世界の人々の人権のために ASA17-046-2006 北京オリンピックへのカウントダウン-守られない人権保護の約束(1)


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中国 -オリンピックへのカウントダウン-守られない人権保護の約束-


日本語訳
(英文オリジナルタイトル:The Olympics countdown:failing to keep human rights promises)
http://web.amnesty.org/library/Index/ENGASA170462006

国際事務局発信日: 2006年9月21日
AI INDEX: ASA 17/046/2006

発行:アムネスティ・インターナショナル国際事務局 1 Easton Street, London WC1X 8DJ, United Kingdom
和訳:アムネスティ・インターナショナル日本 101-0054 東京都千代田区神田錦町2-2 共同ビル4F

対象国: 中華人民共和国
文書標題: オリンピックへのカウントダウン-守られない人権保護の約束
次のPDF文書より転載。(中国の固有名詞でローマ字または片仮名のままのものは、一部、当サイトにて漢字に変換)
http://www.amnesty.or.jp/uploads/China%20report2006_J.pdf
このページの内容一覧


はじめに

北京オリンピックまであと2年となっているが、2001年4月のオリンピックで北京開催が決定した際に示された人権への取組み1に中国当局は失敗している。深刻な人権侵害が中国全土で報告されており、不安定な状態や不満が広がっている。草の根の人権活動家らの拘留や投獄が続いており、当局によるメディアやインターネットへの規制が強まっている。

1
例として、2001年4月に北京2008年招致委員会副会長、劉敬民[りゅうけいみん、Liu Jingmin]は 「オリンピックのホスト国になることで人権の発展にも貢献する」と述べた。 (http://www.gamesbids.com/cgi-bin/news/viewnews.cgi?category=5&id=988126264&pf=1); in May 2001, the Mayor of Beijing, 劉淇[りゅうき、Liu Qi ]pledged that by hosting the games, "social progress and economic development" in China and Beijing would move forward, as would China’s human rights situation,’ Agence France Presse (AFP), 14 July 2001. 詳細はアムネスティ報告書 「People’s Republic of China: The Olympics countdown – three years of human rights reform?」 2005年8月(AI Index: ASA 17/021/2005)を参照。

死刑適用との関連で、立法や裁判における前向きな変化が見られる一方、「労働による再教育」(労働教養)や虐待的な行政拘禁など他の刑罰では、進展は失速しているようだ。

この報告書は、アムネスティ・インターナショナルによる数多くの中国における人権への懸念を要約したものである。懸念とは、オリンピックに向けて急がれる改革の重点分野としてアムネスティが強調し続ける事項で、具体的には、死刑適用の存続、虐待的な行政拘禁、恣意的な拘禁・投獄・拷問・ジャーナリストや弁護士を含む人権擁護活動家への圧力、インターネットの検閲である。これら全ての分野での積極的な改革は、中国が人権改善の約束を果たす上で不可欠であるとアムネスティは考える。

各章にはオリンピックに向けて急がれる重要かつ具体的な施策とアムネスティが考える勧告が、報告の最後にある。これらの勧告は、中国の人権改革についてのアムネスティの広範な課題の中核となるものである。

「人間の尊厳の保持」と死刑

「オリンピズムの目標は、あらゆる場でスポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある。」―オリンピック憲章、オリンピズムの根本原則より2


中国の刑法において、強盗、レイプ、殺人といった暴力犯罪を含むおよそ68の罪状に死刑は適用可能である。また、経済的犯罪(例えば、脱税や横領)や麻薬関連犯罪など一部の非暴力犯罪に、その状況が「深刻な」場合に適用可能である。生きる権利の侵害、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱いの禁止において、死刑は基本的に、オリンピック憲章の根本にある「人間の尊厳の保持」を侵害する。中国における死刑制度全体および死刑監房に拘留されている死刑囚の処遇の双方に懸念がある。

北京を含む中国全土で、死刑囚は依然として手錠と足鎖をつけられている。拷問に関する国連特別報告官は2005年11月に中国を訪れた際、北京拘置所で控訴中の死刑囚に面会した。報告官は、死刑囚が「手錠とおよそ3キロもの鉄の足鎖を、毎日24時間いかなる時(食事中、トイレに行く時も含む)でもつけている」3と記した。拘置所職員は、職員の安全、他の囚人の安全、逃亡防止、自殺防止のためにこのような行為は必要な手段である、と主張したという。拷問に関する特別報告官は、「死刑囚への手錠と足鎖の継続使用は、正当性のない余計な刑罰の強要で、非常な苦痛を与え、拷問に等しい」と結論した。報告官はこのような行為は廃止すべきであると勧告した。

3
Report of the Special Rapporteur on torture and other cruel, inhuman or degrading treatment or punishment, Manfred Nowak – Mission to China, 10 March 2006, UN Doc. E/CN.4/2006/6/Add.6

死刑囚は、通常は後頭部への銃撃と薬物注射(増加している)により処刑されている。1996年の刑事訴訟法改正で薬物注射が導入されて以来、何十台もの死刑執行車が生産され使用されている。銃殺と薬物注射の正確な比率は不明であるが、中国の法専門家の中には薬物注射が今では死刑執行全体の40%を占めると推定する者もいる4。薬物注射に使用される薬物(意識をなくす酢酸チオベンタール、呼吸を止める筋肉弛緩剤、心臓を止める塩化カリウム)は、北京でのみ生産され、地方当局者は自費で首都まで入手に出向いているという5。

4
"China makes ultimate punishment mobile", USA Today, 14 June 2006を参照。
5
同上。

薬物注射により刑罰の残虐性は軽減されず、死刑執行への医療関係者の関与は国際的な医学倫理に反する6。薬物注射の利用により処刑された囚人からの臓器摘出を容易にすることもアムネスティは懸念している。2005年7月の生体移植国際会議で、黄潔夫[こうけつふ、Huang Jiefu]衛生部副部長は中国で移植に使われる臓器の多くが死刑囚のものであることを認めた7。2006年3月、移植臓器の99%に達している可能性があると中国の移植専門家は推測している8。臓器移植を求める外国人顧客を対象にしている中国の移植ウェブサイトもこのような実態を反映している。例えば、北京拠点のウェブサイトBek-Transplant.comでは、「よくある質問」のコーナーで、臓器は「中国で処刑された人びと」から摘出されていることを公に認めている9。

6
詳細な情報は: Amnesty International: Lethal Injection: The medical technology of execution, January 1998 (AI Index: ACT 50/001/1998) 。アップデート版は, September 1999 (AI Index: ACT 50/008/1999).
7
"Accelerating the regulation of organ transplants" [器官移植:加快规制的地带] 『財經雑誌』[Caijing Magazine], 28 November 2005, pp.118-120.を参照。
8
"Top surgeon says he has seen only 20 cases of voluntary donation," South China Morning Post, 1 April 2006.

9
www.bek-transplant.com

最近では拘留中に死亡した多くの法輪功修練者も臓器を摘出されているとの疑惑がある。しかし、アムネスティはこれらの報告について調査中であるが、立証には至っていない。

死刑囚からの臓器の移植について、中国の移植外科医の一部からは関与に戸惑う声もある。最近2006年4月に発表された記事によれば、ある(匿名の)中国の外科医は次のように述べている:
「裁判所の許可が下りれば、医師は処刑場に行き、無菌仕様の小型トラックで待ち、処刑後すぐに臓器を入手できる。多くの場合、囚人は処刑直後に死亡しないため、このような経験は、多くの外科医にとって厳しい倫理的、精神的な衝撃となるが、新鮮さが要求されるため外科医は臓器を摘出するために素早く行動しなければならない。ある程度は、医師は処刑の一部である。これは多くの若い医師には認め難いことであるが、もし臓器移植したいのであれば、現実を受け入れるしかない。10」

10
South China Morning Post, 1 April 2006, 同上。

特に中国で保健医療が商業化されて以来、臓器移植は非常に儲かるビジネスとなっている。このような取引が利益をもたらす可能性は、警察や裁判所、病院における広範な汚職とあいまって濫用を誘引しているとの深刻な懸念がある。また死刑存置の経済的理由のひとつにもなっているだろう。

2006年3月28日、中国の衛生部は2006年7月1日より施行される臓器移植に関する新規則を発表した11。その規制は、臓器の売買を禁止し、提供者が書面で同意した時のみ臓器摘出可能としている。しかし、医療専門家は問題の本質を捉えていないと批判している。例えば、臓器移植の専門家で規則の起草に関わったという陳忠華[ちんちゅうか、Chen Zhonghua]教授は、生きている提供者からの移植に関する指針しか示しておらず、臓器の出所等に関する重要な問題には対処していない、と述べている12。どのようにこの規則が実施されるかも不明確である。国際的な医療基準は、臓器移植は「自発的」で「自由で十分に情報を得た上での」提供者の同意によってのみ行われるべきとしている。差し迫った死刑の苦痛やトラウマに直面している死刑囚は、このような同意ができる状態にないとアムネスティは考える。さらに、中国の死刑適用にまつわる秘密主義は、このような同意があったかを立証することを難しくしている。

11
"Temporary regulations on the administration and clinical application of organ transplantation technology [人体器官移植技术临床应用管理暂行规定], 中国語では下記サイトで: http://www.mol.org.cn/news/NewsList.asp?newsid=4230&boardid=14
12
"New organ transplant rules released", South China Morning Post, 28 March 2006.

死刑の過程における不透明性は、中国で毎年、死刑を宣告され、執行されている人数を当局が非公開にしている事にも反映されている。中国政府は、死刑宣告や執行の公式な統計を発表することを拒否している。入手できるデータから、アムネスティは、2005年に少なくとも1770人が死刑執行され、3900人が死刑判決を受けたと推測しているが、実際はより多くの数になると考えられる。2004年3月には、陳仲林[ちんちゅうりん、Chen Zhonglin]議員は年間およそ10000人が死刑執行されていると推定している。今年初めには、著名な死刑廃止活動家で刑法学者の劉仁文[りゅうじんぶん、Liu Renwen]は地方自治体や裁判官からの情報にもとづき、8000人が死刑執行されたと推定している13。

13
"China’s secret execution rate revealed", Globe and Mail, 28 February 2006.

中国で死刑判決を受けた人は、国際人権基準に照らして、公平な裁判を受けていない。裁判での欠陥としては:弁護士への早急なアクセスが不十分、無罪推定がない、司法に政治が介入すること、拷問によって得た証拠を採用しない等である。最近中国の報道で報告されている多くのケースは、広く行われている警察の拷問により得られた自白で無実の人びとが死に至っていることを明らかにしている:

聶樹斌[じょうじゅひん、Nie Shubin]は中国北部の農民で1995年に、地元の女性を強かんし殺害したとして死刑になった。彼は、警察で拘留中に拷問を受けたという。2005年、他の事件で逮捕された容疑者がこの事件と全く同じ事件を犯したと自白し、事件の状況を詳細に述べたのである。司法当局はまちがいであった事を認め、聶樹斌の家族に公的な賠償を求めるよう指示した。

佘祥林[しゃしょうりん、She Xianglin ],滕興善[とうこうぜん、Teng Xingshan ] は、1994年と1987年にそれぞれ妻を殺害したとして起訴された。警察による尋問で激しい拷問を受けて自白したと主張し無罪を訴えたが、死刑判決を受けた。2005年の4月と6月に、それぞれの事件で真犯人が現れた。再審後、佘祥林は懲役15年に減刑された。11年の服役後、2005年4月1日に、全ての容疑が公的に無実となり、釈放された。彼と彼の家族は、45万元(およそ5万5500ドル)の賠償をうけた。しかし、滕興善は1989年に死刑執行された。

このような事件に対する一般市民の懸念が、死刑制度の改善、特に死刑囚が直面する裁判の質の向上に対する運動を加速させた。2005年10月に、最高人民法院(SPC)は、多くの場合は下級の裁判所に委任されていた役割である国内の全ての死刑判決を承認する権限の再開を公式に発表した。中国の司法制度改革派は、これで死刑執行数が20-30%は減る、と予測している14。アムネスティもこの改革が、裁判の質を高め、死刑判決や執行の数の著しい減少につながると期待している。

14
たとえば、"China plans to use death penalty more sparingly", USA Today, 16 May 2006. を参照。

しかし、当局が関係するあらゆる統計資料を非公開としていることが、状況を監視、分析する事を難しくしている。また、最高人民法院が死刑裁判を再審することで国際人権基準を満たすことにつながるともアムネスティは考えない15。この改革が中国の死刑制度をさらに強固なものにしてしまう逆効果の可能性もある。

15
たとえば、2003年12月、裕福な実業家の劉湧[りゅうゆう、Liu Yong ]は暴力的なギャング活動と不正に 関与したとの容疑(警察が拷問により得た自白にもとづき)が最高人民法院により支持された。下級の裁判所で は拷問の訴えを認め死刑判決を減刑したが、その後最高人民法院はこれが劉湧の処刑を回避する理由にあたらな いとした。彼は裁判所近くで死刑執行車内で薬物注射により処刑された。

国営通信社の新華社の報道によると、最高人民法院顧問の陳光中[ちんこうちゅう、Chen Guangzhong]は2006年4月に地方の裁判所からくる特定の死刑判決を再審するため、最高人民法院下に刑事裁判所3箇所を新設したと発表した。しかし、その裁判所の裁判官が個々の事例について再審し、最終判断を下す権限はないと述べた16。また、いつそのような権限を有するようになるかも述べなかった。北京の社会科学院の刑法の専門家である劉仁文[りゅうじんぶん、 Liu Renwen]教授は、支部は職員数が少ないため全ての死刑事件を処理できず、また下級の裁判所は犯罪抑止力があると考えるため改革に反対する、と述べたことがある17。

16
"China’s Supreme Court tribunals begin to review death penalty cases", 新華社, 3 April 2006.
17
"Chine to open more death penalty cases to public", Reuters, 27 February 2006.

2006年6月に最高人民法院の副院長、熊国選[ゆうこくせん、Xiong Xuanguo]は下級の裁判所からすでに30人の判事を最高人民法院での死刑事件再審のために選定したと発表した。すでに3か月の研修を終えたが正式に任務に就くにはさらに一年の試用期間が必要とのことである。副院長はさらに死刑再審の上級判事として働くための「強固な政治的資質と責任感を兼ね備えた」弁護士と法学の教育者を採用する準備を裁判所が行っているとも付け加えた18。同月に弁護士会に送付された内部の通達では、最高人民法院が優れた刑事弁護士を20名を裁判長として求人していたことが確認された19。他の報告によると最高人民法院は下級の裁判所で死刑再審の研修のために最近修士課程を卒業した学生を19人採用したという。彼らは現在四川、広東、江蘇、山東の下級裁判所で研修中で、今年末には最高人民法院に赴任するという20。

18
"China’s Supreme Court to hire lawyers, teachers for death penalty reviews", 新華社, 30 June 2006.
19
"Top Court recruiting lawyers to act as judges", South China Morning Post, 15 June 2006
20
「高法各地加緊選調“生死法官”」"Gaofa gedi jiajin xuandiao ‘shengsi faguan" ("SPC accelerates selection of ‘life and death judges’ from various regions"), http://www.people.com.cn/GB/paper447/17235/1510587.html

ここ数ヶ月の間に、これらと類似したその他の改善策が中国の国営通信社により明らかになった。2006年3月には最高人民法院院長の蕭揚[しょうよう、Xiao Yang]は、2006年7 月1日から死刑判決の控訴審(すなわち死刑判決の上訴)はすべて公開裁判で行われることになると発表した。最高人民法院の他の当局関係者は、これらの改善案は「人権擁護の強化」につながり「死刑判決事件の誤審防止のための手続き保証」の役目を果たすといっている21。過去には、死刑判決の上告は単にその事件に関する資料の再調査のみが主であり、被告または弁護士が法廷に出頭する機会はなかった22。

21
"China reforms death penalty trials in 2006 – chief justice", 新華社 11 March 2006.

22
中国の死刑裁判過程の詳細については, Amnesty International, People’s Republic of China: Executed ‘according to law’?" (AI Index: ASA 17/003/2004)を参照。

公開裁判は、北京、上海、天津、海南、青海などの中国のいくつかの地域においてはこの決定より以前に、すでに標準的手続きとなっている。したがって、この改善策の効果は、公開裁判が全国的な標準手続きとなるといえる。浙江、内モンゴル、黒竜江を含むいくつかの省と地方では現在、死刑控訴審を公開裁判で行っていると中国のマスコミ報道は語っている。

アムネスティは中国におけるこの死刑の制度改善と審理の質の向上への動きを歓迎し、これにより死刑執行と誤審の減少につながることを期待している。この目的を達成するためにアムネスティは中国当局に、最高人民法院によるすべての死刑判決の再審をできるだけ早く復活させるように要請した。また一方、制度改善が期待通りに死刑執行数の減少につながったかを究明するため、これらの政策には死刑判決と死刑執行についての国家統計(過去の統計値を含む)の全面的な透明性が伴うべきである。

アムネスティは、刑法により死刑が適用される犯罪の数を削減し、死刑廃止に向けたさらなる対策を講じるよう中国当局に要請している。この件に関連して、湖南高級人民法院の院長である江必新[こうひつしん、Jiang Bixin]が、横領や収賄といった経済的犯罪への死刑を徐々に廃止することを提唱して2006年3月に中国の全国人民代表大会(全人代、NCP)に提出した動議をアムネスティは歓迎している23。この提案に対する全人代の公式な反応は不明だが、この動議に関する質問に対して、報道によれば最高人民法院院長、蕭揚は以下のように答えている:

23
"China’s policy is to preserve death penalty", 新華社, 12 March 2006.

「この提案は現在の中国の状況にそぐわない;死刑廃止は不可能である。死刑廃止に関連した条項は中国の現行の法規には存在しない。中国の刑法で死刑は存置されるべきと明確に規定している。しかし人権を守ることを考慮し、我々はこの規定の適用については慎重にすべきである。24」

24
"蕭揚[しょうよう、Xiao Yang]states that it is still not possible to abolish the death penalty, but that it should be used carefully, safeguarding human rights" (肖扬称还不能废除死刑 应该慎用以确保人权), 『中国新聞網』 [Zhongguo Xinwen Wang],12 March 2006, available in Chinese at http://www.chinacourt.org/public/detail.php?id=198089.

この文脈からアムネスティは、ある種の経済的犯罪の刑罰で死刑適用を除外した以前の刑法改正に注目するが、その適用範囲を拡大させているのが最近の傾向である。このような表明は、死刑廃止を最終目標として中国との人権対話を支援している国ぐにの政府を含む国際社会で中国当局が保証した確約に逆行するものである。

オリンピックに向けて人権を改善するという公約に従い、2008年8月までに死刑廃止に向けた迅速かつ具体的な対策を採るようアムネスティは中国当局に引き続き要請する。死刑が他の処罰よりも犯罪抑止効果が高いという実証がない限り、アムネスティは中国当局に対して、死刑の現状を知る一般教育を開始し地域での効果的な犯罪取締り政策を打ちたてる努力に焦点を合わせ直すことを要請する。

オリンピック治安対策としての「労働を通しての再教育」(「労働教養」RTL)

「オリンピック開催が近づいてくると、オリンピックの運営がスムーズに進むように、安全で、清潔で秩序ある都市環境を確保することは、重要な政治的義務である。しかし、多くの法律の専門家を憤慨させているのは、「労働を通しての再教育」(労働教養)をクリーンアップの取り組みの重要な手段として利用していること、およびその適用範囲が拡大しつつあることである。」-呂明和[りょめいわ、Lu Minghe:音訳]、中国人の作家、ジャーナリスト25

25
「都市のイメージアップと自由の擁護:困難な選択」『財經雑誌』、第159号、2006年5月15日

「表現、結社、信教の自由の平和的な行使に対する制裁として自由を奪うこと、またそれに加えて、被収容者に罪を認めさせ、意志を曲げさせ人格を改造する目的で、強制や侮辱や処罰を用いて再教育することは、非人道的あるいは品位を傷つける取り扱いまたは処罰である。このようなことは、人権意識の上に成り立つ民主主義社会の核となる価値観に反することである。」拷問に関する国連特別報告者26

26
2005年11月の中国訪問に関する報告書、前掲(概要)

中国における「労働を通しての再教育」(労働教養)は、国の内外から廃止を求める声が高いにもかかわらず、大規模な形で行なわれ続けている。アムネスティは、当局がオリンピックを口実に、北京の公共秩序を維持するという名目でこの制度を維持しているのではないかと懸念している。

刑法で処罰するほど重大ではないとされる軽微な犯罪に対する処罰として、全国で数十万人の人びとが労働教養の施設に収容されていると考えられる。労働教養の収容期間は1年から3年(1年間の延長の可能性がある)で、期間を決定するのは警察である。起訴も裁判も再審もない。中国の司法改革論者は、これが正式な刑法によって言い渡される最も軽い刑罰よりも重いと指摘し、警察がこのような処罰を自由に決めることができることを深刻に懸念している。さらにアムネスティは、労働教養の施設に収容されている人びとが拷問や虐待を受ける危険性が高いことも懸念している。被収容者が自らの「不法」行為を認めなかったり、思想を変えなかったり、「矯正」に抵抗したりした場合はなおさらである。

最近のケースでは、法輪功のメンバーである卜東偉[ぼくとうい、Bu Dongwei](ディビッド・ブーとして知られている)が、自宅で法輪功の文書が警察によって発見され、「国の法律にさからい社会秩序を乱した」として、2006年6月19日に北京において2年半の労働教養を言い渡された。当局は家族に収容場所を知らせるのを拒否したと伝えられている。卜東偉は、2004年5月19日に海淀[かいてん、Haidian]地区の自宅から警察に連行される前、北京にある米国の支援団体、アジア基金で働いていた。アムネスティは、卜東偉を良心の囚人であると考え、即時・無条件の釈放を求める27。

27
詳しくはアムネスティ緊急行動(ASA 17/049/2006、2006年8月29日)を参照。

当局は、労働教養を「違法行為矯正法」(IBCL)という新しい法律に置き換えようと試みたが行き詰っている。この法律は、全国人民代表大会(国会)の法律委員会で草案段階のままになっているが、この草案は公開されていない。2006年5月、アムネスティは、この新しい法律が「市民的および政治的権利に関する国際規約」(ICCPR)などの国際人権基準に違反しているとした当局あての覚書を発表した。中国はICCPRに署名し、近い将来批准するという意志を表明している28。アムネスティは、この法律は労働教養に比べていくつかの点で改善されているが、まだ非常に重要な点で国際基準を満たしていないと結論した。特に、警察が持つ処罰の権限を独立した法廷に移譲していない点である。アムネスティは、当局が新しい法の導入を中止し、自由刑の適用が可能なすべての犯罪を刑法に基づいて裁くよう勧告した。

28
『中華人民共和国:「労働を通しての再教育」その他の懲罰的行政拘禁の形態を廃止する-市民的および政治的権利に関する国際規約と国内法を合致させるチャンス』2006年5月(AI Index: ASA 17/016/2006)

ここ数カ月間、労働教養の改革や廃止に向けてさらなる動きがあったという証拠は何もない。 中国で法輪功の運動が活発化し、1999年にその活動が禁止されてから、法輪功のメンバーが大量に拘禁された。以前の労働教養見直しの取り組みが行き詰まったのは、これが主な原因だと言われている。現在は、オリンピックまでに北京の状況を改善する必要性があると考えられていることが、労働教養改革を妨げていることがわかる。

2006年5月8日、北京市当局は、オリンピックを前に市のイメージアップをはかるため、多様な「不法行為」を制限する手段として労働教養を利用すると決定した。この「不法行為」の中には、「非合法な宣伝行為やビラ配り、無免許タクシー営業、無許可商売、浮浪、物乞い」などの悪質なケースも含まれる29。「悪質」とは、3回以上繰り返した場合とされているようである。中国の評論家は、都市の公共秩序問題に取り組むために労働教養のような「問題のある」手段を地方レべルで適用するのは2003年半ば以降初めてのことだと言う30。

29
「都市のイメージアップと自由の擁護:困難な選択」及び「背景:北京のクリーンアップに労働教養を利用」『財經雑誌』、第159号、2006年5月15日
30
同上。

2003年8月、行政拘禁の乱用である「拘禁と送還」(「収容遣送」Shourong Qiansong、C&R)が廃止された。廃止のきっかけとなったのは、広州の警察留置所で、移民労働者の孫志剛[そんしごう、Sun Zhigang]が惨殺されたことに人びとが激しく抗議したことであった。「収容遣送」は、都市において住居が不確定の浮浪者などを対象としていた。アムネスティは、収容遣送は労働教養と同様に、法廷審理なしで警察によって気まぐれに適用され、収容施設では拷問や虐待が頻繁に報告されていたとして、この制度の廃止を歓迎した。アムネスティは、中国当局が2008年のオリンピックへ向けた街のクリーンアップを口実に、収容遣送の代わりに労働教養を利用しようとしているようであると深く懸念している。

またアムネスティは、中国の警察によって科される懲罰的行政拘禁が他にも2つあることを懸念している。1つは「拘禁と教育」(「収容教育」shourong jiaoyu)で、申し立てられた売春婦と客を、6カ月から最長で2年間行政拘禁する。もう1つは「薬物中毒の強制治療」(「強制戒毒」qiangzhi jiedu)で、警察は申し立てられた薬物中毒者に対して3カ月から6カ月間の拘禁を科すことができる。

オリンピック準備期間に人権状況を改善するという約束や、ICCPRを批准するという宣言を守って、起訴も裁判も再審もなしに科されるすべての形態の懲罰的行政拘禁を即時廃止することをアムネスティは中国当局に対して求める。