25-70「あの素晴らしい愛をもう一度」

「キョン、僕達の学校では運動会と並ぶイベントに文化祭があるよね」
そう言えばそんなのがあったな。
高校の文化祭と違って文化発表会の意味合いが強いせいか、店は一切ない。
店代わりなのは図工とか家庭科で作った作品の展示で、ほとんどおまけ。
メインイベントはクラス一つ一つの出し物だろう。
演劇、合奏、舞台でやれるもんなら様々だが俺たちのクラスは合唱で決まった。
「三年最後の晴れ舞台なのもあって、例年金賞は三年が取っているね。
 今回も僕たち三年がこの学校のすばらしいイベントを伝えるためにがんばろう」
そうだな。だがなぜそれを俺限定で言うんだ?
「キョンはやる気を出した時と出さない時で落差が大きいから、
 今のうちに発破をかけておきたかったんだよ。
 この三年生をただの受験勉強だけで終わらすのは惜しいと思わないかい?」
そりゃそうだ。勉強で缶詰になってるよりゃよっぽどましだ。
目の前の女子、佐々木はくっくと口元に手を当てて笑った。
「だけどそれは他の男子にも言えることだね。
 練習の時は恥ずかしがっているのか男子のやる気のなさは異常だ。
 必然と女子の方が声も大きくなるからと混声三部合唱になっていたっけ」
ところがそりゃ間違いだと気づいた時は遅い。
男子の方が元々の歌唱力が高いから、やる気が出ちまうと男子パートが女子パートをつぶしちまう。
バスがメインフレーズのソプラノをつぶした時の情けなさときたら……。
ちなみに去年俺のクラスがそんなへまをやらかしてた。
「混声二部に逃げる手もあるけれど、僕はクラスに混声四部を提案したい」
「混声四部? 確かに去年は三年がそれで金賞とってたけど、練習が大変だぞ」
「大丈夫だよ」
佐々木は俺の目の前の席から立ち上がった。
淡々とした佐々木にしては珍しく、決意で表情を輝やかせていた。
「この文化祭は最高の思い出にしてみせるよ」

その後の佐々木の率先さときたら目を丸くするばかりだ。
最初やる気が出てなかった俺達男子も佐々木にぐいぐいひっぱられていくのを肌で感じた。
乗り気になっていってリズムを乱していく男子も佐々木がうまくコントロールする。
合唱は指揮者を見てないと途端にリズム崩しておしまいだからな。
それを抑えたのは賢い判断なんだろう。

「さあ、僕らの出番だ。がんばろうか」
「ああ、そうだな」
当日。舞台に上がるとき、佐々木はほがらかな笑みを見せてくれた。
やることは全部やった。これで金賞が取れなくても満足だろう。
合唱で悔いはない、をまさかこんな形で味わうとは思ってもいなかった。
そんな面では佐々木に感謝しなくてはならないだろう。

結果的に俺たちの『今』は銀賞だった。でも先に言ったとおり俺たちに悔いはなかった。
やりとげたんだ、との充実感に包まれていたから、俺は悔しくはなかった。
……女子の何人かは涙を流してたけれどな。
ちなみに金賞は三年の別のクラスが歌った混声三部合唱の『いい日旅立ち』だった。
これで学校のイベントが全て終了した俺たち三年にとってはふさわしい曲だろう。
あれから一年、高校一年での俺たちの音楽祭(合唱コンクール)が終了した。
上級生の牙城が崩せなかったのは中学と同じだったが……。
「まさか朝比奈さんのクラスが優勝するとはなぁ」
「しょうがないじゃないの。あーあ、これだったら去年のビデオ見とけばよかったわ。
 男子どもに現実見せつければもっとやる気出したはずよ」
そう言うなハルヒ。文化祭でのおまえがあったおかげでうちのクラスはまとまったんだからな。
おかげで一年で一番だ。
「そんな井の中の蛙で満足できると思う? でもまあいいわ。
 あれだけの歌唱力がないと金賞取れないって分かったから、二年の時は金賞いただくわよ」
二年になってもおまえと同じクラスになるとは限らないんだが……。
まあいっか。もしおまえと同じクラスになったら、がんばってみてもいいぜ。
「聞いたわよ。来年忘れてたら死刑だからね」
はいはい。
「キョン、そう言えば佐々木さんの所も合唱コンクールがあったんだって」
国木田、そこでなんで話に割り込んでくる。
谷口の奴もなんか言ってきてるが、あいにく俺は聖徳太子じゃないぞ。
とりあえず国木田の方に意識を割くことにする。
「なんでいきなり佐々木の話なんだ?」
「彼女達のクラス、一年なのに一位を取ったらしいよ。しかも混声二部で」
それはすごいな。素直に賞賛するしかない。
まああれだけのリーダーシップを取れればそれも可能だったかもしれないが……。
それで、一体どんな歌で金賞をもぎ取ったんだ?

「あの素晴らしい愛をもう一度、だそうだよ」

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最終更新:2007年11月24日 13:38
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