8-621「湯煙@佐々木(翌日)」

毎日の朝は我が無邪気な妹によるフライングボディプレスという荒業によって
目を覚まさざるを得なかったという不健康な生活をしていた俺なのだが、
今日はどうしたことだろう。朝日が顔に当たるのを感じて目が覚めた。
おお、かなり健康的じゃないか。
早朝のひんやりした空気が肺を満たすことで気分はナイアガラクラスの滝から
放出されるマイナスイオンを十分に含んだかのように晴れ晴れとし、窓の外から
聞こえてくる鳥の囀りが美しい日本の四季の移り変わりを如実に示しているでは
ないか――――
なんてことを考えつつ、さて、俺の体が動かないのは何故だろうね。
ちょいと視界を下げてみる。

うん、佐々木だ。

どうやら俺と佐々木は抱き合っている状態にあるらしく、つまり、アレだ。
今ようやっと昨晩の出来事を思い出したって訳だ。
少しばかり顔が火照るのは、まぁ仕方ないだろう。
しかし、こうして見ると本当に年相応の女の子といった風体で、
一歩間違えばハルヒのような変態的超能力の保持者となっていたなんてことがわかる奴などいまい。
いや、こいつの寝顔を他の男になんか見せるつもりはないからわからなくていいんだけどな。
……すぅすぅとこちらの精神を壊滅させてくれるようなかわいい寝息が胸元にかかりこそばゆい。
というか、実は俺の右腕はもう痺れてしまっている。別に佐々木が重いとかそういう訳じゃないぜ。
いくら軽くとも、数時間下敷きにされれば腕は痺れるもんさ。
それでも、流石にこれ以上こんな状態なのは俺の精神的に良くない訳で。
いやほら男の生理現象として仕方ないんだろうが、それが佐々木に当たってるし、
「ん……」などと俺の理性を寸刻みにする声で佐々木はたまに身じろぎしたりするし、
他の奴に何と言われようと自称紳士な俺としては、朝から致すなんてよろしくない。
ええい、こんな時は物理を考えるんだ。
力学でまず考えるのは?運動方程式だ。では速度は?それを積分すりゃいい。
「ふむ、君は文系だと思っていたが、中々どうして、物理も大丈夫そうじゃないか?」
「………佐々木、起きてたのか。」
「ついさっきだけどね。くっくっく、それにしてもいい朝じゃないか。
天気は快晴、起きた場所はキミの腕の中。
寝顔を眺めることができなかったのと腰が痛むのが残念だが、
寝顔は今度の機会に取っておくとしよう。」
やめてくれ。俺の寝顔なんぞ眺めて何が愉しいんだ。
「楽しみというのは人それぞれだろう?それより、キョン、挨拶がまだだ。」
こんなあられもない格好してて挨拶も何もあったもんじゃないとか思わなくも無いが、
しかし佐々木は目を閉じて何かを期待しているような気配を漂わせている。
…まぁ、恥ずかしくはあるが。でも俺だって男だから、こんな時どうすればいいかは弁えているさ。
佐々木のやわらかい唇と俺の唇を重ねる。
キスなら昨日さんざんしたんだが、それでも飽きないんだから不思議なもんだ。
「くっくっく、おはよう、キョン。」
「ああ、おはよう、佐々――――いや、おはよう」
さて、こいつの下の名前を口にするのはもしかしたら初めてかもしれないが、
一瞬不意打ちを受けたように固まった後で浮かべてくれた極上の笑みを見ちまうと、
それこそ些細な問題だろうよ。








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最終更新:2008年06月06日 10:56
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