MI作戦概要5(立案経緯)

[MI作戦立案までの経緯](『戦史叢書(43)ミッドウェー海戦』p25~)
昭和16年
12月9日 
山本長官、宇垣参謀長に「ハワイ攻略作戦」と「セイロン島攻略作戦」の研究を命じる。
→ハワイ攻略作戦は、兵力不足により時期尚早と判断される。

昭和17年
1月12日
伊6潜が空母レキシントン撃沈を報告(実際はサラトガで被雷により損傷)

2月1日
米空母エンタープライズとヨークタウン、マーシャル空襲

2月20日
ニューギニア沖海戦(米空母レキシントン、ラバウル空襲を企図するも、陸攻隊の反撃で避退)
大和艦上にて、セイロン島攻略作戦図上演習実施

2月24日
米空母エンタープライズ、ウエーク島空襲

3月4日
米空母エンタープライズ、南鳥島空襲

3月8日
陸軍の反対により、大本営海軍部はGFのセイロン島攻略作戦案を却下
→聯合艦隊は代替案としてミッドウェー作戦案を検討

3月10日
米空母レキシントンとヨークタウン、ラエ・サラモア空襲

4月1日
三和参謀が山本長官に、ミッドウェー/FS(フィジー・サモア)作戦を説明
<作戦概要>
 5月上旬 ポートモレスビー攻略作戦
 6月上旬 ミッドウェー作戦
 7月中旬 FS作戦(攻撃破壊のみ)
 10月  ハワイ攻略作戦

4月3日
渡辺参謀が、大本営海軍部に作戦の説明するも、反対される。
<反対理由>
 「ハワイ空襲と同一方向から、同一要領の作戦を実施することは危険」
 「ミッドウェー島から大型機の哨戒が実施されるのに対し、我が方が基地航空隊の支援を受けられない」
 「米空母は不利となれば出撃せず、誘出の効果に疑問」
 「攻略後の維持が困難」
 それに加えて、「FS作戦は破壊のみではなく、攻略確保すべき」

4月5日
ミッドウェー作戦案が内定
<変更点>
 FS作戦では、サモアは攻撃破壊するが、フィジー、ニューカレドニアは占領確保に努力
 ミッドウェー作戦にアリューシャン方面の攻略を追加
第二段作戦第一期作戦(ポートモレスビー攻略)の兵力部署を予報

4月10日
聯合艦隊、第二段作戦第一期兵力部署発令

4月12日
大本営海軍部が陸軍部にミッドウェー/アリューシャン作戦を提示
(ALは陸海軍協同、MIは海軍単独で実施するが、できればMIも陸軍の兵力派出を希望)
→陸軍は難色を示したが、AL攻略は以前から必要性を認めていたので同意

4月13日
聯合艦隊が海軍部に作戦日程を伝達
 5月7日 ポートモレスビー攻略
 6月7日 ミッドウェー/アリューシャン攻略
 6月18日 ミッドウェー作戦作戦部隊はトラックに集結
 7月1日 機動部隊、トラック出撃
 7月8日 ニューカレドニア攻略
 7月18日 フィジー攻略
 7月31日 サモア攻撃破壊

4月15日
第二段作戦計画を上奏裁可(p50)
<概要>
一、作戦目的:太平洋及び印度洋の敵艦隊・航空兵力を捕捉撃滅
       帝国不敗の戦略態勢を確立する
二、作戦方針:
 印度洋:英国艦隊撃滅、セイロン島攻略、独伊と連携
 豪州:米豪連絡線を遮断し、屈服を図る
 東太平洋:敵機動部隊の奇襲、特に本土に対する空襲を警戒
 米国:太平洋において決戦を強要し、捕捉撃滅
 支那:ビルマ作戦と連携して蒋介石政権の屈服を促進
三、兵力部署:
 南方占領地域:第一/第二/第三南遣艦隊
 内南洋、南太平洋:第四艦隊、第十一航空艦隊
 本土東方海面:第五艦隊
 太平洋、印度洋:第六艦隊
 本土近海:聯合艦隊主力
 支那方面:支那方面艦隊
四、作戦要領:
(一)速ニ印度洋ニ在ル英国艦隊ヲ索メテ、之ヲ撃滅シ、且ツ独伊ノ
   西亜作戦ノ進展ト呼応シテ、情況之ヲ許ス限リセイロン島ヲ攻略シ、
   英印間ノ連絡ヲ遮断シテ、独伊トノ連携ヲ確保ス
(二)濠州ニ対シテハ、米英トノ遮断作戦ヲ強化スルト共ニ、
   濠州方面敵艦隊ヲ撃滅シ、其ノ屈伏ヲ促進ス
   之ガ為、左ノ作戦ヲ実施ス
 (イ)基地航空部隊並ビニ、機動部隊ヲ以テ、豪州東岸及ビ北岸要地イ在ル
    敵兵力軍事諸施設ヲ撃砕シ、敵ノ反撃作戦ヲ封ズ
 (ロ)機動部隊及ビ潜水艦ヲ以テ、濠州方面敵艦隊ヲ撃滅スルト共ニ
    敵海上交通線ヲ破壊ス
 (ハ)陸軍ト共同シテ、フィジー・サモア及ビ、ニューカレドニアヲ攻略シ、
    右地点ニ、潜水艦及ビ航空基地ヲ整備シ、米豪間ノ海上交通及ビ、
    航空路ヲ遮断ス
    但シ、サモアニ対シテハ、之ガ攻略後、基地施設ヲ徹底的ニ破壊シタル後、
    撤退スルコトアリ
    支那事変解決スルカ、又ハ、対ソ関係閑話セル情勢トナリタル後、
    諸般ノ情勢、之ヲ許セバ、濠州攻略作戦ヲ企図スルコトアリ
(三)東正面ニ対シテハ、左ニ依リ作戦ス
  (イ)主トシテ、敵ノ奇襲作戦ヲ困難ナラシムル目的ヲ以テ、ミッドウェーヲ攻略ス
  (ロ)敵ノ奇襲作戦ニ対シ、適宜所要ノ兵力ヲ配備哨戒シ、特ニ本土空襲ニ対シ
     警戒ヲ厳ニシ、敵ノ企図ヲ未然ニ偵知スルニ努メ、適時兵力ヲ集中、之ヲ捕捉撃滅ス
  (ハ)潜水艦、航空部隊等ニ依ル奇襲攻撃ニ依リ、敵兵力ノ減殺、並ビニ主トシテ
     布哇(ハワイ)其ノ他太平洋方面敵作戦基地ノ破壊ニ努ム
  (ニ)成ル可ク速カニ、アリューシャン軍群島ノ作戦基地ヲ破壊、又ハ攻略シ、米軍ノ
     北太平洋方面ヨリスル作戦企図ヲ封止ス   
(四)印度洋方面作戦及ビ豪州方面作戦、概ネ一段落セバ、全力ヲ東正面ニ指向シ、
   米艦隊主力(英ノ聯合勢力モ含ム)ニ対シテ決戦ヲ強要シ、之ヲ撃滅ス
   之ガ為、我準備完成ヲ待チ、左ノ作戦ヲ実施ス
 (イ)布哇ノ外郭基地(ジョンストン、パルミラ等)ヲ攻略ス
 (ロ)機ヲ見テ、布哇ニ対シ大規模ノ奇襲作戦ヲ実施シ、所在航空兵力ヲ撃滅ス
 (ハ)聯合艦隊ノ大部ヲ以テ、前二項作戦ヲ実施シツツ、敵海上兵力ヲ捕捉撃滅シ、
    極力敵主力ニ決戦ヲ強要ス
 (ニ)前諸項作戦ト関連シ、情況之ヲ許セバ、敵前進根拠地ノ覆滅、通商破壊戦
    及ビ米西岸要地ノ奇襲攻撃ヲ強化スル目的ヲ以テ、陸軍ト協同シテ布哇ヲ
    攻略スルコトアリ
(五)作戦全期ヲ通ジ、印度洋及ビ太平洋ニ於テ、有効ナル通商破壊戦ヲ実施スルト
   共ニ、帝国所要ノ海上交通線ヲ確保ス
(六)速ニ南洋群島及ビ占領地域ノ防備ヲ強化シ、敵ノ攻略奪回作戦ニ備フ
(七)支那ニ対シテハ、印度・緬甸(ビルマ)方面ノ海上封鎖ヲ厳ニシ、陸軍ノ作戦ト
   相俟テ蒋政権ノ屈服ヲ促進ス

[補足]
○聯合艦隊が、ひとたび東に向かって積極作戦を開始し、主敵米軍との間合いを詰めれば、
 徹底的な勝利を得ない限り、西方に主力を振り向けることは難しい。
「印度洋の英国艦隊撃滅」など、望み得ないであろう。(p53)

○ミッドウェー作戦について、
「主トシテ、敵ノ奇襲作戦ヲ困難ナラシムル目的ヲ以テ、ミッドウェーヲ攻略ス」と
 ミッドウェー島を攻略して、哨戒基地を前進させることを主目的としているが、
 同時に「敵艦隊・航空兵力を捕捉撃滅」と敵空母撃滅も企図している。(p54)

4月16日
大海指第85号発令
(第二段作戦方針を示したもので、詳しい資料は残されていない)

機密聯合艦隊訓示第二号(p58)
「第二段作戦開始ニ際シ、各級指揮官ニ訓示」
○征戦ココニ五箇月、聯合艦隊ハ、今ヤ第一段作戦ヲ概成シテ、将ニ第二段作戦ニ移ラントス
 御稜威ノ下、各隊ノ善謀勇戦ニ依リ、戦果大イニ挙ガリ、戦勢亦有利ニ進ミ、
 克ク所期ノ目的ヲ達成シ得タルハ、本職ノ真ニ欣快トスル所ニシテ、各隊ノ偉功ヲ奏シ、
 赫赫タル武勲ヲ揚ゲツツアルハ、同慶ニ堪ヘズ

○然リト雖モ、既往ノ成果ハ未ダ以テ、戦争ノ全局ノ態勢ヲ制スルニ足ラズ
 敵ハ驕傲、備ヲ怠リ、緒戦ニ於テ、我ガ電撃ニ潰滅シタリト雖モ、依然強大ナル武力ヲ擁シ、
 軍備増強ノ規模、亦大ニシテ、既往ノ敗戦ヲ意トセズ、
 或ハ長期持久ヲ策シ、或ハ大挙反撃ヲ企図シ、以テ頽勢挽回ニ努ムベキヤ必セリ
 
○此ノ敵ヲ討チテ、征戦究極ノ目的ヲ達成センニハ、其ノ軍容成ルニ先ンジ、
 敵海上武力ノ中核ヲ撃摧シ、併セテ我ガ攻防自在ノ態勢ヲ確立セザルベカラズ

○戦局決戦段階ニ入ル、即チ聯合艦隊ハ新部署ニ就キテ、其ノ陣容ヲ整ヘ、今次戦訓ヲ加ヘテ
 益々鋭鋒ヲ磨キ、決戦兵力ヲ挙ゲ、東西両大洋ニ敵ヲ索メテ、之ヲ捕捉撃滅シ、以テ戦局ノ
 大勢ヲ海上ニ決セントス

○皇威ノ下、天祐既ニ我軍ノ上ニ在リ、
 本職ハ聖旨ヲ体シテ、前途ノ大成ヲ期シ、益々奮励努力、護国ノ華ト散リタル在天ノ英霊
 ト共ニ、飽ク迄、頑敵ヲ剿滅(そうめつ=残らず滅ぼす)シ尽サズンバ、息マザアラントス
 各員、本職ト思ヲ一ニシ、粉骨砕身、以テソノ任ヲ完ウスベシ
(解説)
「この訓示には、よく山本長官の思想が表されている。
 まず敵は、なお強大な武力を持ち、軍備増強の規模が大きく、必ず頽勢挽回を図るであろう。
 我が方としては、敵の軍容が整う前に、その中核兵力、すなわち米国兵力を撃砕せねば
 ならないと述べている。
 聯合艦隊は、ここで一息入れることなく、思い切った積極的な作戦を続けて、一挙に
 戦局の大勢を決めようとするもので、海軍部などの考えていた、長期不敗の態勢を固め、
 主として欧州戦局の進展に依存して、英国の崩壊から米国の戦意喪失を図ろうとする
 方針でないことを示している」

4月18日 ドゥーリットル隊による帝都空襲(p59)
[聯合艦隊の反応]
「この空襲を受けて同(山本)長官は、空襲成功による米海軍および米国民の士気の高揚を重視し、
 再度彼の奇襲を許さず、また高揚した彼の士気を阻喪させるため、ミッドウェー作戦を急ぎ、
 敵空母を捕捉撃滅する必要を痛感したようである」(p62)

[軍令部の反応]
「海軍部は早くから、米海軍が早期決戦を強要する方策として、わが本土を空襲することは
 ありうると判断していた。しかし同部は、その可能性や空襲を受けた場合の精神的影響など
 については、山本長官ほど深刻には考えていなかった。同部は現実にこの空襲を受けて、
 にわかに米機動部隊に対する関心が強まったようである」(p63)
「さらに米空母がB-25を使用したので、その対策としては、現に計画中のミッドウェー、
 アリューシャン両作戦の実施を急ぎ、哨戒基地を進めて、米空母のわが本土近接を困難と
 するよりほか方法はなく、さらにこの作戦を契機として米空母を捕捉撃滅できれば、一層
 効果を確実にできるとみて、同作戦の重要性に関する認識を深めた」
「そのため当初あれほど強く反対を唱えた海軍部第一課も本作戦の実施に積極的となった。
 これにより第一課と聯合艦隊との間の感情的疎隔は解消され、聯合艦隊に対する風当たりは
 一挙に好転したと、黒島・佐々木両参謀は回想している」

[陸軍の反応]
「陸軍部は、米空母に対する作戦は海軍の担任なので、当然その機動についての関心が
 薄かったと言えよう。ところが現実にこの空襲を受けて、同部の関心はにわかに高まった。
 当時陸海軍協定により、本土の防空は一部を除くほか陸軍の担任であった。そこで
 同部は海軍が企図しているミッドウェー、アリューシャン両作戦の重要性を認識し、
 その攻略を確実に成功させるため、陸軍兵力を両作戦に派遣する案を、20日海軍部に
 打診している。
 陸軍兵力の派遣は、海軍部の希望するところであったので、翌21日、その派遣が決定した」

4月28日 第一段作戦戦訓研究会(p87)
戦艦大和艦上にて、聯合艦隊第一段作戦研究会を実施。
・勝ち戦の研究会は愉快なれども身はなし(三和日誌)
・本日なかなか活気も出て収穫も多し(戦藻録)

山本長官訓示
・第二段作戦は第一段作戦と全然異なる。今後の敵は準備して備えている敵である。
 長期持久守勢をとることは聯合艦隊長官としてはできぬ。
 海軍は必ず一方に攻勢をとり、敵に手痛い打撃を与える必要がある。
・敵の軍備力は我の五ないし十倍である。これに対しては次々に敵の痛いところに
 向かって猛烈な攻撃を加えなければならない。

※第一段作戦終了にともない海軍中央は、各種学校の教育再興や人事異動などを
 実施しようとしたが、聯合艦隊の戦力を一時低下することにつながるので、
 それを牽制した発言と考えられる。
 また度々の要請にもかかわらず、飛行機の増産は進まない状況から、
 山本長官は国内の工業力・技術者・資材配分を航空優先に抜本的に変えるべきと
 考えており、海軍中央への方針転換を迫った発言と思われる。

5月1日 第二段作戦図上演習(p89)
5月1日から4日の四日間、戦艦大和艦上において第二段作戦図上演習を実施
・内容はハワイ攻略作戦の航空撃滅戦と艦隊決戦まで
・統監、審判長は宇垣纒少将(GF参謀長)
・青軍(日本軍)指揮官は宇垣纒少将
・赤軍(アメリカ軍)指揮官は松田千秋大佐(戦艦日向艦長)
・5月1日から3日の三日間で演習、最終日に研究会

<ミッドウェー作戦に関する問題点>
・図上演習中、青軍(日本軍)がミッドウェー島攻略中に、赤軍の米空母部隊が
 出現し、青軍空母に大被害が出て攻略作戦続行が困難になった。
・統監部(宇垣参謀長)は審判をやり直して青軍空母の被害を1隻だけにして続行
・攻略自体は成功したが、計画より一週間遅れ、艦艇の燃料不足で駆逐艦が
 動けなくなる等の結果となった。
※二式大艇による真珠湾偵察作戦(第二次K作戦)は、この図演の対策として
 立案されたものとされる。

<ミッドウェー作戦の変更点>
・ダッチハーバー空襲開始時期をN-3日以降に変更
 過早に空襲すると敵の警戒を厳重にし、準備を整えた米艦隊がミッドウェー島
 攻略中に出現するおそれがあるから、その時間的余裕を与えないことが目的

<作戦指導部の思惑> 
・課題とされたのは米艦隊の反撃時期だったが、参加者の大半は
「反撃は必至だが、出てくるのはミッドウェー島空襲後」という意見だった。

・GF先任参謀の黒島大佐は検討が不十分として、様々な想定を説明し、
「攻略作戦中も敵艦隊の出現に備えておくよう強調した」と回想している。

<攻略部隊集合地の問題>
・攻略部隊(輸送船団)の集合地だったサイパンは、多数の船を停泊させる
 港湾がないため、港外に停泊させることになっていた。
・船団の直接護衛を担当する二水戦は図上演習の中で対潜警戒を厳にしたが、
 万全とは言えない状況だった。

<アリューシャン作戦の問題>

 
 














 

 

 

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最終更新:2024年01月14日 20:56
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