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詩歌

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siika

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春 雪溶けて 水ゆるみ 緑恋しく  夏を待ち
夏 緑眩しく 咲く花に 実り予感し 秋へ向かい
秋 実りし穂 金の波  闇に輝き  冬に見ゆ   
冬 闇深く  音も無く 雪積もり  春を望む

季節は 巡り  芽吹き 育ち 種を残し 地に還る
魂   生まれ 惑い  育ち 環に還り 環になって巡る

/*/

“詩や歌がなぜ存在するか、考えたことがあるかい?”
“私は、感動を伝えるためだと思う”

L:詩歌 = {
 t:名称 = 詩歌(技術)
 t:要点 = 歌う,植物,繁茂
 t:周辺環境 = 詩歌藩国
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *詩歌の技術により、歌う間、生物の反応は1000倍になる。
 }
 t:→次のアイドレス = 詩歌強化魔法(技術),落ち着きの歌(技術),守りの歌(技術),集団で歌う(イベント)



詩歌


詩歌という言葉がある。
詩を歌うと書くそれは、ひとつの技の名前であり、古くから存在する技巧の呼び名だ。
誰しもが使えうる、しかし使いこなすのは難しい、そんなごく当たり前の技術のひとつ。
人間が何代にも渡り磨き上げてきた「対話」と呼ばれる御技。その一端。

それは、ありのままに心を伝えるために存在する、ただそれだけの技である。

しかし、その技にはまだ見ぬ可能性があることを、人間は知った。

古来より、言葉には力が宿るという。
しかしその力は小さく、弱く、すぐに消えてしまうほどはかないものだった。

だが小さく弱い光でも、多くをたばねれば燦然と輝き出すように。

想いを込めた歌には、詩には。不思議な力が宿ることがあった。

桜が芽吹き、寒さが和らげば、雪解けを告げる春の詩を歌った。
草木が生い茂り、果実がみのりだすように、草花を励ます木々の詩を歌った。
眠る赤子から悪夢を退けたいと願い、健やかな眠りを願う子守の詩を歌った。
あらゆる災疫を跳ね除ける加護を成せと、去りゆく友を想う友情の詩を歌った。

人は、信じる。想いはきっと通じるのだと。
だから。

雪解けを告げる春の詩を歌えば、桜が芽吹き、寒さが和らいだ。
草花を励ます木々の詩を歌えば、草木は生い茂り、果実がみのりだした。
健やかな眠りを願う子守の詩を歌えば、眠る赤子から悪夢を退けた。
去りゆく友を想う友情の詩を歌えば、あらゆる災疫を跳ね除ける加護を成した。

本当のことは分からない。それでも人は、それが想い願ったからだと思う。
ただ心を伝えるための技は、こうして誰かの幸福を守る技となった。


/*/


詩歌という、王がいる。
かつて、ただ心を伝えるための技を、誰かの幸福を守る技へと昇華させた民の末裔にあたる。
詩と歌を愛するがゆえに詩歌の民と呼ばれた者たちの長であり、治める国の名は詩歌藩国といった。

彼は今、祭りの中にいた。

今やほとんどが失われ、使われることのなくなった古い詩と歌の中で唯一、いまでも謡われる詩を【歌う】ために。

春の訪れを告げる春風祭。
吟ずるは春の詩。
冬に凍え、眠りについた【植物】達に、春が来たぞと告げる歌。
北国の寒さで弱った木々に、元気を出せと励ます歌。

王都イリューシアの中心、政庁にほど近い場所にある大広場。
詩歌は新緑を模した若草色の絨毯を踏み締めて、演説台へと登壇した。
静まる民衆。
一瞥して、詩歌は口を開いた。

マイクはない。
そも機械に頼る必要がない。音を風に乗せれば、声は人に運ばれ国中に届く。
まっすぐに前だけを向いて、短く言った。
「今年もまた始まりの季節がめぐってきた。さぁ歌おう、春を」
胸を張り、堂々と歌い始める。


青空に響くその声は 春を待つ想いの歌

ふりそそぐ光の中で 恋しい緑に捧ぐ歌

跳べ 春だ 跳べ 春だ

溶けゆく雪を雫に変えて 冬の終わりを告げる歌

やわらぐ風の香りに笑い 芽吹く若葉を祝う歌

跳べ 春だ 跳べ 春だ

共に手を取り春を踊ろう 巡る季節の円を繋ごう


たった一人の歌とは思えない声量。美しい旋律。
それを聞いた広場に集まった民衆も一人、また一人とさざなみのように斉唱が広がってゆく。
いつしか国中を包んだ詩と歌が、奇跡を起こす。
まるで夢かまぼろしのように、草木が【繁茂】し始める。
新たな緑が芽吹き、色とりどりの花が咲きほこった。

歌が終わった頃には、詩歌藩国は春が来ていた。

「それでは、みな良い春を」

そうして国に春を告げる祭り、春風祭は始まりを迎えた。


解説

○解説(詩歌)

心にある想いをより正確に相手へ伝えるために「対話」から派生したとされる技術。
人が会話を始めるより以前、感極まって叫びだした行為そのものが詩歌の原型であるとも言われ、実際には対話よりも古い技術である、という説もある。
言葉が生まれるよりも前、感動を伝えられずもどかしい思いを抱いた人の祖先が、きっといたに違いない。
いやそもそも最初の言葉は感動が口にさせたに違いない。と考える学者の、なんともロマンチックな学説である。

言葉を一定のリズムに乗せて歌うことで心情を表現する効果があり、ただの言葉や対話では伝えきれない自己の内なる世界、センシビリティすらも表現しうる。
本来であればただ「伝える」だけの能力しかもっておらず、それ以上の効果はない。
しかし想いを込めた言葉には力が宿る(コトダマが宿る)ため、春の詩のように結果として具体的な影響が出る場合がある。
以下のような順をたどると考えられる。

1.詩歌を作成する
2.詩歌を謡う
3.聞いた存在はその詩歌に込められた思いを受け取る
4.思いが影響を与える

問題点として、相手が聞いている状態(心が開いている状態)でなければ効果が激減するというものがあり、そのため悪意を持って使用することはとても困難である。
特に人の心はうつろい易く、木々や動物、無機物などと比べると影響を与えにくいとされる。
しかし逆に考えればうつろい易いということは大きく開くことも可能ということであり、たとえば互いを深く想いあった家族や恋人同士などであれば絶大な効果を与えることも可能である。

大切なことは、想いを込めることである。
どんなに優秀な吟遊詩人より、大魔術師よりも。
街中で春を想う子供のほうが、よい詩歌を謡うこともあるのだ。


○能力解説(春の詩)
詩歌の中でももっともポピュラーなものが春の詩であり、詩歌藩国に昔から住む者なら誰もが知る有名な詩とされる。
植物に詩を聞いてもらうことで励まし、活力を与え、成長と回復をうながす効果がある、とされる。
簡単な歌で誰でも歌うことができるが、よほどの熟練者でなければその効果はごく小さい。
一人で歌ってもせいぜい咲きかけの花の開花を数日はやめる程度のものでしかない。
#サボテンに毎日話しかけると元気になる、という。それとやっていることは同じである。


詩集 『それぞれの詩』

⇒それぞれの詩
詩歌という技術の実践として、作品を集めた詩集。
藩王から旅人、大人から子供、恋歌から冗句まで、思想も立場も違えた幅広い層の詩歌が収められている。


文:鈴藤 瑞樹
絵:駒地真子
編集:九音・詩歌

タグ:

技術
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