近づけると信じていた」
その時、俺は見た。佐々木の頬に、涙が伝うのを。
佐々木「でも、無駄だったのかもね。頑張れば頑張るほど、僕はキョンを遠ざけていたんだ。…君への重いが強くなるほど、自分の首を絞めていたんだよ…」
キョン「佐々木…「ごめん」
そういって佐々木は、玄関から飛び出していった。俺は、呆然として、佐々木を追いかけることができなかった。



「そうですか…それはどちらが悪いともいえませんね」
休日の昼下がり、レストランでスパゲティを食ってる俺に向いの席から語りかけてきたのは、SOS団副団長こと古泉だ。
俺と古泉の二人は佐々木と会った次の日、休みを合わせ二人でレストランに昼飯を食いに来ていた。
何故、わざわざ野郎二人連れで飯を食っているかというと、昨日の佐々木のことについて古泉に相談するためだ。
キョン「でも、佐々木は泣いてたぞ。俺は佐々木の努力を無駄にしてしまったんじゃないか?」
古泉「その気配りをもっと早く持ってもらいたかったんですが…しかし、あなたの気持ちをつたえなければ伝えなければ、彼女はこのままずっと空回りすることになるんですよ?」
たしかにそうかもしれない。でも、これはあいつにとっては仕事でもあるんだ。
キョン「このまま、仕事をやめてしまうかもしれないぞ?」
古泉「その時は、あなたが責任を取るべきでしょうね」
そうだな、それは覚悟している。俺が、ちゃんとあいつの気持ちにもっと早く気づいていればこんな結果にはならなかった。
古泉「そうですね、しかしあの頃は複雑な立場や事情がありました。仕方ないとも言えなくはないでしょう」
でも、それに甘えてはいけないんだ。俺はもう後悔したくない。
古泉「そうですか…強くなられましたね」
キョン「こんな年だからな」
古泉は俺に、微笑んでみせた。しかし、その笑顔に嫌味は一切感じなかった。なんだよ、そんな顔もできるんだな。
古泉「それで、あなたは彼女にどうお気持ちを伝えるつもりなのですか?」
そうだな、俺は―――
pppppppppp
急に俺の携帯の着信音が響いた。しまった、マナーにしとくんだったな。画面をみると―――国木田?
キョン「もしもし、国木田か?」
国木田「大変だよキョン!ニュース速報見たかい!?」
なんか、異様にあわててるな?携帯からもれる国木田の大声に、古泉も心配な顔をしている。
キョン「どうしたんだよ国k「何のんきにしてるんだよ!佐々木さんが非常事態なんだよ!?」
何?佐々木がどうしたって?その時、古泉の方にも電話がかかってきた。
古泉「もしもし、涼宮さんですか?どうしま―――」
古泉の携帯から漏れたハルヒの声を、俺は確かにはっきりと聞いた。
国木田「どうしたのキョン?佐々木さんが人質にされてるんだよ!?」
―――ササキガヒトジチニサレタ?―――
キョン「どういうことだ国木田!!説明しろっ!!」
店内にいた客や店員みんながこちらを振り向いた。しかし今はそんなことを気にしている場合じゃない。
国木田「今テレビで速報やってたんだ。今犯人は警察に追い詰められて、○×ビルにたてこもってるんだって!」
○×ビルっていったら、すぐ近くのデパートじゃないか!おい、国木田!いったんって俺はそっちに向う!
国木田「わかった!僕もできるだけ早くそっちへ行くよ!」
俺が携帯を切った時に、古泉も話し終わったようだ。俺は古泉と顔を見合わせた。
キョン「おい、古泉。俺はどうすればいい?」
古泉「あなたは現場に向かってください。僕は元機関の人に連絡してみます」
機関は解散したんじゃなかったのか?
古泉「確かに機関は涼宮さんが力を失ったと同時に解散しましたが、その基盤は今でも組織に残っています。もしかしたら、この状況を打開できる人がいるかもしれません」
わかった、それじゃあとで連絡する。
古泉「会計は僕がしておきます。お急ぎを」
キョン「助かる!」
俺は、レストランの入り口を蹴りやぶるように街へと飛び出した。
おわっ!!っと
焦る俺の前に一台の車が飛び出してきた、その中から出てきたのは以外にも
「キョン君乗って!!」
朝比奈さん(大)だった。
キョン「朝比奈さん!どうしてここに!?」
朝比奈(大)「いいから!早く!」
俺は言われた通りに車にのると、朝比奈さん(大)は思いっきり車を発進させた。

キョン「朝比奈さん、どうしてこの時代へ?まさか、この事件は既定事項なんですか?」
朝比奈さん(大)は、こちらを振り返らずに言った。
朝比奈(大)「今回は違います、でも今日起こったこの事件はとても重要なことなの」
キョン「どういうことですか?」
朝比奈(大)「詳しいことは禁則事項だから、話すことはできないの、ごめんなさい。でもね、これだけは聞いて」
車が急に止まった。どうやらついたらしい。朝比奈さん(大)が急に振り向くと、真面目な顔でこういった。
朝比奈(大)「彼女を救えるのはあなただけ。あなたの本当の思いだけが、彼女を救えるの」
キョン「それって、どういうこt「行って!!」
朝比奈さん(大)の声に押されて、俺は車を飛び出した。ものすごい数の警官隊と野次馬、そしてマスコミが集まっていた。
「キョンさん!!」
全身にものものしい武装を施した、警官隊の一人が俺の名前を呼びながら走ってきた。
「私です。森園生です」
そのその人がヘルメットを脱ぐと、中からあの元機関に所属していた森さんの顔が現れた。
森「事情はあとで古泉から聞いてください。今から現状を説明します」
森さんの話だと現在犯人は拳銃を所持しており、この○×ビルの屋上に佐々木を人質に立てこもっているらしい。
森「これから、犯人にばれないように裏から突入します。あなたにはそれに参加してもらいます」
キョン「どうして…俺に?」
森「私は、事情を知ってますから」


俺は、森さんに防弾チョッキを着せられ、警官隊の特別編成チームの人たちとともにビルへ潜入した。編成チームには新川さんの姿も見えたが、やたらとその防具が似合っている。
森「この扉の向こうが屋上です。犯人の男は屋上の端にいるはずですから、私たちが入ってくるのは見えない筈です」
そういって、森さんは静かにドアを開けた。俺たちは屋上へでて、タンクの群れに隠れて移動すると、犯人が見えてきた。佐々木を抱えて銃を突き付けている。
怒りがこみあげてきた。俺は今、犯人への怒りと、佐々木を助けることへの使命感で燃えていた。
絶対に助けてやるからな。佐々木!
森「私が銃で犯人に開放するよう命じます。もし、犯人が応じなければ、殺してでも彼女を助けます」
森さんは普段と変わらぬ冷静な表情で、そういった。森さんはいままで人を殺めたことがあるのだろうか?
森「行きますよ…3、2、1」
森さんが、犯人の前に飛び出して銃を突きつけた。その間にほかの人がばれないようにタンクの裏を伝い横へ回り込む。
森「うごかないで!その女性を解放しなさい、さもなければ撃つ!」
森さんの叫び声が聞こえる。
のぞいてみると、両者とも動きがない。犯人は、人質がいれば打たないだろうとたかをくくっているのだろう。だが、きっと森さんなら、百発百中で犯人の頭を撃ちぬくはずだ。
その時、森さんが動いた!森さんが犯人に向けて威嚇射撃をしたのだ。うろたえる犯人、気づけば俺は、犯人のほうに飛び出していた。
キョン「佐々木ィィイイイ!!」
俺は犯人から佐々木をもぎ取ると、そのまま倒れこんでしまった!
森さん「まずい!」
その時新川さんが飛び出してきた。犯人は完全に逃げ場を失い、錯乱していた。
犯人「糞ッ!」
森「新川!取り押さえて!」
そして、犯人の銃が俺をとらえて――――
「キョン!!!」


一瞬だった。

突き飛ばされて倒れこんだ俺が、起き上がってあたりを見回して見ると…そこには、犯人を取り押さえる森さんと新川さん。そして―――

血まみれの佐々木だった。

キョン「佐々木!!」
俺は、血まみれで横たわる佐々木に駆け寄り、抱き起した。
キョン「おい、佐々木!!返事しろ」
佐々木「キョ…ン…?」
佐々木はうっすらと目を開けて、返事をした。
佐々木「助けに来てくれたんだね…やっぱり…持つべきものは友だね…」
キョン「まってろ!すぐ病院に運んでやるからな?死ぬんじゃないぞ!」
森「今すぐ止血を!」
森さんが包帯をかけよってきた。佐々木の服をまくると、腹部にある血の穴に包帯を巻いていった。
佐々木「聞いてくれ…キョン。僕はね……仕事を辞めるつもりだったんだ」
キョン「無理にしゃべらなくていい、前向きに考えろ!」
下にいた医療スタッフがビルに入ってくるのが見えた。頼む、急いでくれ!
佐々木「ごめんね…キョンを悩ませてしまったね…。全部僕のせいだよ…」
そう言いながら佐々木は、俺に力なく、その白く綺麗な手をのばしてきた。俺はその手を強く握り返してやった。
キョン「何言ってんだよ!違う、悪いのは俺だ。俺がお前の気持ち、気づいてやれなかったから…」
佐々木「君は…優しいね。それでこそ…僕の愛した人だよ…」
キョン「俺だって、お前のことが好きだ!仕事辞めても俺が面倒みてやる!一生そばにいてやる!だから…死ぬな!」
佐々木は、苦しそうに…くっくっと笑った。
佐々木「うれしいよ、キョン…今が人生で一番…幸せな……と…き…」
キョン「佐々木?佐々木!?おい!返事しろ!おい!」
佐々木の手から力が抜けるのを感じた。返事をしない…俺の目から、とめどなく涙があふれた。
キョン「佐々木!佐々木いいいいいいいいいいいい!!」
畜生…もう、後悔しないって決めたのに…俺は…俺は!


YUKI.N>これをあなたが読んでいるということは私が予測した、危機的状況に陥っていると推測される。

突然向かいのビルの、大型モニターに移された文字をみて俺は驚愕した。

YUKI.N>これは私が涼宮ハルヒの力が失われた際に、用意した時限変革プログラムである。

なんなんだよこれ…長門!?

YUKI.N>涼宮ハルヒの力が失われたのは確か。しかし、その力そのものは、離散し、そしてその力は最も素質のあるものの方へと流れた。

どうすればいい!早く教えてくれ、長門!

YUKI.N>それが鍵。そしてそれは、あなたたち二人。

俺と、佐々木が…鍵?

YUKI.N>このプログラムは以前のような、時空を"修正"するものではなく、"変革"させるものである。あなたたちが今、目の当たりにしているものも、確かな現実。

でも…佐々木は…俺はまだ佐々木に責任とってないんだ!

YUKI.N>このプログラムを起動させることは、今いる次元を放棄することであり、変革された世界が、あなたの望むものとは限らない。それでも、起動させるなら

YUKI.N>Sleeping Beauty

わかったよ、長門。俺はこんな現実認めない。卑怯かもしれないけど、俺は、こいつを助けてやりたい。だから。
キョン「あのな佐々木。俺、実はメガネ属性ないんだ。いつだったか、お前のサングラスは絶望的なまでに似合ってなかったぞ」
そして、俺は眠っている佐々木にキスをした。






いてぇ!
キョン「………!?」
なんつー夢見ちまったんだ!フロイト先生も笑死にだっぜ!
本当にひどい夢だった…まさか佐々木が殺されるなんてな。
寝ぼけ眼で時計を確認する。なんだもう七時じゃないか、ちょうどいい。

ドンッ!ドンッ!
誰かがドアをノックしている。まぁ誰かは分かるけどな。
「キョン!?大丈夫かい?すごい音がしたけど」
俺はドアをあけて、心配そうな顔でたっていた女性に笑顔で答えた。
キョン「大丈夫だ、佐々木」

俺は、ぶつけた後頭部をさすりながら、佐々木の入れた味噌汁をすすっていた。
佐々木「どうしたんだいキョン?変な夢でも見たのかい?」
キョン「ああ、とびっきりの悪夢を見たよ。口にするのもおぞましい」
佐々木「へぇ、どんな夢なのかな?興味あるよ」
あのなぁ、今言いたくないってったろ?
佐々木「冗談だよ。そんな話をしたらせっかくの朝食がまずくなってしまうよ。僕は一応そのくらいの空気は読めるつもりだがね」
朝からよくもまぁ口が回るもんだ。だが、今となってはこれがないと一日が始まった気がしないがな。
俺は高校卒業後、それぞれの大学へ進んだ。その後、俺はとあるソフトウェア開発会社に就職し、なんと仕事のつてで佐々木と再会した。
大手の取引先に佐々木がいたおかげで、商談が成立。課長大喜び。俺ヒーロー。ほんとあの時は佐々木様様ですよ。
そして、俺たちは今同棲している、親に内緒でな。ちなみにこれは佐々木の提案だ。まぁ俺も快く承諾したが。
なんせ家賃半分家事半分で大助かりだ。といっても佐々木の方が仕事が忙しいため、家事は7:3ぐらいで俺が多いわけだが、まぁ不満はない。
佐々木「キョン、そろそろ時間だよ。また遅刻すると、課長さんにどやされるんじゃなかったのかい?」
おっとそうだった、やばいやばい。…よし、それじゃ行こうか?
佐々木「キョン?」
なんだ?
佐々木「行ってきますのキスは?」
お前も一緒に出るんだろうが…まぁいい、ほら、こっち来い。

「――――」

佐々木「僕はこれがないと仕事にやる気が出なくてね」
うれしいこといってくれるじゃないの。まったく、やれやれだ。
佐々木「それじゃぁキョン、仕事がんばってね」
お前もな、あ、そうだ、まぇから言おうと思ってたんだがな。
佐々木「なんだい?」


キョン「佐々木。似合ってないぞ、サングラス」

        完

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最終更新:2007年11月22日 00:40
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