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ASA17-046-2006 北京オリンピックへのカウントダウン-守られない人権保護の約束(2)

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中国 -オリンピックへのカウントダウン-守られない人権保護の約束-


日本語訳
(英文オリジナルタイトル:The Olympics countdown:failing to keep human rights promises)
http://web.amnesty.org/library/Index/ENGASA170462006

国際事務局発信日: 2006年9月21日
AI INDEX: ASA 17/046/2006

発行:アムネスティ・インターナショナル国際事務局 1 Easton Street, London WC1X 8DJ, United Kingdom
和訳:アムネスティ・インターナショナル日本 101-0054 東京都千代田区神田錦町2-2 共同ビル4F

対象国: 中華人民共和国
文書標題: オリンピックへのカウントダウン-守られない人権保護の約束
次のPDF文書より転載。(中国の固有名詞でローマ字または片仮名のままのものは、一部、当サイトにて漢字に変換)
http://www.amnesty.or.jp/uploads/China%20report2006_J.pdf
このページの内容一覧


人権擁護活動家に対する恣意的拘禁、拷問および嫌がらせ


中国の人権擁護活動家は、オリンピックや主催地の北京に直接関連する現在も続く人権侵害に関心を集めようとしているが、厳しい障害に直面している。中国当局は、人権擁護活動家らの表現、団結、集会の自由の権利を侵害され、彼らの収容や拘留に頻繁に適用される刑法の条項を改正や廃止する措置をとっていない31。

31
刑法102,103,105,106,107,110,111条。詳細な情報はAmnesty International Peopleʼs Republic of China: Human Rights Defenders at risk, December 2004 (AI Index: ASA 17/045/2004) を参照のこと。前掲の拷問に関する国連特別報告者による報告 para.34も参照。

他国と同様に中国でも、被告弁護人・法律アドバイザー・人権侵害を報道するジャーナリストや報告者は重要な役割を担っており、現在起きている人権侵害に関心を集め被害者に対する賠償を勝ち取っている。人権擁護活動家の平和的な活動を阻止または妨害する試みは、国連の人権擁護活動家宣言32と、オリンピック開催地に北京が選ばれたことで中国の当局者が公約したことに違反している。

32
{ この宣言の正式名称は: Declaration on the Right and Responsibility of Individuals, Groups and Organs of Society to Promote and Protect Universally Recognized Human Rights and Fundamental Freedoms, UN General Assembly Resolution 53/144 (Distr. GENERAL A/RES/53/144, 8 March 1999. For further information see ASA 17/045/2004, op cit. )


北京では強制立ち退きの報告が相次いでいる。例えば、2006年1月、ある10世帯の家族が、土地買収に際しての自治体による補償額が不十分であるとして、中国中央テレビ(このテレビ局が2008年オリンピックを放送する)のための新しい立地に隣接している住居から立ち退くことを拒否した。建物に貼られた抗議スローガンは「我々を騙すな!そしていじめるな!」や「人権を!」そして「違法な取り壊しだ!」などであったという33。北京の歴史的な前門地区の住民もまた、取り壊しと再開発に伴って提示された補償額の低さに苦情を申し立てている。報道によれば、ある住人(匿名)は「中国にとってオリンピックはいいことだ。これほどの国際的なイベントを行うことは、私達が能力、強さ、そして豊かさを持っていることを表すから。ただ、このことで一般市民が痛めつけられるとか、または人々の住む場所が奪われるとか、その理由としてオリンピックが利用されるベきではない」と述ベている34。またある住人(YUという)は「我々、一般市民はオリンピックによって大きな煽りを受けているし、生活は混乱してしまっている。これが私たちの感じていることではあるけど、大きな声では言えない」と述ベている35。

33
「人格形成」、2006年7月27日、『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』[中国名:南華早報]により発行された共同通信写真参照(共同通信写真/グレッグ・ベイカー)。
34
「消え行く胡同(hu-tong)、主要地を空けるために瓦礫と化す」、(2006年8月12日月曜日付)ストレーツタイムズウェブサイト、BBC
35
同著参照

オリンピックに向けた準備における建設事業のために、強制立ち退きさせられたとされる被害者と共に、葉国柱[ようこくちゅう、Ye Guozhu]は北京においてデモ行進を組織するため許可を求めたが、後に収容されてしまった。この件についてアムネスティは深刻な懸念を示してきた36。 葉国柱は2004年12月18日に北京市第二中級人民法院に「争いを刺激し、問題を煽動した」として4年の懲役刑を宣告され、潮白[ちょうはく、Chaobai]監獄にいる。葉国柱を、表現、結社、そして集会の自由の権利を侵害されたことのみで拘留されている良心の囚人とアムネスティは考えており、即座かつ無条件で彼を釈放するよう継続的に中国政府を要求している。

36
前掲、ASA17/045/2004参照

拘留中に葉国柱が拷問を受けていた事実が最近明らかとなった。アムネスティに寄せられた信頼できる報告によると、刑務所に収監される前、北京の東城拘置所で警察によって天井から両腕で吊るされ、幾度も殴打され、深刻な背中の痛みとなった。彼は 2005 年後半の4ヶ月間、別の清園[せいえん、Qingyuan]監獄に収容されていたときも拷問を受けたという。明らかに、この収容は彼が“罪”を認めることを拒んだためであった。この拷問は、電気ショック棒による殴打、一日中、長時間にわたり硬い椅子に背筋を伸ばして座るよう強制されたこと、手錠と足鎖―この足鎖は彼の足首の腫れの原因となった-を装着するよう強制されたことも含まれる。彼に対する処遇は、潮白監獄で改善されたように思われたが、以前から患っていた、高血圧、心臓疾患、脳血栓などの疾病に苦しんでいる。報告によると彼は同様に、以前の拷問と虐待による背中と足首の痛みにも苦しんでいる。拘置所は、彼に高血圧の基本的な薬を与えたのみで、他の疾患と傷害とについては治療しないまま放置した。

他の活動家も同様に、北京のオリンピック関連施設の建設に伴う強制的立ち退きにあった。1989年の天安門での弾圧で治安部隊により狙撃され、片脚を切断した斉志勇[せいしゆう、Qi Zhiyong]はこの障害のために企業から強制的に解雇をされた後、生計をどうにかたてるために北京で小さな店を始めた。しかし、彼は、明らかにオリンピック関連する施設建設のため、この店を強制的に何度も移転させられてきた。今年の初め、当局は彼の貿易ライセンスを取り消し、彼を51日間拘禁した。これは、他の活動家とその弁護士が殴打されたことを注意を喚起しようと2006年2月にʻハンガーストライキʼの抗議に参加した後である。明らかにこの活動が原因で、斉氏の妻も解雇された。扶養しなければならない8歳の娘がおり、長引く彼の障害治療による高額な医療費請求もあり、斉志勇と妻は借金なしでは暮らせない37。

37
より詳細については、China :Justice Denied For those Disabled In 1989 Tiananmen Crackdown 2006年6 月(AI Index ASA 17/031/2006)とアムネスティ・インターナショナルの斉志勇へのインタビュー http://web.amnesty.org/pages/chn-020606-interview_qi_zhiyong-engを参照。

他の都市での強制立ち退きの被害者への正義を勝ち取ることを求めている人びとも同様に、拘禁され嫌がらせを受けている。上海で建設のため強制的に家を追われた人びとの弁護士、鄭恩寵[ていおんちょう、Zheng Enchong]は、2006年6月5日に拘置所からの釈放後も、嫌がらせと脅迫を受け続けている38。彼は、6月と7月の間、4回にわたって警察が彼のコンピュータで発見した強制的立ち退きについての情報を含む彼の弁護士としての仕事に関連したことで、警察により勾留された。彼がこの問題についての仕事を続けるのならば、彼の身の安全は危険にされるであろう、と警察と役人から警告されたという。彼の家族も同様に、彼の状況についてメディアに話さないよう、警告を受けていた39。

38
鄭恩寵はʻ国家機密ʼを盗み、それらをʻ中国国外の組織、国家等ʼに渡したことにより、3年の実刑判決を受けた。アムネスティ・インターナショナルは鄭恩寵を、ただ彼の弁護士としての合法的な仕事によってのみ投獄された、良心の囚人であるとみなしている。
39
アムネスティ・インターナショナル緊急アクション AI Index:ASA 17/041/2006 2006 年8月3日を参照

他の地域でも被告側弁護人はひどい人権侵害に最近悩まされている。盲人に対する人権活動家であり、法律アドバイザーでもある陳光誠[ちんこうせい、Chen Guangcheng]は、2006年8月18日に“公共物損壊や交通妨害のための集会”に対して裁判をした。その裁判の進行中、彼の支持者が裁判所に近づけないよう地元の警察は裁判所一帯300メートルを閉鎖した。陳の兄弟3人のみがその裁判に出席することを許されたが、彼の妻の袁偉静[えんいせい、Yuan Weijing]は家で10人の警察官に見張られ出席することを禁止された。陳の弁護人も出席を認められズ、陳は他の裁判所から任命された2人の弁護士が代理人となった。裁判はその日に終了し、評決は2006年8月24日に発表された。陳は有罪となり、4年3ヶ月の懲役刑となった。彼の弁護士(自選)は控訴すると断言した。

陳光誠の裁判は2005年の9月から恣意的な勾留が続き、その間彼は山東省臨沂[りんき、 Linyi]市にある家で拘束され、地元の警察により暴力を受けた。勾留前、陳は臨沂の多くの女性が影響を受けた出産制限のための不妊と中絶のキャンペーンを行っていた地元当局に反対する裁判の手伝いをしていた。陳光誠の家族と彼の弁護人も暴力や嫌がらせ、脅迫などを受けていた。

陳光誠の起訴は、彼の人権擁護活動家としての平和的かつ合法的な活動(当局への訴訟など)を妨害しようとする政治的動機にもとづいたものであるとアムネスティは考える。アムネスティは彼を良心の囚人とみなし、即時無条件の釈放を呼びかけている40。

40
陳光誠のケースについてはアムネスティで緊急行動要請などでアップデートしている (AI Index: ASA 17/037/2005, ASA 17/040/2005, ASA 17/018/2006, ASA 17/026/2006). また次も参照のこと:Amnesty International, China: Chen Guangcheng is a prisoner of conscience, 24 August 2006 (AI Index: ASA 17/048/2006).

より広範には、2006年5月、中華全国律師協会(公的な組織:All China Lawyers Association (ACLA))が最近発表した“集団訴訟を扱う弁護士に関する指導意見”は、地方自治体の役人やさまざまな不正に関係する人びと(土地搾取、強制立ち退きなどの人権侵害)に対し訴訟を提起した被害者団体の弁護士への公的な規制を強めることになり、アムネスティは懸念している41。この指導意見では弁護士が集団訴訟事件を扱った場合はすグに「支援や監督、指導(「支持 指導 和監督」zhichi,zhidao he jiandu)」のためにACLAに報告しなければならないとしている。また、行政当局に対する大量の署名に積極的に関与しないよう弁護士に警告しており、海外の団体やメディアとの接触では「慎重なアプローチ(「慎重対待」shenzhong duidai)」をとるよう忠告している。

41
All China Lawyers’ Association Guiding Opinion on Lawyers’ Handling of Mass Cases (中华全国律师协会关于律师办理群体性案件指导意见), available in Chinese at: http://www.acla.org.cn/pages/2006-5-15/s34852.html

さらに、今年初めには公安部が「2005年は抗議行動やデモ、他の「公序妨害」の参加者数は8万7千人(2004年は7万4千人)にのぼった」と公式に発表した42。ACLAの指導意見は紛争解決に弁護士が役立っていると公的に認めている一方、この規制の実質的な効果は独立している個々の弁護士や法律事務所の能力を損なうであろうことをアムネスティは懸念する。地方で人権侵害の被害者の代理人となる弁護士を思いとどまらせ、被害者に効果的な弁護ができる能力を妨害しようとしているかのようである。

42
"China reports rise in public order disturbances", ロイター通信, 19 January 2006.

より広い代理権限(警察に勾留された依頼人への即時に確実かつ自由にアクセスできることを含む)を弁護士に与えるようACLAが進める最近の動きとこの規制とは矛盾しているように見える。ACLAは全国人民代表大会に刑事訴訟法(CPL)改正法案を2006年7月に提出した43。現行の刑事訴訟法では、裁判前の取調ベの段階での弁護士へのアクセスはすベての容疑者に保障されておらず、検察側の指示で厳密なものとなっている44。実際、ほとんどの勾留者には取り調ベ段階で法的代理人がおらず、拷問や虐待に受けやすい状況におかれる。著名な弁護士の莫少平[ばくしょうへい、Mo Shaoping](多くの反体制活動家や人権活動家を弁護した)によると、刑事容疑者のうち30%のみに弁護士がおり、ある地域ではそれが10パーセントにも下がるという45。刑事訴訟法改正は全人代(NPC)の法律審議事項となっているが、進捗状況は遅れており、正式にはどのような改正となるか不明なままである。

43
"Lawyers seek reform of criminal law," South China Morning Post, 20 July 2006.
44
CPL96条では容疑者は「取調ベ機関による」第一回取り調ベ後に、または容疑者が拘禁の状態あるいは法律による制限が課された(「強制措置」)日から「法的助言を得る、または陳情や申立てを代理で行なうため弁護士を指名することができる」としている。「国家機密に関与」したケースには弁護士へのアクセスに特別な制限がある。このようなケースでは、容疑者が弁護士を指名する、または弁護士と依頼者が面会する前に取り調ベ機関の事前承認が必要となる。あいまいかつあらゆる定義ができる「国家機密」のため、この条文により法的代理人へのアクセスができないように適用されることが多い。
45
South China Morning Post, 20 July 2006, 同上

ICCPR を含む国際人権基準に従い、弁護士が勾留されている依頼者に即時かつ定期的にアクセスすることを保証する確実な措置をとるようアムネスティは当局に要請する。当局は被告側弁護人が適切な弁護を依頼人に提供する能力を制限するあらゆる法律・規則・政策を改正するベきである。

完全なる報道の自由


2001年7月13日付けチャイナデイリー紙によると、北京五輪招致委員会の王偉事務局長は次のように語った。「中国は我が国を訪れるマスコミに対して完全なる報道の自由を与える。(以下中略)。我々は、オリンピックが中国で開かれれば経済の発展だけでなく、教育、保健、人権など、全ての面での社会状況が向上するということを確信している。」

Century Chinaの閉鎖に関して、2006年8月2日に発行された「100名の知識人達による抗議文」33は以下のように記している。「Century China(ウェブサイト)の閉鎖は中国政府が人民の自由を抑圧しているという新たな事例である。従って、我々は政府が乱用する権力に対して集束し、断固として抗議しなければならない。」


2006年8月7日には、国際オリンピック委員会(IOC)が、「五輪ファンのお気に入り情報へのアクセスが容易になるよう」装い新たにした五輪のウェブサイト(www.olympic.org)を発表し、「北京五輪まであと2年」と祝った34。同ウェブサイトへのアクセスが中国で可能になることは間違いない。しかし、アムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、及びヒューマン・ライツ・イン・チャイナなどの多くの国際団体のウェブサイトは中国当局によって未だ閲覧不可のままとなっている。

34
「新たな装いのウェブサイト www.olympic.org 2008年北京オリンピックまであと2年を祝う」 2006年8月7日International Olympic Committee Pressリリース参照。

中国において、ジャーナリスト個人、新聞社、およびウェブサイトに対する弾圧は去年から続いている。この事態から、中国が確約している北京五輪期間中の「完全なる報道の自由」に深刻な疑念が湧いている。最近では、同様な懸念が中国の外国人記者クラブ(FCCC)の間でも上がっている。中国の外国人記者クラブが2006年8月7日に発行した調査によると、過去2年間のうち、中国警察当局が外国人ジャーナリストを拘束した回数は少なくとも38回に及ぶという。拘束されたジャーナリストのほとんどは環境問題への抗議、土地問題の争議、およびHIV/AIDSの被害者の状況に関して記事を書いていたという35。

35
以下参照:「拡大する外国人ジャーナリストの拘束は中国を2008年オリンピックのホスト国として準備できていないことを表わす」2006年8月7日FCCC Press リリース。

2008年北京五輪組織委員会(BOCOG)の蒋効愚執行副会長は、「現存の規則や慣行がオリンピックの規範や我々が約束したことと衝突が生じる場合、[組織委は]国際五輪委員会の要件およびオリンピック大会の慣行に従うように修正を図る」と最近声明し、中国の対応の仕方に修正の必要性を認めたように思われる。しかしながら、同副会長は「全ての報道者は中国の法律に従わなければならない36」と付け加えた。2日後には、BOCOGの劉淇会長が、中国はオリンピックの外国報道促進の規約を来年発効すると発表した37。

36
「中国のオリンピック事務局は報道の自由を確約した」2006年8月8日新華社参照。
37
「中国は2008年オリンピックの外国報道機関に対する規約を発行」2006年8月10日新華社参照。

上述したように、中国の法律や政策は多くの側面で表現の自由の権利などといった国際人権基準と相反する。犯罪法により幅広く曖昧に定められている国家機密罪や国家政権転覆罪を理由に、ジャーナリストや編集者、およびインターネット利用者は恣意的に拘束されたり、起訴され続けている。一般的に、外国人ジャーナリストは短期間拘束されてから追放される可能性がある一方、中国人ジャーナリストや作家の場合、当局が機密扱いと見なす問題の報道をすると、より厳罰な対処をしばし受けることになる。下記はそのような例である。

作家兼ジャーナリストである黄金秋氏 (ペンネーム:清水君)は江蘇省南京市付近の浦口 監獄で“国家政権転覆”の罪にて12年の刑に服している。黄氏は2003年9月に逮捕された。逮捕されてから1年後には、中華愛国民主党の設立計画など政治的論文をインターネットに掲載した関連で有罪判決を受けた。同氏は控訴をしたが、控訴の判決はやはり有罪だった。黄氏が有罪判決に対して訴訟手続きを再度試みてから、同氏は2004年後半に刑務所内で殴られ、睡眠の剥奪を受けたと伝えられている。

「ジャーナリストは如何にして1989年民主化運動弾圧[=天安門事件]15周年記念に対応すベきか」といった中共中央宣伝部による声明書の要約文をメールで送信した罪で、ジャーナリストの師濤[しとう]氏は10年の禁固刑に服している。同氏は、2004年11月24日に山西省の太原で自宅軟禁され、後に国家機密漏洩法違反の罪で告発された。師濤氏は2005年の4月に湖南省の長沙中級人民法院で判決を受け、2005年6月に控訴をしたが、訴えは却下された。師濤氏は沅江市赤山刑務所に収監され、宝石加工の強制労働を課されたという。そして、加工にまつわった粉塵により、呼吸障害および皮膚炎を患ったらしい。師濤氏が告発された理由は、インターネット会社のヤフーが中国当局に提示した情報に一部基づいている。

フリーランスの作家、楊同彦氏(ペンネーム楊天水)は2006年5月に国家政権転覆罪で12年の禁固刑を申し渡された。判決の理由は、中国の政治および民主改革を支援する同氏の執筆物に基づいている。また、収監されている反体制活動家やその家族に海外から受け取った資金を渡していたこと、また禁じられている中国民主党支部の設立を計画したかどで告発されている。楊氏は1989年の民主化運動の弾圧を非難し、反体制政党を組織する計画をしたという容疑で10年の禁固刑に服した経験があるとされている。

アムネスティは上記3氏を表現の自由や結社の自由といった基本的人権を行使したという理由だけで勾留された良心囚とみなす。同3氏は即座に無条件で解放されるベきである。

昨年を通し中国政府当局は、新聞、雑誌やウェブサイトを含むメディアの表現手段に対してのコントロールを強化してきた。中国国内外でかなりの懸念を引き起こした1つのケースに、中国青年報の人気付録紙「氷点」 (Bingdian) が、1900年の義和団の乱を含む歴史上の出来事に対するこれまでの公的解釈を批評する論文を掲載したことを受けて、一時停刊となり、また編集者が解雇されたことがあった。2006年1月24日から5週間、氷点は停刊となり、その編集長、李大同[りだいどう、Li Datong]と副編集長、盧躍鋼[ろやくごう、Lu Yuegang]が解雇されるまで復刊されなかった。

李大同は、2006年8月初旬に、中国でのインターネットの検閲停止を求める公開書簡を発行した中国の学者、作家そして弁護士103人からなるグループに属していた。これは、知的交流のためのオンライン・フォーラム8つをホストしていた人気ウェブサイト、Century China、の正式な閉鎖がこの発端となり、中国国内外の多くの著名な知識人の関心を集めることとなった。その閉鎖の直前に書かれた手紙で、ウェブサイトの編集者は次のように記している:

「その設立以来、私達のウェブサイトは、理性と言論の自由が支配するサイバー・ワールドを建設することを目的としてきた。6年の間、私達はこのゴールに到達しようと多大な努力をしてきた、何故ならば、私達はそのような公共の場は、平等性、自由、理性そして現代社会に大切な要素を発展させるためには有益であり、中国の学問的前進と文化的発展を促進するために自分たちの役割を担うことができるのではないかと信じるからである。38」

38
「100名の知識人達による抗議文」からの引用。.

伝えられるところによれば、同ウェブサイトは、不法にニュース情報を提供しインターネット規定に違反していると警告する通知を、当局から2006年7月25日に受けた後に強制的に閉鎖させられた39。2005年9月25日に国務院と信息産業部によって導入された規定のうちの一つは、オンラインのニュース・プロバイダーをターゲットにし、「社会主義のためにつくし、公共の意見を正しく導く」ことを要求している40。

39
2006年8月3日付けSouth China Morning Post紙 「ウェブサイトの閉鎖に対する知識人達のキャンペーン」参照。
40
{ 「2005年9月25日「インターネット・ニュースおよび情報サービス運営における規則」 (互联网新闻信息服务管理规定), 25 September 2005. 」

Century Chinaは、去年閉鎖された数多くのウェブサイトの1つに過ぎないと言われている。最近の他例は、共産党の選挙手続きに関しての世論調査を行った後2006年8 月に閉鎖されたChina Consultation Netや、中国本土におけるオンライン百科事典Wikipediaの同等物と見なされるEwiki、そしてチベットのライター Woeserによるブログ、どうも彼女がダライ・ラマの写真をブログ内で掲載したためのようである。

アムネスティは、中国のインターネットの検閲体制における海外のインターネット会社の関与に関しての懸念を深く持ち続けている。2006年7月、アムネスティは、中国 でのインターネット制限において、Yahoo!、Microsoft およびGoogleの役割についての調査レポートを発行した41。これらの3社はそれぞれ異なる方法で、中国政府の検閲の実行を促進・参加している:

41
アムネスティ・インターナショナル:「中国における表現の自由の侵害: Yahoo!, Microsoft およびGoogleの役割」2006年7月(AI Index: POL 30/026/2006)

Microsoftは、北京に拠点を置くニューヨーク・タイムズ紙のリサーチャー、趙京[ちょうきょう、Zhao Jing]のブログを、2005年12月30日中国政府の要求により閉鎖した。テストの結果、中国でのMSNスペースのユーザーが「人権」、「法輪功」または「チベット独立」といったような言葉を、自分たちのアカウントネームもしくはブログ・タイトルに使用することをMicrosoftが禁止していることが分かった。

Googleは2006年1月に、中国外に拠点を置いた、既存のサーチエンジンに代わる自己検閲サーチエンジン‘www.google.cn’の開始を発表した 42。

42
検閲されていないものも以前と変わらズ未ダ全ての中国のインターネット・ユーザーがアクセス可能ではあるが、ユーザーは、かなりの検閲を行い検索プロセスを減速させる中国の「ファイヤーウォール」を検索の際に通過しなければならない。軽減事由として、Googleは情報が検閲されている時には、ユーザーにその告知を提供していたこと、また、プライバシーや機密情報のセキュリティーに対するユーザーの期待を守ることができると会社が確信を持てるまでは、gmailもしくは、個人情報や機密情報を保持する他のサービスは展開しないことに決定したことを強調している。

中国政府の「中国インターネット産業のための自制公約」に、Yahoo!は自主的に調印した、これによって Yahoo!は、正式にインターネット検閲に提携している43。Yahoo!はまた、表現の自由の権利に違反して、国家機密罪もしくは国家転覆罪の疑いで、少なくとも中国人インターネット・ユーザー4人の有罪判決を確実にする情報を中国当局に提供した。そのうちの一人、施濤(上記)はYahoo!のメールアカウントを使用して海外に情報を送っていた。Yahoo!は、後に彼の裁判で証拠として使用されたアカウント保持者の情報を政府当局に渡し、施濤は10年の刑が言い渡される結果となった。ごく最近では、政治的記事をインターネットに投稿し、禁止されている中国民主党に(オンラインで)参加しようとしていたことに関連した国家転覆罪のために、2003年に8年の禁固刑を言い渡された 李志[りし、Li Zhi]の有罪判決を確実にする助けとなった情報を、Yahoo!が政府当局に提供していたということが発覚した44。

43
この公約についてさらに情報を求める場合は、中華人民共和国:中国における国家のインタネット規制、2002年11月(AI Index: ASA 17/007/2002)を参照。
44
Yahoo!が国家に対して情報を提供した他の2つのケースは、姜力鈞[きょうりききん、Jiang Lijun] および王小寧[おうしょうねい、Wang Xiaoning]のケースである。さらなる情報は、人権ウォッチ:核心へのレース:中国のインターネット検閲における企業共犯、2006年8月Volume 18, No.8 (C).

アムネスティは、Microsoft, Google, Yahoo!など中国で運営しているインターネット会社に対し、継続的な表現の自由の制限に対し、又さらなる人権の乱用を防ぐために具体的な提言を行った。提言には、中国憲法および国際人権基準にある表現の自由を保証するため公的に取組む;平和的かつ合法な表現の自由に対しての運動を行ったのみで投獄されている人びとの釈放を呼びかける;中国政府が検閲する語句、およびそれらがどのように選ばれるかということも含めて、中国の検閲過程に関し透明性を確保する;人権を侵害する国家の命令に従う前にあらゆる司法救済と要請を尽くす。

メディアの自由と中国のオリンピック開催の直接的な因果関係を考え、アムネスティは、表現の自由の権利を尊重し保護することにおいての中国政府の進歩状況の監視を継続する。アムネスティは、2008年8月の北京オリンピックの準備段階において、中国政府およびそれをサポートする会社両方に働きかけることによって、中国でのインターネットの自由化に対してのキャンペーンを行う。

この公約についてさらに情報を求める場合は、中華人民共和国:中国における国家のインターネット規制、2002年11月(AI Index: ASA 17/007/2002)を参照。

Yahoo!が国家に対して情報を提供した他の2つのケースは、姜力鈞[きょうりききん、Jiang Lijun] および王小寧[おうしょうねい、Wang Xiaoning]のケースである。さらなる情報は、人権ウォッチ:核心へのレース:中国のインターネット検閲における企業共犯、2006年8月Volume 18, No.8 (C).

アムネスティ・インターナショナルには、中国国内での人権に対しより広範におよんダ懸念があるものの、中国でのオリンピック開催とその首都に住む市民の生活との直接関与を考慮しつつ、これらの特定のエリアにおいて向こう2年間中国政府の進歩状況を常にモニターしていく。

アムネスティは、国際オリンピック協会(IOC)とより広範なオリンピック活動団体に対し、アムネスティの世界のメンバーと協力することを求め、また中国国内の人権活動家と連帯して、2008年8月の前に中国での具体的かつ建設的な人権の改正に対して働きかけるように求めていく。

中国政府当局への提言


2008年8月開催のオリンピックに向けての準備期間における人権の改善促進への公約と合致したかたちで、アムネスティは中国政府当局に以下の領域においての具体的な改革を導入することを要求する:

死刑


中国における死刑の完全廃止に向けた措置として、死刑の適用を著しく減少させるための以下の措置を適切に講じる:

  • 死刑に関連する裁判の質を向上させ、中国で下された死刑判決全てについて最高人民法院による再審の制度を復活させることで、死刑執行の件数を削減すること。

  • 例えば経済犯罪・麻薬違法行為のような非暴力的な犯罪を死刑の適用範囲から除外することで、中国における死刑が適用される犯罪数を削減すること。

  • 死刑判決を受けた、死刑執行された囚人の総数に関する政府年次統計を公表することで、透明性を高めること。

公正な裁判、拷問、行政拘禁


  • 中国における拘禁の全ての形態が国際人権法と国際人権基準と合致するよう、具体的な措置をとる。このことは、公正な裁判への権利を支持し、また、拷問の防止のための以下の措置を含む:

  • 拘禁に関する決定がもはや警察の管轄のみにあるのではないことを確保し、ʻ労働矯正ʼʻ強制的な麻薬からのリハビリテーション(強制戒毒)ʼʻ拘留と教育(収容教育)ʼとを廃止すること。

人権擁護活動家の保護


  • 人権擁護活動家についての国連宣言と合致して、人権擁護活動家が自由に平和的な活動が行えることを確保すること。改革は以下のものを含まなくてはならない。

  • 中国内の人権擁護活動家に独立した国際人権監視団へのアクセスと支援を確保すること。

  • しばしば人権擁護活動家をターゲットとして用いられる、刑法の条文上不明確な条項の具体的な改正やその廃止。これは、ʻ国家の安全を危機にさらすことʼʻ政権の転覆ʼʻ外国への国家機密漏洩ʼを含む。

  • 平和的報道活動によって勾留もしくは収監された、全てのジャーナリストの釈放、及び、外国もしくは国内外のジャーナリストが、検閲なしに合法的に社会的関心事項についての問題を報道することができることを確保するための保護制度を導入すること。

  • 1989年の民主主義運動への弾圧[=天安門事件]について公式な調査を要求した、平和的な活動家に対する嫌がらせ、恣意的な拘禁、収監、そしてその他の虐待を終わらせること。又、彼らが犠牲者への追悼式典に参加できるように保障すること。

  • オリンピック関連の建設プロジェクトの結果として起きたものを含む強制的立ち退きに、平和的に抗議したことによって拘留、収監された全ての者を釈放すること。また、このような活動家たちのさらなる恣意的拘禁、もしくはハラスメントを防止すること。

  • 被疑者弁護士が、警察の拘置所にいる彼らの依頼者に迅速かつ定期的なアクセスをもつこと、また、この行為によって彼ら自身が人権侵害の危険にさらされることのないことを確保するための措置をとること。


インターネットの自由


表現の自由と情報公開の基本的人権の侵害となる、中国国内における全てのインターネットの検閲を終わらせること。このことは以下のものを含む:

  • 自由で合法的なオンライン情報の流れを制約することを目的とする全ての法律と規制を撤廃すること。

  • 平和的なオンラインでの表現によって、または、インターネットから情報をダウンロードしたことによって、勾留・収監された人権擁護活動家とジャーナリストを含む全ての者を釈放すること。

国際オリンピック委員会(IOC)とさらに広範なオリンピックムーブメントとに対する提言


アムネスティはIOCに、北京がオリンピック開催権を獲得したことの結果として中国において人権が発展するであろうとの期待と、アムネスティのような国際人権組織がこのような人権の発展を監視することを奨励していることを指摘した58。この公約に沿って、2008年8月までに改革することを確保するため、中国政府当局への影響力を行使するようアムネスティはIOCに要請している。特に、アムネスティはIOCとオリンピックムーブメントに、以下のことについて中国政府当局に対して圧力をかけるよう要請している:

58
例として、2002年4月IOC総裁ジャック・ロゲは「・・・我々は、[中国において]オリンピックが人権記録を改善させると信ジている。・・・我々IOCは中国政府に、人権記録をできる限り速やかに改善するよう促した。しかし、IOCは(このことについて)責任ある組織であり、もし治安、後方支援、もしくは人権が我々にとって満足のいく程度までに達しなかった場合には我々が行動するつもりだ。・・・私は既に、アムネスティ・インターナショナルとの協議後、人権を監視するには我々にはない専門的な対策委員会(特別の問題を分析、調査するために編成された専門家の集団)と専門性を持った人材とが必要とされるので、人権を監視するのは我々の役割ではないということを明確に述ベている。また、アムネスティ、ヒューマンライツウォッチと密接なコンタクトをもち、彼らは我々に報告し、どのように彼らが感じたのかを我々に伝えることであろう。」と述ベた。BBCの番組“ハードトーク”、2002年4月23日。

  • 本報告書で取り上げた個人も含む、全ての良心の囚人を釈放すること。

  • 上述の勧告と合致して死刑の廃止に向けての努力を推進し、この努力のもとに計画をまとめること。

  • オリンピックへの準備期間中に北京をʻクリーンアップʼするためにʻ労働による再教育ʼ「労働教養」を用いる計画を取り下げ、その制度を完全に廃止すること。

  • 国際人権組織に、彼らが中国の人権に関する発展をよりよく監視でき、また中国の当局関係者と人権擁護活動家と懸念のある問題について討議できるよう、拘束されない、研究目的の中国へのアクセスを確保すること。

  • 中国における人権擁護者の保護を確保するため、法律改正を実施する。これは上記で詳述されたように、刑法の改正を含む。

  • オンラインでの自由で合法的な情報の流れを制約することを目的とした、全ての法律と規制とを廃止する。

中国において投資し利害のあるインターネット企業への提言


「人権に関する多国籍企業およびその他の企業の責任に関する規範」に沿って、アムネスティは、中国に利害を持つYahoo! Microsoft, Google, その他のインターネット企業に、現在進行中の表現の自由の制限について取り組むように、また、さらなる人権侵害を引き起こす要因を回避するよう以下を要請する:

  • 上記のようなインターネットの使用により勾留、収監された人びとの釈放を議員に働きかけるため、企業の中国政府当局への影響力を用いること。

  • 中国憲法および国際人権基準のもとでの表現の自由の保障を尊重することを公に誓約すること。

  • 中国のインターネットで、どのような語句が検閲され、その語句がどのように選ばれるかについて公表することを含む、検閲過程についての完全な透明性を確保すること。

  • 人権を侵害する国家指針に従う前に、中国国内および国際的にあらゆる司法救済と要請を尽すこと。


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